Aimer「Sign」インタビュー|自分が今この時代に歌う意味とは──5年ぶり海外ツアーで向き合った思い (2/2)

世界のどこにいても、私たちは同じ月を見ている

──もう1つのカップリング曲「月影」は、表題曲「Sign」とはタイプの違うバラードですね。曲名の通り月がモチーフになっていますが、月って、Aimerさんにとって何か特別なモチーフだったりします?

特別というよりは、今の自分にぴったりなモチーフという言い方が近いかな。シンプルに言えば、私と誰かをつなぐものというイメージです。さっきも言ったように「月影」も海外ツアー中に作った曲で、台北ですごく月がきれいな夜があったんですよ。それがとても印象的で、当たり前のことなんですが、日本から離れた場所でも、あるいは世界のどこにいても、私たちは同じ月を見ているんだなって。その「同じ月を見ている」という状態を、今までの自分だったらもうちょっと斜めに切り取っていたと思うんですけど、今回はベタに、素直に曲にしてもいいのかなと思えたんです。

「Aimer 3 nuits tour 2024」上海公演の様子。(撮影:平野タカシ)

「Aimer 3 nuits tour 2024」上海公演の様子。(撮影:平野タカシ)

──自分たちがどこにいようと、変わらずそこにあるものみたいな。

まさに、変わらないものというイメージも重ねています。この曲自体、自分としては「Sign」以上に普遍的な曲であってほしいんですよ。仮に「いつの時代の曲だろう?」と言われたら「いつの時代の曲にもなり得る曲かな」と答えられるような。だからアレンジも奇をてらったところがない、シンプルなものにしていて。私自身、そういう変わらない存在になりたいという思いもありますし、誰かにとってのそういう存在が、音楽であったらいいな。

──「月影」のボーカルは、めちゃくちゃ素朴ですね。飾り気がまったくない。

おっしゃる通り、すごく力を抜いて、リラックスして歌いました。そういうモードだったというか、それが今のモードなんです。

──同じバラードの「Sign」と比較してもまったく違いますし、ある意味、今回の3曲の中で最も衝撃的でした。

本当ですか? そういった違いがどこまで伝わっているのか、自分では全然わからないので……。

──伝わっていると思いますよ。音楽ナタリーのインタビューでも、Aimerさんの歌い方や声の出し方にまつわる話に対して反響があるので。

だとしたら、カップリングの2曲はまさに前回のインタビューでお話ししていたことを実践しています。

──僕は、てっきりもっと前に作った曲だと思っていて……。

そう思いますよね。でも、違うんです。非常に最近の曲なので、最近のモードで歌っています。

──前回のインタビューでは「鼻多めでいきたい」とおっしゃってましたね。

そうです。鼻多めでいきました。なのでこの2曲のボーカルのアプローチは自分でも気に入っています。いいものが録れたんじゃないかな。

ビブラートは自分でせき止めないと勝手に出てきちゃう

──「月影」でも、「Wren」と同様にビブラートが効いていますね。かつ、そのビブラートが曲にもたらす効果がそれぞれ違っていて面白いです。

「月影」のほうがアレンジ的にもよりボーカルが際立っている分、余計な力を抜いて、本当に脱力して歌っているんですけど、その中で自然に出てくるビブラートが……というより私のビブラートは自分でせき止めないと勝手に出てきちゃうんです。それがいいニュアンスになっていたので、このテイクにしました。

──「Wren」のビブラートも勝手に出てきちゃったものなんですか?

