ナタリー PowerPush - ASIAN KUNG-FU GENERATION

初のベスト盤「BEST HIT AKG」発売の真意をメンバー&スタッフが語る

「リライト」と俺の関係はすごく複雑

──今回の選曲については、喜多さん、山田さん、伊地知さんの3人が中心になって決めたというふうに伺ったんですけど、それはどういう経緯で?

後藤 僕が選ぶのは無理だなって思ったんです。10何曲には絞れないから、もう3人に決めてもらおうって。

──なるほど。

後藤 俺は2枚組にしたほうがいいって言ってたんですよ。やっぱり作曲者としての気持ちっていうか、全然みんな好きって言わないけどこの曲好きなんだよな、みたいなのもあるから。

──2枚組だったら選べました?

後藤 そう思いますね。でも価格の問題もあるし、現場の人たちの事情もあるし、それをゴリ押ししてまで作るものじゃないですからね。みんなでやらないと意味がないし。だから俺はDVDの「君繋ファイブエム」のスタジオライブのほうにアイデアを出すことにして、選曲はお願いしますってことで。

──作曲者としてのこだわりを優先するのではなく、リスナーが喜んでくれるものを出したいという判断が、後藤さんの中にあったわけですね。

後藤 俺が選ぶのはやっぱり難しいですよね。なんて言ったらいいのかな。「リライト」と俺の関係ってすごく複雑で、自分ではアジカンの中でぶっちぎりにいい曲だとは思ってないのに、でもぶっちぎりに売れた曲は「リライト」だったりするんです。そういう齟齬みたいなものってどのバンドのソングライターも抱えてると思うんだけど、その感情が入ってくるとフェアな選曲じゃなくなってしまうので。

──なるほど。

後藤 だからメンバーに頼んだほうがスムーズにいくだろうって思ったんですよね。

3人が選んだ曲が17曲中16曲同じだった

──では改めて、今回の選曲のコンセプトについて教えてください。

喜多 コンセプトっていうほどのものではないですけど、やっぱり昔アジカンを聴いてたけどどっかで止まっちゃってたり、名前は知ってるけどちゃんと聴いたことないっていう人たちに向けてっていう気持ちは強かったですね。あとそれぞれのアルバムの曲を結構ちゃんと網羅してるんですよ。だからやっぱ歩みというか流れを見てもらって「これがアジカンです」って言えるような1枚にしたいなって。

──シングル曲はたくさん入ってますが、単純なシングルコレクションではないんですよね。

インタビュー風景

山田 ライブでのリアクションがいい曲、思い入れも強い曲っていうのもあって、そこは無視できないですからね。単純なシングルコレクションにしないほうがいいっていうのはみんな直観的にあった気がします。あと、3人が出してきた曲がほとんど同じだったんですよ。

後藤 気持ち悪いでしょ?(笑) 3人が「せーの!」で17曲出して、それぞれ1曲しか違わないっていう。

──そうなんですか?

後藤 山ちゃんだけ「サイレン」を入れてて「或る街の群青」が入ってなかった。

喜多 僕と伊地知は2人ともぴったり同じで。

後藤 3人が17曲中16曲一緒だったなら、もう俺が口挟む余地ないですよ(笑)。

──中山さんはこの選曲を見てどう思いましたか?

中山 印象はね、ファンが作ったベストアルバムっぽいなって。なんていうか、思い入れのない人が作るシングルヒットコレクションみたいなものとは全然違う。ちゃんとバンドの歴史を見て、その本質を理解した人が作った、自分の聴きたいベストっていう感じがすごくする。

後藤 俺もよく選んだなって思いました。雑じゃないんですよね。

──ほぼ年代順なんだけど、そうじゃないところもあったり。

後藤 出した順じゃなくて作ってた時期のこととかもあるしね。

中山 アジカンファンの男の子が、新しくできた彼女に「このバンドすごいぜ」って作ってあげるマイテープみたいな感じだよね(笑)。

「芋盤」「骨盤」のコンセプト

──ところで後藤さんは先日、自分で考えた2枚組ベストアルバムの選曲をブログで公開していましたよね。「芋盤(いもばん)」「骨盤(ほねばん)」というタイトルが付いてましたけど。

後藤 そうなんですよ。なんでこんな夜中に骨の絵とか描いてるのかなって思いながら。

インタビュー風景

喜多 あのジャケット、自作なんだ?

後藤 そうなんだけど、そこを評価してくれる人いないんだよね。自分で絵を描いて、家のスキャナでスキャンして、それをPhotoshopで加工して。昔のWEBデザイナー時代のスキルを生かして、まあ大したスキルじゃないけどね。ちゃんとジャケットの形にしてプレイリストにドロップできるようにって。

──「芋盤」「骨盤」それぞれの選曲はどういう基準で?

