音楽ナタリー Power Push - AK-69
異ジャンルのゲストを迎えて描く、挑戦者の夜明け
今年1月に新たなマネジメント事務所、Flying B Entertainmentを設立し独立。その後アメリカの老舗名門レーベル、Def Jam Recordingsとの契約を果たしたAK-69が、移籍第1弾となるアルバム「DAWN」を完成させた。このアルバムでAK-69はUVERworld、清木場俊介といったヒップホップやR&B以外のジャンルのゲストを初めて招集。さらに盟友の般若や2WIN、Flying Bの新たな刺客であるCITY-ACEとHIDE春、アメリカのヒップホップ界のレジェンド、ファット・ジョーも参加。勝ちにこだわる男が初めて負けを受け入れた曲を収めるなど、キャリア史上、もっとも華やかで振り幅の広いアルバムとなった。新天地で彼はどんな思いでこの作品を作り上げたのか。話題のゲスト陣との交流を中心に、じっくり話を聞いた。
取材・文 / 猪又孝 撮影 / 小原啓樹
新しい幕が開けたAK-69を見せたかった
──記念すべきDef Jam Recordingsでの1枚目のアルバムが完成しました。前作「THE THRONE」から1年半ぶりとなりますが、今回の制作はどんな感じでしたか?
今回は制作期間がすごく短くて、ツアーが7月に終わってから本格的に取り組んだんです。でも、意外とすんなり作れましたね。レコーディングは2カ月くらいでフィニッシュしました。
──今回はどんなアルバムを目指したんですか?
これが新章の始まりになるように。というのも、ストリートから成り上がってきた自分のヒップホップストーリーの最終章が前作の「THE THRONE」だったと思ってるんです。で、今年初めにFlying Bを立ち上げて、Def Jamと契約し、自分でリスクを背負った環境で「またもう一発やってやっからな!」っていう姿勢になった。そうやって王者のアティテュードから挑戦者のアティテュードに変わったことで、若い子や同世代、さらに俺より上の世代の夢をあきらめかけてる人たちに訴えかけられるメッセージをまた放てるなと思ってたし、そうやって新しい幕が開けたAK-69を見せたいと思っていました。
──Def Jamという大きな看板の下で作ることに対して、プレッシャーや今までと違う緊張感はありましたか?
全然なかったですね(笑)。笑っちゃうくらい見事になくて、逆にびっくりしました。前回までのほうがいろいろ考えてましたね。ヒップホップマナー的にどうだとか、ニューヨークにいたことが生かされたアルバムにしなきゃいけないとか。
──どこか様式美にとらわれていた?
そう。向こうっぽさを意識してたぶん、パッとフロウを閃いても「これだとちょっと向こうっぽく聞こえないから」って修正するとか、1つフィルターをかけてたんです。でも、今回はそれを全部取っ払ったんですよ。出たまんま、湧いたまんまを歌にしていこうと。挑戦者なんだからそういう姿勢で取り組むことに意味があるかなと思っていたし、結果、自然とバラエティに富んだアルバムになったんですよね。
引くに引けない状況に身を置いた挑戦者のメンタリティ
──今回はすんなり作れたそうですが、王者のメンタリティより挑戦者のメンタリティのほうが体になじんでるんですかね。
確かにそうかもしれないです。「The Independent King」「THE THRONE」と、「俺が王者だ! 誰か真似できんのか、オラ!」っていうのを表現したアルバムが2作続いたけど、なんかこっちのほうがしっくりきた感がありましたから。
──王者であることのプレッシャーや緊張感はすさまじいと聞きます。追うより追われる立場の方がキツいって。
まさに昨日、井岡(一翔 / プロボクサー)とそのことをしゃべってたんです。チャンピオンを目指してるときは、根拠のない自信もあるし、負けても当たり前だっていう捨て身にもなれる。だから何も気にせずブワーッと立ち向かえると。でも王座に就いた途端に、それまで考えなかったことを気にするようになったり、「負けたらやべえな」とか考えたりするって言ってて。
──でも、そこで守りに入ったり、逃げたりするわけにはいかない。
