a子「Steal your heart」インタビュー|気鋭SSWがダークサイドから見つめる理想のポップス (2/3)

カッコいいとポップのいい塩梅

──ここまでのお話を聞いて「Steal your heart」は、好きな音楽も、ご自身の作品を多くの人に届けたいという気持ちもみっちり詰め込んだ意欲作、という印象が強まりますね。

そう言っていいんですかね? 「あたしの全部を愛せない」はけっこう本気で「最強のポップスを作っちゃった!」と思ってたんですけど、中村さんに「いや、全然まだまだだよ」と言われました。あとからアーティストの友達とごはんを食べに行ったときにも、「あの曲、すごくがんばったんだよ」「いやいや、a子さん、言うてまだ全然メロディが変ですよ」みたいな会話があって(笑)。「自分の中のイメージの倍はポップにしないと、ポップスには聴こえないんだ……」という衝撃がありました。ポップスは好きなのに、a子と結び付けるのがめちゃめちゃ難しくて。これは来年の目標でもあります。

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──「あたしの全部を愛せない」は、ドラマ「初恋、ざらり」のオープニングテーマに使用されました。初のドラマタイアップですし、反響は大きかったんじゃないですか?

大きかったですね。知らないアーティストの音楽をドラマで聴いて「いいな」と思ってYouTubeやサブスクに飛んでいくのって、けっこうハードルが高いじゃないですか。それでもいろんな人に届いていて、気になってくれた人が多かったのかなってすごくうれしかったです。

──YouTubeのコメント欄を見ると面白い感想が多かったですね。「親しみやすいけど、ちょっと不安定な感じがあるのがいい」とか。

あー。そこがまだまだなところかもしれない(笑)。

──僕はそこが個性だと思いますよ。さっきも言いましたけど。

本当ですか? a子は「音楽好きをつかみたい」というとこから始まったプロジェクトだけど、自分たちの“カッコいい”を好きになってもらいつつ、その“カッコいいa子”と“ポップスのa子”をちゃんと合わせて昇華させるのが目標なんです。今のところ、まだ好きなこととポップスの割合が6対4ぐらいかなって。目指せ2対8、ですから。

──5対5か4対6がいい塩梅かなと思っていたけど、2対8ですか。

第一線で活躍しているアーティストは自分たちの“らしさ”は残しつつ、その割合を2対8とか2.5対7.5くらいにしていると思うんです。

──最終的には音楽に興味のない人までつかみたいわけですね。

つかみたいですね。例えば通勤電車の中でゲームをやってるサラリーマンとか、普段音楽をあんまり意識的に聴かなそうな人たちにも届けるのが目標です。

──そのために必要なものがメロディ?

メロディはもう絶対。プラス、音作りもまだまだ全然個性的じゃないなって思っていて。一流のアーティストはいろんなジャンルの音楽を取りれて、自分たちなりの印象的な音を作っているじゃないですか。昨日、中村さんと「ああいう特徴的な音を作りたいね」と話してたんですよ。ミクスチャー感をもっと強くしたいというか。

──ミクスチャー感。なるほど。

2人だけでやってると、どうしても自分たちの慣れた感じにまとまっちゃうから、全然違うジャンルの音楽を専門的にやってる人が入ってくれたら面白くなるんじゃない?とか考えてたりします。だから外からプレイヤーを呼んで、自分たちの曲と新鮮な組み合わせを聴かせてみたいなって思っていて。次の作品では、外からパーカッションを呼ぶつもりです。

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斎藤ネコを迎えたレコーディング

──外部のプレイヤーで言うと、本作には斎藤ネコさんが参加していますね。

「太陽」と「samurai」に参加してもらったんですけど、すごく刺激的でした。ネコさん、めっちゃ個性的なサウンドメイクじゃないですか。自分で楽器を改造してるし、トラックも作るし、「バイオリンってこんな感じで弾くんだ!」という感動がありました。自分たちとネコさんの音楽性がいい感じで混ざったと思いますし、単純にめっちゃ演奏がうまい。自分たちの演奏はまだまだなんですけど、ネコさんと演奏すると自分たちも少しうまくなった気がするんですよ(笑)。

──ネコさん、超大御所だけど会うと愉快なおじさんですよね。

お酒好きじゃないですか。私は全然飲めないんですけど、すっごいがんばります。「飲みに行こうよ」って誘われたら「行きます!」みたいな(笑)。勉強になります、とっても。

──将来的にはプレイヤーだけじゃなくプロデューサーを招く可能性も?

