嘘を“点ける”
──1曲目の「LIE on」はどういうイメージから作っていったんでしょう?
これは嘘についての曲ですね。僕の曲の中には、嘘がどうこうということがめちゃめちゃ出てくるんですよ。今作には「アイデンティティ」というアーティストの根幹みたいな曲があって、そもそもなんで嘘を今までそんなに扱ってきたのかということを書いている。なんで自分自身に起きたことをリアルに書いているかというと、自分自身のアイデンティティがないと、人は訳のわかんない傷付き方をするんですよ。なんで傷付いたのか、傷の深さはどれぐらいか、それが明確に見えない。それを見るためにはアイデンティティがいるんだっていうのが前提にあるんですね。で、僕は自分が決めた善悪の基準を守ることで自分を形作っているみたいなところがあるんですけど、まず何より自分に嘘を付くのは話にならないという、それくらいの禁忌として捉えているんです。それを言っておかないと歌詞の説得力がめちゃめちゃ薄まっちゃう。そういう意識があって。単純に嘘が悪いんじゃなくて、人を傷つけるようなことを無意識にできちゃうからよくないっていう。逆に言うと、僕、日常的に嘘付くんですよ(笑)。でも誰かの不利益になるような嘘じゃなくて、問題ないと思っているから付いている嘘がある。それが“真っ赤な嘘”か“真っ白い嘘”かの差で、それをコントロールするのが大事なんだっていうことですね。だから自然と嘘を付くんじゃなくて、電気のスイッチみたいに嘘を“点ける”。LIEをonにするということで「Lie on」なんです。
──これは「アイデンティティ」という曲と対になっているんですね。「アイデンティティ」もタイアップ云々ではなく、ちゃんとアルバムの芯を食った入口になっている。
そうですね。やっぱりタイアップという性質上、聴く人にとっては入口になるので。あれは単体のアニメソングとして聴けなきゃいけない曲でもあるから、その効果も計算して作っているんです。でもアルバムの一部になったときには聞こえ方が変わってくる。そういうふうに作っていますね。
──「月と太陽だけ」はどういうアイデアから作った曲なんでしょうか。
これはめっちゃ前に作った曲ですね。「Caffeine」を作った時期の曲なので、18、19歳の頃です。だから当時のことは覚えていないです(笑)。
──アルバムの中ではどういう位置付けで、どういう役割を果たしている曲でしょうか?
まず単純に好きな曲だから入れているっていうのがあって。でも、初期の状態からはちょっと変わってますね。昔の歌詞はちょっと稚拙だったので、コロナ禍に入ってから歌詞をいじっていて。それを精査した結果、やっぱり「Caffeine」の位置付けに似ている感じはします。これは四つ打ちの曲なんですけれど、僕なりの四つ打ちの現代的な解釈が「Caffeine」だったりこれだったりする。バンドがやるギターロックの四つ打ちも、EDMの四つ打ちもあって、すごく人間がノレるリズムで。でも僕としてはただのダンスじゃないやつを入れたい。そこの精神が昔と変わっていないところが気に入ってますね。歌詞についても、例えば壮大な音楽の上では感動する話をしたくないっていう、基本的に天邪鬼なところがあって。こういうポップなリズムの上ですごく重いこと、どうしようもないことを言っている。そういう意味でアルバムを象徴する曲ですね。
──「夢の礫」はどうでしょうか? これは映画「えんとつ町のプペル」の挿入歌として書かれた曲ですが。
アルバムの中のタイアップ3曲は、ほぼ同じ方向を向いているストーリーなんですよ。これもお話をいただいてから歌詞を書いたし、多少は景色を連想させる言葉はあるんですけど、ほぼ自分の言葉ですね。「えんとつ町のプペル」という映画自体が夢を持ったら叩かれてしまうというような、実際にあるようなことをモチーフにしていて。あの映画、自分としてはフラットな気持ちで観られなかったんです。自分自身が本当にそうだったから。だから歌詞もすらすら書いた気がします。「夢を諦めないでください」と言うのってめちゃめちゃ残酷なんですけど。でも、もはや自分がそう言わなきゃみたいな意識がすごくあったので、そういう歌詞を書いていきました。このアルバムを構想しているときもちょうど夢を諦めちゃいけないという気持ちが高まっていた頃で、やっぱり一貫してそういう精神状態なんだって感じですね。
音楽の力を引き出さないとダメだ
──アルバムは「FIZZY POP SYNDROME」というタイトルですが、これはどういう意味で付けられたんでしょうか。
1stアルバムは「自分の出身がこうだから、こういう音楽を作っています」という自己紹介みたいなところから「From DROPOUT」というタイトルにしたんですけど、次にどういうテーマにするかまったく思い付かなくて。「自分の音楽性ってどんなものなんだろう?」と考えたときに、自分としては何かに対してのものじゃないと成立しない曲がすごく多いことに気付いたんですね。それは人の気持ちもそうだし、最近の状況もあって。
──最近の状況というと?
