秋山黄色がメジャーデビューアルバム「From DROPOUT」を完成させた。
地方都市に生まれ、半ば引きこもり状態で過ごした思春期を経て、宅録で作った楽曲をネットに投稿することで注目を集めてきた彼。昨年から今年にかけては大型フェスに出演したり、ドラマ主題歌を制作したりと、飛躍の時を迎えている。
秋山黄色とは、いったい何者なのか。楽曲制作の裏側について、生きづらさを抱えてきた自身のこれまでについて、語ってもらった。
取材・文 / 柴那典
どんなに取り繕っても“DROPOUT”な存在
──アルバム「From DROPOUT」にはドラマ「10の秘密」の主題歌「モノローグ」も収録されています。ドラマ主題歌を書き下ろしてメジャーデビューするという今の自分の現在地は、どれくらい前からイメージしていましたか?
漠然と「大勢の人の前で歌いたい」みたいなことは想像していましたけど、現実的にはまったくイメージできてなかったですね。リアルに捉えようがないというか。メジャーデビューがどういうものなのかが、まずわかっていなかったし。今もあんまりわかってないんですけど(笑)。
──まだ実感がないくらい?
そうですね。ほんの少し前まで数人のお客さんの前でライブをやることなんて当たり前にあったし。人生の尺度の中では、それくらい濃い1、2年だったので。
──「From DROPOUT」というタイトルはいつ頃、どういうところから付けたんでしょうか。
ジャケットをイメージしているときですね。先にジャケットの絵が浮かんで、そこから離れられなくなったんです。
──ジャケットのイメージはどういうところから?
中身よりも色味の感覚が大事なんです。好き勝手に衝動のままに描き始めてみたら、こういう色になってしまった。多くの人を意識して戦略を練って作るものにしては、あんまり印象がよろしくない色合いだと思うんですけどね。でも、そういう色味が自分の根底から出てくる時点で、どんなに取り繕っても最終的に「僕はこういうところの出身だから」っていう意味合いが強く出ていると思ったんです。今は周りから期待していただける環境もあるし、自分もよりプロフェッショナルになっているというか、精神的にちゃんとしなくちゃという意識がどんどん強くなっているんですけど、でも「もともと自分って“DROPOUT”な存在だよな」という感じがあった。そういうジャケットが最初に完成しちゃったもんだから、こういうタイトルになったんです。いろんな案があったし、もうちょっと希望のある意味合いの言葉にしようとも思っていたんですけど、結局こういうことになるんだなって。
──逆に言うと、そこに嘘はつけないという感じだった?
そうですね。特に1stアルバムだからこそ強くそう思うんですよね。もちろんここから先に行こうとは思うんですけど、今後何をしようが、何を作ろうが、結局“DROPOUT”の出身なんだからっていう。
──収録曲にしても、基本的には「From DROPOUT」な曲が集まっているアルバムだと思うんですね。1人の空間、取り残された場所から生まれてくる音楽というか。秋山さんの中で、そういう感覚が生まれるきっかけはいつ頃までさかのぼるイメージがありますか?
中学生くらいですかね。僕の学校生活は客観的に見ても普通のほうだったんです。どちらかというと冴えないグループにいたんですけど、強烈ないじめを経験したわけでも、暗かったわけでもなくて。でも今になって思えば、中学生くらいから「今後誰と付き合っても、変わらないだろうな」というのがどんどん張り付いてきた感じです。
──わかりやすく問題児だったり、いじめられたりしているわけではなく、どこか周りとズレている、なじめない不全感があった?
「From DROPOUT」のDROPOUTは“半グレ”みたいなイメージではなくて。“落ちこぼれ”とか“ろくでなし”とか、いろんな意味があるんですけど、その中でも“時間を守らない”とか“遅刻する”みたいな、しょうもないやつのイメージなんですよね。
──バイトを休んでバックレちゃう、みたいな?
そんな感じですね。クズっていろんなタイプがいて。暴力を振るうやつもいるし、完全に引きこもっているやつもいるんですけど、令和に入ってくると、どっちも更正までのめどが付いてきている感覚があるんです。でも、いつになっても時間を守らないタイプのクズは一番更正が難しいと思うんですよね。指摘されづらいし、指摘できるほど親しくしてくれる大人が周囲に現れない。それによって精神が激烈に深淵まで落ちていくということではないんですけど、そうなりかねない人間が溜まっている。今、もっとも救われにくい人間だと思うんです。
──「救われにくい」というのは?
今って、誰でも夢を追える時代になってきちゃっていると思うんですよ。ゲットーというか、貧乏なところから出てきても、頭を使えばある程度はやりたいことをできる時代なので。さまざまな選択ができる中で、一番障害があるのがこのタイプのクズだと思うんです。
──ネット上には“真面目系クズ”みたいな言葉もありますね。
完全にそういう感じですね。完璧な引きこもりって、意外といい曲を書いたりするんですよ(笑)。ヒップホップだって、不幸であればあるほど強くなる傾向がある。そうなると大した経験もしていないのに、ただ迷惑をかけてきたみたいな中途半端なやつはどこにも勝てない。自分の仲間意識もそこに集中しているんです。今まで明るみに出てこなかったけど、次第に僕みたいなヤバいやつがどんどん生きづらい時代になってきている。そういう亀裂の間に挟まっちゃうようなところに僕らがいるので。
──なるほど。その話を聞くと、このジャケットのイメージにはすごくしっくりくるものがあります。
もちろん、オーバーグラウンドに行きたいという意識も人一倍あるんです。でもその反面、自分に向けて「何をやったって自分は“DROPOUT”出身なんだから偉そうなこと言うなよ」という気持ちもある。そういう自戒も込めて、このタイトルを付けました。
確実に刺さるやつがいる
──収録曲の中で“クズな自分”を一番象徴しているのはどの曲だと思いますか?
「やさぐれカイドー」か「クラッカー・シャドー」ですね。初っ端の2曲。クズだからどうこうっていう歌詞ではないですけど、こういう人間だからこそ感じたことというか。意味がわからない部分もあると思うんですけど、自分としては意味がわからないまま書いているものは1つもないし、これが確実に刺さるやつがいるという確信もある。自分はまっすぐ投げているつもりなんですよね。
──この2曲には出口のない感じがすごくありますよね。秋山さんの出身は栃木県ですけれど、北関東で育ったことに関連があったりしますか?
完全にありますね。栃木に生まれて、栃木を誇っているやつ、マジで周りにいないんですよ。ヒップホップの人は“レペゼン栃木”って言ってがんばっているんですけど、自分としては「そこまで何かしてもらったかな?」と思うし。ほかのところに住んでないからわからないですけど。
──少なくとも秋山さんが思春期を過ごしてきたのは輝かしい未来を思い描けるような場所でもないし、かといって「ここから這い上がっていく」というゲットーのような場所でもなかった。どこかその間のふわふわした挟間みたいなところで過ごしてきたみたいな感覚があると。
そうですね。いつの時代もスポットライトが当たりやすいのは極端に上か下かのところなんですよ。でも今の時代、一番つらいのって中間なんだろうなと思う。僕も別に交友関係が広いわけじゃないんですけど、同級生や上下2、3歳の人間を例に見ても、夢を追っている人が本当に少ないんですよ。熱いやつもいたんですけど、周りに押し潰されると夢を追えなくなっていく。
──なるほど。アルバムを聴いてどこか乾いた印象があったんですが、それが今聞いた話のリアリティとつながっている感じがしました。
確かに音にも出ているのかな。みんな完全に満たされてはいないとは思うんですけど、僕は顕著にそういうのがあるのかなと思います。
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