今の時代のことをちゃんと書く
──さまざまなコラボがある一方で、「プラネットフォークス」は、ロックバンドとしての存在感も強く感じられるアルバムでもあると思います。前作「ホームタウン」でトライした「音数を減らして、いい音で録る」というアプローチも継続されてますよね?
後藤 そうなんですけど、今回はわりとダビングしたよね?
喜多 音数を少なくみたいな意識はなかったですね。それよりも音の分離をよくしようと思ってた気がします。
後藤 喜多くんのギターをいい音で録りたかったんですよ。ソロもいっぱい弾いてほしかったし。
喜多 アウトロでソロを弾いてる曲も何曲かあるね。
後藤 そうそう。そこは意図してたかな。
──ギターロックバンドとしての存在感を示したかった?
後藤 どうなんだろう? 初期の頃は意外とギターソロを排してたんだけど、ギターロック不遇の時代になって、なぜか「ギターソロもっと聴きたい」と思うようになって。泥臭く、ペンタトニックとかで弾いてほしかったんですよね。「ダイアローグ」をロンドンで録った影響もあるでしょうね。ギターもドラムもめっちゃいい音なんですよ。建物自体の鳴りもそうだし、電圧も関係してるんだろうけど、音の躍動感が全然違うんです。イギリスで録れば、イギリスらしい音になるんだなってわかった。
喜多 そうだね。2019年の11月くらいですね、ロンドンに行ったのは。
後藤 そのときは「2020年に再度ロンドンに行って、アルバムのレコーディングができたら最高だな」というプランもあって、レーベルと事務所に懇願してたんです。メンバー全員同じ部屋でいいから、ひと月行かせてくれって。「ダイアローグ」みたいなサイケデリックな感じをもっとやってみたかったんですよね。The Stone Rosesもそうだけど、自分の中のイギリスのロックのイメージはそういう感じなので。それが実現してたら、もっと渋いアルバムになったと思うし、ナタリーで特集を組んでもらえなかったかも(笑)。
──(笑)。コロナがなかったら、ロンドンレコーディングの可能性もあったと。当然ですけど、「プラネットフォークス」にはこの時期に作った影響がすごく出てますよね。
後藤 そうですね。録音の環境だけじゃなくて、歌詞もそうだと思います。
──シングルの「エンパシー」、先行配信された「You To You(feat. ROTH BART BARON)」もそうですけど、直接的なメッセージが強く感じられる曲も印象的でした。行き過ぎた資本主義、拡大する経済格差、価値観による断絶など、現代社会が抱えている問題がダイレクトに反映されているというか。
後藤 今やそれが当たり前の書き方というか、素でやるとそうなるという感じですね。特にアジカンの歌詞では、今の時代のことをちゃんと書こうと思っているんです。特に意気込んでいたわけではないんですけど、そのほうが詞としてもいいんじゃないかなと。形骸化したエバーグリーンみたいなものに向かっちゃうと、「誰が書いてもいい」みたいな詞になりそうだし、それよりも「私が今立っている場所について、私の言葉で書く」というほうが、時代を超えたものになるんじゃないかなって。100年後に「あの時代に書かれた詞だ」と思われるイメージで書いてますね、最近は。あとは、この時代に生きている意味というのかな。自分たちが何をつないで、何を残して、何を次の世代に渡していくか、その大切さも考えてますね。
──そういう視座、本当に大事ですよね。Twitterもそうですけど、即時的な情報ばかりに触れていると、どうしても視野が狭くなるので。
後藤 そうですよね。SNSはねじ曲がった認知になりがちだし、特に今は悪いほうにエスカレートすることが多いので。「誰が炎上してるか?」みたいなことばかりに関心が集まって、それを利用してページビューや再生回数を増やして儲けてる人たちがいるので。踊らされてるだけというか、いいことなんて全然ないですよ。
