後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)×ホリエアツシ(ストレイテナー)|15年来の盟友と作り上げた「廃墟の記憶」

海外マスタリングの理由

──今作「ホームタウン」のマスタリングはニューヨークのスターリング・サウンドで行われたんですよね?

後藤 やりました。

──前作のアルバム「Wonder Future」(2015年5月発売)は、ロサンゼルスにあるStudio 606でレコーディングされた音源でした。後藤さんが海外で音回りの作業をする理由はどういうところにあるんでしょうか?

後藤 これは悔しいことなんですけど、ロックに限らず音作りに関しては海外のほうが先進的なところがあると感じているんです。それを埋めたいという気持ちは常々持って取り組んではいるんですけど、特にマスタリングは海外のエンジニアと一緒にやったほうがいいというのが今の判断ですね。そもそも音源もアメリカ版と日本版があったほうがいいくらい、その国によって文化と言うか、やり方が違うんですよね。

ホリエ 僕はゴッチほどギターの音は詳しくないけど、こんなに音が出ているのにボーカルが全然負けていない音作りが海外ならできるイメージがある。

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

後藤 環境の問題も大きいと思う。特にアメリカはだだっ広いからさ、作業スペースもデカいし、デカい音出しても誰も気にしない。日本だと作業環境からタイトになっちゃって、縮こまりながら作業してるイメージがあるよね。

ホリエ それに慣れちゃってるんだよね。大きいスタジオを使う機会に恵まれても「そんなに音を出さなくてもいいや」って思っちゃうことも多くて。

後藤 聴いてきた音楽、作ってきた音楽の歴史とかによるものだから同じアメリカでも街によって違いがあるし、そもそも言語の歴史も影響してると思う。ボーカルの処理のやり方がけっこう特徴的で、向こうでは子音をけっこう削るんですよね。高音が痛くない。「s」とか「t」とか。ネイティブの人たちって会話の中でもあまり「s」とかを発音しない。けれど聴き取ってる。それが音作りにも表れてるんでしょうね。

──英語の言語的な背景に基づいたノウハウは、アジカンの曲のように日本語の歌詞の曲にも違和感なく適応するものなんでしょうか?

後藤 全然大丈夫ですね。アメリカでレコーディングして、向こうのエンジニアがミックスして仕上げる日本の音楽もたくさんあるわけですし、特別日本語が合わないみたいなことは感じていないです。それよりも何千万円もするスピーカーで音をチェックしてくれるような、機材や設備が恵まれている環境で音の仕上げをするってことが魅力的なんです。録音も大事ですけれど、音は出口のところも気が抜けないですから。

ホリエ ゴッチはどんどん“音の人”になってきてる印象がある。

後藤 ちょっとオタク気質を発揮しすぎてる気もするけど(笑)。ストレイテナーはイギリスのレコーディングとかすごく合う気がするな。やってみてほしいな。

ホリエ 興味はあるんだけどね。まだそこまでやる踏ん切りが付いてないんだよね。

2人が一番興奮する瞬間

──ちなみにレコーディングの作業では、後藤さんのプライベートスタジオ「コールド・ブレイン・スタジオ」も活用されたと伺いました。

後藤 ドラムとベースのレコーディングが終わったら、あとは自分のスタジオでの作業にしてました。大きいスタジオでギタリストをブースの中に入れてやり取りをすると、距離感があってやりにくいんですよね。ケーブルの長さも長くなっちゃうし。ペダルとかアンプのチョイスも考えないでやるといつもと同じ音になっちゃうから、その場で使うペダルだけつないで、アンプのライブで使うモノとは変えて、ヘッド(アンプ)やスピーカーも変えて……みたいなことを自分のスタジオで延々とやってました。

ホリエ スタジオを借りてると、そういう細かいことはなかなかできないからね。

後藤 そうなんだよ。そもそも機材を持って行くだけでけっこうなストレスを感じるし。

ホリエ うん。わかる。

後藤 機材って運搬が一番キツいと思ってて、例えばペダルの場合だと自分のレコーディングでもプロデュースでも20個とか持って行くんですよ。20個持って行くのってけっこう重いし、1個2万とか考え始めると40万ぐらいの荷物を持っているわけで、そのへんには置いておけないし(笑)。プライベートスタジオを持ってみて、やっぱりちゃんと腰を据えて時間を気にせず作業できるありがたみっていうのをしみじみ感じていますね。ダメだったら「やめよう」って言いやすいし、いい意味で“無駄な時間”を持てるんですよ。ホリエくんをずっと誘ってるんだけど、まだ来たことないんだよね。

ホリエ もうね、ずっとスタジオ自慢されるんですよ(笑)。

後藤 自慢じゃないよ。深みにハメようとしてる。きっとホリエくんもプライベートスタジオを持ちたくなるから。

ホリエアツシ(ストレイテナー)

ホリエ レコーディングのときに一番興奮する瞬間って、僕の場合はミックスまで進んで曲の完成形まで見えてきたときなんだけど、ゴッチの場合、たぶん音を作ってるときに一番興奮してるよね?

