音楽ナタリー Power Push - アカシック
夜型バンドが朝型に ポップス作りの秘訣は“健やかさ”
そんなに夜遅くまで外にいて何かいいことあんの?
──このアルバムのレコーディングはどんな雰囲気でしたか?
奥脇 今までの作品はすごくデモを作りこんでたんだけど、今回はメンバー同士の会話とか些細なことがどんどんどんどん形になって曲が完成した、ってパターンが多かったと思う。
山田 ホントにそうだよね。今回はデモの感じからして違った。特にドラムは根を詰めてすごく細かく作り込んでくるんですけど、今回はそこまで作りこんでない状態のデモを渡されて。あとはもうスタジオで話しながら「適当に加えといて」みたいな感じ。いい意味で適当だったんだよ。
理姫 私は「8ミリフィルム」と「サンデイバージンディアボーイ」の2曲を1日で録って、自分的に満足できたのでそこでけっこう燃え尽きてたんですよね。なのでほかの曲は、一生懸命歌ってはいますけど、プレッシャーみたいなのはなくて肩の力を超抜いて歌ってます。いい意味であきらめてたというか。だから自分が歌い終わったらブースにいるエンジニアの人に「今のがいいか悪いかはみんなで決めてくださいねー」って。
奥脇 で、そのあとすぐ犬のもとに帰っていくんだよね。「まだ赤ちゃんだからいろいろ世話しなきゃいけないことがある」とか言って(笑)。
理姫 そう! レコーディング中に犬を飼い始めたんです! なので生活が大変で。凛って名前なんですよ。アルバムのタイトルが「凛々フルーツ」なのにちなんで。
奥脇 もちろんレコーディングには来てちゃんと一生懸命やるんですけど、自分の分が終わったら「私は犬の世話が忙しいからあとは任せた」って言っていなくなる(笑)。
山田 凛の存在も大きかったかもね。みんなが平穏で健やかな気持ちになれたのは。
理姫 前まではもっと切羽詰まった気分で作ってた気がするよね。
──僕が今日インタビューの最初に言った「これまでのアカシックとは違う印象」というのは、もしかしたらその健やかさが影響しているのかもしれないですね。今までのアカシックはどちらかというと「夜っぽい」イメージのバンドだったけど、このアルバムはすごくうららかな印象があるというか……。
Hachi そう! それそれ!
理姫 ホントに皆さんにそう感じてもらいたいです。実際、最近あんまり「夜って最高じゃん?」とは思ってないんですよね。昔は「ずっと酒飲んで遊んでたい。このままずっと夜でいい」とか言ってたんだけど、今は「そんなに夜遅くまで外にいて何かいいことあるのかな?」って思っちゃうくらいなんですよ。
山田 そうそうホントに(笑)。
理姫 今は、朝早く起きて、カーテンを開けて、水飲んで。
奥脇 まずはコップ2杯の水を飲んで胃を起こして。
山田 そのあと公園に散歩に行くという。
黒川 最近はメンバーみんな「朝は起きよう」って感じなんです。
奥脇 夜遅くまで遊んでるのはよくないですね。酔うといろんなものを失くすんですよ。こないだiPhone失くしたし。
理姫 あと思い出もね(笑)。
奥脇 そういう気持ちで作ってたんで、皆さんにもこのアルバムは、日曜日の朝に料理を作ったりしながら聴いてほしいです(笑)。
さっきの私の発言ナシにしてもらっていいですか?
──5月からは5都市を回る「日本凛々ツアー」が始まりますよね。これまで多くのライブを重ねてきて、ライブの力が付いている実感は皆さんの中にありますか?
奥脇 ありますあります。理姫ちゃんも前より声が出るようになって歌の表現が豊かになってるし。康二郎とHachiが入ってきたおかげで演奏力が全体的に底上げされたから、昔みたいにがっちり集中して練習しなくてもよくなってる。
黒川 前まで「ちゃんと演奏しよう」ってことばかり気にしてライブしてたけど、最近は自分の役割以外にもアンサンブルを気にするようになったなと。バンドの楽しみ方が変わってきたと思います。
奥脇 あと実は、康二郎のドラムが一番進化してる。彼はものすごい責任感の塊で、「俺がやってこないともうアカシックは終わる」みたいな感じなんで、すごい練習してるんですよ。
Hachi うん、メンバー全員こじ村さんみたいな人だったら、みんなストレスでハゲてるよ(笑)。
山田 俺ばっかだったらすげーつまんねーライブになると思うよ。
理姫 もし全員Hachiだったら誰もスタジオに来ないよね(笑)。
山田 ライブ中もみんな自由に弾きまくって収集つかないだろうね(笑)。
奥脇 今の5人はそれぞれキャラが被ってないのがいいですね。「もう1人同じタイプの人がいたら大変」っていう絶妙なバランス。だからお互いにストレスを与えないし、楽しく健やかでいられるんだと思う。
──それではインタビューの締めとして、ツアーに向けての意気込みを聞かせてください。
山田 基本的に僕は自宅の布団が好きなので、ホームシックにならないように健やかにがんばろうと思います(笑)。
Hachi 全国のおいしいものを全部食べたいと思いまーす。
理姫 このメンバーでツアーに行くのは遠足みたいで楽しみですけど、実際に行って何をするかっていったらライブじゃないですか。そのライブをするってことを、私はまだ100%楽しみって言えないんですよ。「ホントにお客さんいるのかな?」とかいろいろ考えちゃって、どっちかというと不安しかない。今までいいライブができたときも、あくまでイベント自体がすごくよくて私たちはその雰囲気に助けてもらってただけだったりして、心の底から「今日はいいライブができた」って思えたことがまだあまりない。なのでそろそろ、去年の東京でのワンマン(2015年7月12日の東京・渋谷CLUB QUATTRO公演)と同じくらい達成感があるライブをコンスタントにできるようにならないとマズいんです。「100%楽しみ」って言い切れる状態でツアーに行ける状態を、そろそろ作んないといけないと思う。だからホントにみんなに会場に見に来てほしい。何よりいいライブはお客さんがいないと成立しないんで。そのあとで、おいしいものを本気で「おいしいね」って言えるようになりたい。
Hachi うわ、理姫めっちゃ偉い! さっきの私の発言ナシにしてもらっていいですか?(笑)
山田 ははは(笑)。
──奥脇さんはどうですか?
