音楽ナタリー Power Push - AK-69
新たなステージに踏み出したDef Jam Recordings第1弾作品への思い
この曲は物議を醸すだろうなと思ってた
──シングルの1曲目「With You ~10年、20年経っても~」は、スローなラブソングですね。Def Jam第1弾でそういうアプローチで来るかと、最初に聴いたときは面食らいました。
そうかもしれないですね。この曲は物議を醸すだろうなと思ってました(笑)。
──これはどんないきさつで生まれた曲なんですか?
この曲のデモはDef Jamとの契約が決まる前からあったんです。ある日、意気消沈してホテルでシャワーを浴びてるときに、この曲のサビが歌詞と共にブワーッと降りてきて。普段そういう歌の作り方はまったくしてないんですよ。いつもテーマを先に決めて、それに合うトラックを選んで、そこからメロディやリリックを紡ぐんです。だけど、いきなり頭の中でこの曲が鳴り出したもんだから、「やべ!」と思って(笑)。シャワールームを飛び出して泡だらけのままiPhoneのボイスレコーダーに吹き込んだんです。
──ただ、この曲調からは、かつて歌モノをリリースするときに使っていたKalassy Nikoff名義を思い出したんです。
歌うスタイルはラップを始めたときから同時にやっていて、今に始まったことじゃないんです。トコナメが組んでたM.O.S.A.D.の1stアルバム(「THE GREAT SENSATION」)の中の「COLD GAME」にトコナメが男性シンガーとして誘ってくれて、そのときに「名前はどうする?」っていう話から「じゃあ、AKだからカラシニコフで」ってKalassy Nikoffというキャラクターが生まれた。その後、またトコナメが、冒頭に話した「Let me know ya…」にKalassy Nikoff名義で呼んでくれて、それが俺にとって初めてのメジャー流通作品になって。「Let me know ya…」のトコナメのヴァースはナンパソングのような感じだけど、俺が歌ってるフックは、当時彼女だった今の奥さんに向けて歌ったものだったんですよ。
──今回の「With You」も奥さんを思って歌った曲だそうですね。
そうなんです。いろんなきっかけがあって、ふと降りてきた歌も奥さんのことを思って出てきた曲で、これも運命だなと思ったんです。こういう“歌らしい歌”をやるのはひさびさだけど、俺のルーツだし、トコナメとの縁も感じるし、この節目のタイミングでもう1回表現しとこうと。俺もヘッズだからUSのヒップホップのスタイルに寄せて作ることはあるけど、「With You」は俺の中から湧いて出たものだけで作ってるなんのフィルターもかかってない音楽だから、大事にしたかったんですよね。
──この曲を通じて伝えたかったことは?
男は年を重ねていくとカッコいいって言われたりもするけど、女性は加齢に対してネガティブだったりする人が多くて。だけど、「バカだな、そうじゃねえんだよ」っていう。長いこと付き合ってると、男に対して「若い子ばっかり見てんじゃないの?」なんて言うけど、「いやいや、年を重ねて美しくなっていってることにお前は気付いてないんだな」って言いたかったんですよ。
──今の発言、世の熟女全員を喜ばせると思いますよ(笑)。
あはは!(笑) まあ、10年、20年と付き合いが続いてるっていう時点で、わりと高めな年齢層に向けたラブソングかもしれないですけど(笑)。でも、この曲では、そうやって年を重ねることについての男女の意識の違いみたいなものを伝えたかったんですよね。
──ちなみに、AKさんは結婚して何年になるんですか?
13年目ですね。
──まさしく歌通り。
そうなんですよ(笑)。
──奥さんに「With You」は聴かせました?
はい。「ん? いいんじゃない?」って軽くあしらわれましたね(笑)。まあ、たぶん、いいと思ってくれてるんでしょうけど。
俺はお前たちと変わらない
──2曲目の「KINGPIN」は、どんな思いで書いた曲なんですか?
「THE THRONE」でストリートからの成り上がりストーリーをほぼ完結と言えるようなレベルまでやってのけた上で書いて。そんな今の俺はロールスロイスに乗って、何キロものゴールドを身に付けて、スタッフやボディガードを引き連れて歩いてるっていう。その絵面は俺が憧れたヒップホップの絵面なんですけど、ファンにとってちょっと遠いところにいるイメージになっちゃってるかもなと思ったんです。でも、芯の部分は何も変わってないし、背負ってる街も変わってないし、仲間も変わってない。俺はお前たちと変わらないし、ストリートから変わらない態勢のまま、ここまで来たんだっていうことを改めて言いたかったんです。
──初心と所信、両方を表明する曲だと。
そう。地べたに座り込んで「ああなりてえな」とか「こうなりてえな」とか、朝方まで夢を語ってる若い子たちと何も変わらなかったんだよって。むしろ俺はもっと不利な状況というか荒んだところから、1つのことをやり続けてきたっていう。前作の「Flying B」では、地べたから這い上がってきた俺にとっては恥や失敗が燃料になってるんだっていうアチテュード的なことを歌ったんですけど、かつて俺が実際どうだったかっていうことは最近あまりクローズアップしてなかったし、Def Jam第1弾だからこそ、俺のキャリアのボトムの部分、やり始めたときの気持ちや情景を歌いたいなと思ったんです。
次のページ ≫ MVは90年代ヒップホップビデオの「あるある」
- ニューシングル「With You ~10年、20年経っても~ / KINGPIN」 / 2016年7月6日発売 / Virgin Music
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 1620円 / UICV-9182
- 通常盤 [CD] / 1080円 / UICV-5053
CD収録曲
- With You ~10年、20年経っても~
- KINGPIN
- With You ~10年、20年経っても~(Instrumental)
- KINGPIN(Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
- With You ~10年、20年経っても~ Music Video
- 「Flying B」LIVE映像(2016.2.27 一夜限りのプレミアム・ライブ「NON FICTION」@豊洲PITより)
- ドキュメンタリー映像
Zepp Tour 2016 ~Flying B~
- 2016年7月18日(月・祝)大阪府 Zepp Namba
AK-69(エーケーシックスティーナイン)
1978年生まれの男性ヒップホップアーティスト。MCおよびラッパーとして活動する際にはAK-69、シンガーとして活動する場合はKALASSY NIKOFFを名乗っている。2004年にKALASSY NIKOFF名義でリリースしたアルバム「Paint The World」を皮切りにソロ活動をスタート。2012年にニューヨークに滞在し、現地のヒップホップ専門ラジオ局「HOT 97」のインタビューを受けたほか、同局主催の野外イベント「Harlem Day」、そして数々のアーティストを輩出したイベント「Who’s Next?」に日本人ラッパーとして初出演を果たした。2014年3月に東京・日本武道館にてワンマンライブを行い成功を収めたほか、翌2015年にはキャリア最大規模となる全国ホールツアーを開催した。ボクサーや野球選手などアスリートたちからの支持も厚く、プロ野球選手の登場曲使用率1位を2014年と2015年の2年連続で記録。2016年1月に「さらなるインディペンデントな活動」を目指して自ら代表を務める事務所・Flying B Entertainmentを立ち上げた。同年2月にシングル「Flying B」を発表。4月にはアメリカの名門ヒップホップレーベルのDef Jam Recordingsと契約を結び、同レーベルからの第1弾作品となるシングル「With You ~10年、20年経っても~ / KINGPIN」を7月にリリースした。