[ALEXANDROS]流の「およげたいやきくん」

──「PARTY IS OVER」はコミカルなサンプリングがいっぱい入っていたり、ベースも生音じゃなかったり、新境地の1曲ですね。

川上　これは日本に帰ってきてからポッと出てきた曲なんです。だから最後に完成した曲。いいでしょ？

磯部　生ベースなしなんです。イケてるロウ感を出してみました。

川上　あとこの曲は意外と歌詞にこだわったんですよ。「君がいないとはじまらないよ」というサビがもうできちゃってそこから抜け出せなかったので、じゃあ失恋ソングにしようと思ってストーリーを作っていって……でも僕は失恋してないんで難しかったです。

磯部　何そのリア充宣言（笑）。

川上　いや、と言うより大人になってから恋をね、全然してないんです。高校生ぐらいのときはもちろんありましたけど、この歳になって失恋らしい失恋の感情ってあんまり抱くことがなくなっちゃったんですよ。だから頭の中からかなり絞り出した歌詞なんです。でも失恋ソングでありながら、ニューヨークへの思いを馳せた曲でもあるんですよ。ああ、もうニューヨークとはお別れで東京に帰らなきゃっていう。「呆れるくらい 真っ白な空」っていう歌詞は飛行機の窓から見た光景だし。ライブのラストとかでも映えそうだなって思います。

──このアルバムのうち12曲目の「SNOW SOUND」と13曲目の「明日、また」は“Encore Tracks”という位置付けで、アルバム本編の最後としては「Your Song」になるんですよね。

川上　そうなんです。その2曲はさっき話した“これまでの[ALEXANDROS]”から地続きなところにあったので、そういう扱いになっていて。だから「Sleepless in Brooklyn」を締めくくるのは「Your Song」。

──「Your Song」は“歌”を擬人化したナンバーです。

川上　曲を人に例えて「僕は川上洋平っていう人が作った曲なんですけど、今からはあなたの曲なんですよ」っていうこのテーマは昔から温めていたものなんです。この曲だけじゃなくてきっと「Mosquito Bite」も「LAST MINUTE」も同じように思ってるんだろうなっていうことを曲にしました。これだけ僕らに毎日扱われていれば、こういう感情にもなるだろうという。この曲は「トイ・ストーリー」っぽいと例えられることもあるんですけど、僕的には「およげたいやきくん」なんです。曲って僕らからしたら自分の子供みたいなもので、着飾らせて、育ててあげたいと思うんですよ。僕らは誰も子供はいませんが（笑）。それを逆側の視点から見つめたのがこの「Your Song」です。

──こういうファンタジーな曲は[ALEXANDROS]では珍しいですよね。

川上　ね、こういうメルヘンな曲はあまり出てこないから。で、この曲は聡泰のドラムが特にいいんですよ。聡泰からさっき、ニューヨークで暮らす中でどんな人にも刺さるなリズムを研究したっていう話があったけれど、きっとそれが一番生きている曲なんじゃないかな。昔の聡泰のドラムパターンはリードギターのような感じで作用していたけれど、リズムギターの部分も担うようなパターンを作れるようになったと僕は思っているんです。だから作曲しやすくなったし、歌いやすくもなった。今回のアルバムではいい曲を作るのが目標だったので、いい土台は絶対的に必要だったんですよ。いい絵を描くために最高の画用紙を用意してもらえた気分です。それも何枚も。僕は何度も失敗するからね（笑）。

庄村　今回個人的には気持ちいいグルーヴを追求したアルバムだと思っていて。例えば「LAST MINUTE」だったら全部の楽器がチキチキ鳴っている中でベースがいいうねりを出しているんですけど、どの曲も歌メロや楽器のキラーフレーズがきちんと輝くように全部の要素が配置できたと思っています。そういうバランス感で一貫性が出たアルバムだと思いますね。よく「音楽は言葉じゃない」と言いますが、リズムはもっとそういうものだと思うんです。そういうのを考えて暮らして作って……そのアンサーがこのアルバムでのドラミングにつながったのかなと。

川上　バランスは大事にしたよね。「spit!」のアレンジなんかも2サビまでバスドラだけで、ずーっと爆発させない感じだったり、すごく洒落た感じになったなって思うし。うん、すごくいいアルバムになったと思います。

このアルバムを食でも感じてほしい

──[ALEXANDROS]は食べ物、飲み物が出てくる曲がいくつかありますが、今作には「FISH TACOS PARTY」という曲が入っていますね。“フィッシュタコス”ってあんまり聞いたことがないですけど、ニューヨークにはあるんですか？ それともフィッシュとタコスは別物？

川上　いやいや、フィッシュタコスっていうのがあるんですよ。スタジオで曲作りをしているときの休憩時間によく食べていたんです。

磯部　タコスもそうだけど、メキシカンはどれも爆盛りだったよね。ブリトーがめちゃくちゃ太くて。

川上　カステラまるごと食ってるみたいだったよね。

庄村　ちっちゃめの電柱みたいな。

川上　それは言いすぎでしょ（笑）。切る前のチャーシューみたいな感じかな（笑）。スタジオに入ってるときはメキシカンとシャワルマをめっちゃ食べてましたね。

──シャワルマと言えば “ストリート・ベンダー”（ニューヨークの屋台文化）をモチーフにしたフードプロジェクト・Snack Time!とのコラボイベントでも取り扱われるんですよね（参照：アレキ新アルバムをアナログ化、フードプロジェクトとのコラボイベント開催も）。初めて名前を聞いた料理だったんですが、ケバブのようなものなんでしょうか？

川上　そうそう。僕が中東にいた頃によく食べてた懐かしの味なんです。Snack Time!さんからお話をいただいて、今回このコラボが実現しました。ヒロがビール好きだからビールも扱います。それとコーヒーも。向こうにいたとき僕らはずっとコーヒーを飲んでいたんですよね。

磯部　しかもサイズがデカいのね。

白井　だからアメリカンコーヒーって薄いんですよね。量が多いから。

川上　そうそう。めちゃくちゃデカかった。おかげで“スリープレス”でしたよ（笑）。だからこのイベントは向こうで僕らが飲んで食べていたものを実際に味わってもらえる……つまりある種の“メイキング”的なところを見せられるいい機会なんじゃないかなって。単純に日本でシャワルマを食えるのはいいなと思ったしね。あとシャワルマを作ってくれる谷口（佳典）さんのパンを以前食べさせてもらったんですけど、今まで食べたパンの中で一番うまかったので味はしっかり保証します。

──ぜひシャワルマを食べてコーヒーやビールを飲みながら「Sleepless in Brooklyn」を聴いてもらいたいですね。

川上　そうですね。そもそも僕らがなんでニューヨークでアルバムを制作したかと言うと、流れている音楽がいい、レコーディングの環境がいいかとか、そういう部分ももちろんあるけれど、街全体の空気が自分たちの求めているものだったんですよ。だからこのアルバムはニューヨークのブルックリンという街自体からできたアルバムだと思っていて。そういうところもぜひこの企画で感じてもらいたいです。

──最後になりましたが、怒涛の2018年でしたね。

川上　あっという間でした。でも今年はプライベートでは猫を描い始めて、バンドではZOZOマリンスタジアムっていうデカいところでライブができたから充実した年でしたね。

磯部　来年はまずツアーがあるので、今年できなかったぶんライブをたくさんやる年にしたいね。

川上　うん。だけどまたすぐにでも海外に行って制作をしたい気持ちもあります。今度はブルックリンじゃないかもしれないけど。