結成25周年を迎えたASIAN KUNG-FU GENERATIONが10thアルバム「プラネットフォークス」をリリースした。
劇場版「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション」主題歌の「エンパシー」、TVアニメ「どろろ」オープニングテーマの「Dororo」などのシングル曲のほか、ゲストをフィーチャーした「You To You(feat. ROTH BART BARON)」「星の夜、ひかりの街(feat. Rachel & OMSB)」などを収めた本作。UKやUSのギターロックへの憧憬から結成されたアジカンが、さらなる高みに達した充実作に仕上がっている。
音楽ナタリーでは、後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)にインタビュー。2018年12月リリースの「ホームタウン」以来、約3年4カ月ぶりのフルアルバム「プラネットフォークス」について語ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / 上山陽介
コロナ禍におけるアジカンの日々
──この2年間、コロナ禍でライブやフェスがなくなり、ロックバンドは活動の場を失いましたが、皆さんにとってはどんな時期でした?
後藤正文(Vo, G) 俺はけっこうゆっくりしてましたね。ソロアルバム(2020年12月リリースの「Lives By The Sea」)も作ったし、アジカンの曲もけっこう書いて。ずっとスタジオにいさせてくれたら、それくらいはやるよという感じです(笑)。確かにライブができなかったのは残念だったけど、スタジオワークに関してはいろんなことがやれたかなと。
山田貴洋(B, Vo) 2020年に予定していたライブを延期したときは、コロナ禍がこんなに長引くとは思ってなかったですね。特に2020年は家にいるしかなかったから、曲のアイデアを考えたり、楽器を練習したり。何をやっていいかわからなかったけど、とりあえず何かやってました(笑)。腕を鈍らせちゃいけないという気持ちもあったので。
伊地知潔(Dr) 僕は家にいるのが好きなので、今まで時間がなくてやれなかったことをやってましたね。畑に種を蒔いたり、料理の仕事だったり。そっちも大変になってるんですけどね、今(笑)。
後藤 リハ中も料理しないと間に合わないんじゃない? スネアの上にまな板置いてるしね。
伊地知 置いてない(笑)。
──(笑)。潔さんはPHONO TONESでの活動もありました。
伊地知 そうですね。ドラムって、叩いてないとどんどん叩けなくなるんですよ。アスリートと同じで体が動かなくなるから、なるべく叩く機会を作りたかったんですよね。
喜多建介(G) 僕はこの2年でいうと、やっぱりライブができなかった影響は大きいですね。無観客ライブも何本かやったんですけど、去年の11月にひさしぶりにお客さんの前でライブをやった経験は忘れがたいです。ツアー(「ASIAN KUNG-FU GENERATION 25th Anniversary Tour 2021 "Quarter-Century"」)の初日はZepp Sapporoだったんですが、楽しさが全然違ってた。曲にしっかり向き合える無観客ライブも悪くないけど、生のステージは完全に別物でしたね。
後藤 うん。ワンマン自体がひさびさだったし、札幌は燃えましたね。終わった後の疲労感がすさまじかったんですよ。
伊地知 わかる(笑)。
後藤 しかも意図せずに、ですからね。普段も120%で臨んでるんだけど、去年の札幌のライブは自分でも「そんなに?」と思うほど疲れたし、それが心地よくて。相当楽しかったんだろうな。
考え込みながらパワーポップやっても楽しくない
──では、ニューアルバム「プラネットフォークス」について聞かせてください。「ホームタウン」以来のフルアルバムですが、制作はいつ頃から始まったんですか?
後藤 けっこう長いよね?
伊地知 うん。
後藤 「アルバムとしてまとめるぞ」ってプリプロが始まったのは、去年の夏くらい?
山田 9月だね。
後藤 フジロックのあとか。
山田 最初は「サーフ ブンガク カマクラ」のセッションも同時にやってたんですよ。リリースの予定がはっきりしてなかったので。
──というのは?
後藤 今、「サーフ ブンガク カマクラ」の続編を作ってるんですけど、アルバムより先にそっちの曲を書き始めちゃって。
喜多 去年の9月の時点では「サーフ~」を先に出す可能性もあったんです。
後藤 それでアルバムの制作時間を稼ぎたいという狙いもありましたね(笑)。
喜多 オリジナルアルバムはじっくり作りたいんで。
後藤 あと、ツアーがどうなるか見通せなかったのも大きくて。せっかくアルバムを作っても、ツアーに出られない、出ても観客は半分みたいになったら、もったいないなと。でも、結局はアルバムを3月に出すことになって。
喜多 そっからはすごかったよね。
後藤 怒涛の制作でした。
──紆余曲折があったんですね。「サーフ ブンガク カマクラ」は、「一発録りでパワーポップをやる」という趣旨の作品ですが、バンドとしてはそっちのほうが取りかかりやすかったんですか?
