──完成した映像をご覧になっていかがでしたか?
老若男女、誰もが心のどこかに持っているような感情が描かれている作品だなと改めて感じました。AIが人間のように動くというのは近未来的な設定ですが、きっと多くの方々に共感してもらえる物語なんじゃないかなと思います。
──シオンを演じるにあたって、どのようなことを意識しましたか?
作中に「サトミ、いま、幸せ?」というシオンのセリフが何度か出てくるんですけど、その中には「大丈夫?」「今日どうした?」「元気ないね」とか、いろんな気持ちが入ってるんです。だから同じセリフでも全部違う感情を入れようという目標がありました。あと、AIだからセリフを言うときに息を入れていないんです。息を混ぜると人間っぽくなってしまうので、息を切るというところを意識しました。ただ、途中まではそういうふうにあまり感情を入れすぎないようにしていたんですけど、最後のほうのシーンではあえてしっかり息を吸っていたりもします。
──土屋さんとしてはシオンのどういったところに魅力を感じますか?
うーん、いっぱいあるんですけど……私の家にはスマートスピーカーがあって、何かをしゃべると「申し訳ありません」「お役に立てません」と返ってきたりするんです。あと、父が仕事終わりに「はあ、疲れた」とつぶやいたら、Siriが「元気出してください」って(笑)。何があっても元気づけてくれたり、そこまで謝らなくてもいいのになというくらい丁寧に謝罪されたり、そういう機械の素直さがシオンにも感じられたんですよね。そこに切なさみたいなものも感じて、個人的にはグッときました。
──この作品で土屋さんは「ユー・ニード・ア・フレンド ~あなたには友達が要る~」「Umbrella」「Lead Your Partner」「You've Got Friends ~あなたには友達がいる~」の4曲の劇伴の歌唱を担当しています。レコーディングはいかがでしたか?
全体的に音域が高くて、それが自分にとって一番の課題でした。必死にレコーディングしましたね。でも、歌いながらパワーをもらえる曲なので、くじけそうになっても踏ん張ることができました。特に「Lead Your Partner」は好きなテンポの楽曲だったので、楽しくレコーディングさせていただいた記憶があります。あと、「You've Got Friends ~あなたには友達がいる~」のレコーディングは特に思い入れがあって……。
──と言いますと?
コロナ禍でスケジュールがいろいろと変更になったこともあり、レコーディングとミュージカルの稽古が重なってしまったんです。両方で声を出して、どちらも音域が高かったのもあり、「You've Got Friends ~あなたには友達がいる~」のレコーディングを残した状態で喉に結節ができてしまって。結節を治さないとミュージカルの本番に間に合わないということになり、「本当に申し訳ないんですが、最後の1曲をミュージカルが終わってから録らせていただけませんか?」と映画のスタッフさんにダメ元でお願いさせてもらったら、「大丈夫です。終わったら録りましょう」と言ってくださったんです。少し時間を置いて迎えた「You've Got Friends ~あなたには友達がいる~」のレコーディングでは、なんだかシオンが背中を押してくれたような感覚もありました。
──映画の序盤に登場する「ユー・ニード・ア・フレンド ~あなたには友達が要る~」と、後半やエンディングに流れる「You've Got Friends ~あなたには友達がいる~」は同じメロディでありながら、歌詞やアレンジが異なっています。対になっている2曲を歌うにあたって、歌っているときの心情や、気持ちの込め方にどういう違いがありましたか?
「ユー・ニード・ア・フレンド ~あなたには友達が要る~」は「私はこう思うの!」「教えてあげる!」というような歌ですよね。一方的な感情といいますか。だけど、シオンもみんなと一緒に過ごしていくにつれて、人を思うって素敵なんだなということがわかってきた。そういった変化を経たうえでシオンが歌ったのが「You've Got Friends ~あなたには友達がいる~」なんです。一方的に「こうでしょ!」というところから、最後は「こうだったんだね」というような。なので「You've Got Friends ~あなたには友達がいる~」ではちゃんと“息を回せる”ような声にしようと思っていました。ちょうどミュージカルのときに、「はー!」って声を息で飛ばす練習をしていたんですよ。そうすることで、ちょっと人間らしい歌声になるんです。
──なるほど。シオンとして歌うときに常に意識していたことはありますか?
シオンはいつも誰かのために歌っているんです。自分のために歌っているんじゃなくて、サトミのため、トウマのため、みんなが幸せになるために歌っていて。だから私も自分のためではなく、歌でしか気持ちを表現できないシオンのため、そしていろいろとアドバイスしてくださるスタッフさんのために歌おうという気持ちが大きかったです。まずは近くにいる人に伝える。それがお客さんに届けるための第一歩だなと思いました。
──バラードからスイングジャズ調の曲まで見事に歌いこなしていますが、ジャンルによっての歌い分けは意識していましたか?
そうですね。「シオンはAIロボットですが、声を変えていいんですか?」とスタッフさんに聞いたら、「そこは大丈夫です」ということだったので。レコーディングでは、夏木マリさんの歌をイメージして歌わせてもらったりもしました。夏木さんがブルーノートでライブをやったときに「観においで」と誘ってくださったんです。そのときのライブの映像を改めてチェックして、参考にさせてもらいましたね。
──最後に、映画をご覧になる方にメッセージをお願いいたします。
観てくださる方に寄り添って、守ってあげられるような作品になっていると思います。本当に1人ひとりのキャラクターが愛おしいので、いろんなキャラクターに思いを寄せながら、楽しんでいただけたらうれしいです。
- 土屋太鳳(ツチヤタオ)
- 1995年2月3日生まれ、東京都出身。2005年、スーパー・ヒロイン・オーディション ミス・フェニックス審査員特別賞を受賞して芸能界入り。2008年に「トウキョウソナタ」で映画デビューした。2015年にはNHK連続テレビ小説「まれ」でヒロインに抜擢され、映画「orange-オレンジ-」で第39回日本アカデミー賞新人俳優賞に輝く。2018年には「8年越しの花嫁 奇跡の実話」で第41回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞した。2022年2月公開予定の映画「大怪獣のあとしまつ」に出演する。