喜多 そうだね。
後藤 どこで言葉を書くべきか?ということも考えるようになりました。詩人のはしくれだから、SNSでむやみに書く必要もないし、言葉の出口を絞ることも必要だなと。結果、精神的にはかなりヘルシーになりました。あと、この2年間は生身の体のエネルギーの大切さを思い知りました。最初に話した札幌でのライブの話もそうだけど。
伊地知 うん。
後藤 インターネットに接している時間が増えるとどうしても観念的になるし、脳ばかり肥大して、その分魂が枯れちゃう感じがするんですよ。やっぱり体で感じることが大事だし、皮膚で音を感じ合うことで、ものすごいエネルギーが生まれる。コロナ禍になって、それはめちゃくちゃ感じました。
──特にロックバンドは、スタジオなりライブ会場なりに集まって演奏するしかないですからね、基本的に。
後藤 うん、それしかない気がする。会って話したり、実際に音を鳴らしたりしたほうが早いこともたくさんあるから。デモの段階でいくらよくても、4人でやってみたら「なんか違うね」とかね(笑)。山ちゃんがデモに入れてくれたギターのシミュレータ—の音とかも、その時点ではすごくいいのに、演奏すると思った響きにならなかったりするんですよ。で、「変えてもいい?」って。
山田 あるね。
後藤 楽器にも個体差があるし、すべてを一般化するのは無理なんです。それが面白くてバンドをやってるところもあるね。
アジカンが25年続いてきた秘訣
──アジカンは昨年、結成25周年を迎えました。25年という月日の中で「これは成し遂げられた」と思うことは?
山田 なんだろう? 難しいな。
後藤 1つ言えるのは、アレじゃない? 日本中のギークスたちに、楽器を持つことのためらいをなくしたこと。
──Weezerみたいに?
後藤 そう。Weezerが俺たちにやったこととまったく同じことをやれたんじゃないかな。だって、俺らの前はBlankey Jet CityやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTがカッコいいロックバンドだったんですよ。彼らは選ばれし民じゃないですか。
喜多 確かに(笑)。
後藤 アジカンが世に出たことで、クラスの中の何者でもないヤツらがギターを弾き始めたと思うし、仲間と一緒に演奏しているときだけは特別になれるって知ったんじゃないかな。音楽による解放ですよ、それは。
喜多 若いミュージシャンに「アジカンの曲をコピーしてました」って言われることもあるからね。
山田 うん、よく言われる。
後藤 初期の頃はよく「コピーしやすいほうがいいいよね」みたいな話もしてたからね。
伊地知 「ドラムだけ複雑でよくわからなかった」とも言われますけど(笑)。
後藤 それで潔が若い芽を摘んでた可能性もあるね(笑)。
伊地知 ただ、ちゃんとコピーできたドラマーはそのあと、めちゃくちゃうまくなってるんですよ。抜かされた!ってことも多いです。
後藤 確かに10代でアジカンのドラムを叩けるやつは、軽く潔を抜いてくるだろうね。
伊地知 そうなんだよね。日本人のドラマーのレベル、なんでこんなに上がったの?って思います。
後藤 ネットの影響もデカいんじゃない? うまいドラマーが叩いてる映像がいくらでもあるし、演奏方法も調べられるでしょ。俺らの頃なんて、「BEAT UK」(1990年~2002年に放送された洋楽番組)を録画して、ノエル(・ギャラガー)のコードの押さえ方やポジションを何度も確認してましたから。ギターのカポも知らなかったから、友達に「ギターに何か挟んでるんだけど、あれ何?」って聞いたり(笑)。
──90年代まではそうですよね(笑)。では、バンドとしてまだ達成できてないことは?
後藤 なんだろう? 海外のフェスに出るとか?