それは考えてないですね。私がやりたいことを形にしてくれるチームがlondogなので、そこはブレないでいいかなと思ってます。

──あくまでlondogを中心にして、そこにときどき外部から入ってもらう、みたいなイメージ?

そうですね。一応チームはもう固まってるんで、例えば「trank」のMVを監督してくれたShunくんも、彼には彼のチームがあるからlondogに入ってもらおうとは思っていなくて、外部から参加してもらう感じです。

より多くの人に聴かれたい理由

──お話を伺っていて、a子さんがやりたい音楽のイメージがだんだんつかめてきました。「多くの人に聴かれたい」とか「2対8」とか言っても、新曲が出たら前作とまったく音が違って「別人じゃん!」ということにはならなさそうですね。

どうなんだろう。私が今まで聴いてこなかった音楽に死ぬほどハマっちゃったらやるかも……いや、ないか。たぶんない。好きなものが確立しだしてる感じもするんで。中村さんが死にでもしない限りないですね(笑)。

──どうリアクションすればいいのか……(笑)。

中村さんにはいつも「死なないで」と言ってます(笑)。

──これからが大事ですからね。

楽曲制作でもMVでも、私のやりたいことを実現するにはあまりにも多くの人の手がかかるんで。まずは自分が音楽で全力を尽くして名前を知ってもらって、認めてもらいたい。そうしたら素晴らしいクリエイターと対等な関係値になれて、自分に協力してくれる方がもっと増えるかなって。そこからさらに自分が一番いいと思えるクオリティに届くように、音楽人生がんばろうって感じです。

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──a子さんが理想とするクリエイションを実現したいわけですね。

はい、そうです。a子バンドを組んだときに「演奏絶対うまくなろう!」とメンバーに伝えて。最初は私も含めてまだまだでしたけど、今はみんなほかのミュージシャンのサポートもできるぐらいのレベルになったんですよ。よくlondogのみんなと「才能のない人間が集まって、やっといいものができるかもしれないのがチームだよね。天才は1人で全部できちゃうから」って話すんですよ。londogのスタイリストのYuki Yoshidaは同じ姫路出身で、たまたま東京で会ったんですけど、マインドがほぼ一緒で、「俺らマジで才能ないねんから、気合いや」ってずっと言ってます(笑)。私たちみたいなタイプは調子に乗ったら何もしなくなるんで。

──a子さんはすぐ調子に乗っちゃう性格なんですか?

いや、めちゃめちゃネガティブで自己肯定感低いタイプです。最近「もしかして……(小声で)イケてる感じになれてきたかも?」って少し思ったくらい(笑)。波がありますね。たまに自分の曲を聴いて「がんばってるやん」と思うんですけど、次の瞬間に「いや、まだまだだな」ってすっごくバッドに入るし。londog全員、調子には乗らないですね。向上心がある人たちばっかりだなと思います。12人いるんで、おっとりしてる子も何人かいますけど。私と中村さんとYoshidaの3人がめっちゃガツガツしてて、ワーワーうるさいから周りも引っ張られてるのかな。

──12人の仲間でワーワーと。楽しそうですね。

いつの間にか増えちゃって。よく中村さんと「みんなを食べさせなきゃいけないね」って話すんですよ。外仕事もいっぱいできるように個々のレベルを上げていこうっていう目標もあって。私自身も巻き込んでるんで、みんなのこと。