Ålborg「The Way I See You」インタビュー|遊びの中で生まれた日常を照らす音楽

横浜・関内発のインディーロックバンド・Ålborgをご存知だろうか? 2022年春にMiya(AG, Vo)、安田くるみ(Tb, Cho)、岩方禄郎(Dr)、功刀源(EG)、鎌田達弥(B, Cho)の5人で結成されたÅlborgは、同年8月に1stシングル「Girl」をリリース。2023年にはシングル「Change / Memory」をカクバリズムからリリースし、野外フェスティバル「FUJI ROCK FESTIVAL '23」の「ROOKIE A GO-GO」ステージへの出演を果たした。Miyaの澄んだボーカルで歌われる英詞と、フォークを軸にチェンバーポップやオルタナティブロックなどの要素を取り入れた独自の音楽性でシーンにおける存在感をじわじわと拡大している。

そんなÅlborgの1stアルバム「The Way I See You」が、7月17日にアナログ盤と配信でカクバリズムからリリースされた。本作は代表曲「Girl」「Stray Cat」の再録バージョンや、今年配信された「Window」「Blend」などを収めた10曲入り。そのほとんどはÅlborgがライブハウスでじっくりと育ててきた楽曲となっている。

音楽ナタリーでは、本作の発売を記念してメンバー5人にインタビュー。アルバムの話題はもちろん、Ålborg結成の経緯や、Miyaが紡ぐ歌詞世界、バンドの在り方について語ってもらった。また取材の中で「普段音楽の話はしない」「好きな音楽はバラバラ」といった話題が挙がったため、特集の後半にはメンバーのルーツとなった楽曲プレイリストをそれぞれのコメント付きで紹介する。

取材・文 / 下原研二撮影 / 小財美香子

5人の出会い

──まずはÅlborg結成の経緯から教えていただけますか?

鎌田達弥(B, Cho) きっかけは禄郎だよね。

岩方禄郎(Dr) もともと僕とくぬぎっち(功刀)はエルモア・スコッティーズ、MiyaちゃんとくるみちゃんはThe 387というバンドをやっていて。2組で対バンしたこともあれば、The 387に僕らが加わる形で何回か演奏することもあったんです。その2組の録音をしてくれていたのがかまちゃん(鎌田)。それからMiyaちゃんが留学でデンマークに行って。しばらく経って帰国したタイミングでまた集まったときに、英詞の曲をたくさん書いてきてくれたんです。そのことをきっかけに新しくバンドを始めようかという話になりました。

Ålborg

Ålborg

──The 387は活動休止中とのことですが、どんな音楽性のバンドだったんですか?

Miya(AG, Vo) あれはなんだろうね?

鎌田 なんて言ったらいいのかな。日本詞のバンドでメッセージ的にはパンク、サウンドはポップスという感じでした。僕は関内にある月桃荘というリハーサルスタジオでエンジニアをやっているんですけど、The 387の尖った感じが好きだったので「録音させてもらえない?」と声をかけたのがMiyaちゃんたちとの出会いですね。

安田くるみ(Tb, Cho) The 387はMiyaさんが妹と2人でやっていたバンドで、私はあとから加入したんです。Miyaさんはその頃からアコースティックギターを弾いていて、妹はリコーダーやピアニカなどの小さい楽器、私はドラムを担当していました。

──では、デンマーク留学を経て今のフォーキーな音楽性になったと。

Miya そうですね。私は向こうでも音楽をやっていて、そのときに出会った仲間の影響でフォークもいいなあと思うようになったんです。Ålborgの1stシングル「Girl」もデンマークの仲間と演奏したことがあります。

みんなで集まるのが単純に楽しかった

──ほかの皆さんはMiyaさんがデンマークで作っていた曲を聴いたときはどう感じました?