そう。だから勝ち続けるっていうのはすごいことなんですよ。王座に就いた時点でネクストレベルというか、また一段階、難しいフェーズに入ると思うんです。今回の俺もまさにそれ。そこで「挑戦者の気持ちを歌ったほうがみんなに響いてたから、俺はそっちに戻ろう」ってあざとくやってたら、シラけたものになってたと思うんです。そうじゃなくて、リアルに自分の環境を変えて、引くに引けない状況に身を置いて挑戦者のメンタリティになってるから、自然と本当に魂の宿ったアルバムになったと思うんです。なおかつ、挑戦者と言えども音楽性やスキルの面ではアップデートされてるわけだから。それでどこか懐かしいけど新しいっていうアルバムが作れたんだと思います。
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- ニューアルバム「DAWN」 / 2016年11月23日発売 / Def Jam recordings
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 4104円 / UICV-9215
- 通常盤 [CD] / 3240円 / UICV-1077
CD収録曲
- Dawn
- Flying Lady feat. CITY-ACE , HIDE春
- Forever Young feat. UVERworld
- Streets feat. 2WIN(T-PABLOW & YZERR)
- Flying B ~DAWN ver.~
- Hangover
- Rainy days feat. 清木場俊介
- With You ~10年、20年経っても~
- Baby
- 上ヲ向イテ
- もう1ミリ feat. 般若
- We Don't Stop feat. Fat Joe
- KINGPIN
初回限定盤DVD収録内容
- KINGPIN(MUSIC VIDEO)
- With You~10年、20年経っても~(MUSIC VIDEO)
- Flying B(MUSIC VIDEO)
- We Don't Stop feat. Fat Joe(MUSIC VIDEO)
- 2016.2.27「NON FICTION~一夜限りのプレミアム・ライブ~」@豊洲PIT LIVE映像
- Opening~The Cartel From Streets
- Prologue -The Man They Call Rain Man-
- The Throne
- 雨音
- Click da trigger
- CROWZ feat. Lil'J
- You don't care
- Ding Ding Dong ~心の鐘~
- IRON HORSE -No Mark-
- THE RED MAGIC
- ICU
- START IT AGAIN
- Lookin' In My Eyez ~ ロッカールーム -Go Hard or Go Home-
- Flying B
- And I love You So
- IT'S OK
AK-69(エーケーシックスティーナイン)
1978年生まれの男性ヒップホップアーティスト。MCおよびラッパーとして活動する際にはAK-69、シンガーとして活動する場合はKALASSY NIKOFFを名乗っている。2004年にKALASSY NIKOFF名義でリリースしたアルバム「Paint The World」を皮切りにソロ活動をスタート。2012年にニューヨークに滞在し、現地のヒップホップ専門ラジオ局「HOT 97」のインタビューを受けたほか、同局主催の野外イベント「Harlem Day」、そして数々のアーティストを輩出したイベント「Who’s Next?」に日本人ラッパーとして初出演を果たした。2014年3月に東京・日本武道館にてワンマンライブを行い成功を収めたほか、翌2015年にはキャリア最大規模となる全国ホールツアーを開催した。ボクサーや野球選手などアスリートたちからの支持も厚く、プロ野球選手の登場曲使用率1位を2014年と2015年の2年連続で記録。2016年1月に「さらなるインディペンデントな活動」を目指して自ら代表を務める事務所・Flying B Entertainmentを立ち上げた。4月にはアメリカの名門ヒップホップレーベルのDef Jam Recordingsと契約を結び、同レーベルからの第1弾作品となるシングル「With You ~10年、20年経っても~ / KINGPIN」を7月にリリース。11月にニューアルバム「DAWN」を発表した。