ナタリー PowerPush - 赤い公園
活動休止を経てつかんだ「公園デビュー」
USBメモリをもらって復活を確信
──歌川さんは活動再開したときはどんな心境でしたか?
歌川 私はほかのバンドのサポートをしたり、ちーちゃん(佐藤)のライブのお手伝いで鍵盤を弾いたりしたんですけど、やっぱり4人がひさびさに集まったときにすごく安心したんですよね。「赤い公園をやりたい!」って改めて強く思ったし。
──藤本さんは、休止中はどんな気持ちでしたか?
藤本 赤い公園って、結成したときからライブのない月ってなかったんですよ。デビューするまでも早かったし、すごく濃厚な月日を過ごしてきて。それがパッとなくなったときは失恋したような感じになりましたね。寝ながら壁を見るみたいな日々が続いて(笑)。
──天井とか(笑)。
藤本 仰向けで寝てるときは天井で、横を向いて寝てるときは壁みたいな(笑)。でも、これまでも4人で逆境を乗り越えてきたから。デビュー4日目で、さいたまスーパーアリーナでライブ(「EMI ROCKS 2012」)したのもそうだし。だから、気持ちは強く持とうって思ってました。私はbomiちゃんのライブのサポートをやらせていただいたんですけど、赤い公園を知らない人からすれば、私が赤い公園の代表になるわけだし、しっかりしようって。
佐藤 私が「ああ、ちゃんと復活できるな」って思った瞬間は、4人で会ったときに米咲先輩がUSBメモリを3人に渡してくれたんですよ。「曲を作ってるから聴いてほしい」って。そのときですね。
津野 USBをいつも持ち歩いてくれてるのちーちゃんだけだよ! ひかりなんかよくうちに遊びに来るけど、その度に忘れていくから(笑)。
藤本 へへへへへ(笑)。
ライブでやってきたことを弔えた
──ここからはアルバムの話を。改めて、「公園デビュー」はどんな作品になったと思いますか?
津野 私の中ではこれまでライブでやってきた曲たちを音源にしたことで、ようやく燃やして灰を空に撒くことができるみたいな感覚があって。フルアルバムに入れることでしっかり弔うことができるから、次に進めるみたいな。
──つまり、第1期集大成なんだよね。
津野 そうそう。今、ここにいる私たちはもう第2期に入ってるんですよね。
──第1期って、それこそデビュー前に立川でライブしてたころから、活動再開までって感じですよね。
津野 まさに。今までの音源の中で一番ライブと密接な関係性を持ったアルバムでもあると思います。
──このバンドの音楽的な底知れなさを、まざまざと見せつけられるアルバムでもあるんですけど。これは前に津野さんと話してるときにも言ったけど、入口は広いんだけど、全然出口が見当たらないみたいなね。
津野 うれしいです。自分でこのアルバムの10曲を聴いたときに素直に思ったのは、いい意味で必死感がないというか。
──ああ、なるほど。
津野 とりあえず10曲入れましたっていうちょっとした余裕が見えるんですよね。それは音作りによるものなのか、10曲という曲数によるものなのか。
──あるいは、曲の振り幅なのか。
津野 そう。フルアルバムを出して、見限られる感じが全然ないなって。
──満足感はある前提で、ネクストが気になる。底知れないというのはそういう意味でもあるんですけど。
津野 うん。いい意味で次が気になるという意味では、1stフルアルバムとして成功かなと思って。デビュー当初はフルアルバムってゴールだと思ってたんですよ。5曲ずつどうやって振り分けるかを考えてまず黒盤(「透明なのか黒なのか」)と白盤(「ランドリーで漂白を」)を出して、最初のシングルだからやりたい音楽性を思いっきりやってる曲ということで「のぞき穴」を出して、復活にふさわしい曲ということで「今更 / 交信 / さよならは言わない」を出して。ずっと点であったものが今回のアルバムでやっと線になったなと思うんですよね。
──ロックバンドのあり方としても、ポップスとしても比較対象のない線を描けてるよね。
津野 うれしいです。比較対象のないものって説明しづらいじゃないですか。それはデビューしたときから自覚していて。これは説明する言葉を見つけるのに時間のかかる音楽だろうなって。でも、自分たちがそういうことをやりたいと思っている限り仕方のないことだと思ったんです。すぐに認知されたいという思いもありますけど、やっぱり長く残っていくバンドでありたいという思いのほうが勝るんですよね。だから、自分が作っている音楽は間違いないと思う。だから、やっぱり結果が欲しい!(笑)
フルマラソンを走り切った感じ
──佐藤さんはどうですか、「公園デビュー」は。
佐藤 休止を経験したからこそ、「交信」とか「カウンター」とか、さらに美しいと思える曲が入ってるし、今の私たちじゃないと出せないアルバムになったと思います。
──休止も作品のドラマ性に昇華できましたよね。
佐藤 そうですね。
──ボーカリストとしてはこれだけ振り幅のある楽曲を体現するのは難儀な面もあったと思うけど、どうですか?
