ASIAN KUNG-FU GENERATION「Single Collection」特集|重大トピックで振り返る、デビュー20年の軌跡 (2/2)

2007年7月
アジカン初の海外公演、韓国「INCHEON PENTAPORT ROCK FESTIVAL 2007」

──韓国で初の海外ライブを行いましたが、当時の韓国のフェスはどんな雰囲気だったんでしょう?

後藤 めちゃくちゃ盛り上がったよね。サークルモッシュも起きてたし。韓国は当時からネット文化が強くて、ネットを介して曲を聴いてくれてる人が多くて、CDは500枚くらいしか売れていないのにお客さんは5000人くらいいて。緊張しましたけど、自分たちの音楽が海を越えてるということを初めて目の当たりにしたのが「INCHEON PENTAPORT ROCK FESTIVAL」だった。

──その当時からアニメの影響は感じていたんでしょうか?

後藤 あのときはなかったですね。今のほうが感じます。当時の韓国は芸能寄りの文化の影響が色濃くて、韓国のバンドから、バンドシーンが活発な日本に対してうらやましく思ってるという話をされて。友達もできたし、いい思い出がたくさんありますね。このときにみんなで行った韓国料理屋で、山ちゃんが水キムチを食べるのを早々にやめたことが特に印象に残ってて(笑)。

山田 (笑)。

山田貴洋(B, Vo)

山田貴洋(B, Vo)

喜多 トラディショナルな韓国料理の店に行ったときね(笑)。

後藤 そうそう。あのときの山ちゃん、すぐに心のシャッターを下ろして閉店してた(笑)。

山田 想像していた韓国料理よりも厳かで(笑)。水キムチにも馴染みがなかったし、海外に滅多に行くこともなかったから多少の抵抗感もあって。今はどの国に行っても楽しいですけど。

2012年9月
7thフルアルバム「ランドマーク」リリース

「ランドマーク」ジャケット

「ランドマーク」ジャケット

──7thアルバム「ランドマーク」発売の前年、2011年のツアーの頃は、バンドにとって相当ヘビーな時期だったそうですね。

後藤 うん。東日本大震災でツアーが途中でストップして。ツアーが止まってなかったら解散か、俺がバンドを脱退していたと思います。震災後、「ランドマーク」の制作をしながらメンバーと和解していったところがあって。もう一度バンドとして生き直したというか。

──当時、バンド内で音楽的なズレが生まれていたんでしょうか。

後藤 自分の中でいろいろなことをやりたいという気持ちが芽生えていて。それで俺はソロをやり始めるんですけど。人間にはできることとできないことがあって、メンバーそれぞれできることを持ち寄って、その中でどう面白いことができるのかっていうのがバンドだと僕は思っていて。今はできることにフォーカスしてるからうまくいってるけど、当時は「どうしてこれができないんだろう」ということが気になっちゃって。そう言われるほうもしんどいし、求めるほうもしんどいので当然軋轢が生まれる。

──ツアーが中止になり、余震の続くスタジオに4人で集まってセッションを重ねていって、「ランドマーク」ができていくわけですが、そのときはどんなことを感じていましたか?

伊地知 アルバムを作るという目標ができて、ただそこに向かっていくことで、余計なことを考えなくなりましたね。それによってわだかまりが薄まっていった記憶があるかな。

山田 みんなでアイデアを出し合って曲ができていって、意図せずとも原点に立ち返っていく空気感があったよね。「ランドマーク」の前の「マジックディスク」(2010年6月発売の6thフルアルバム)は彩り豊かなサウンドだったけど、「ランドマーク」はわりとシンプルな音になって。

後藤 人間として生きるうえでも先が見えない状態で、生き延びるために曲を作っていたんだと思う。音楽に没頭することで、音楽にまつわる環境を守りたいという気持ちもあったし。スタジオを使っている人がとても少ない時期で、スタジオが潰れちゃうかもしれないと思ってランドマークスタジオをまとめて押さえて、入り浸って。ライブもレコーディングもできないなか、生き抜くのに精一杯だったし、俺としては「ランドマーク」を作ったことと、ソロ作品を作ったことがすごく大きかったです。その2つを機に、アジカンをもう1回再構築する期間になったんだと思います。俺1人が崩壊してバンドが危うくなったんだけど、結局立ち直ることができたから。