鎌田 単純にいい曲だと思いました。それに、英詞でフォークなサウンドなのでThe 387のスタイルとはまったく違っていたけど、僕はMiyaちゃんたちと一緒に音楽をやれたらいいなと思っていたんです。

岩方 僕は初めて聴いたときに「やりたい音楽はこれだ!」と思いました。

Miya 留学から帰ってきた直後に「とりあえずスタジオに入って遊ぼう!」となっただけで、もともとバンドを組む予定があったわけじゃないんです。そのときに禄郎から「Miyaちゃんは最近も曲書いてるの?」と聞かれて、「実は……」って弾いた曲にみんなが演奏を合わせてくれて、その時間がすごく楽しかった。

左からMiya(AG, Vo)、功刀源(EG)。

左からMiya(AG, Vo)、功刀源(EG)。

──わりとぬるっと始まった感じ?

安田 めちゃくちゃぬるっとだよね。

功刀源(EG) うん。特に何かを始めようという感じではなかったですね。

安田 バンド名を決めるときなんて私いなかったですし(笑)。

──大事なタイミングなのに(笑)。ちなみにÅlborgというバンド名は誰が?

鎌田 それも禄郎です。

岩方 最初のライブに出るためにバンド名が必要だったんですけど、なかなか決まらなかったんですよ。で、Miyaちゃんがデンマークで住んでいたのがオールボーという街だったから「なんだかおしゃれじゃない?」くらいの気持ちで提案したんです(笑)。

Miya みんなで集まるのが単純に楽しくて、私たちとしては正直、名前がなくてもオールオッケーでした(笑)。

じゃあトロンボーンでもやろうかな

──Ålborgは皆さんが友人として遊ぶ中で自然に生まれたバンドなんですね。安田さんはThe 387でドラムを担当していたとのことですが、このバンドではなぜトロンボーンを?

安田 「バンドをやろう」と言った禄郎がドラマーだったから(笑)。トロンボーンは中学生の頃に少し吹いたことがあって、大学生になってコロナ禍で暇なときに中古サイトで購入したんです。それで「くるみちゃん、そう言えばトロンボーン吹けなかったっけ?」「吹けるよ。じゃあトロンボーンでもやろうかな」という話になって。

──今のところすべてがノリで決まっていってますね(笑)。Ålborgはギターやベース、ドラムのほかに、フルートやスティールギターを取り入れた多彩な編成に特徴がありますけど、その音楽性を独自のものにしている要素として安田さんの吹くトロンボーンの存在は特に大きいように感じます。いろんな人からどういう経緯で今の編成になったのか聞かれませんか?

安田 よく聞かれます。でも、本当にそれだけの理由なんです(笑)。

──そもそもトロンボーンを始めたきっかけはなんだったんですか?

安田 トロンボーンに興味を持ったのは「スウィングガールズ」という映画がきっかけなんですけど、中学生の頃はSAKEROCKも好きで、ハマケンさん(浜野謙太)が吹いている姿を見るたび「やっぱりトロンボーンってカッコいいな」と思っていました。なので今の私がトロンボーンを吹いていることにも驚きですし、カクバリズムから声をかけてもらったときは「こんなこともあるんだな」ってうれしかったですね。

初ライブから手応えを感じていた

──Ålborgは結成の翌年に7inchシングル「Change / Memory」をカクバリズムから発表し、若手アーティストの登竜門である「FUJI ROCK FESTIVAL」の「ROOKIE A GO-GO」のステージに立ちました。トントン拍子で活動の規模を広げている印象ですが、皆さんがこのバンドに手応えを感じたのはいつですか?

鎌田 もう最初から感じてたよね?

岩方 うん。初ライブの時点で手応えがありました。初ライブはB.B.STREETで(※横浜・関内にある老舗ライブハウスでÅlborgのホーム)、ヒカガミとの対バンだったんです。もちろん自分たちの音楽に自信はあるんだけど、お客さんの前で演奏するまで「どうなるかわからない」という不安もあって。でも、いざやってみたらお客さんの雰囲気を含めてすごくよかったんです。それにヒカガミの2人や、彼らのライブに参加していたTHEティバの(明智)マヤさんにも「ライブよかったよ」と言ってもらえたから、「信頼しているミュージシャンから褒められたし、けっこういいんじゃない?」みたいなのはありました(笑)。