今の精神状態に嘘を付かずに言うと、近しい人が亡くなっちゃったり、もうこれ以上こんな思いをするのは嫌だっていうことがあって。僕みたいなもんでも音楽の力を引き出さないとダメだって思ったんです。もっとシニカルな目線で「どうせ音楽なんて」と言うこともできるし、本当はそうしたいんですけれど、何かしなきゃいけないと思った。でも僕ができる限界は、炭酸でお酒を割るみたいに人が持っている澱みを薄めるくらいなもので。それがちょうど「自分の音楽性ってなんなんだろう?」ということにリンクしたんです。炭酸ってすごく自分らしいなって。そこで初めて2ndアルバムのテーマとして出したいものが生まれたんですね。自分らしさってなんなんだ?というのと、救う手段が一緒だったという。だからこのタイトルになって、このジャケットになった。これがすごく大事だったんですね。
──ジャケットの色合いも「From DROPOUT」のテイストとは違いますよね。
そこは差別化したいという意識があったんです。色は真逆くらい違うんですけど、友達同士で会話している感じをモチーフにしているのは一緒にしたくて。というのは、入っている10曲が悩みを完全に取り除く曲たちじゃないので。見方を変えてみようとか、こういう考え方をしてみて楽になった経験があります、みたいな提案なので。同じものでも、見る角度を変えると楽しげに写るんだよ、と。3人がしゃべっている構図は変えたくなかったんです。ちゃんと飲み物も持ってるし、適当にしゃべっている感じ。切り取っているものは一緒なんですけれど、そのうえで「From DROPOUT」と対照的にしたかった。だから、僕自身は変わっていないよっていうことなんですよね。
──3月からはツアーも開催されますが、どんな意気込みがありますか?
これまで順当に会場のサイズを大きくしてきたんですけど、去年中止になった2発のせいで一気にキャパが大きくなってしまって。最後にワンマンをやったのが渋谷のO-Crestなんですけど……。
──次回はZeppですね。
そう。できるだけ気にしないようにしてるんですけど、ライブのやり方もサウンドメイクの感じもめちゃめちゃ変わってきてるんですよね。1stと比べるといろんな楽器を入れちゃっているので。精一杯工夫してやりたいなとは思っています。
──ステージ映えする曲もたくさんあるし、ライブに行きたくなるアルバムだと思います。
ライブで聴いてほしいですね。自分も明日のことを考えず捨て身でやるみたいなポリシーでライブをしたいので。ツアーは全部完全燃焼して終わろうと思ってます。
ライブ情報
- 秋山黄色「一鬼一遊TOUR Lv.2」
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- 2021年3月6日(土)愛知県 Zepp Nagoya
- 2021年3月7日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2021年3月10日(水)東京都 Zepp Tokyo
- 2021年4月9日(金)香川県 DIME
- 2021年4月11日(日)福岡県 DRUM LOGOS
- 2021年4月24日(土)新潟県 studio NEXS
- 2021年4月25日(日)石川県 Kanazawa AZ
- 2021年5月15日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2021年5月23日(日)宮城県 Rensa
- 2021年5月28日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2021年6月4日(金)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2