[ALEXANDROS]|過去を捨て、ブルックリンで切り開いた新境地

昔のものは早く捨てたかった

──川上さんは具体的にどんなところでライブを観ていたんですか?

川上 マディソン・スクエア・ガーデンみたいなデカい会場でも、地元の小さいライブハウスでも、いろんなところで観ましたよ。大学生のバンドのライブとかも観たし、道端や電車の中で楽器を弾いてるストリートミュージシャンの演奏も観ましたね。大きい会場でも道端でもどれもこれもクオリティが高くて、誰1人ヘタじゃないしマジでやってるんですよ。それを目の当たりにしたときにものすごくヘコんで。僕はまだここでお金を稼ぐことはできないな、って思ったんです。今まで僕らがやってきた日本での活動はなんだったんだろうって。みんながいろんなものから刺激を受けている中、僕は本当に打ちのめされてしまったんですよね。一度日本に帰って、またニューヨークに行ったときにこの街で市民権を得られる曲を作らないといけないなと思って、制作をしている中で「Mosquito Bite」ができて。「やっと[ALEXANDROS]がこの街で出せる名刺ができた!」とようやく自分に自信を持てました。

──このアルバムは「Mosquito Bite」を起点にできていったんですか?

川上 うーん、わりとそうなのかなと思うけれど、1曲目の「LAST MINUTE」がその兆しになった曲かもしれない。でも「Mosquito Bite」ができたことで、30%くらいしかできていなかった曲たちを完成させることができたんですよね。「Mosquito Bite」がほかの曲たちをフックアップしてくれたんだと思っています。

──「LAST MINUTE」は先日の千葉・ZOZOマリンスタジアムでのライブでも披露されましたし(参照:[ALEXANDROS]、3万5000人動員「VIP PARTY」でさらなる飛躍を誓う)、アルバムの1曲目という大事なところに配置されました。

川上 そうですね。やっぱり大事な曲なので。実は「Mosquito Bite」が自分にとってかなりエポックメイキングな曲だったので、こっちを1曲目にする案もあったんです。でも自分たちがこれからいろんな音楽をやっていく中で、“前菜”としては「LAST MINUTE」がいいのかなと思ったんです。

──1曲目の「LAST MINUTE」をはじめ、今回のアルバムは[ALEXANDROS]らしさは残しつつ、かなり刷新された感じがありました。

川上 僕的には、過去の作品のことは全部なかったものとしてこのアルバムを作ったんですよね。

磯部寛之(B, Cho)

──それは「今まではこういう曲があったから今度はこういう曲を作ろう」みたいなことを考えながら作っていた、ということですか?

川上 いや、正直に話すと、間違ったことをやってきたつもりはないけれど、今までの自分たちの作品を好きだと思えなくなってしまって。いいなとは思いますけれど、もっともっと自分たちが心の底から最高だと思えるものを作りたかった。単純に飽きやすい性格なので、昔のものは早く捨てたいという思いでしたね。ライブでは昔の曲もやりますよ。自分だったら絶対セットリストに入れないような曲も、セットリストはメンバーみんなで決めるからもちろんそういう曲も入ってくるし、やってみれば「いい曲だな」と思うこともあるんで。

──「昔のものは早く捨てたい」という発言はなかなかに衝撃的なんですが、メンバーはこれについてどう思ったんですか?

磯部 単純に作曲者である洋平がそう思ったんだなって。個人的には今までのアルバムもすごく好きですけど、彼が「今までのアルバムはクソだ」って言ったときは、また新しい洋平の曲が聴けるんだってワクワクしたし、バンドとしてまた進化できるチャンスだと思いました。洋平が自分の中から素直に出てくるものを持って「これがいいでしょ?」って言えることがバンドにとって一番いいと思っているので、そのためには過去の作品がなかったことにされても気にはならなかったです。

「すんげえ曲ありがとうございます」

──「アルペジオ」はPlayStation 4用ゲームソフト「JUDGE EYES:死神の遺言」の主題歌として書き下ろした曲ですよね(参照:[ALEXANDROS]、キムタク主演の新作ゲームに書き下ろし曲「これはヤバいことになる」)。タイトル通りギターのアルペジオが全体を彩るナンバーです。

川上 この“アルペジオ”自体はまーくん(白井)が編み出したものなんですよ。最初はメジャーキーで明るい印象だったんですけど、歌い出しの「I'm sorry」の部分が浮かんだ時点でマイナーキーだったので、まーくんと話し合いながらメロディを作っていって。そんな中で今回「JUDGE EYES:死神の遺言」のお話をいただいて、まだ未完成のトレイラーを見ながら「あ、あのアルペジオの曲だな」と思って、Aメロしかなかったこの曲を完成させました。アレンジがすごく難しくて、途中はもうどうしていいのかわかんなかった(笑)。

磯部 テンポもリズムも最後までずっと練っていたよね。

川上 そうそう。ニュージャージーでレコーディングしたんですけど、その直前までずっと考えていて。完成するまでがすごく大変だった。歌詞もめちゃくちゃ難しくて、今作の中では完成するまでに一番時間がかかった曲です。

──4人のセッションでアレンジをしていくんですか?

川上 そうですね。で、うまくいったなと思ったら持ち帰って道を歩きながらイヤホンで聴いてみたりして。外気に触れて初めてフラットなものになるので、街の風景を眺めながら聴いたり、カーステレオで聴いたりする作業はすごく大事なんですよ。

──今までもずっとそうやってきたんですか?

川上洋平(Vo, G)

川上 2ndまではやっていたけど、それ以降は車の免許を失効したからカーステレオで聴くことはなくなりました(笑)。街にどういうふうに溶け込むのかを確認したいんです。「アルペジオ」はそれをやったときに「なんか違うな」っていうのを繰り返して、テンポを上げてみたり、下げてみたりいろいろやって、最終的にはプロデューサーからど頭にコーラスを入れるアイデアをもらって今の形になったんですよ。

──プロデューサーと一緒に制作するのは今回が初めてですか?

磯部 はい。プロデューサーっていうポジションの人を迎えて制作したのは今回が初めてです。今までは全部セルフだったので。

川上 でも向こうのプロデューサーって、全部をこうしろああしろって言うんじゃなくて、最後の最後でアドバイスをしてくれる方が多いんです。だから5人目のメンバーみたいな感じだったんですよね。「アルペジオ」などアルバムの大半に参加してくれたアレックス・アルディはPassion Pitのプロデュースをしていた方で、今まで僕らの作品だとミックスエンジニアをやってくれていたんです。

──「JUDGE EYES:死神の遺言」は木村拓哉さんが主役のゲームということで話題を集めています。「龍が如く」シリーズに今も健在の人がちょっと登場することはありますけれど、今回は主役が木村さんなわけですから。

川上 僕らなんかは木村さんの出演作を観て育った世代ですから。感慨深いです。

──木村さんは「アルペジオ」のMVにも出演されていますし(参照:[ALEXANDROS]新曲「アルペジオ」ミュージックビデオに木村拓哉が出演)、「JUDGE EYES:死神の遺言」の発表会ではメンバーの皆さんと同席されましたよね。

川上 発表会を終えてステージを降りる木村さんの背中に痺れたんですよ。レザージャケットをバッと脱いで肩にかけるときのそのかけっぷりが本当にカッコよくて。

磯部 ご一緒させていただいて、やっぱり一時代を築き上げた人はすごいなと思いましたね。すごくオーラがありました。

川上 でもすごく優しい方で気さくに話しかけてくれました。曲については「すんげえ曲ありがとうございます」って言ってくださってうれしかったです。