音楽ナタリー Power Push - AK-69
新たなステージに踏み出したDef Jam Recordings第1弾作品への思い
自身が代表を務める事務所「Flying B Entertainment」を設立し、今年2月にシングル「Flying B」をリリースしたAK-69が、今度は世界に名だたるヒップホップレーベル「Def Jam Recordings」と電撃契約。両A面シングル「With You ~10年、20年経っても~ / KINGPIN」をリリースし、同レーベルを日本で再始動させた。「With You ~10年、20年経っても~」は、歌をメインにしたスローなラブソング。一方の「KINGPIN」はハードなヒップホップと、今回の作品にはAK-69のスイートネスとタフネス、両方の魅力がパックされている。デビュー以来、インディペンデントにこだわり続けてきたAK-69は、なぜこのタイミングでDef Jam Recordingsとサインを交わしたのか。今回のシングルにはどんな思いが込められているのか。新たなステージへと歩を進めた彼に今の心境をたっぷり語ってもらった。
取材・文 / 猪又孝 撮影 / 小原啓樹
今こそDef Jamという刀を抜かせてもらおう
──Def Jam Recordingsとの契約、おめでとうございます。名高いレーベルですし、契約のサインは即決したんですか?
いや、少し考えました。ずっと俺もインディペンデントにこだわってやってきていたんで。ただ、振り返ってみると、「THE THRONE」のホールツアーが終わったときに軽く目標を喪失していたんですね。それまでは一心不乱に駆け上がってきたんですけど、名実共にヒップホップ界で一番だと言われるようになって、「あれ、先の目標がよくわかんねえぞ」って。
──いつもは、2、3歩先まで目標が見えてるタイプだったのに。
そう。とはいえ、現状維持じゃなくて、攻めていこうということでFlying Bを立ち上げて独立したわけで。そんなときに、こんないいチャンスはないだろうと。しかも、世界のDef Jamですからね。Bボーイとしてデカ過ぎるブランドですから。自分が本当に目指している高みに登っていこうとしている今こそ、Def Jamという刀を抜かせてもらおうと思ってサインしたんです。
──Def Jamはもともとインディペンデントなレーベルでしたが、ヒップホップ界で初めてメジャーとディストリビューション契約を取り付け、その後どんどん世界を席巻していきました。そういう物語にもシンパシーを覚えたんじゃないですか?
そうなんです。始まりはリック・ルービンとラッセル・シモンズがブルックリンで立ち上げた小さなレーベルで。俺なんかとは規模が全然ちがいますけど、そういうレーベルとしてのインディペンデントなカッコよさもサインの決め手になってますね。
──また、かつて存在していたDef Jam Japanには、盟友のTOKONA-Xも在籍していましたね。
そのストーリーもあるんです。同い年で同胞のトコナメ(TOKONA-Xの愛称)が志半ばで他界して。アイツがDef Jam Japanから出した初めてのマキシシングル「Let me know ya…」で、当時、箸にも棒にもかからない俺を呼んでくれたっていう自分の中に深く刻まれている思い出も重なって、これは行くときだなと思ったんです。
ここでどういう結果を残すかが重要
──AKさんが最初に買ったDef Jam作品は?
俺はウエストコーストのヒップホップから入ったんで、ウォーレン・Gの「Regulate... G Funk Era」です。そのあとは、彼がDef Jam傘下に作ったレーベルから出てきたThe Dove Shackとか、South Central Cartelっていうすげえギャングスタなグループとか、いろいろ聴いて。あとは、「ザ・ショウ」っていうヒップホップドキュメンタリーですね。
──レーベル設立10周年を記念して制作されたドキュメンタリー映画ですね。海外の大物ラッパーが大挙して出演していました。
あれを擦り切れるくらい観て、ニューヨークのヒップホップカルチャーを知ったんです。その頃、俺は洋服屋で働いていたんで、ラッセルがやってたPhat Farmっていうブランドとかもチェックするようになって。それとDef Jamといえば、アナログ盤の12inchシングルのエンジ色のジャケット。クラシックが相当あるし、すげえ思い出深いレーベルです。
──Def Jamのロゴをかたどった特製ペンダントヘッドも作られたそうですね。
サインしたあと、すぐ作ろうと思いました。誰が見ても「おぉ、Def Jamじゃん!」ってわかる、世界に通用するペンダントヘッドですからね。Def Jamのロゴを背負えるのはBボーイ冥利に尽きるというか、誰もができることじゃないでしょうから。
──そんなDef Jamの看板を背負うことにプレッシャーはないですか?
もちろんありますよ。契約の話をいただいたときはテンションが上がりましたけど、ここで何をするか、ここでどういう結果を残すかが重要だから、プレッシャーしかないです。でも、それが自分にとって最高の燃料になるんです。今まで自分が「やってやっからな」って駆け上がってきたときのバイブスに近いものが、今、自分の中にあるし、お祝いムードは全然ないですね。
次のページ ≫ この曲は物議を醸すだろうなと思ってた
- ニューシングル「With You ~10年、20年経っても~ / KINGPIN」 / 2016年7月6日発売 / Virgin Music
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 1620円 / UICV-9182
- 通常盤 [CD] / 1080円 / UICV-5053
CD収録曲
- With You ~10年、20年経っても~
- KINGPIN
- With You ~10年、20年経っても~(Instrumental)
- KINGPIN(Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
- With You ~10年、20年経っても~ Music Video
- 「Flying B」LIVE映像(2016.2.27 一夜限りのプレミアム・ライブ「NON FICTION」@豊洲PITより)
- ドキュメンタリー映像
Zepp Tour 2016 ~Flying B~
- 2016年7月18日(月・祝)大阪府 Zepp Namba
AK-69(エーケーシックスティーナイン)
1978年生まれの男性ヒップホップアーティスト。MCおよびラッパーとして活動する際にはAK-69、シンガーとして活動する場合はKALASSY NIKOFFを名乗っている。2004年にKALASSY NIKOFF名義でリリースしたアルバム「Paint The World」を皮切りにソロ活動をスタート。2012年にニューヨークに滞在し、現地のヒップホップ専門ラジオ局「HOT 97」のインタビューを受けたほか、同局主催の野外イベント「Harlem Day」、そして数々のアーティストを輩出したイベント「Who’s Next?」に日本人ラッパーとして初出演を果たした。2014年3月に東京・日本武道館にてワンマンライブを行い成功を収めたほか、翌2015年にはキャリア最大規模となる全国ホールツアーを開催した。ボクサーや野球選手などアスリートたちからの支持も厚く、プロ野球選手の登場曲使用率1位を2014年と2015年の2年連続で記録。2016年1月に「さらなるインディペンデントな活動」を目指して自ら代表を務める事務所・Flying B Entertainmentを立ち上げた。同年2月にシングル「Flying B」を発表。4月にはアメリカの名門ヒップホップレーベルのDef Jam Recordingsと契約を結び、同レーベルからの第1弾作品となるシングル「With You ~10年、20年経っても~ / KINGPIN」を7月にリリースした。