後藤 これ初めて語りますけどね(笑)。芋盤のほうは簡単に言うとパワーポップなんですよ。アジカンってサウンドプロダクトの路線が2つくらいに分かれてて、例えば「無限グライダー」とか「ブルートレイン」みたいにポストロックっぽいリズムを使ってる曲もある一方で、「アンダースタンド」みたいな超ド級のパワーポップもある。要は、ウィスコンシン州とかからLAに出てきた田舎者が作りそうな曲ってことで「芋盤」なんだけど(笑)。

──田舎者っぽいから「芋」ということ?

後藤 それが俺の感じだと思うんですよ。茶畑だらけの静岡の田舎町から、東京とか横浜に出てきた奴が作るパワーポップ。で、「骨盤」のほうはずっしりと重い、濃厚なアレンジのアジカンっていう感じですね。

──曲のタイプで分けてるんですね。

後藤 「芋盤」「骨盤」は年代とか流れとかを無視して、そういうものを一回ぶっ壊した新しいストーリーを作りたかったんです。自分の中の歌詞とかサウンドのフィーリングで、もう一回15曲ずつ並べ直すっていうのがテーマだったから。しかもこうやって選べば、いろんなテーマでベストアルバムが作れますからね。

──なるほど。ファンの人はパソコンでこの曲順どおりのプレイリストを作れば、「芋盤」「骨盤」を聴くことができるわけですね。

後藤 そうなんです。あの、僕がこの「芋盤」と「骨盤」の選曲をブログで発表したのには意味があって、やっぱりアルバム全部持ってるファンの子たちにベスト盤を買い直してもらうのは忍びないんですよ。そういうことに対する後ろめたさみたいなものはやっぱりある。アジカンを本当に好きで、ずっと聴いてくれてる子たちから余分な金を巻きあげたいわけじゃないから。ベスト盤を作るんだったら、もう少しファンの子たちのことを考えるべきだと思って、だから「君繋」の再現ライブも、アルバム全部持ってる子に喜んでもらえるものを付けたいっていう話で決めたんですけど。

──今回初回盤のDVDに収録されている「君繋ファイブエム」の全曲再現スタジオライブのことですよね。

後藤 そう「君繋」のスタジオライブを入れた意味は、はっきりとファンサービスです。DVDが付いたら再販制度の問題から外れるから、値引きもされるし。DVD付けると売値が安くなるっていうのも本当はおかしな話ですけどね。

ベストアルバム「BEST HIT AKG」 / 2012年1月18日発売 / Ki/oon Records

  • ベストアルバム「BEST HIT AKG」
  • 初回限定盤 [CD+DVD] 3900円(税込) / KSCL-1915~1916 / Amazon.co.jp
  • 通常盤 [CD] 2800円(税込)/ KSCL-1917 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. 遥か彼方
  2. 未来の破片
  3. アンダースタンド
  4. 君という花
  5. リライト
  6. 君の街まで
  7. ループ&ループ
  8. ブラックアウト
  9. ブルートレイン
  10. 或る街の群青
  11. アフターダーク
  12. 転がる岩、君に朝が降る
  13. ムスタング
  14. 藤沢ルーザー
  15. 新世紀のラブソング
  16. ソラニン
  17. マーチングバンド
DVD収録内容
  • フラッシュバック (Studio Live)
  • 未来の破片 (Studio Live)
  • 電波塔 (Studio Live)
  • アンダースタンド (Studio Live)
  • 夏の日、残像 (Studio Live)
  • 無限グライダー (Studio Live)
  • その訳を (Studio Live)
  • N.G.S (Studio Live)
  • 自閉探索 (Studio Live)
  • E (Studio Live)
  • 君という花 (Studio Live)
  • ノーネーム (Studio Live)
ライブ情報
2012年2月19日(日)
千葉県 幕張メッセ イベントホール
OPEN 15:00 / START 16:00
2012年2月22日(水)
東京都 日本武道館
OPEN 18:00 / START 19:00
2012年2月23日(木)
東京都 日本武道館
OPEN 18:00 / START 19:00
2012年2月26日(日)
大阪府 大阪城ホール
OPEN 17:00 / START 18:00
ASIAN KUNG-FU GENERATION(あじあんかんふーじぇねれーしょん)

1996年に同じ大学に在籍していた後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)の4人で結成。渋谷・下北沢を中心にライブ活動を展開し、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を伸ばす。2002年にはミニアルバム「崩壊アンプリファー」をリリース。同年「FUJI ROCK FESTIVAL '02」や「SUMMER SONIC 2002」などの夏フェスに出演し、メジャー1stアルバム「君繋ファイブエム」を発表。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコンウィークリーチャート初登場1位を獲得し、初の日本武道館ワンマンライブを行った。2009年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼んだ。2003年からは自主企画によるフェスティバル「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招き、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2012年1月、初のベストアルバム「BEST HIT AKG」をリリース。


2012年1月20日更新