秋山黄色インタビュー|2年半ぶりアルバム「Good Night Mare」の12曲で見せる“人生”とは

秋山黄色の4thアルバム「Good Night Mare」が9月25日にリリースされた。

「Good Night Mare」は秋山にとって2022年3月発表の「ONE MORE SHABON」以来2年半ぶりのアルバム。タイトルが象徴するように、悪夢をモチーフにしたダークな雰囲気の1枚となっている。秋山は2022年11月から2023年1月まで活動を自粛。この期間を経て秋山はどんな思いでこのアルバムを制作したのか、何よりも自粛中に何を思っていたのか。自身の内なる思いを、言葉を尽くして語ってもらった。

取材・文 / 柴那典

現実か否か

──2年半ぶりのアルバムですが、完成しての実感はどんな感じですか?

だいぶ色の濃い、「これぞアルバム」というか、作品として強い意味のあるものを作れた気がしました。作り終わったあとにそう思ったので、「いいアルバムを作ったな」という感じですね。

──このアルバムはテーマがはっきりしていますよね。「Good Night Mare」というタイトルの通り、悪夢というモチーフが1つの軸になっていて、アルバムに統一感をもたらしている。このモチーフは何が由来だったんでしょうか?

そもそもこの作品は、僕が精神的にだいぶ落ち込んでしまって、そこから回復してきたことを受けて作り始めたんです。僕、昔からパニックになったりすることがあって、それが理由で現実感の喪失みたいなものを抱えていて。中学生くらいのときはその症状が本当にひどかった。最近はだいぶよくなっていたんですけれど、また重くなってきて。自分の心と体が乖離するのってすごくつらいんですけれど、そこから「胡蝶の夢」が思い浮かんで。

──夢が現実なのか、現実のほうが夢なのか、はっきりと区別できなくなるという荘子の寓話ですね。

この世なんて、夢か現実かわからんぞみたいな。現代風に言えば、僕らがいる世界なんて、電極を付けて液体に浮かんでる脳みそが観ている映像かもしれないよ、みたいなことで。これを証明ができないことが、僕の不安要素のほとんどを占めているんです。死ぬこともそこに含まれている。この世なんて超悪夢だと思ってるんですけど、僕にとっての悪夢というのは“夢の中の悪夢”かもしれない。悪夢に気付いているときと、気付いていないときの2つの軸みたいなものが僕の中にある。その両方をアルバムに全部詰めたいという。夢っていう着想は、現実感の喪失からですね。

秋山黄色

──こうやってインタビューで話しているときも、ステージに立っているときも、1人でいるときも、いつも「これは本当に現実なのか?」みたいな感覚が常にある。

はい。基本的にずっとそういう感じです。精神医学的には実存的不安と言ったりします。わからない人にこれを伝えるのは難しいんですけれど、理解してもらうとするなら、夢という表現がわりと近くて。夢を軸にいろんなたとえ話をすると、認知されやすい。要するに、現実と夢の入れ替わりみたいな。僕はそういうことを自分の生活の中で切り分けているんです。世界の真理にぶつかる人、およびぶつかってる自分の現在、そういうことを曲にしたためようと思いました。

──過去作からの流れというのは、今作に関してはありますか?

それはないですね。2ndアルバムの「FIZZY POP SYNDROME」(2021年3月発売)と3rdアルバムの「ONE MORE SHABON」(2022年3月発売)は連動してましたが。「FIZZY POP SYNDROME」はかなりきれいごとを言っていたんですけれど、出したときはコロナ禍で、人々がすがるための何かが必要な状態だったと思うんです。しかも、1年経って「よし次を作るぞ」となっても社会が動いてなかった。「もう1枚」という感じで「ONE MORE SHABON」を作ったので、その2枚は関連性があったんです。

──今はコロナ禍と比べて社会のムードはだいぶ変わった実感がありますよね。そうなったとき、このアルバムで描かれているような不安や焦燥感みたいなものが強まる感覚を持つ人は、決して多くないかもしれない。けれど、確実にいる。そういう人に深く刺さるような作品になっているようにも思います。

僕みたいな不安の抱え方をしている人は、実はそんなに多くないということがここ数年でわかったんです。でも、あのコロナ禍の2、3年に抱えたストレスで変わった人はけっこういるんだろうなとも思います。内々の悩みが可視化されているというか。人間関係に悩むより「果たして自分とは」とか、そういう疑問にぶつかった人は多いだろうなと。ただそれは僕にとって希望ではありますね。というのも、僕はそういうことを考えているほうなので。考えるしかないんですよね。

最終的に言いたいことは

──アルバムのビジョンや全体像を示す曲というとどの曲になりますか?