2013年9月
デビュー10周年記念ライブ「ファン感謝祭」「オールスター感謝祭」を横浜スタジアムで開催

デビュー10周年記念ライブ当時のアーティスト写真。

デビュー10周年記念ライブ当時のアーティスト写真。

喜多 「オールスター感謝祭」と「ファン感謝祭」は各日30曲くらい演奏したけど、曲がほぼ被っていなかったので、計60曲ぐらいやったんですよね。ひさびさに演奏する曲も多かったし、今はできないセットリストだと思う(笑)。

──今年の8月24、25日には神奈川・横浜BUNTAIで「ファン感謝祭2024」が開催されます。

山田 「2013年当時は幼くて行けなかったので、今回は絶対に行きたいです」というメッセージを多くいただいているので、ファンの人の思い入れをいまだに強く感じるイベントだよね。

喜多 2013年の「ファン感謝祭」とはまた違った形でのスペシャルなライブになるんじゃないかなと。

──2013年の「オールスター感謝祭」には、ホリエアツシさんとナカヤマシンペイさん(ともにストレイテナー)、細美武士(ELLEGARDEN、the HIATUS、MONOEYES)さん、金澤ダイスケ(フジファブリック)さん、マット・シャープ(The Rentals)さんが登場しましたが、アジカンにとって同世代のアーティストとのつながりは大きいですよね。

後藤 彼らとは世の中の“無関心”とどう戦うかという時代を一緒に過ごして、お互い今も活動を続けているので、戦友の感覚があるんですよね。やっぱりみんな楽曲がいいのが一番刺激になる。俺も負けないぐらいいい曲を作りたいと思い続けてるし。そういう刺激をくれるバンドが周りにいたのはありがたいです。

「ASIAN KUNG-FU GENERATION デビュー10周年記念ライブ ファン感謝祭」の様子。(撮影:TEPPEI)

「ASIAN KUNG-FU GENERATION デビュー10周年記念ライブ ファン感謝祭」の様子。(撮影:TEPPEI)

2021年11月
結成25周年ツアー「25th Anniversary Tour 2021 "Quarter-Century"」

──「25th Anniversary Tour 2021 "Quarter-Century"」は2012年の「BEST HIT AKG」ツアー以来、全公演サポートメンバーなしの4人のみで回ったツアーでした。パシフィコ横浜での追加公演「25th Anniversary Tour 2021 Special Concert "More Than a Quarter-Century"」ではサポートやゲストを入れて、バンドの“両輪”を見せた印象があります。

後藤 サポートを入れると、音楽的に正しい人が1人入ってくる感覚があるんですよ。弦楽器は押さえ方次第で周波数的に不安定になって、いいときと悪いときがあるけれど、特に鍵盤は平均律上、正しい周波数になる。そういう意味で俺は5人のほうが楽なんだけど、ファンのみんなには「4人で作ったメシのほうがまずいけど、それが食いたい」ってところがあるんだろうな(笑)。「このまずい味がいいんですよ」みたいな。

「25th Anniversary Tour 2021 "Quarter-Century”」神奈川・KT Zepp Yokohama公演の様子。(撮影:山川哲矢)

「25th Anniversary Tour 2021 "Quarter-Century”」神奈川・KT Zepp Yokohama公演の様子。(撮影:山川哲矢)

「25th Anniversary Tour 2021 "Quarter-Century”」神奈川・KT Zepp Yokohama公演の様子。(撮影:山川哲矢)

「25th Anniversary Tour 2021 "Quarter-Century”」神奈川・KT Zepp Yokohama公演の様子。(撮影:山川哲矢)

──お客さんにはメンバーだけのライブが喜ばれるというのはありますよね。

後藤 デビュー10周年の「ファン感謝祭」と「オールスター感謝祭」も、ゲストなしで4人でやる「ファン感謝祭」のほうがチケットが売れたし。確かにRadioheadに2人目のドラマーがいたりすると「いらなくね?」って思ったりしますから(笑)。

