音楽ナタリー PowerPush - 津野米咲(赤い公園)×蔦谷好位置

爆発した才能

赤い公園のニューアルバム「猛烈リトミック」がリリースされた。

彼女たちにとってメジャーで2枚目のフルアルバムとなる本作は、「絶対的な関係」「風が知ってる」といったシングル曲を手がけた亀田誠治のほか、蔦谷好位置や嶋津央、蓮沼執太がプロデューサーとして参加。また「TOKYO HARBOR」ではKREVAがフィーチャーリングゲストとしてラップを披露するなど、津野米咲(G)が作った楽曲をさまざまなアーティストたちが彩っている。

今回ナタリーでは「猛烈リトミック」の完成を記念して、すべての楽曲を作曲した津野と、「NOW ON AIR」「108」「ドライフラワー」をプロデュースした蔦谷の対談を実施。2人にアルバムの制作について振り返ってもらった。

取材・文 / 加藤一陽 撮影 / 小原啓樹

Coldcutみたいな曲

左から津野米咲、蔦谷好位置。

蔦谷好位置 今回のアルバム、とにかく米咲の才能が爆発しているよね。タイトル通り猛烈だった。そういえばこういう漢字2文字とカタカナの組み合わせのタイトルってけっこうあるよね? 椎名林檎さんとかもそうだけど。

津野米咲 私たち去年「公園デビュー」っていうアルバムを出したんですけど、今回のアルバムタイトルも漢字2文字とカタカナの組み合わせでっていうのがディレクターからの唯一のオーダーで。それを考えるのが難しかった。

蔦谷 でも「猛烈リトミック」はキャッチーなタイトルだよ。そして名前の通りだった。例えば、あのめちゃくちゃ波形編集されているやつあるじゃん? 米咲プロデュースの……そうだ、「ひつじ屋さん」だ。

津野 あー、あのめちゃくちゃ波形編集しているところ、実は私の中では楽譜になっているんですよ。リズム譜だけ書いていて、それをもとに各メンバーに「こういう音ちょうだい」って言って録っていったんです。で、そのあとエンジニアさんと一緒に「この音はベースにしよう」とか話しながら波形編集して作ったフレーズ。

蔦谷 なるほど、じゃあ実際に波形をチョップしたりっていうのはエンジニアさんと一緒にやったんだ。「ここを切ってここを貼って」って指示して。

津野 そうそう。「違います! そこは4分の1拍あとで……」みたいな作業を繰り返して。

蔦谷 あのスネアが「ダダダダダ」って連打するようなところがすごいと思った。あそこもエンジニアさんに指示して?

津野米咲

津野 はい。デモの段階でわりとそういう感じにはなっていたんですけど。ああいう曲を作ったのも、今年に入ってから自分たちのモードが猛烈で。「猛烈にやろう!」っていう気持ちがああいったところに出ていると思います。

蔦谷 世代的に知らないかもしれないけど、Coldcutっていう人たちの「More Beats and Pieces」っていう曲っぽかったよ。その曲も波形編集しまくりなんだけど。

津野 そうなんですね。ああいう感じもすごく好きだから本当は全部でやりたいくらいなんだけど、やり過ぎるとライブで困っちゃうから。

蔦谷 再現できなくなっちゃうからね。

蔦谷さんの笑顔が消えた

津野 今回プロデュースをお願いするにあたって、生意気かもしれないけど、「NOW ON AIR」のデモを渡すときに一応私たちなりにアレンジまでやった音源を渡したんです。

左から津野米咲、蔦谷好位置。

蔦谷 うん。

津野 そうしないとカッコつかないなって思って。あとでどんなにアレンジが変えられてもいいから、私たちができる範囲で一番だって思える形で渡したかったんです。それと、「よろしくお願いします、お世話になります」ってだけじゃなくて、お互いに楽しめたらいいなあって思って。とにかく聴いたときに「あっ!」って驚いてほしかった。

