音楽ナタリー PowerPush - 津野米咲(赤い公園)×蔦谷好位置

爆発した才能

“sus4”とか言ってみたい

蔦谷 しかしアルバムを通して、米咲のメロディメーカー、作詞家、ミュージシャンとしてのセンスがすごい。ほかのメンバーもすごく演奏が上達しているし、ボーカルの表現力もすごく伸びているし。

津野 ちーちゃん(佐藤千明 / Vo)「ドライフラワー」の歌もすごくよかった。終わったあとは「あー、やべ、暗っ」とかって言いながらカラッとしていましたけど(笑)。でもさっき蔦谷さんが、私が音楽的なルールや理論を勉強しても、センスが失われないだろうって言ってましたけど、本当に「ドライフラワー」のレコーディングを機に勉強しようかなって思ったんです。で、今回初めてC、C7、Cm7、D、D7、Dm7とかコードを覚えました。

蔦谷 ……ウソだ!

津野 いや本当、本当にわからなかったの!

蔦谷 信じられないコードいっぱい使ってるじゃん!

津野 本当に自分の使っているコードが何っていう名前なのかわからなくて。

蔦谷 ああ、コードネームがわからないってことね。でもそんなの別にわかんなくてもいいよ。コードを知らなくても美しい曲を書く人っていっぱいいるし。

津野 この間外仕事でコード譜を書かなきゃいけないってことになったんですけど、もうわっかんないんですよ。ベースの音しかわからない。しかもベースの音もベース音じゃないから。

蔦谷好位置

蔦谷 まあ僕は一応仕事なんで参考までに言いますけど、きれいなコード譜とか譜面を書けるようになると、ミュージシャンの演奏が上がるんですよ。やっぱり読みやすい譜面だとやる気を出してくれる。適当な譜面を書くと、意地悪な演奏をする人も出てくるんですよね。だから僕はちゃんとした譜面を書こうとしています。

津野 だから本を開いて。やっぱり分数コードでした。自分の中でできる精一杯がそれです。

蔦谷 でもしなくてもいいよ、勉強なんて。

津野 でもしたいんですよ。勉強するの好きだから。

蔦谷 まあ、自分に必要なところだけ取り込んでいくのはいいかもね。

津野 やっぱり“sus4”とか言ってみたい。「そこ、“sus4”だよ」みたいな(笑)。

蔦谷 でも米咲がCsus4って言っても、頭の中で鳴っているのはC分のFだと思うな。

津野 そうなの?

YUKI「長い夢」のアレンジ

津野 あと、今日ひとつ聞きたいことがあって。私、初めて蔦谷さんと飲みに行ったときに、蔦谷さんが作曲・編曲したYUKIさんの「長い夢」が好きだって話をしたと思うんですけど。

蔦谷 ああ、三軒茶屋でね。

津野 はい。あの曲って、曲先ですか?

蔦谷 そう。詞はあと。

津野 Aメロとか特に、歌詞に合わせてリズムの感じが変わっていきますよね。歌詞がすごく詰まってて、その歌詞がリズムと合っているじゃないですか。それは歌詞に合わせているんですか?

蔦谷 いや、曲が先。それにYUKIさんが歌詞を合わせて書いていて。でもYUKIさんが歌いやすいように、ちょっと譜割を変えたりはしていると思う。「チクチクタクタク」のところとか、ちょっとフェイクっぽくなっているけど。

津野 私は自分で歌詞を書くから、最初から最後まで一切譜割を動かすことがないんです。で、譜割が変えられるのが怖いと思って。そういうのって気にします?

蔦谷 若い頃はすごく気にしていたね。ボーカリストに歌ってもらうにしても、「自分が作ったものが絶対完璧だから、絶対変えられたくない」って。でも、初めてプロとしてちゃんとできたって思ったのがYUKIさんの曲だったんだけど、そのときYUKIさんだったり、ウチの会社(agehasprings)の社長の玉井(健二)だったりにいろんなことを教えてもらって、意外とほかの人の意見を取り入れると、「あ、こんなに素敵になるんだ!」って。それがわかったのが27、8歳くらいで。目から鱗だったというか。そっから人にいろいろ委ねることもできるようになって。でもそっからまたね、「やっぱり委ねるのは違う、自分でやらなきゃ」ってなって自分でまたやり出したりしたけど(笑)。

津野米咲

津野 それが「NOW ON AIR」にも同じことを感じて。メロディの譜割とかはデモの段階から全然変わっていないんですけど、例えばデモからギターはすごく変わったじゃないですか? 私が弾けなくて。でも「みんなで回してる」って感じで自分たちが演奏しているのがわかる。私はこのアレンジ、群を抜いて好きなんです。それはなんでだろうって考えたんですけど、蔦谷さんのアレンジが芯になっているんだなって。私、ずっと楽曲の芯って歌詞とメロディで、アレンジはその周りにあるものだと思っていたんです。でも自分たちがアレンジしたものを蔦谷さんに渡して、蔦谷さんがアレンジして、それをまた自分たちができるように変えていってって作業をしているうちに、蔦谷さんのアレンジこそが芯になっているんだなってわかりました。演奏によって楽曲が乱れないっていうか。