後藤 そうだね。ドラムにマイク立ててるときとか、すごく興奮してる(笑)。

ホリエ やっぱり。

後藤 あとドラムのチューニングをしてるときね。「いいね。そのスネア」とか「ずっとリム引っかけて」とか言ってるときは楽しい。ドラムはレコーディングの華だから。俺はこんな感じで音に関するこだわりが強くなっちゃったんだけど、ホリエくんはコンポーザータイプだよね。作曲のほうに秀でてるところがある。いい曲書くなっていつも思ってます。

──同じ世代のバンド同士ですが、お二人ともタイプが異なるフロントマンですよね。

ホリエ タイプで言うと、僕は昔から変わってないと思うんですけど、ゴッチは性格的に探究心があると言うか、楽しむポイントがどんどん変わってる印象があるかな。

後藤 確かにそうかもね。最近は音にばっかりこだわりすぎちゃって、音がよければ曲なんてどうでもいいんじゃないかと思い始めちゃって。木ばっかり見て森に意識が向いてない状態になりつつあるのでヤバいよね(笑)。でも音にこだわるのは楽しいよ。音をチェックする人として、俺のことを雇ってほしいくらい。それこそ、ストレイテナーが次のアルバムを作るときとか呼んでよ。曲には口出ししないから、マイクを立てるときとかに呼んでほしい(笑)。

ホリエ 完全に“音の人”としてのアドバイザー的立ち位置で。

後藤 真面目な話、今だったらバンドメンバーとエンジニアの間に立って、いろいろ面白い提案ができると思うんだよね。バンドの空気感を感じ取りながら「今だったらこういう音じゃない?」っていうような提案を、曲自体を変えずにできると思う。

ホリエ そもそもゴッチは機材に詳しいし、エフェクターとかたくさん持ってるから、いろいろ勉強したいところはあるんだよね。

後藤 あと年明けてから「ホームタウン」のツアーもやるからさ、ライブでホリエくんに「廃墟の記憶」を歌ってほしいんだよね。歌いに来る?

ホリエ ライブについてはまだ全然話してなかったんだよね。僕が参加していいのであればぜひ。

後藤 ツアー全部一緒でもいいよ。毎公演1曲だけ出てきて、すぐはけていくようなホリエくんのぜいたく使いをしてみたいな。

ホリエ (笑)。

後藤 東京公演とかは来やすいと思うからぜひ。せっかく一緒に作ったんだから、コラボで披露できたら面白いと思うんだよね。

左から後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、ホリエアツシ(ストレイテナー)。
ASIAN KUNG-FU GENERATION
「ホームタウン」
2018年12月5日発売 / Ki/oon Music
ASIAN KUNG-FU GENERATION「ホームタウン」初回限定盤

初回限定盤 [2CD+DVD]
4968円 / KSCL-3121~3

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ASIAN KUNG-FU GENERATION「ホームタウン」通常盤

通常盤 [CD]
3146円 / KSCL-3124

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CD収録曲
  1. クロックワーク
  2. ホームタウン
  3. レインボーフラッグ
  4. サーカス
  5. 荒野を歩け
  6. UCLA
  7. モータープール
  8. ダンシングガール
  9. さようならソルジャー
  10. ボーイズ&ガールズ
初回限定盤DISC 2収録曲

Can't Sleep EP

  1. スリープ
  2. 廃墟の記憶
  3. イエロー
  4. はじまりの季節
  5. 生者のマーチ
初回限定盤DVD収録内容
  • ASIAN KUNG-FU GENERATION America Tour Documentary Pt.2(Latin America)
ASIAN KUNG-FU GENERATION
(アジアンカンフージェネレーション)
ASIAN KUNG-FU GENERATION
1996年に同じ大学に在籍していた後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)の4人で結成。渋谷、下北沢を中心にライブ活動を行い、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を獲得する。2003年にはインディーズで発表したミニアルバム「崩壊アンプリファー」を再リリースし、メジャーデビューを果たす。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、初の東京・日本武道館ワンマンライブを行った。2010年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼んだ。2003年から自主企画によるイベント「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招いたり、コンピレーションアルバムを企画したりと、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2012年1月には初のベストアルバム「BEST HIT AKG」をリリースし、2013年9月にはメジャーデビュー10周年を記念して、神奈川・横浜スタジアムで2DAYSライブを開催。2015年にヨーロッパツアー、南米ツアーを実施した。2018年3月にベストアルバム「BEST HIT AKG 2 (2012-2018)」「BEST HIT AKG Official Bootleg "HONE"」「BEST HIT AKG Official Bootleg "IMO"」を3作同時リリース。2018年12月にはバンドの音楽的ルーツであるパワーポップを主軸としたオリジナルアルバム「ホームタウン」を発表する。
ストレイテナー
ストレイテナー
1998年にホリエアツシ(Vo, G, Piano)とナカヤマシンペイ(Dr)の2人で結成。2003年のメジャーデビューのタイミングで日向秀和(B)が加入。さらに2008年には元ART-SCHOOLの大山純(G)が加わり、4人編成に。2009年2月には4人編成となってから初めてのフルアルバム「Nexus」を発表し、同年5月にアルバムを携えてのツアーファイナルとして初の日本武道館公演を開催した。ホリエはソロプロジェクト・entとして、日向はNothing's Carved In Stone、EOR、killing Boyのバンドメンバーとしても活動するなど、各メンバーがさまざまなバンドやプロジェクトで活躍している。バンド結成20周年のアニバーサリーイヤーとなる2018年には4月にニューシングル「The Future Is Now / タイムリープ」を、5月にニューアルバム「Future Soundtrack」を発表した。同年10月にはファン投票によって選ばれた楽曲などが収録されるベストアルバム「BEST of U -side DAY-」「BEST of U -side NIGHT-」を同時リリースし、全国23カ所を回る全国ツアー「My Name is Straightener TOUR」をスタートさせた。2019年1月には千葉・幕張イベントホールでワンマンライブ「21st ANNIVERSARY ROCK BAND」を開催する。