奥脇 遠征って大変だから意味のあるものにしたいですね。機材車に乗って往復するのはすごく疲れるのに、ライブに手応えがないと精神的にもすり減るし。昔、別のバンドをやってたときに「武者修行ツアー」みたいな感じで自費で全国を回ったりしたことがあるんです。そのときにお客さん0人とかも経験して。でもそのときは、ツアーをすることで“バンドっぽい活動してる自分”に酔ってただけだったと思う。アカシックではそうならないように、もっとツアーに手応えを感じたいし、1つひとつのライブを意味のあるものにしていきたい。
Hachi えー! もうー! どうしよう私。……ちょっとここに「Hachi 右に同じ」って書いてもらっていいですかね?(笑)
──それでは最後に黒川さん。
黒川 いろんなところでライブをするようになって、Twitterとかでフォロワーから「やっと地元に来てくれるんですね、超楽しみにしてます」って言ってもらうことが増えたんですよ。すごくうれしいんですけど、そういう人たちが観に来てくれるっていうのを念頭に置いて、その人たちに期待以上の満足を与えられるようにがんばらないといけないと思う。
奥脇 東京に来れない人にとっては、1年に1回くらいしか観れないライブだもんね。
黒川 そう、そこにすごく意味があると思ってて。ツアー先でいつもとは違うお客さんが顔を輝かせて楽しんでくれてるのを見ると、こういう人をどんどん増やしたいって気持ちになります。そして行ける場所をもっと増やして、いろんなところの人たちと一緒に楽しみたい。今回のツアーもそんな気持ちで臨みたいと思ってます。
Hachi あっ、私もすごくそう思ってます!
山田 今めっちゃ食い気味に言ったね(笑)。いいんだよ、ウチらはウチらで。
Hachi だよね。Hachiがあんまり真面目なこと言ったらゴーストライターかと思われちゃうかもしんないし。ちょっと1人だけバカが混じってるぐらいでちょうどいいかな。
山田 2人ね。俺も入れて(笑)。
──ははは(笑)。もし、お2人が言い残したことがあればまだ聞きますよ?
山田 バンド楽しいです(笑)。
Hachi 生きててよかったです(笑)。
収録曲
- 結婚
- 8ミリフィルム
- サンデイバージンディアボーイ
- 今日から夜は家にいるよ
- ヨコハマカモメ
- 飴と日傘
- ギャングスタ
- うたかたの日々
- ロリータ
- 華金
- 馬鹿なハスキーエイジ
- 恋は媚薬だなんて冷めるわ
- 夢遊
- アカシック「日本凛々ツアー」
- 2016年5月6日(金)神奈川県 club Lizard YOKOHAMA
- 2016年5月21日(土)愛知県 ell.FITS ALL
- 2016年5月22日(日)大阪府 阿倍野ロックタウン
- 2016年6月11日(土)福岡県 graf
- 2016年6月25日(土)東京都 東京キネマ倶楽部
※神奈川、愛知、大阪、福岡の4公演はゲストアーティストあり。
アカシック
理姫(Vo)、奥脇達也(G)、バンビ(B)、Hachi(Key)、山田康二郎(Dr)からなる5人組バンド。2011年に結成。耳について離れないキャッチーなメロディと横浜の繁華街で生まれ育った理姫の独特なキャラクターが全面に出た楽曲が特徴。2014年3月に初の全国流通盤ミニアルバム「コンサバティブ」をリリースし、東京・タワーレコード渋谷店の週間インディーズチャートにて1位になる。2015年6月にunBORDEよりメジャーデビューミニアルバム「DANGEROUS くノ一」をリリースし、2016年3月に初のフルアルバム「凛々フルーツ」を発表した。