後藤 コンセプトがはっきりしてるし、気持ちが盛り上がってるうちにやっちゃいたいんですよ。考え込みながらパワーポップやっても楽しくないというか、ゲラゲラ笑いながらやりたいじゃないですか。オリジナルアルバムはどうしてもジャッジがシビアになるし、責任感が伴うというのかな。ギアが1段違うんですよね。
──覚悟が必要なんですね。
後藤 まあ、そこまで重い話でもないんですけど。
山田 プリプロが始まったのは去年の9月ですけど、その前からデモは作ってたしね。ゴッチが忙しいときは、3人(喜多、山田、伊地知)でスタジオに入ってたので。
伊地知 山ちゃんがデモを作ってくれたんです、今回。それをもとにして3人でセッションしたんですけど、曲数もかなりあって。
後藤 潔はぜんぜん曲を出してこないけどね。
伊地知 (笑)。9月からは短期集中で8曲録ったんだけど、それもよかったんですよね。変なことを考える暇がなかったというか。
後藤 そこ、広げたいな。変なことって何?(笑)
伊地知 遠回りしないってことかな。
後藤 そうか(笑)。結局、1カ月半くらいで8曲録り切ったからね。確かに余計なことを考える時間はなかったかも。
山田 ゴッチが作った新曲もレコーディングまでにある程度アレンジを詰めてたしね。
──なるほど。その時点でアルバムの全体像やコンセプトはあったんですか?
後藤 特になかったですね。作っている最中はいろんな方向に飛び散っていいと思っていたし、まとまりは最後に考えようと。アジカンを拡大解釈する時期かもしれない、という感じもありました。LP2枚組みたいな構想もあったんですよ。全体を4ブロックに分ければ、いろんなタイプの曲を作っても大丈夫じゃない?って。
喜多 レコーディングの前から話してたよね、それは。
後藤 うん。あとは似ている感じのアレンジを避けることくらいかな。UKっぽい曲が並ぶともったいないから、曲順的にちょっと離そうとか。なので作ってるときは余計なことは考えてなかったですね。まあ、1カ月半で8曲なので、さっき潔が言った通り、考えている時間はなかったんですけど(笑)。
風通しをよくしたほうが発見がある
──確かに今回のアルバムは音楽的な振り幅がかなり広いですよね。「雨音」みたいなテイストの曲も新鮮でした。
伊地知 冒頭のドラムフィルの音色、どう思います?
後藤 なんでライターさんに聞いてるんだよ(笑)。
──(笑)。僕はシティポップのテイストもあるのかなと。
伊地知 だったらうれしいです。最初のフィルだけで「あ、80'sっぽい感じね」ってカテゴライズされたらシャクだなと思ってたので。「雨音」には子供のときに耳にしてたJ-POPやJ-ROCKっぽさもあるし、ちょっと懐かしい雰囲気というか。山ちゃんがデモを作ったんですけど、俺が勝手にドラムの音を変えちゃったんですよ。
山田 よかったよ(笑)。デモ音源の時点では80's感を意識していたわけではなくて、着地点も見えてなかったんです。いろんな転がり方をして、最終的にこうなった感じですね。ドラムのフィルもレコーディング当日に決めたんですよ。
伊地知 時間がなかったし、その場で思い付いたことをどんどん試して。
後藤 しかも誰も「NO」と言えないタイミングでね(笑)。
──「You To You(feat. ROTH BART BARON)」「触れたい 確かめたい(feat. 塩塚モエカ)」など、ゲストをフィーチャーした曲もこのアルバムの特徴だと思います。
後藤 バンドとして自己完結するよりも、ほかのアーティストとのつながりの中で作ったほうが今っぽいのかなと。「4人だけでセルフプロデュースで作りました」って、どうなの?っていう感じもあるし。そういう閉鎖性よりもいろんな人を巻き込んで、巻き込まれることで新しい角度が見えてくるというか。自力だけでやって自家中毒になりかけたこともあるし、風通しをよくしたほうが、音楽的にもいろいろな発見があると思ったんですよね。
──なるほど。特に「星の夜、ひかりの街(feat. Rachel & OMSB)」は、このアルバムの多様性を象徴していると思います。
後藤 そうですね。OMSBは、この曲と「Be Alright」にプロデュースと編曲で参加してくれたskillkillsのGuruConnectが紹介してくれたんだけど、快く参加してくれて。今までにないコラボだし、達成感がありました。
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今の時代のことをちゃんと書く