ナタリー PowerPush - 赤い公園
活動休止を経てつかんだ「公園デビュー」
赤い公園の1stフルアルバム「公園デビュー」が完成した。昨年10月に津野米咲(G, Piano, Cho)の体調不良によりメジャーデビューから半年で活動休止するという逆境を迎えた彼女たちだったが、今年5月の再始動後は津野がSMAPのシングル「Joy!!」を手がけたことが大きな話題になるなど、強い追い風が吹いている。
そんな中、リリースされる「公園デビュー」は、赤い公園の底知れぬポップセンスやプレイヤビリティが全10曲に凝縮された大充実の内容になっている。ナタリー初登場となる今回は、メンバー全員インタビューを実施。この「最初の名盤」を軸に、赤い公園の核心にさまざまな角度から迫った。
取材・文 / 三宅正一(ONBU) 撮影 / 福本和洋
どうしても曲作りをやめられない
──この前、カラオケバーで「Joy!!」を歌ったんですよ。難しかったけど、気持ちよかった。
津野米咲(G, Piano, Cho) 息継ぎが大変ですよね。私もカラオケで歌ってみたら難しくて。「あ、やっぱり自分の曲なんだな」って思いました(笑)。
──明日の「FNS歌謡祭」(※取材が行われたのは7月30日)では津野さんが「Joy!!」を歌うSMAPのバックでギターを弾くんですよね。大舞台だね。
津野 うっ……緊張する! でも、周りのスタッフのほうが緊張してると思います。リハでうまく弾けなかったりしたので(笑)。でも、せっかくの貴重な機会だから楽しもうと思います。今は「Joy!!」のことがあったり、バンドが活動再開してシングルとアルバムのリリースが続いたり、いろんなタイミングが重なってテレビに出させてもらってますけど、今後もそれが続くかといったらそうでもないような気がするので。出させていただけるときに爪痕をしっかり残さないといけないなって思ってます。
佐藤千明(Vo, Key) そうね。
──でも、ホントに活動再開からここまでけっこうなスピードで駆け抜けてますよね。
津野 すごいスピード感ですね。目まぐるしくてちゃんとこなせてるかわからないんですけど(笑)。
藤本ひかり(B) そうだねー(笑)。
歌川菜穂(Dr, Cho) でも、休止前よりは気持ちに余裕があるかな。去年の夏頃とか特に余裕がなかったから。
──自分たちの口からは絶対に言えないと思うし、結果論でもあるんだけど、活動休止して得たものは大きかったんじゃないかと思います。津野さんは休止中も曲作りだけは続けていたんだよね。
津野 はい。もう、なんのためでも誰のためでもなく、深く息を吸い込まずに、浅く吸い込んだものをペッペッペッって吐き出すような作り方をして。そうしたことで、どれだけ吸い込んだらどれだけの曲ができるのかとか、曲作りにおける自分の呼吸感覚が初めて見えた気がしたんですね。
──自分に負荷をかけないように、あえて浅い呼吸をしてたの?
津野 いや、そのときは何も考えてなくて。とにかく曲を作りたかっただけ。たまにグッと溜め込んで一気に吐き出すときもあったんですけど、ほとんどが瞬きするように作ってましたね。なんのために作ってるわけでもなかったから、そういうやり方ができたんですけど。
──赤い公園のことも考えなかった?
津野 そうですね。まったく考えなかったです。考えないようにしてた部分もあったし。お休みをいただいたからには休まなきゃいけないんですけど、曲作りだけはどうしてもやめられなくて。
──休まなきゃいけないんだけど、どうしても曲作りをやめられないというのは、それ自体がストレスになったりしなかったの?
津野 ストレスになってもそれしかなかったんですよ。
──そうか……否が応でも自分の音楽家としての業の深さを感じるでしょう?
津野 そうですね。ストレスが溜まるのも、発散するのも、結局、音楽みたいな……。今まで自分が人生で何を見て、誰と会って、どんな場所に行って、どういうことを感じて、どういう思いをして今日まできたかを考えると、思い出す風景にはいつも音楽があって。
──小さい頃から?
津野 そうですね。だから、休んでるときも食う、寝る以外ですることが音楽しか思い浮かばなかったんです。
──そうやってできた曲の数は40以上なんですよね?