──音はよくなっていたとしても。

後藤 そうそう。トム・ヨークにはイライラしててほしいみたいなところがある(笑)。完璧にうまくいってないところも含めてバンドだよね、っていう。ただ、山ちゃん、建ちゃんがコーラスに追われて大変そうにしてるのを見ると、もう1人、2人いたほうがメンタルは圧倒的に楽だよなと思っちゃいますね。

山田 確かに去年の「サーフ ブンガク カマクラ」ツアーは特にコーラスが盛り盛りだったんですよね。でも、4人でのツアーを乗り越えられると得られるものは確実にあって、次に難しいことが来ても大丈夫になる。

後藤 確かにね。

喜多 一皮むけるにはむけるよね。

伊地知 4人だと甘えなくなるのが一番大きいかな。僕はサポートが入ったところでやることは変わらないんだけど、4人のほうがメンバーとのコミュニケーションが圧倒的に増える。「BEST HIT AKG」ツアーから「Quarter-Century」ツアーまでの間、僕は「バンドなんだから4人でもっと話すべきなんじゃないか」ってちょっと思ってたし。「メンバー間にスタッフやサポートが入ってうまく回してるって、バンドとしてどうなんだろう」っていう気持ちがあって。長い間サポートを入れてやってると「4人だけでできなくなっちゃったらどうしよう」っていう不安も生まれるんですよ。

後藤 潔がコーラスすれば4人で4声とかもできるんだけど。

伊地知 僕はコーラスするなというPAさんからの圧力もちょっとあって(笑)。

伊地知潔(Dr)

伊地知潔(Dr)

後藤 潔の歌声はマッチ(近藤真彦)なので、コーラスをやると「あれ? マッチがいるぞ」ってお客さんの気が散っちゃう(笑)。

喜多 潔の声のクセは強いのかもしれないね。

山田 曲が入ってこなくなっちゃう(笑)。

──約2年前にリリースされた最新アルバム「プラネットフォークス」はゲストも多く、バリエーションが豊かな作品でしたが、次のオリジナルアルバムについて今何か考えていることはありますか?

後藤 なんでもできると言えばできる状態なので、ちゃんとテーマを決めたいかな。どういうところからインスピレーションを得るかというのもあるし。今はまだそれを上手に捕まえられてなくて考え中ですね。行ってみたい場所やスタジオはあるので、そういうところから考えることになるのかな。

──今日お話を聞いて、アニメカルチャーとのつながりだったり、海外での支持だったり、同世代バンドとの共闘だったり、いろいろなところとコネクトしながら進んできたバンドなんだなと改めて思いました。

後藤 そういったことも含めてこの先のことをどう考えるかですよね。コーチェラ(アメリカで開催されている野外フェス「Coachella Valley Music and Arts Festival」)はもう自分たちとは違うゲームに見えちゃっているので、恋焦がれていたような気持ちはなくなったかな。アジカンはベテランバンドになってるんだと思う。どこに達成感を見出していくかを考えなきゃいけない時期ですよね。今のメインストリームでそこまで受け入れられるような流行りの音だとは思わないけど、今のミュージシャンたちが感じてることをリアルタイムに一緒に感じていたいとは思うし。例えばFoo Fightersが今の最先端かというとそういうわけでもないと思うけど、先端か先端じゃないかは関係なく、ずっと素敵な作品を作ってるわけで。ライブはいつ観てもすごいし。キャリアが長くなればなるほど、どういうアルバムを作るかは難しくなっていく。タイアップ曲を出していって、溜まってきたらアルバムを出すみたいな方法だと味気ない感覚が僕らの世代にはあるので、ちゃんとアルバムについては考えたいですね。

喜多 確かにアルバムを作るうえで場所やテーマが年々大事になってきてる気がしますね。昔はそういうことは考えずに「いい曲を作ろう」だったと思うんだけど。場所とかに影響されながらアルバムを作るのは素敵だなと思えるようになった。

山田 やっぱり漠然とは作れないんですよね。これからツアーもありますが、そこでただ受け身でいてもテーマは見つからないから、それぞれが意識的に何かを感じて探していきたいですね。

後藤 強いて言うならクソすぎる世の中に一矢報いるものを作りたいんだよね。日本の社会は息苦しいし先行きも暗いと感じる。世界に目を移せば、永遠に争い事が終わらないんじゃないかという気になる。自分たちも含めて非対称な暴力が止まらない時代に、生きる人たちの力にどうやったらなれるんだろうということは考えています。