伊地知 出たことないね。
後藤 コーチェラとかグラストンベリーとかね。ただ、大人になってくると、あれも“政治”なんだよなって思っちゃって。
喜多 ハハハ(笑)。
後藤 結局、コネクションを作って売り込まないとダメなんですよ。そうすると「それって幸せなことなのか?」と思い始めて。日本でライブができることもすごく幸せだし、南米のサンパウロやブエノスアイレスでライブをやれたのもめちゃくちゃうれしかった。「デカいフェスに出るのが偉い」とか、どういう権威に評価されたかではなくて、何が幸せかを自分たちで決めることが大事なんですよ。音楽を続けて、自分たちが「いい」と思えるものを作って、納得できて、心が震えて。それをずっとやれてたら、これ以上の達成感はないと思います。あとは全部お釣りというか、ギフトですよね。
──まさにアジカンは自分たちの価値観を貫いてきたバンドですよね。そう考えると、25年間続いたこと自体が成功かも。
後藤 そうだと思いますよ。ここまでバンドが続いてるって、成功でしょ?
伊地知 そうだね。
後藤 続けるためには努力が必要だし、仕事しながら音楽をやっている人たちもいて。音楽を職業にできているのは素晴らしいことだし、すげえラッキーだなとも思いますね。
──5月末から始まるアルバムのツアー「ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2022 『プラネットフォークス』」も楽しみです。ちなみにですが、25年間、この4人で続けられた秘訣ってなんですかね?
後藤 難しいな(笑)。俺の視点からいくと、この3人が優しいからじゃないかな。初期は特に俺がめんどくさかったり、尖ってた局面があったりしたので。あとはスタッフワークに支えられているなと。そういえば建ちゃんが、「ほかのバンドのフロントマンと比べたら、ゴッチはマシなんじゃないか?」と言ってたらしいですよ(笑)。
喜多 そういう考え方もあるんじゃないかと(笑)。
──お互いが思いやらないと続かない、と。
伊地知 思いやるか、少し距離を置くかどっちかなんですけど。うちらはたぶん、ある程度いい距離を保ってるほうだと思いますけどね。
喜多 バランスもちょうどいいのかなと。それもこの25年でできてきたことだと思います。
後藤 普段会わないのもいいよね。友達だけど、いつも遊んでるわけじゃないんで(笑)。
ツアー情報
ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2022「プラネットフォークス」
- 2022年5月28日(土)埼玉県 三郷市文化会館 大ホール
- 2022年5月29日(日)埼玉県 三郷市文化会館 大ホール
- 2022年6月1日(水)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- 2022年6月4日(土)広島県 上野学園ホール
- 2022年6月5日(日)熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
- 2022年6月10日(金)石川県 本多の森ホール
- 2022年6月12日(日)静岡県 富士市文化会館ロゼシアター 大ホール
- 2022年6月17日(金)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
- 2022年6月21日(火)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
- 2022年6月26日(日)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール
- 2022年7月1日(金)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
- 2022年7月2日(土)奈良県 なら100年会館 大ホール
- 2022年7月9日(土)群馬県 高崎芸術劇場 大劇場
- 2022年7月15日(金)千葉県 市川市文化会館 大ホール
- 2022年7月18日(月・祝)福島県 とうほう・みんなの文化センター(福島県文化センター)大ホール
- 2022年7月23日(土)東京都 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)
- and more
プロフィール
ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアンカンフージェネレーション)
1996年に同じ大学に在籍していた後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)の4人で結成。渋谷、下北沢を中心にライブ活動を行い、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を獲得する。2003年にはインディーズで発表したミニアルバム「崩壊アンプリファー」を再リリースし、メジャーデビューを果たす。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、初の東京・日本武道館ワンマンライブを行った。2010年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼んだ。2003年から自主企画によるイベント「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招いたり、コンピレーションアルバムを企画したりと、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2012年1月には初のベストアルバム「BEST HIT AKG」をリリースし、2013年9月にはメジャーデビュー10周年を記念して、神奈川・横浜スタジアムで2DAYSライブを開催。2015年にヨーロッパツアー、南米ツアーを実施した。2018年3月にベストアルバム「BEST HIT AKG 2 (2012-2018)」「BEST HIT AKG Official Bootleg "HONE"」「BEST HIT AKG Official Bootleg "IMO"」を3作同時リリース。2021年に結成25周年を迎え、2022年3月に10thアルバム「プラネットフォークス」をリリースした。
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