a子「Steal your heart」インタビュー|気鋭SSWがダークサイドから見つめる理想のポップス (3/3)

感情を揺さぶられたSoft Machineの音楽

──a子さんは音楽を作るのも聴くのも大好き?

あーもう、めちゃくちゃ好きですね。メンバーみんな好きですけど、特に中村さんと私がめっちゃ好きです。一番すごいのは中村さん。あんなに幅広く聴いて、ちゃんと取り込んで、性格もクセがなくて、どんな曲でもいいとこと悪いとこをはっきり指摘できる人、ほかにはいないです。

──彼はいつからの仲間なんですか?

2019年に上京したときからですかね。1人で音楽をやるのは嫌だからバンドを組もうと思ってジャズバーをうろうろしてたら、高田馬場のIntroってお店で最初にa子バンドのドラムをやってくれてた大西くんという子と出会って、「俺、洗足音楽大学なんだけど」「じゃあ友達連れてきてよ」みたいな話をしたら中村さんが現れて。「トラックメーカーもできますよ」「じゃあ曲作ろう」と話したとこからスタートしました。

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──好きになった音楽の最古の記憶は女子十二楽坊とのことですが、自我が芽生えてから意識的に音楽を聴き始めたのは、中学校のときに出会ったレコード屋のおじいちゃんがきっかけらしいですね。

そうです。近所を自転車でうろうろするのが趣味だったときに、地元のモールみたいなところにアンティークショップとレコード屋が合体した小さなショップがあって、その店主のおじいちゃんと友達になったんです。クラプトンやSoft Machine、ライザ・ミネリを教えてくれて、中でもSoft Machineにハマったんです。それから自分でBOOKOFFに行ってジャケ買いするようになりました。お金がないから100円コーナーをめっちゃ掘って、ジャズがきたら「当たり!」みたいな。

──当時のa子さんはSoft Machineのどういうところを気に入ったんですか?

感情をすごく揺さぶられたんです。ゴチャゴチャした感じが好きでした。暗いのも好き。ジャズをちゃんと聴くようになったのは、上京してジャズバーに出入りするようになってからですけど。

──ミュージシャンになりたいと思ったきっかけは?

小学生の頃から「どうせ死んじゃうんだから、好きなことやろう」と考えていたんです。好きなものはいろいろありましたけど、一番は音楽で、高校を卒業するときに「勉強は嫌いだし、音楽でがんばろう」と思って上京しました。あと別のきっかけとしては、父がギターを弾いてたんですよ。長渕剛さんとかクラシックとかジャズとかも聴いてて、私もいいなと思ってたんです。

──椎名林檎さんも大好きだとか。

中高の頃は「この人はすごそうすぎるから、曲を聴いたら才能に圧倒されてしまって自分の音楽をやる気がなくなるかもしれない」と思って、あえて遠ざけてました(笑)。ちゃんと聴いたのは上京してからですね。「三毒史」というアルバムが出た頃で、街を歩いてたら「長く短い祭」が流れてくるから、「いよいよ覚悟を決めて聴くか!」と思って。やっぱり思った通りで圧倒されましたね。映像を含めて。

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同世代のミュージシャンには負けてられない

──a子さんの音楽は“不安定”や“ダーク”だと言われることが多いと思うんですが、そういう部分はご自分の性格から出ていると思われますか?

そうですね。過去の恨みつらみが原動力になっていると思いますね。ネガティブな感じもそこかな。でも上京して音楽を作ってるうちに「実は自分、根暗ではなく根アカなんじゃない?」って最近は思ってます(笑)。

──「根アカなんじゃない?」と思えたのはどうして?

楽曲制作で病むことはあるけどすぐに立ち直るんですよ。あと、地元にひさしぶりに帰ったときに、大阪にいる父親の妹に会ったんです。少し音楽に詳しい人で、「あんた音楽作っとるな。聴いたで。繊細やけど、言うてあんたのアホなとこちょっと出とるな」と言われて「あ、やっぱそうなんや」って(笑)。それから改めて自分の曲をちゃんと客観的に聴いてみたら、「鬱っぽくて暗そうで、繊細そうなんだけど、めっちゃバカ」みたいな感じが確かにちゃんと出てるなと気付いたんです。中村さんにも聞いてみたら「や、明るいでしょ」と言われて。自己分析難しいですよね(笑)。

──自分を発見している最中なんですね。

そうですね。まだよくわかんないです。

──僕が言うと失礼になりますけど、「めっちゃバカ」なところも素直に出していきましょう(笑)。

たぶん幻滅されます。「カッコよさそうなのに」って(笑)。スタイリストのYoshidaにも「MCのとき、あんまりアホな感じ出したらあかんで」って言われてがんばってるんですけど、ファンの人にはもうバレてる気がする……。