蔦谷 結局「NOW ON AIR」は、今回プロデュースした3曲の中で一番アレンジ変えちゃったけど。

津野 うん。「イントロがハードロックになってる!」って(笑)。で、蔦谷さんは今“ニコニコキャンペーン”中だから……。

蔦谷 俺、怖いと思われるのがいやで、最近ニコニコするように努めているんですよ。あとはヒゲを剃ったり、これまでマネージャーに任せっきりだったFacebookでも極力自分で“承認”したり、メッセージを返したり……(笑)。

津野 そんなふうに蔦谷さんは“ニコニコキャンペーン”をやっているけど、ニコニコしていないときの顔が怖いのもだいたい想像がつくから、「アルバムの中で一番明るい曲と一番暗い曲をお願いしてみよう」って思って。それで明るい「NOW ON AIR」と暗い「ドライフラワー」のプロデュースをお願いしたんですね。でも蔦谷さんは「ドライフラワー」のレコーディング中もニコニコしていて怖かった(笑)。

蔦谷 「ドライフラワー」のレコーディングのとき、みんな「食らった……」とか言ってたよね。

津野 そうそう。特にベース(藤本ひかり)とドラム(歌川菜穂)がね。

蔦谷 「ドライフラワー」と「108」は1日で録ったんですけど、メンバーが「ドライフラワー」のレコーディングは精神的に食らうから、食らったまま帰るのがイヤとかで先に録って。しかしアレンジするときにあの曲をアホほど聴き倒したんだけど、だいぶ“様子がおかしい人”が作った曲だなあって思った(笑)。

津野 あははは(笑)。

蔦谷好位置

蔦谷 でも、“様子がおかしい人”が作ったもののほうが残ることが多いんですよ。というか残そうとしたら、普通のものじゃダメですから。「ドライフラワー」って、歌詞を見たら「この人に会うのはちょっといやだな」って感じなんだけど(笑)、信じられないくらい和声が美しい。これは例えようがない……クラシックで言ったらモーリス・ラヴェルとか、ジャズで言えばセロニアス・モンクとか。常人が思いつかないようなコード進行なのに、間違ったことを全然やっていない。奇をてらっているわけでもなくて、本能で常人離れしたコード進行を選んでいっているんでしょうね。しかもそれが美しいんです。俺は逆立ちしてもこんなの思い浮かばないですよ。「この子はすごいなー」って思いました。レコーディングのときに音が1個だけズレているのが気になったんだけど、俺が口出ししたのそこだけだよね?

津野 そのときだけ。そのとき、さっと笑顔が消えました(笑)。

蔦谷 もったいないなって思って。音楽を作ったりアレンジしたりするときっていろいろなルールがあるんです。俺はそういうのメチャクチャ勉強したので詳しいですけど、一方でルールなんてどうでもいいとも思っていて。でも、ルールを破ってカッコいいことをやるんだったら、知ったうえで破ったほうがカッコいいんですよね。米咲ってそういうルールを知っていそうなんだけど、知っていたらできないだろうなってこともいっぱいあった。だから鍵盤を使って説明したんです。「この美しい部分でこの音を当てたら、こっちのメロディが台無しになっちゃうでしょ? ほかの部分はいくら音が当たっていてもいいけど、ここはダメ」って。

津野 結局そこを直して、そのあとにストリングスが入ったときに改めて「あー、蔦谷さんの言う通りにしてよかった」って思いました。

蔦谷 本当はどっちでもいいっちゃいいんですよ。でもここで言っておかなきゃ、今後米咲が自分で曲をプロデュースしていくときにもったいないことをしてしまいそうだなって思ったんですね。でもルールみたいなものを知ることで、米咲の魅力が減ってしまうのも怖いなあとも思っていて……まあ米咲は勉強しても魅力は減らないか。なぜなら気が狂っているから。