もともと暗いものを作るというざっくりとした指標はあったんですけど、アルバムのテーマとカチッと合っているもので言うと「生まれてよかったと思うこと」ですね。ほかの曲はアルバムの道筋としての必要性があって入っているようなところもあるので。この曲ができてようやく完成したなという実感が湧きました。

──まさにこの曲はアルバムにおいても着地点となる位置付けの曲だと思います。どういうふうに作っていったんでしょうか。

これは最後に作った曲なんですけれど、「『生まれてよかったと思うこと』を伝えるためのアルバムにしよう」というのが出発点だったんです。でも、作り始めたときは自分が暗すぎてダメだった……どうしても不幸な部分を持ち上げすぎるような雰囲気になりかねない。「いろんな不幸な目に遭ったんだ」「すごくかわいそうな人なんだ」という見え方になってしまうので。アルバムの制作は、仮に言いたいことがあったとして「これを言っても違和感がない」というふうになるまでのキャラ作りみたいなところがありますね。超ダークな曲もあれば、みんなも共感しやすい夢を書いた曲もあって、最終的にこれが言いたいという。人生に対していろんな知見を広めている人の現状について書ければよかった。

秋山黄色

──この12曲を通して「秋山黄色はこういう人間である」ということを示している。

そうです。アルバムを通して聴いてもらうことで、この人はこんな人生を生きてきて、こういった苦しみを超えてきて、こんなことが苦手で、こういうものが好きなんだという流れを見せることができる。もともと僕の作品はそういうものが多いですね。「生まれてよかったと思うこと」を歌うためだけにほかにもむっちゃ曲がある、みたいな。

──「生まれてよかったと思うこと」はすごく率直な思いが書かれた曲だと思います。秋山さんはありのままの思いを表現することが、アルバムのゴールになることを見据えていたんでしょうか。

そうですね。自分のありのままの気持ちが伝わるアルバムになれば、というのは最初からずっとありました。個人的には想定よりバリエーション豊かになったなと感じています。

秋山黄色は超キレてた

──「生まれてよかったと思うこと」の前には「ソニックムーブ」という曲が収録されています。ゲームの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」をモチーフにした曲ですが、これは「Good Night Mare」の中でどんな位置付けのものになったと思いますか?

もともとゲームとパンクロックが大好きだったので、そういう一面を表現した曲ですね。僕は世間から若干ひねた子供っぽいやつみたいに見られることが多くて。そんな見られ方をしているけど、カラ元気というか、勢いで人生をなんとかしていこうみたいな。他者に何かを受け入れてもらうためには熱心に生きないといけない──「ソニックムーブ」ではそういうことを言ってます。

──「負け負けの負け」はどうでしょうか。これもバンドサウンドの疾走感あふれる曲ですが、どんな思いが込められていますか?

「負け負けの負け」はけっこう古い曲で。死をテーマにした曲しか作ってない時期があって、その頃の曲は自分にとって尊い楽曲なんですよ。基本的に僕は死ぬことばっかり歌っていて、その専門家だとも思っているんですけど、そういう生き方をしていると、ほかのことがわりとどうでもよくなってくるんです。究極的に僕自身が死んでしまうことが人生最大の問題であって。でも消滅が確定しているということは、基本的に生きていることに意味はないという思想になる。そうなると本来は怒りとか悲しみにかまけてる時間はあんまりないんですけど、それなのに周りに対して超キレてたんですよ。栃木県で20歳を超えても音楽をやっていると、「就職しろよ」ってめっちゃ非難されるんです。そのときの被害者意識はハンパなかった。僕にとって怒りによって生まれた曲は、すごく尊いんです。感情的な部分が出ているので。こういう怒りについて一生懸命考える人間じゃないと、何を言っても聴き手に響かない。だから、僕にとっては大切な曲ですね。

──「Lonely cocoa」という曲についてはどうでしょうか。これもアルバムを象徴するような曲だと思いますが。

これもけっこう古い曲で、アルバムのテーマに近い夢をモチーフにした曲なんです。「現実と夢が入れ替わる」というわかりやすいテーマもありますね。例えば、夢から目覚めたときに、もし夢のほうが理想的な暮らしだったら、現実のほうが悪夢になる。現実のほうが悪夢だったら、見ていた夢は「いい夢だったね」ということになる。僕のスタンスひとつで夢の内容の良し悪しが決まるし、見る夢の良し悪しによって僕の現実のスタンスが変わってくる。悪夢たらしめてるものが、もし自分の偏屈さだとしたら、こんなに愚かなことはないよね、という。「Good Night Mare」は「Lonely cocoa」ありきで作ったアルバムでもあったと思います。

──夏目漱石「吾輩は猫である」へのオマージュを示した「我輩はクソ猫である」はどうですか? これは最近の曲ですか?

そうですね。最近、本を読むようになったんです。まったくもって活字を読まない人生だったんですけれど、最近読書にハマりすぎていて。その影響で書きました。僕の日記的な、いわゆるエッセイ的な曲でもあります。

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「蛍」が導く答え