佐藤 でも、振り幅があるからこそ楽しかったです。1曲1曲に対する自分の気持ちの持っていき方とか。難しいとは言いたくないですね。言い訳みたいに聞こえるから。
──歌川さんは?
歌川 ここから再スタートだと思えるアルバムになりましたね。レコーディングも音楽ができるありがたさを噛み締めて臨みました。それも活動休止があったからこそだと思うし。
──藤本さんは?
藤本 フルアルバムだけにフルマラソンを走り切った感じですね!
津野 え、そんな感じ?
藤本 (無視して)達成感はあるんですけど、次はもっといいタイムで走りたいという感じもありつつ。さらなる高みを目指すというか。次はホノルルを目指します!
津野 意味わかんねー(笑)。
──すでにライブでやっている曲で、まだ音源化されてない名曲もあるんだよね。例えばシティポップ感満載の「TOKYO HARBOR」とか。
津野 そうそう。でも、あれを出すのは今じゃないなって。「公園デビュー」とうたっているからには、バンドの大枠がわかるような形にしたかったんです。例えば、連ドラの4話目から見ても話がわかるような感じで。今までやってきたこととかけ離れた曲を出すのは2枚目以降かなって。
- ニューアルバム「公園デビュー」/ 2013年8月14日発売 / EMI Records Japan
- 初回限定盤[CD+DVD] 3500円 / TOCT-29184
- 通常盤[CD] 2800円 / TOCT-29185
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収録曲
- 今更
- のぞき穴(Album Version)
- つぶ
- 交信
- 体温計
- もんだな
- 急げ
- カウンター
- 贅沢
- くい
初回限定盤DVD収録内容
5月5日大復活祭@渋谷クラブクアトロ映像(part2)
- 何を言う
- 公園
- 急げ
- もんだな
- ドキュメンタリー映像「情熱公園」
赤い公園(あかいこうえん)
佐藤千明(Vo, Key)、津野米咲(G, Piano, Cho)、藤本ひかり(B)、歌川菜穂(Dr, Cho)からなる4人組。高校の軽音楽部の先輩後輩として出会い、2010年1月に結成される。さまざまなジャンルの音楽を内包したサウンドと、予測不能なアグレッシブなライブパフォーマンスが魅力。東京・立川BABELを拠点に活動をスタートさせ、自主制作盤「はじめまして」「ブレーメンとあるく」を経て、EMIミュージック・ジャパン(現ユニバーサルミュージック内EMI Records Japan)からミニアルバム「透明なのか黒なのか」でメジャーデビューする。しかし津野の体調不良を受け、2012年10月より半年間活動を休止。2013年3月1日活動再開を発表したのち、5月に東名阪で復活ツアーを開催し、8月に1stフルアルバム「公園デビュー」をリリースした。なお津野はソングライターとしても高く評価されており、SMAP「Joy!!」の作詞および作曲、南波志帆「ばらばらバトル」の作詞および編曲を手がけるなど活動の幅を広げている。