弦一徹が「センスがうらやましいよ」って

蔦谷　短2度とか短9度とか、そういうルールがいろいろあるんだよね。どうでもいいんだけど、知らないのはマズいっていうのあるじゃないですか。それはそれとして、米咲って理系？

津野　数学は好きですね。

蔦谷　そうなんだ。米咲の頭の中で鳴っている音って、分数コードなことが多いんだよね。「ド・ファ・ラ」とかじゃなくて、「C分のF7なんとか……」とか。

津野　そうかもしれない。

蔦谷　だから「ドライフラワー」は耳コピするの大変だと思うなあ。俺、これ譜面じゃなくてオーディオデータをもらったでしょ？ それで弦のアレンジをするときに「どっちともとれるな」「どっちの音もいけるな」とか悩んで。その後スタジオで米咲が「やっぱり私の中ではこっちの音が鳴ってる」って言ったのがもう……美しくて。「最後のサビだけこっちいきたい」とかもう……ニクいよなあ（笑）。

津野　そういえば私、ストリングスの譜面を見たことがなかったから今回のレコーディングでワクワクしちゃって。「弦の楽譜を見たことがないんですけど…どうやって書くんですか！」って（笑）。

蔦谷　すぐ書けるようになるよ。今回のストリングスの楽譜は俺が書いて、その場で弦一徹ストリングスの落合徹也さんに「グリスのタイミングはこうしよう」とかいろいろ相談して作っていったんですけど。

津野　グリスのところ、すごくよかった。

蔦谷　ストリングスの録り、すぐ終わったよね。落合さんが大絶賛。あの人、普段2時間だったら2時間きっちり細かいところまで直すの。でも今回は1時間くらいで終わっちゃって。「これはこのままのほうがいい。直さないほうがいいから。じゃあお疲れ」って。「センスがうらやましいよ」って言ってた。

津野　うれしいなあ。落合さん、すごくおいしいラーメンを作ってくれそうな人でした。

蔦谷　ああ、腕を振り下ろして麺の湯切りをしそうな感じ（笑）。

津野　お湯を「バチン！」って切りそうな（笑）。

果たしてそれがいい音楽なのかな？

津野　ストリングスって難しいところだと思うんですけど、ロックバンドが「俺らこの曲でそろそろ上いくぞ」って感じで入れるタイプの弦、あるじゃないですか？

蔦谷　「シャンパン入れようぜ」って感じで入っているストリングスね。

津野　そうそう。しかも“量産型のシャンパン”っていうか。そういうのって弦のサウンドも曲も悪くないのに、最終的に“スーパーで流れている系”になるというか。ある意味それもJ-POP的ではあるんだけど、果たしてそれがいい音楽なのかな？って思うこともあるんです。でも「ドライフラワー」の弦はそういう弦じゃない。轟音で入っているけど、単体で聴いていてもただの弦じゃない。

蔦谷　それは曲が呼んだんじゃないかなあ。落合さんも魂を入れてくれたと思うよ。あの集中力。……っていうかさ、あの人のほうが俺より恐ろしいでしょ？ 現場、もう軍隊みたいな感じだもん（笑）。普通弦のレコーディングのときって、ストリングスの人たちがそれぞれ最初に調律とか練習とかするんですよ。みんな。でも落合さんが入ってくると全員練習を止めて、落合さんの指示でバーッと弾き出すんです（笑）。すると落合さんは「チェロのさ、2小節目の3裏がちょっとデカいからさ、ちっちゃくして。はい」みたいな（笑）。

津野　だから緊張しましたよ（笑）。もうどの現場よりも緊張して。でも自分の思っていることも伝えなきゃいけないし……。（怯えた様子で）「あのー……最後のほうは適当に切ってもらってもいいですか？」って（笑）。むっちゃ緊張した。で、「ドライフラワー」は弦のあとにピアノを録ったんです。

蔦谷　あれはすごかったねえ。結局1テイクでしょ？ すごく緊張してたみたいだけど。

津野　集中してましたね。あのピアノ録りの部屋で、メンバーもみんな帰って、もう大人しか残ってなくて。息ができないくらい集中してました。

蔦谷　でも通しでツルッと弾いて、それで一発だったもんね。「念のためもう1テイク」みたいなのもいらないと思ったもん。とにかくいい意味ですごく緊張しているんですよ。緊張からくる不安そうなタッチがこの曲にとても合ってた。一方で豪快にガーッと弾くところもあって、“人間が揺れている”って感じが出ていました。

津野　楽しかったな。最後は「わー、終わった！ 暗い曲終わった！」って感じで。そのあと蔦谷さんとイタリアの話をしましたよね。

蔦谷　うん。俺もあのレコーディング本当に楽しかったし、「この子本当に才能があるな」って思って。それで「なんでこんな曲作れるのかな？」って気になって、米咲と2人でピアノの部屋行って、「この曲知ってる？」とかお互い弾き合って。で、米咲は……。

津野　お父さんの曲。

蔦谷　そうそう、お父さんの曲。すっごいきれいな曲を聴かせてくれました。僕はエンニオ・モリコーネの曲を弾いて、「たぶんこういう和声好きだよ」とか話して。

津野　好きだ！でも結局はイタリアが好きだ！ってことになった（笑）。