──それは多くの人がアジカンに期待していることだと思います。

後藤 そういうものでありたいですよね。日々の小さなストラグルとか悩みも大事ではあるけれど、もっと根本的にこのクソすぎる世の中に逆らいたい気持ちがあって。例え一瞬でも「生きる意味があった」と思えるようなものを作りたい。聴いてくれた人たちにそう思ってもらえるような何かを自分たちで見つけたいですね。

伊地知 最近は旧作に助けられてるところが大きかったけど、そろそろたくさんの人に響くような曲が作れたらいいなと思ってます。今はきっとそのための準備段階だとも思うし。ライブをやっていても幸せな気持ちになるので、きっとそろそろそういう曲ができるんじゃないかなって思います。僕が作るわけじゃないですけど(笑)、予感はあるんです。

後藤 潔はレシピは書いてくれるんだけどね(笑)。

伊地知 レシピはいくらでも書ける(笑)。

後藤 でも、楽譜とMIDIは書けないでしょ。

──その分、おいしいごはんで(笑)。

後藤 そうそう、そこでサポートしてくれるからね(笑)。

ASIAN KUNG-FU GENERATION

ASIAN KUNG-FU GENERATION

ライブ情報

ASIAN KUNG-FU GENERATION「Anniversary Special Live “ファン感謝祭2024”」

  • 2024年8月24日(土)神奈川県 横浜BUNTAI
    OPEN 16:00 / START 17:00
  • 2024年8月25日(日)神奈川県 横浜BUNTAI
    OPEN 15:00 / START 16:00

ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2024「ファン感謝サーキット」

  • 2024年9月30日(月)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
  • 2024年10月2日(水)東京都 LIQUIDROOM
  • 2024年10月5日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2024年10月6日(日)北海道 帯広MEGA STONE
  • 2024年10月10日(木)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2024年10月11日(金)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
  • 2024年10月13日(日)新潟県 NIIGATA LOTS
  • 2024年10月19日(土)香川県 高松festhalle
  • 2024年10月24日(木)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2024年10月26日(土)熊本県 B.9 V1
  • 2024年10月27日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
  • 2024年10月31日(木)茨城県 mito LIGHT HOUSE
  • 2024年11月1日(金)福島県 clubSONICiwaki
  • 2024年11月3日(日・祝)宮城県 石巻BLUE RESISTANCE
  • 2024年11月4日(月・振休)岩手県 KESEN ROCK FREAKS
  • 2024年11月13日(水)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)
  • 2024年11月14日(木)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)
  • 2024年11月20日(水)大阪府 ユニバース
  • 2024年11月21日(木)大阪府 ユニバース
  • 2024年11月23日(土・祝)京都府 磔磔
  • 2024年11月24日(日)兵庫県 Harbor Studio
  • 2024年11月29日(金)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2024年11月30日(土)岐阜県 club-G
  • 2024年12月4日(水)宮城県 SENDAI GIGS
  • 2024年12月12日(木)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
  • 2024年12月13日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2024年12月18日(水)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
  • 2024年12月19日(木)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

プロフィール

ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアンカンフージェネレーション)

1996年に同じ大学に在籍していたメンバーで結成。渋谷、下北沢を中心にライブ活動を行い、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を獲得する。2003年にはインディーズで発表したミニアルバム「崩壊アンプリファー」を再リリースし、メジャーデビュー。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、初の東京・日本武道館ワンマンライブを行った。2010年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼ぶ。2003年から自主企画によるイベント「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招いたり、コンピレーションアルバムを企画したりと、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2015年にヨーロッパツアー、南米ツアーを実施した。2018年3月にベストアルバムを3作同時リリース。2021年に結成25周年を迎え、2022年3月に10thアルバム「プラネットフォークス」を発表した。2023年7月に江ノ電の15駅をモチーフにしたアルバム「サーフ ブンガク カマクラ(完全版)」をリリース。2024年7月にデビュー20周年を記念してシングルコレクションをリリースし、8月に神奈川・横浜BUNTAIで「ファン感謝祭2024」、9月より「ファン感謝サーキット」を行う。