ナタリー PowerPush - 赤い公園

活動休止を経てつかんだ「公園デビュー」

赤い公園は“童心”がテーマ

──曲作りにおいて最初から一貫してることはありますか?

津野 テーマがあることかな。小学生のときにピアノで即興の曲を作っていたときも、例えば緑とか、カレーとか、車とか、高速道路とかテーマを決めてたから、あとは自由に弾いてたんです。今でもテーマが先にあることが多いですね。でも、やっぱり自分一番大事にしているのは、小さいときにリビングでやっていた家族の音楽会なんですよね。そのときの記憶や感覚を引きずっているといったらアレだけど、全曲に影響していると思います。

──それは伝わってきます。津野さんの楽曲はすべて「童心」がテーマだと思うんです。

津野 そうですね。「それを取られたら私はどうなるんだろう?」って思います。だから、それが音にも言葉にも出ていて。

──何者かにそれを汚されることをすごく恐れてもいるんだろうなって。

津野 そう、怖いことだらけで。さっきも言いましたけど、曲が作れなくなるのも怖いし。小さい頃の記憶や感覚を忘れちゃうことも怖い。だから、曲を作る度に思い出して、つないで、パイプを増やして、伸ばしているような感じで。いつまでもつながっていたいから。

──それが曲を作る理由でもあるし。

津野 そうですね。ふと自分が砂の穴に落ちたときに、自分を救ってくれるのはあのときの記憶や感覚でしかないんですよね。

──「公園デビュー」の多種多様な10曲をつないでるのはそれですよね。

津野 うん、それただ1つだと思います。

結果が欲しい!

──その童心を巡る表現性が極まっているのが「交信」だと思うんですけど、この曲はとてつもない名曲で。

津野 私もかなりいい曲だと思ってます。

──構成はやっぱりちょっと変則的ではあるんだけど、そういうことを超越した普遍的な歌の響きがあって。

津野 うん。難しいコードはほとんどないし、符割も難しくないし、子供のキーですしね。

──なんでこういう曲を書けたんだと思いますか?

津野 この曲を作ったのは去年の夏なんですけど。当時の私はいろんなものに追われていたんですね。締め切りとか、周囲の期待や要望とか。そんなときにフッと隙間みたいなところに落ちて、心が「あの頃」にワープしたような感覚があったんです。それは、身体はここにあるのに、頭は向こうに行ったきりになるかもしれないと思うような危険な状態でもあったと思うんですけど……そこまでの状態だったからこそ、一点の曇りもなく「あの頃」を描けているというか。思い出しているというよりは、ちょっと白昼夢的な感じがあって。

──なるほど……この曲をバンドで豊かに表現できていることが、今の赤い公園の魅力のすべてと言ってもいいとさえ思う。

津野 そう、私も大袈裟ではなくそう思います。この曲を作ったときにすごく興奮したんです。締め切りに追われたりしてなかったら、もったいぶってしばらく誰にも聴かせようとしなかったかもしれないけど、運よく時間に追われていたから。でも、最初の1音をバンドサウンドで鳴らしただけでこの曲の完成が見えたんですよね。「ああ、よかった」って思いました。活動休止を挟んで、歌詞が最後の部分だけちょっと変わったんですけど、そこにもすごく意味が生まれて。休止前の私だったら、「朝日に嘲笑われたって 拭えばいい」なんて書けなかったから。

──佐藤さんはボーカリストとしてこの曲をどう受け止めましたか?

佐藤 この曲のデモを聴かせてもらうときに米咲先輩がいつになくすごく興奮していて。「すごい曲ができたんだけどさ!」って。米咲先輩の中で最初から完成形が見えてたからアレンジもすごくスムーズに進んで。米咲先輩にとってホントに大事な曲なんだろうなって思ったし、私自身、「交信」を歌うときはほかの曲とは違う気持ちになってると思います。普段は自分から曲に寄り添うことを意識するけど、「交信」は自分の近くにいてくれる感じがするというか。いつもみたいに作り込まなくても、素直な気持ちで向き合える感じがあって。私は米咲先輩のように幼い頃の特別覚えておきたい思い出ってあまりなくて。だからこそ、自分にはなかった子供時代に見た美しいものとか、キラキラしてるものを感じられることができるんです。歌っていて悲しくなるくらい。

津野 うれしい。

──ここから赤い公園がどんな曲を生んでいくのかホントに楽しみです。最後に今後の展望を聞いてインタビューを終わりたいと思います。

津野 フルアルバムを出すことで、バンドとしてようやく啖呵を切ることができるので。ここから先にパンチやらキックやらいろいろ出していこうと思います。気を抜いてると私たちがやっちゃうぞって感じですかね(笑)。

藤本 まずは結果が欲しいですね!

佐藤 うん、結果が欲しい!

歌川 結果を出したい!

津野 出したい!

ライブ情報

赤い公園ワンマンツアー2013
「いざ、公園デビュー~トトトツーツーツートトト~」

  • 2013年10月26日(土)宮城県 仙台LIVE HOUSE enn 2nd
  • 2013年11月3日(日・祝)広島県 広島CAVE BE
  • 2013年11月4日(月・祝)福岡県 福岡DRUM SON
  • 2013年11月8日(金)大阪府 梅田Shangri-La
  • 2013年11月15日(金)愛知県 名古屋APOLLO THEATER
  • 2013年11月23日(土・祝)東京都 東京キネマ倶楽部
ニューアルバム「公園デビュー」/ 2013年8月14日発売 / EMI Records Japan
初回限定盤[CD+DVD] 3500円 / TOCT-29184
通常盤[CD] 2800円 / TOCT-29185
収録曲
  1. 今更
  2. のぞき穴(Album Version)
  3. つぶ
  4. 交信
  5. 体温計
  6. もんだな
  7. 急げ
  8. カウンター
  9. 贅沢
  10. くい
初回限定盤DVD収録内容

5月5日大復活祭@渋谷クラブクアトロ映像(part2)

  1. 何を言う
  2. 公園
  3. 急げ
  4. もんだな
  • ドキュメンタリー映像「情熱公園」
赤い公園(あかいこうえん)
赤い公園

佐藤千明(Vo, Key)、津野米咲(G, Piano, Cho)、藤本ひかり(B)、歌川菜穂(Dr, Cho)からなる4人組。高校の軽音楽部の先輩後輩として出会い、2010年1月に結成される。さまざまなジャンルの音楽を内包したサウンドと、予測不能なアグレッシブなライブパフォーマンスが魅力。東京・立川BABELを拠点に活動をスタートさせ、自主制作盤「はじめまして」「ブレーメンとあるく」を経て、EMIミュージック・ジャパン(現ユニバーサルミュージック内EMI Records Japan)からミニアルバム「透明なのか黒なのか」でメジャーデビューする。しかし津野の体調不良を受け、2012年10月より半年間活動を休止。2013年3月1日活動再開を発表したのち、5月に東名阪で復活ツアーを開催し、8月に1stフルアルバム「公園デビュー」をリリースした。なお津野はソングライターとしても高く評価されており、SMAP「Joy!!」の作詞および作曲、南波志帆「ばらばらバトル」の作詞および編曲を手がけるなど活動の幅を広げている。