──いいと思いますけどね。そういうところも愛してくれそう。

この感じがたぶんlondogが仲よくやれている理由なのかなとも思うんです。私が暗くてウジウジしてたらまとまってないだろうし。あとめっちゃ気が強いんで、そこもよかったのかなって。

──負けず嫌いな感じはしますね。

負けず嫌いではあると思います。というより、「同世代のミュージシャンには負けてられない!」と思うようにして自分を奮い立たせています(笑)。

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「面白い」と思ってもらえる歌詞作りを

──a子さんが書く歌詞にはときどき面白いフレーズが入っていますよね。読書家なのかなと思ったんですが。

本、読めないんですよ。苦手です。

──そうなんですね。「samurai」の「馳せていく」とか面白い表現だなと思いました。「走っていく」でも「駆けていく」でもない。

あ、でも文字っていうか言葉はすごく好きです。小説はめっちゃ持っていて、物語はめんどくさくて読めないけど「こういう表現あるんだ」とか「この言葉面白いな」とか思うと、メモったり、本に線を引いたりして作詞の参考にしているんですよ。「あたしの全部を愛せない」は実体験がベースになっています。彼氏と別れて「なんやねん!」って腹立たしかったときの感情をきっかけに書いたんで(笑)。

──これも曲名が「あたしの全部を愛せない」で、最初の歌い出しを「あたしの空虚も愛せない」と外しているのが面白いです。

それはちょっと意識しました。聴いた人にツッコんでもらいたいんですよ。そういう地味なのを仕込みたがるところはあるかも(笑)。

──ほかに何かネタはありますか?

「太陽」は、歌詞にある「恵まれた時代を憎んで / めんどくさいを求めよう」の部分を伝えたくて作った曲なんです。自分たちよりもいい環境で音楽をやっている周りの友達を見て、才能はすごいのに全然がんばってなくて自分的にはもったいないと思う人がいたんですよ。それが腹立たしくて、「私よりも恵まれてる環境にいるのに! 宮崎駿さんですら『世の中の大事なことってたいがい面倒くさいんだよ』って言っとった!」とか思って。「10代から売れててお金もあるのに! こっちはあと5円しかないのに!」みたいな。本当にお金なかったときに作っていたので(笑)。

──最高のエピソードですね(笑)。

1、2行に言いたいことを全部凝縮しちゃうタイプなんで、もう少し全体で伝えられるような歌詞にもチャレンジしたいと思ってます。

──今の歌詞も素敵だと思いますけどね。

いやいや、最前線で活躍されているアーティストの曲を見たら歌詞すごいですから、本当に。皆様素晴らしいし、音楽性を失わずに伝えたいことをきちんと届けているというか。自分はそういうタイプのアーティストではないと理解しているけど、例えば引っかかりをもっと作って、みんなに「面白い」と思ってもらえるようにがんばりたいです。今は言いたいことを好き勝手に発散してるだけなんで。

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──12月にはツアーが控えていますね。どんなライブになりそうですか?

ヤバいです。何も考えてない。ほんまにヤバい……どうしよう。今「racy」のMVを作ってるところで、フルアニメーションなんですよ。その作業を固唾を飲んで見守ってたら、いつの間にか「そういえばツアーじゃん!」みたいな。タイトルだけは「I'm crazy now, over you」に決まっていて。これは最初にYouTubeに出した「Blue gill」っていう曲のサビの歌詞から引用しました。「初心に戻りましょう」ということと、今まで応援してくれた方々プラス、はじめましての人にも「a子の世界観はここから始まりました」ってメッセージをお伝えしたくて。

──中身に関しては、今のところ何も考えていない?

考えてないです……。一緒に考えませんか?(笑)

ライブ情報

a子 Live Tour 2023「l'm crazy now, over you」

  • 2023年12月16日(土)大阪府 Shangri-La
  • 2023年12月26日(火)東京都 渋谷CLUB QUATTRO

プロフィール

a子(エーコ)

2020年に本格的にアーティスト活動を開始させたシンガーソングライター。情緒的な楽曲の数々はa子自身がプロデュースしながら制作しており、ミュージックビデオなども自身が率いるクリエイティブチーム・londogが手がけている。2020年9月に1st EP「潜在的MISTY」、2021年1月に2nd EP「ANTI BLUE」を自主レーベルからリリース。2023年1月放送のテレビ朝日系「関ジャム完全燃SHOW」では、「プロが選ぶ年間マイベスト10曲」のコーナーで佐藤千亜紀より2022年8月発表の「太陽」が選出された。2023年6月に初のワンマンライブ「FEED MY BODY」を開催。12月には3rd EP「Steal your heart」をリリースし、初の東阪ツアー「a子 Live Tour 2023『l'm crazy now, over you』」を開催する。