そうです。自分で止めようと思わなければ、勝手に出ちゃいます。こんな話、ほかの人としたことないんですけど、みんなそうなんじゃないかな。そもそも私のビブラートは、本来のビブラートではないんですよ。

──何年か前のインタビューでおっしゃっていましたね(参照:Aimer「I beg you / 花びらたちのマーチ / Sailing」インタビュー)。Aimerさんのビブラートは……。

ただ声が震えているだけ(笑)。たぶん声帯の問題なんですけど、いずれにせよ今回は2曲とも自分のビブラートが音楽的にも邪魔にならなかったし、むしろいい響きになっていて。「Wren」と「月影」は毛色が全然違いますけど、聴いてくださる方にも心地よく響いてくれたらいいな。

──個人的には「月影」のようなリラックスした歌を、バラード以外でも聴いてみたいと思いました。

もうちょっとリズムを強調した曲とかでやってみても、面白いかもしれませんね。いつも言っている気がするんですが、いろんな表現に挑戦していきたいという思いは今なお強くなっていて。それは海外ツアーを終えたからというのもありますし、その思いはこの2曲にも込めていますけど、まだまだ終わりじゃない。音楽的にもっと面白いことをしたいという欲求や、さっき言った、自分が今このシーンで歌っている意味といったものを、よりうまく込められたらいいなって。すごくポジティブな気持ちでいます。

──「いろんな表現に挑戦していきたい」というのは、7thアルバム「Open α Door」(2023年7月発売)のインタビューのときにおっしゃっていた「今まで触れてこなかった扉に触れてみる」と同じ意味ですか?(参照:Aimer「Open α Door」インタビュー

またちょっと違うかもしれません。どう違うかは……次お会いしたときまでに言葉にできるようにしておきます(笑)。

──楽しみにしています(笑)。また過去のインタビューを引っ張り出すと、23rdシングル「白色蜉蝣」(2023年12月発売)のインタビューで、Aimerさんは「Open α Door」を作った結果「その時々の自分のままで一歩一歩、歩みを進めていけばいい」と確信できたとおっしゃっていました(参照:Aimer「白色蜉蝣」インタビュー)。それが「月影」の歌詞にある「ここまでの道」につながっているように思えて。

確かに、その気持ちは変わらないですね。とにかく一歩一歩、歩みを進めること、歌い続けることが自分にとって一番大事というか、そうするしかない。振り返ったときにどういう道になっているかは、その時々の自分次第、あるいは道の途中で出会う方々にどういう気持ちをもらうかとか、さまざまな要因で変わってくると思うので、今までと変わらず自分にできることを、自分の道を模索していこうと思っています。

自分にはもっとできることがある

──今日お話を伺って、Aimerさんにとって6、7月の海外ツアーは非常に重要なものだったんだなと思いました。もう少しそのお話を伺っていいですか?

もちろんです。このツアーでは上海と台北で2公演ずつ、香港で1公演やったんですけど、もともとは3都市とも1DAYの予定で。

──ツアータイトルが「3 nuits tour 2024」でしたもんね。

そう。“3夜”のはずが、ありがたいことにとても大きな反響をいただいて、急遽、上海と台北は2DAYSに変更になり、結果的に全5公演になったという。しかも、上海のメルセデス・ベンツアリーナで2DAYS公演をやった日本人ソロアーティストは私が初めてだったらしいんです(参照:Aimer、日本人アーティスト初の上海メルセデス・ベンツアリーナ2DAYS公演で海外ツアー開幕)。それもすごく光栄なことですし、全会場が満員で、お客さんたちの熱量も自分が思っていたより6倍ぐらい大きくて。

「Aimer 3 nuits tour 2024」上海公演の様子。(撮影:平野タカシ)

「Aimer 3 nuits tour 2024」上海公演の様子。(撮影:平野タカシ)

「Aimer 3 nuits tour 2024」上海公演の様子。(撮影:平野タカシ)

「Aimer 3 nuits tour 2024」上海公演の様子。(撮影:平野タカシ)

──6倍。

少ないですか?(笑) 私としては、こんなにも多くのお客さんが来てくださっていることが信じられなくて。日本を発つ前は「海外に自分のファンの方がそんなにいてくれているのかな?」「本当に席が埋まっているのかな?」と半信半疑なところもあったんです。その不安が一瞬で吹き飛ぶほどの熱量で、例えば上海だったら全曲みんなで歌っているみたいな感じでしたし、「六等星の夜」(2011年発売の1stシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」収録曲)ではみんなでスマホのライトを灯して星空を作ってくれて、すごく美しかったです。