津野 そうですね。
──厳密に言うと「Joy!!」もその1つだし。
津野 そうそう。
「いつでもええで!」
──今回の「公園デビュー」には活動休止中に作った「カウンター」と「贅沢」という曲が入っていて。赤い公園のことは考えてなかったというけど、「カウンター」は、すごくストレートなバンドサウンドですよね。
津野 そうなんですよね。無意識にバンドの曲を作りたいという意識が働いてたんでしょうね。
──「贅沢」の童謡っぽさのあるキュートなポップソングも赤い公園らしいとも言えるし。「公園デビュー」はどんなタイプの楽曲でも、この4人で鳴らせば赤い公園になるということを証明するアルバムだと思うんですけど。
津野 うんうん。曲を作ってるときはバンドのことを全然意識してなかったんですけど、私は気付いたらただ曲を作る人じゃなくて、赤い公園の中で曲を作る人になっていたんだなって。だから、なんのためでもなく作っていた曲も、無意識に赤い公園のために作っていたんだなって今になって思います。これまでとは違うタイプの珍しい曲ができたら、もったいなくて赤い公園の外には出したくないと思うし(笑)。
──いい話。佐藤さんは津野さんのことをどういう思いで待ってましたか?
佐藤 どんな気持ちだっただろうな……いや、でも、「いつでもええで!」っていう。
津野 あははははは(笑)。ありがとう。
佐藤 そんな偉そうなアレでもないですけど(笑)、米咲先輩が戻ってくるまで個々としてももっと頼られる存在に成長したいと思ったし。
──佐藤さんはソロでいくつかのライブイベントに出演していましたよね。その成果もあって、ボーカリストとしての表現力が明らかに豊かなものになったなと。
佐藤 ありがとうございます。うれしいです。「堂々と歌うようになったね」とはよく言われますね。
──今は歌い手としての武器も自覚しているように見える。ステージ上の動きとか、仕草しかり。
佐藤 ああ、それは自分で見つけたというよりは、周りの方から「手足の長さを生かしたほうがいいよ」ってアドバイスをもらったりして。自分も「そういえば私って手足長いよな」って思って(笑)。
──今さら気付いた(笑)。
佐藤 生かせるものは生かそうと。まだまだこれから自分の歌の核を見つけていきたいなと思ってます。でも、プライドをもって米咲先輩が作る曲を歌ってるのは確かですね。
- ニューアルバム「公園デビュー」/ 2013年8月14日発売 / EMI Records Japan
- 初回限定盤[CD+DVD] 3500円 / TOCT-29184
- 通常盤[CD] 2800円 / TOCT-29185
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収録曲
- 今更
- のぞき穴(Album Version)
- つぶ
- 交信
- 体温計
- もんだな
- 急げ
- カウンター
- 贅沢
- くい
初回限定盤DVD収録内容
5月5日大復活祭@渋谷クラブクアトロ映像(part2)
- 何を言う
- 公園
- 急げ
- もんだな
- ドキュメンタリー映像「情熱公園」
赤い公園(あかいこうえん)
佐藤千明(Vo, Key)、津野米咲(G, Piano, Cho)、藤本ひかり(B)、歌川菜穂(Dr, Cho)からなる4人組。高校の軽音楽部の先輩後輩として出会い、2010年1月に結成される。さまざまなジャンルの音楽を内包したサウンドと、予測不能なアグレッシブなライブパフォーマンスが魅力。東京・立川BABELを拠点に活動をスタートさせ、自主制作盤「はじめまして」「ブレーメンとあるく」を経て、EMIミュージック・ジャパン(現ユニバーサルミュージック内EMI Records Japan)からミニアルバム「透明なのか黒なのか」でメジャーデビューする。しかし津野の体調不良を受け、2012年10月より半年間活動を休止。2013年3月1日活動再開を発表したのち、5月に東名阪で復活ツアーを開催し、8月に1stフルアルバム「公園デビュー」をリリースした。なお津野はソングライターとしても高く評価されており、SMAP「Joy!!」の作詞および作曲、南波志帆「ばらばらバトル」の作詞および編曲を手がけるなど活動の幅を広げている。