左から安田くるみ(Tb, Cho)、岩方禄郎(Dr)、鎌田達弥(B, Cho)。

左から安田くるみ(Tb, Cho)、岩方禄郎(Dr)、鎌田達弥(B, Cho)。

安田 その日にマヤさんが「一緒にライブやろうよ」と声をかけてくれて、THEティバのツアーの大阪公演が私たちにとって2回目のライブになりました。まさか自分たちみたいな駆け出しのバンドに声がかかるとは思ってなかったから、すごくうれしかった。

鎌田 大阪はお客さんもたくさん来てくれて楽しかったよね。

岩方 正直、本当に遊び半分で始めたところもあったので「こんなに受け入れてもらえるんだ」と驚きました。

楽曲の主人公たちに見る、Miyaのさまざまな一面

──僕は昨年9月にB.B.STREETで行われた自主企画にお邪魔させてもらったのですが、あの日はアルバム収録曲のほとんどを演奏していましたよね(参照:Ålborgがホームで鳴らした珠玉の11曲、サイプレス上野とロベルト吉野も駆けつけた横浜の夜)。

鎌田 新曲も作ってはいるんですけど、ライブのセットリストには今のところ持ち曲のほぼすべてを詰め込んでますね。

Miya 出せるものは全部出してやるみたいな(笑)。

──「The Way I See You」というタイトルは?

Miya 収録曲の中から取ったんですけど……なんでこのタイトルにしたんだろう? 「The Way I See You」を翻訳するならば“君の見え方”や“私が君に向ける眼差し”というような意味になるんですけど。

──アルバム収録曲の歌詞を読むと、“私”が“君”を見つめている様子など、主人公の視点が軸にした曲が多いので一番しっくりくるタイトルではありますよね。ちなみにMiyaさんは歌詞を書く際、ご自身の実体験に基づいて書いているのか、想像を膨らませてストーリーを紡いでいくのか、どちらのパターンが多いですか?

Miya どっちもありますけど、基本的には私個人の体験に基づいていることが多いと思います。

──その実体験ベースの歌詞を俯瞰して分析するとしたら、Miyaさんは音楽を通してどんなことを歌いたいんだと思います?

Miya 私は居場所を求めていたり、「私が安心できる、所属していると感じられる居場所が欲しい」と歌ってることが多いかもしれません。Ålborgの一番古い曲は「Stray Cat」なんですけど、これは留学していたときに、これまで当たり前に帰るものだと思っていた日本の家から離れたことで、「家って自分で探して見つけるものなんだ」とか「私が帰る家ってどこにあるんだろう?」っていうふわふわした気持ちで書きました。日本で家族の住む家に帰りたいということではなく、自分の落ち着く居場所ってどこだろうって彷徨っている、そんな歌です。

──なるほど。

Miya ただ、曲の主人公は全員が同じではないかもしれなくて、それは私が持っているいろんな一面が表れているのかな。例えば3曲目の「Somebody, Somewhere」は、同じように自分の居場所を求めている「Stray Cat」の主人公と比べて、不貞腐れちゃった主人公の歌だなあと思います。

Miya(AG, Vo)

Miya(AG, Vo)

──その居場所のない感覚は、Miyaさんの中に昔からあるものなんですか?

Miya そうですね。でも、逆に「Waiting」という曲では、主人公が“君”に対して「ここに居場所があるからね」と歌っていたりもするから、時期によってまちまちかもしれないです。

──最近はどうです?

Miya ここ(Ålborg)に居場所があります(笑)。

──よかった(笑)。ちなみに英詞で歌おうと思ったのには何かきっかけが?

Miya デンマークに留学しているときにソングライティングの授業をとっていたんです。日本語で書いてもよかったんですけど、デンマークの仲間たちにも歌詞の意味を伝えたいと思って。それに母国語以外の言語で歌詞を書くのは挑戦として楽しいし、英語は日本語と比べて歌詞の内容が曖昧になりにくいんです。それで英語で文章を書くことの楽しさに気付きました。

──余談ですが、Miyaさんの書く歌詞には猫というモチーフがたびたび登場しますけど、お好きなんですか?

Miya 猫、すごく好きです。猫ってたぶん予定がないじゃないですか。「私もこんなふうになりたいなあ」ってよく想像します(笑)。