「Aimer 3 nuits tour 2024」上海公演の様子。(撮影:平野タカシ)

「Aimer 3 nuits tour 2024」上海公演の様子。(撮影:平野タカシ)

「Aimer 3 nuits tour 2024」香港公演の様子。

「Aimer 3 nuits tour 2024」香港公演の様子。

──情報として、Aimerさんがアジアでも人気だということは僕でも知っていますが、ご本人としては現地でステージに立ってみて初めてそれが実感できたと。

こんなにも多くの人に自分の歌が届いているということを、改めて理解せざるを得なかったというか。さっきの話にもつながるんですけど、そのとき図らずも自分という存在を俯瞰することになって。「なんで言葉もカルチャーも生活スタイルも違う人たちに、自分の音楽が届いているんだろう?」とか、ひいては「自分が今ここで歌う意味はなんだろう?」「その意味を踏まえたうえで、これからどうやって音楽を作っていったらいいのかな?」とか、そういうことまで考えたんです。

──なるほど。

だから、言葉もよくわからない異国の地にいる矮小な自分と、たくさんの人たちの声援を浴びながらステージに立っている自分がいて。ある意味、2人の自分の間でバランス感覚が狂った状態というか、不思議な狭間で作っていったのがカップリングの2曲だし、これからもそういう影響を受けながら作る曲があるんだろうなって。そんな予感も含めて、自分にはもっとできることがあると思いました。

──前回のインタビューでAimerさんは、レコーディングからリリースまでの「タイムラグが毎回歯がゆい」とおっしゃっていましたが、今回は、リスナーとしてもAimerさんの最新のモードをほぼタイムラグなしで受け取れたことになりますね。

そうですね。今言ったようなことを考えて作った分、迷いもかなりあるんですけど、それも込みで今のモードと言えるものになっています。受け取ってください。

ツアー情報

Aimer 全国ホールツアー「Aimer Hall Tour 2024-25 "lune blanche"」

  • 2024年10月25日(金)千葉県 市川市文化会館
  • 2024年10月26日(土)千葉県 市川市文化会館
  • 2024年11月2日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2024年11月3日(日・祝)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2024年11月30日(土)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2024年12月1日(日)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2024年12月6日(金)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2024年12月7日(土)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2024年12月14日(土)神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール
  • 2024年12月15日(日)神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール
  • 2025年1月12日(日)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
  • 2025年1月13日(月・祝)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
  • 2025年1月25日(土)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2025年1月26日(日)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2025年2月1日(土)群馬県 高崎芸術劇場
  • 2025年2月21日(金)大阪府 フェスティバルホール
  • 2025年2月22日(土)大阪府 フェスティバルホール
  • 2025年3月8日(土)東京都 東京ガーデンシアター
  • 2025年3月9日(日)東京都 東京ガーデンシアター

プロフィール

Aimer(エメ)

幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。2021年よりSACRA MUSICに所属。2022年1月にテレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編のオープニングテーマおよびエンディングテーマを収録したシングル「残響散歌 / 朝が来る」をリリース。2022年12月には「第73回NHK紅白歌合戦」に出場し、「残響散歌」を披露した。2023年3月にアニメ「NieR:Automata Ver1.1a」のオープニングテーマ「escalate」、5月にアニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」のエンディングテーマをシングルとしてリリースした。7月に7thアルバム「Open α Door」を発表し、10月よりファンクラブツアー「Aimer Fan Club Tour "Chambre d'hôte"」を行う。12月にNHKドラマ10「大奥Season2」の主題歌「白色蜉蝣」をリリースした。2024年6月に新作EP「遥か / 800 / End of All / Ref:rain -3 nuits ver.-」を発表し、5年ぶりの海外ツアーを実施。8月にアニメ「狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF」の第2クールオープニングテーマ「Sign」を表題曲としたシングルをリリースした。10月より国内10都市19公演の会場ホールツアーを行う。