「マジックディスク」がひとつの区切りになった

──メンバーの皆さんはベスト盤のリリースについて聞かされてどう感じましたか？

喜多建介（G, Vo）　本当はもっと早い時期に言われると思ってたんですよ。だからレコード会社はかなり待ってくれたなあと思いました。1stか2nd出して、そこそこブレイクみたいになったあたりで、すぐ言われてもおかしくなかったんじゃないかって。

後藤　えー、おかしいよ！ そんな時期に言われてたら怒ったほうがいいよ、絶対。

──そうですね（笑）。

後藤　確かに世の中にはおかしなベスト盤もありますよ。例えばアルバム2枚しか出てないのに契約の都合でレコード会社が勝手にベスト盤を出したりとか。そういう、愛のない行為をレコード業界が積み重ねてきたから、こんなに印象が悪くなっちゃったんだと思うんです。

喜多　その点、キューンは「売れてるうちに出せるもん出しとけ」みたいな感じのレコード会社じゃないんで。だから今回の話が来たときは、素直に出そうって思えましたね。

山田貴洋（B, Vo）　僕もベスト盤に対しては全く抵抗はないです。ただ、3rdアルバムのあとに「フィードバックファイル」を出してるんで、なんだか1回出した気分にはなってたかも（笑）。

伊地知潔（Dr）　僕も今回出すことは賛成でしたけど、なんか日本ってベストアルバム出すぎですよね、海外に比べて。そのせいか、日本のアーティストのベストアルバムで自分が欲しいものが最近あんまりなくて。だから「マジックディスク」を作る前だったら、出したくないって言ってたと思います。

──やっぱり「マジックディスク」を作ったことがバンドにとっては大きかった？

後藤　そうですね。「マジックディスク」の次に何をやろうかって考えるには時間も必要だし、やっぱりここがひとつの区切りだったと思いますね。

中山　まあ、音楽業界の常識に合わせるなら、もうちょっと早く出してもよかったんだけど。でもそれ以前にアジカンには作るべきテーマがあったし、進化してたし、やりたいこともあった。ならそっちをやるのが先決だろうって思ってた。ずっと現在進行形でやってきたから、ベスト盤を出す暇がなかったっていうのもあるし。

後藤　自分たちが歩みを進めてる最中で、ベストもクソもないですからね。今もそうといえばそうなんですけど。

今がアジカンを世の中に再プレゼンするタイミング

──中山さんはベストアルバムというアイテム自体については、どう捉えてるんですか？ ポジティブな意味合いのものなんでしょうか？

中山　ポジティブな意味合いじゃないと、出しちゃいけない感じはするよね。

──でもそうじゃないベストもありますよね。契約が切れてアーティストが移籍するタイミングでレコード会社が勝手に出したようなものとか。

中山　まあ、言いにくいけどね（笑）。うん。

──キューンレコードは、そういうものはやらない？

中山　やりたくないですねえ。同じ時期にチャットモンチーのベストアルバムも出るんだけど、あれはメンバーが抜けて、再スタートの手前で出すベストだから。

──やっぱり意味が必要っていうことですよね。

中山　うん、今回のアジカンの場合は、今が世の中に再プレゼンするタイミングだろう、っていうことで。

後藤　ですよね。俺自身、自分たちの音楽をもっと世の中にぶつけてみたいって思ってるところはあるんです。アジカンはロックフェスみたいな場所ではある程度売れてるバンドとして扱ってもらえますけど、街中にいても誰にも気付かれないですからね。結局そういうことなんです。世の中の関心事ではなくなってきちゃってる。

──ロック音楽全般の訴求力が落ちているということですか？

後藤　そう思いますね。そのへんの事情については簡単にまとめられないけど、俺は音楽が好きな人をもう少し増やしたいです。今はやっぱり二極化してる。音楽がすっごい好きな人と、全く興味ない人に分かれてる。

──じゃあこのベストアルバムが、音楽好きが増えるきっかけになればいいですね。

後藤　まあ、長いスパンで見ればそうなると思います。このベスト盤で自分たちの活動に触れた人が、そのあとほかのバンドに広がっていってもいいし。あと、昔アジカンを聴いててどっかで止まってる人もいますよね。「ループ＆ループ」までしか聴いてないとか。そういう人たちがもう1回興味を持ってくれたらうれしいっていう気持ちもありますね。