津野 狂ってないです(笑)。例えば1つのものの中に同じ要素のものが3つあったとして、その中の1つについて「これは間違っていないです」って言い張ったら、その意見は通せると思うんですよ。なぜなら全体の30%を占めているから。「ドライフラワー」のときもそういう感じだったんですけど、そこにストリングスが加わったことで、ただ1つの音だけが間違っているっていう状況になっていたと思う。

赤い公園 ニューアルバム「猛烈リトミック」/ 2014年9月24日発売 / Virgin Records
初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / TYCT-69023
通常盤 [CD] 3024円 / TYCT-60045
収録曲
  1. NOW ON AIR
  2. 絶対的な関係
  3. 108
  4. いちご
  5. 誰かが言ってた
  6. ドライフラワー
  7. TOKYO HARBOR
  8. ひつじ屋さん
  9. サイダー
  10. 楽しい
  11. 牢屋
  12. お留守番
  13. 風が知ってる
初回限定盤DVD 収録内容
  • ひつじ屋さん(Music Video)
  • NOW ON AIR(Music Video)
  • オフショット・ドキュメンタリー「情熱公園」
赤い公園 「マンマンツアー 2014 ~お風呂にする?ご飯にする?それとも、リトミックにする?~」
2014年10月24日(金)
福岡県 DRUM Be-1
2014年10月31日(金)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
2014年11月3日(月・祝)
大阪府 大阪 umeda AKASO
2014年11月23日(日)
東京都 EX THEATER ROPPONGI
  • 赤い公園(アカイコウエン)
    赤い公園

    佐藤千明(Vo)、津野米咲(G)、藤本ひかり(B)、歌川菜穂(Dr)からなる4人組。高校の軽音楽部の先輩後輩として出会い、2010年1月に結成される。さまざまなジャンルの音楽を内包したサウンドと、予測不能かつアグレッシブなライブパフォーマンスが魅力。東京・立川BABELを拠点に活動をスタートさせ、自主制作盤「はじめまして」「ブレーメンとあるく」を経て、ミニアルバム「透明なのか黒なのか」でメジャーデビューする。しかし津野の体調不良を受け、2012年10月より半年間活動を休止。2013年3月に活動再開を発表したのち、5月に東名阪で復活ツアーを開催し、8月に1stフルアルバム「公園デビュー」をリリースした。2014年2月にシングル「風が知ってる / ひつじ屋さん」、3月にシングル「絶対的な関係 / きっかけ / 遠く遠く」を発表。なお津野はソングライターとしても高く評価されており、SMAP「Joy!!」の作詞および作曲、南波志帆「ばらばらバトル」の作詞および編曲を手がけるなど活動の幅を広げている。2014年9月に亀田誠治、蔦谷好位置、嶋津央、蓮沼執太といった豪華プロデューサー陣を招いてメジャー2ndアルバム「猛烈リトミック」をリリース。アルバム収録曲「TOKYO HARBOR」でKREVAをフィーチャーしたことでも話題を集めている。

  • 蔦谷好位置(ツタヤコウイチ)

    クリエイター集団agehasprings所属の音楽プロデューサー。ロックバンドCANNABISのキーボーディストとしてメジャーデビューする。バンド解散後に音楽プロデューサーとしての活動を本格化させると、現在までにYUKI、Chara、いきものがかり、木村カエラ、エレファントカシマシ、チームしゃちほこなどの楽曲を手掛ける。作詞・作曲・編曲から演奏までをこなすプロデューサーとして、ロックバンドからアイドルまで幅広くプロデュースしている。Superfly「Box Emotions」やゆず「LAND」では「日本レコード大賞」の優秀アルバム賞を受賞した。また演奏力にも定評があり、NATSUMENやEntity of Rudeなどのキーボードプレイヤーとして活躍したほか、現在は仲井戸麗市(G)、中村達也(Dr)、KenKen(B)とともにthe dayのメンバーとしても活躍。さらに10月にスタートするJ-WAVEの新番組「THE HANGOUT」では木曜ナビゲーターに抜擢されるなど、その活動は多岐に渡る。