alcott|貴田宰司が描く“あまのじゃくし”の奮闘記

alcottがニューアルバム「あまのじゃくし」を11月14日にリリースした。

本作にはカツセマサヒコ、isai Inc.とのコラボプロジェクト「LOVE LETTERS」のために発表された恋愛をモチーフにした楽曲4曲や、代々木ゼミナールのCMソング「スーパーノヴァ」など、人間らしい悩みや葛藤を鮮明に描いた全11曲が収められている。「何度だって恋したくなる -あなたを好きだって気付いたのはalcottのせいだ-」というキャッチコピーが付けられた本作について、貴田宰司(Vo, G)に話を聞いた。

取材・文 / 小林千絵 撮影 / 大畑陽子 撮影協力 / ALA

“ダメな男”同士がタッグを組んだ「LOVE LETTERS」

──最初に、今年頭に始動したプロジェクト「LOVE LETTERS」について聞かせてください。このプロジェクトは4カ月連続でalcottの新曲と、それに併せた小説と映像を発表するというものでした(参照:alcottが音楽×小説×映像の新プロジェクト始動、小説執筆はカツセマサヒコ)。

去年「YELL」というアルバムをリリースしたんですけど、その中でも恋愛を歌った「さくらの麓」が一番みんなに認知された印象があったので、さらに恋に焦点を当てた楽曲で僕らの音楽をもっと広めていきたいなと思ったんです。また音楽だけじゃなくて、違う角度からさらに楽曲を広められないか?と考えて、小説に行き着きました。例えば小説が映画になって、それに音楽が付くというのはよくあると思うんですけど、音楽から小説を作って、その小説に映像を付けるっていうのはありそうでなかった企画かなと。

──小説を担当されたのはTwitterでの恋愛妄想ツイートが人気のライター・カツセマサヒコさんです。この人選はどのようにして決まったのでしょうか?

マネージャーがカツセさんを教えてくれて。そこからカツセさんが書かれている文章をいくつか読んだんですけど、中でも夜景を観に行く恋人同士を描いた小説を読んだときに「この人、男と女の描写がすごくうまいな」と思ってお願いしてみることにしました。

──プロジェクト始動の情報を拝見した段階で、alcottとカツセさん、すごく合うなと思いました。

そういう声、たくさんいただきました。恐れ多いですけど、うれしかったですね。

──実際のお二人はどうかわからないですけど、少なくともお二人が描かれる男性の“ちょっとダメ”具合が似てるなと(笑)。

その通り!(笑) 「LOVE LETTERS」の企画でカツセさんとは何度もお話をしましたけど、「僕たち似てるよね」って。女性に対して押しきれないダメな男感が……(笑)。

──ちょっと情けないと言うか。

そうですね、情けないですよね(笑)。カッコ付けたいけどカッコ付けきれない。と言うか本当にカッコ付かない。カツセさんとの一番の共通点が「どうしても女性には敵わない」と根本で思ってるところなんです。どれだけケンカになっても最終的には謝ってる、みたいな。結局女性の手のひらで踊ってるだけ。

ストーリーを紡ぐように制作した4曲

──そんな感性の近い方とのタッグで進めた「LOVE LETTERS」というプロジェクトでalcottは「告白記」「春へ」「予報外れのラブソング」「小火」という4曲の新曲を制作しました。この制作について聞かせてください。

最初に1話の「告白記」ができて。この曲は1曲の中に女性と男性の目線が入ってるんですよ。

──最後に男性目線に変わりますね。

そう。大サビで男性目線に変わります。それまでは“女性が勇気を振り絞って告白する”というシンプルなストーリーを描いただけだったんですけど、そこに僕らしさ、たぶんカツセさんもそうなんですけど(笑)、先に告白されてしまう男性の目線が入る。「自分がうじうじしてる間に先に告白されてもうてるやん」っていう。で、告白した女の子は返事を聞かずに逃げ出してしまうんですけど、男性がその子を追いかけるというストーリーにしました。冒頭の「好き1枚、嫌い2枚」というフレーズを思いついて、単純に告白について書きたいと思って書き始めた曲だったんですが、最終的に面白いストーリーに仕上げられたことで自分の中で何かが開けて。それをきっかけに、カツセさんの小説に触発されたことも手伝って、そのあと「春へ」「予報外れのラブソング」「小火」とストーリーを描くような曲が書けましたね。

──普段の曲作りとは違いました?

基本は一緒ですね。まずテーマを考えて、そこから膨らませていく。2曲目の「春へ」は「あなたのキスはおいしい」というサビのフレーズが最初に出てきて、そこから引っ張られて1曲できてしまった。3曲目の「予報外れのラブソング」は実は姉が結婚するタイミングで作ったんです。姉は「まだ音楽やってんの?」みたいな感じで基本的に僕をバカにしてるんですけど、「よかったら結婚式で歌ってくれへん?」って話をしてくれたので、ちょっと認めてくれたのかなと思ってうれしくなってこの曲を作りました。まさか結婚すると思ってなかったので「予報外れ」なんです。

──実際に結婚式で歌われたとき、お姉さんはどんな反応を?

結婚式までにこの曲が完成しなくて(笑)。結局、結婚式では「その姿は美しい」(「YELL」収録曲)を歌いました。

──そうだったんですね。そのあと「予報外れのラブソング」は聴いてもらったんですか?

「姉ちゃんの曲が流れるで」って言って「LOVE LETTERS」の動画を観てもらいました。「いいな、(この曲)めっちゃ好きやわ」って言ってましたね。

──音楽をやってることを認めてもらえたのかもしれないですね。

だとうれしいですね。

──4曲目「小火」は何をテーマに作ったんでしょうか?

“後悔”です。この曲は4曲の中でも一番自分を歌ったなという感じがして恥ずかしいくらい。ふとした瞬間に胸の中にあった気持ちとか蓋をしていた思い出に火が点いてしまって、急に昔好きだった人に会いたくなったりすることってあると思うんですけど、その気持ちを自分で消し止めるようなストーリーです。

──その気持ちを小火に例えているんですね。

女性と男性で過去の恋愛の捉え方って全然違うと思うんですけど、男性は過去の恋愛を忘れられないと言うか。例え自分から切り捨てた恋だったとしてもずっと思ってしまうんですよね。本当にダメな男なんですけど(笑)。女性はスッと前に行くのに、男は引きずってしまうんですよね。

──よく恋愛における男女の違いとして「女性は上書き保存で、男性は別フォルダに保存」って言いますしね。

そうそう。本当にそうだと思うんですよ。でも前に進みたいっていう気持ちがあるから、その気持ちが大きくならないように消し止める。この曲の中に「どうか君には聞こえないように」という歌詞があるんですが、そこが僕は大好きで。まあ、そう言いつつ歌にしてるんですけどね(笑)。「会いたい」って歌っておいて、「どうか君には聞こえないように」なんて。

──確かに女性だったら「届いてほしい」という歌詞になるかもしれないですね。

そう、矛盾してるんですよ。でもそのいても立ってもいられない気持ちを書いたこの曲が、一番自分らしいから、アルバムにしたときに、最後に持ってきたかった。アルバムの話になっちゃいますけど、今回の「あまのじゃくし」というアルバムはalcott、特に曲を作っている貴田宰司という人間にフィーチャーしたアルバムにできたらいいなと思っていて。だからカッコ悪いんだけど、自分という人間がよく出てるこの曲を最後にしました。