“想像の世界”へ

サウンド面に関して言うと、「Feel」「Sun Kiss」、通常盤のボーナストラック「Mrs. Right」などバンド編成で聴いてみたい楽曲が多いのも本作の特徴の1つだ。

生音もありますが、ほぼ打ち込みだったと思います。とにかく、いろいろ試行錯誤して作ったので、あまり覚えてないかも（笑）。

かつて赤西は「ゆくゆくは生バンドと一緒にやってみたい」と話していたこともあるので、ライブでのアレンジが楽しみである。独特な艶感を持った歌声は、「One Addiction」のようなアップリフティングな楽曲のときにはフックになり、「Yesterday」のようなメロディアスな楽曲のときには雰囲気を盛り上げる。彼は「Blessèd」収録曲の歌詞について「今回は想像の世界が多いかもしれないです」と語っており、その言葉の通り本作での彼のボーカルは“ここではない、どこか”を強く感じさせるものが多い。そしてそれは赤西がコンサートで表現しているイメージや世界観にも通じるものだ。

最近は曲に合わせて声質を意図的に変えたりしていて、それがハマったときは気持ちいいですね。もっと練習してうまくならなければと常に思います。

歌詞はすべて英詞。2015年6月にアルバム「Me」をリリースした際に赤西は「基本的に英語で歌詞は書くんですが、とにかくリズムや譜面割りを大切にしています。この書き方を極めていけば、それが自分の個性になっていくと思う」と語っていたが、本作ではその成果がしっかりと形になって表れている。彼のボーカルが曲を構成する“楽器”の1つになっているのだ。ボーカリストとして、ソングライターとして、プロデューサーとして、自分の歌唱をいろいろな視点から捉えられるのも赤西の強みだと言える。

自分のための音楽

さまざまな顔を持つ赤西だが、もう1つ忘れてはいけない大事なことがある。独立後に立ち上げたレーベル、Go Good Recordsのボスでもあるのだ。今回のユニバーサルミュージックとの業務提携は、アーティスト個人としてではなく、あくまでもレーベルGo Good Records単位でのビジネス主体の契約である。アーティスト単位の視点だけではなく多様な視点を持つことで自分の音楽レベルを上げ、日本だけでなく海外に音楽を発信していく。そのためのプロジェクトなのだという。アルバム「Audio Fashion」リリース時のインタビューで赤西は「音楽業界のビジネスのあり方が大きく変わってきている状況の中で、自分が好きなサウンドを自由に表現して、なるべく多くの人とシェアしていきたい」と語っていたが、この業務提携はそのためのステップの1つでもあるのだ。もちろん、赤西がこれまでGo Good Recordsを運営してきた中で得た経験もかけがえのないものとして彼の中に蓄積されている。

若い頃から雇っていただくほうの立場だったので、会社の仕組みだったり、今まで見えなかった部分が見えるようになったことは勉強になりました。ただ独立してよかったと感じるのは、それこそお金のことも含めて、ゼロから作品作りに関わることができるところです。可能な限り自分たちだけでできますし、自分が作ろうとしているところにきちんとお金をかけられる。たまに（お金を）かけすぎて怒られますが（笑）。

これまでは自分自身を含め、とにかく楽しむことを実践してきた赤西。誰かのための音楽ではなく、自分のための音楽を大事にしてきた彼の姿勢は一貫している。最近は忙しすぎてあまり遊びに行けていないというクラブの現場の雰囲気や日々チェックしている海外の音楽、映画、ドラマなどを通して、彼は世界中の人が楽しめるポップミュージックを表現するために何が必要なのかを感覚的にわかっているのだろう。

ファンは仲間

世界を目指す一方、昔から変わらないものもある。今作「Blessèd」のタイトルには、“楽しく音楽をできる喜びと感謝の気持ち”という意味が込められている。赤西に「喜びを分かち合いたい人、感謝したい人は？」と聞くと「ファンの皆さん」だと言う。自分のための音楽ではあるが、プロとして誰かのための音楽になるように全力を尽くすのが、彼の流儀なのだ。

ファンの方の声は大事です。ライブ会場で直接コミュニケーションを取ることも多いですが、厳しいことや文句を言われたりしたときは真摯に受け止めます。ただあまりにショッキングなことを言われたら、反論します。

彼のやりたいことをサポートしてきたファンとの関係性は、独立をきっかけに一層深まった。今後、活動の幅が広がっていっても、その絆は変わることはないだろう。お互いに言いたいことは言う。一緒に音楽を作る仲間もいれば、クラブに行って遊ぶ仲間もいるし、普段そんなに会わないがときどきご飯を食べながら深い話をするような仲間もいる。赤西にとって、ファンとはそういう存在と同列なのだ。

確かに仲間ですね。僕らはみんな一緒に成長していってるんです。