蔦谷 すごくうれしいです。俺としても、常にそういうアレンジをしたいなあって思ってやっていますからね。でもやっぱり曲がいいからですよ。日本って、海外に比べると編曲家や音楽プロデューサーの評価はどうしても低くて。でも、例えば映画って監督のもので、俳優のものじゃないじゃないですか? これも言い方が難しいんですけど、俺は編曲でこんなに素敵になるんだってことを知っているから、それをもっとみんなにわかってほしいと思ってやっているんです。だから米咲にそう言ってもらえるとうれしいな。あと、アレンジャーたちが食っていけるようにアレンジャーの地位を向上させたいって思っているところもあって。それでいろいろ大きな仕事をしていると、赤い公園みたいな素敵なアーティストと仕事ができる。俺は今、一流の人としか仕事をしていないです。だから俺がやっているのは、誰がプロデュースしても名曲っていうか、そういう曲ばかりなんです。もちろん過去には「この演歌のような曲をR&Bにしてくれって言われても、無理だぞ、これは!」とかつらい時期もありましたけど(笑)。

赤い公園 ニューアルバム「猛烈リトミック」/ 2014年9月24日発売 / Virgin Records
初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / TYCT-69023
通常盤 [CD] 3024円 / TYCT-60045
収録曲
  1. NOW ON AIR
  2. 絶対的な関係
  3. 108
  4. いちご
  5. 誰かが言ってた
  6. ドライフラワー
  7. TOKYO HARBOR
  8. ひつじ屋さん
  9. サイダー
  10. 楽しい
  11. 牢屋
  12. お留守番
  13. 風が知ってる
初回限定盤DVD 収録内容
  • ひつじ屋さん(Music Video)
  • NOW ON AIR(Music Video)
  • オフショット・ドキュメンタリー「情熱公園」
赤い公園 「マンマンツアー 2014 ~お風呂にする?ご飯にする?それとも、リトミックにする?~」
2014年10月24日(金)
福岡県 DRUM Be-1
2014年10月31日(金)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
2014年11月3日(月・祝)
大阪府 大阪 umeda AKASO
2014年11月23日(日)
東京都 EX THEATER ROPPONGI
  • 赤い公園(アカイコウエン)
    赤い公園

    佐藤千明(Vo)、津野米咲(G)、藤本ひかり(B)、歌川菜穂(Dr)からなる4人組。高校の軽音楽部の先輩後輩として出会い、2010年1月に結成される。さまざまなジャンルの音楽を内包したサウンドと、予測不能かつアグレッシブなライブパフォーマンスが魅力。東京・立川BABELを拠点に活動をスタートさせ、自主制作盤「はじめまして」「ブレーメンとあるく」を経て、ミニアルバム「透明なのか黒なのか」でメジャーデビューする。しかし津野の体調不良を受け、2012年10月より半年間活動を休止。2013年3月に活動再開を発表したのち、5月に東名阪で復活ツアーを開催し、8月に1stフルアルバム「公園デビュー」をリリースした。2014年2月にシングル「風が知ってる / ひつじ屋さん」、3月にシングル「絶対的な関係 / きっかけ / 遠く遠く」を発表。なお津野はソングライターとしても高く評価されており、SMAP「Joy!!」の作詞および作曲、南波志帆「ばらばらバトル」の作詞および編曲を手がけるなど活動の幅を広げている。2014年9月に亀田誠治、蔦谷好位置、嶋津央、蓮沼執太といった豪華プロデューサー陣を招いてメジャー2ndアルバム「猛烈リトミック」をリリース。アルバム収録曲「TOKYO HARBOR」でKREVAをフィーチャーしたことでも話題を集めている。

  • 蔦谷好位置(ツタヤコウイチ)

    クリエイター集団agehasprings所属の音楽プロデューサー。ロックバンドCANNABISのキーボーディストとしてメジャーデビューする。バンド解散後に音楽プロデューサーとしての活動を本格化させると、現在までにYUKI、Chara、いきものがかり、木村カエラ、エレファントカシマシ、チームしゃちほこなどの楽曲を手掛ける。作詞・作曲・編曲から演奏までをこなすプロデューサーとして、ロックバンドからアイドルまで幅広くプロデュースしている。Superfly「Box Emotions」やゆず「LAND」では「日本レコード大賞」の優秀アルバム賞を受賞した。また演奏力にも定評があり、NATSUMENやEntity of Rudeなどのキーボードプレイヤーとして活躍したほか、現在は仲井戸麗市(G)、中村達也(Dr)、KenKen(B)とともにthe dayのメンバーとしても活躍。さらに10月にスタートするJ-WAVEの新番組「THE HANGOUT」では木曜ナビゲーターに抜擢されるなど、その活動は多岐に渡る。