Aimerがあてのない旅路で見つけた大切なものとは?「王様ランキング」EDテーマに込めた思いを語る

Aimerがニューシングル「あてもなく」を5月10日にリリースした。

シングルの表題曲は、テレビアニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」のエンディングテーマ。温かなアンサンブルに乗せて「笑っていて 笑っていて 強くなくていいんだよ」という飾り気のないメッセージがまっすぐに歌われたナンバーだ。カップリングにはAimerが音楽的に新たな挑戦を試みた「空噪wired」「Life is a song」の2曲が収録されている。

音楽ナタリーではAimerにインタビュー。彼女の言葉には、これからの10年を見据えたうえでのチャレンジ精神が満ちあふれていた。

取材・文 / 須藤輝

一番大事なことは、今この瞬間を笑っていられるかどうか

──表題曲「あてもなく」は比較的オーセンティックなミディアムバラードですが、カップリングの2曲でそれぞれ音楽的なトライアルをなさっていて、挑戦的あるいは実験的なシングルだと思いました。

ありがとうございます。

──まず「あてもなく」はアニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」のエンディングテーマで、メロディも歌詞も歌も屈託がないというか。それでいて、無責任に「笑っていて」と歌うのではなく、そう歌うだけの根拠がある感じがします。

今おっしゃった「屈託がない」というワードは、まさに私が「王様ランキング」から受け取ったイメージで。そういうものを楽曲に落とし込みたいという目的が1つあったので、とてもうれしいです。この「あてもなく」というタイトルにしても、よく「人生はあてのない旅だ」なんて言われますが、そうした言い回しは自分としてもしっくりくるし、歳を重ねるにつれてその実感も増していたんですね。そういったことを主題にした曲を自分の音楽人生のどこかで持てたらいいなと、かねてから思っていたところに「王様ランキング」のお話をいただいたので、私自身にとってもすごくいいタイミングでした。

テレビアニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」キービジュアル ©十日草輔・KADOKAWA 刊/アニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」製作委員会

テレビアニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」キービジュアル ©十日草輔・KADOKAWA 刊/アニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」製作委員会

──Aimerさんは過去のインタビューで、例えば2013年のシングル曲「RE:I AM」を手がけた澤野弘之さんのような作家との「出会いに導かれてここまで来られた」とおっしゃっていました(参照:Aimer「BEST SELECTION "blanc"」「BEST SELECTION "noir"」インタビュー)。つまり今に至るAimerさんの音楽人生も、必ずしも決まった筋道があったわけではない。

その通りですし、それに加えて、この数年でいろんなことがありました。とりわけ地球上で生活している人なら誰しも少なからず影響を受けるような世界規模の出来事が起こって以降、私だけじゃなくて皆さんそうだと思うんですけど、世の中がどんどん混沌としていくのを感じていて。自分の周りにいる人たち、あるいはマスメディアやSNSを通じて、誰もが肩肘を張って、眉間にしわを寄せながら難しい問題に対して答えを出そうとして、そこに時間と労力を割いているのを目の当たりにしてきたんです。

──はい。

もちろん、そうやって難題に立ち向かうこと、何が正しくて何が正しくないかを考え続けることは大事なんだけれども、そもそも人生とはあてのないもので。もし「人生において確かなことなど何ひとつない」と覚悟を決められたとしたら、一番大事なことって、今この瞬間を笑っていられるかどうかなんじゃないか。そういうことをすごく考えていて、この曲を聴いてくれる人にもそれを伝えられたらいいなって。

──サビの「笑っていて」は、シンプルな言葉であることも相まってめちゃくちゃ耳に残ります。

「あてもなく」の歌詞は、一聴して意味がわからないような、複雑な言葉を極力使わないように心がけたんです。今お話ししたようなことをテーマにした曲を作るなら、もしかしたらありきたりかもしれない言葉をあえて選んだほうが馴染むんじゃないかと思って。サウンド的にも奇をてらったようなことは何もしていないし、だからこそ言葉選びも、もっと言えば歌い方もプレーンになっていったところもあります。

──「王様ランキング」を観たことがある人なら、「笑っていて」は主人公であるボッジの笑顔とも結び付くでしょうね。

私も、最初のエピソードからボッジの笑顔がすごく印象的で。あんなにもつらいことを経験しながら、それでも笑顔を絶やさない。しかも彼の場合はしゃべることができない、つまり言葉にできない代わりに笑顔を見せることで「大丈夫だよ」と伝えているようでもあるし、彼自身、自分の周りにいる人にも笑顔でいてほしいと願っているのかなって。だから「笑っていて」とか「笑顔があればいいよ」といった歌詞はありふれているけれど、あてのない人生を生きるうえで本当に大切なことだと思うんです。それは私の周りにいる人たち、例えばバンドメンバーを見ていてもそうで。ライブの当日、自分の控え室でメイクをしていると、遠くのほうにあるバンドの控え室から笑い声が響いてきて、それがもう、うるさいんです。

──うるさい(笑)。

でも、バックステージが静まり返っているのではなくて、誰かの笑い声が彼方から聞こえてくるというのは、とても素敵なことだなって。私にとって、自分の目指す音楽を一緒に形作ってくれる人たちがいることはもちろん大事だけど、それと同じぐらい、その人たちが笑っていること、そして自分自身もその人たちと一緒に笑えていることが大事なんじゃないか。そういうことも考えながら、この曲を作りました。

これからの10年を見据えて

──「あてもなく」の作曲は飛内将大さん、編曲は玉井健二さんと飛内さんというagehaspringsのチームですが、今のお話しぶりからして、この曲は書き下ろしですか?

そうです。玉井さんと飛内さんとはいろんなタイプの曲を一緒に作ってきたんですが、中でも聴く人に寄り添えるような楽曲を数多く作ってきたという感覚があって、「あてもなく」もその系譜にあると言えます。さっき「サウンド的にも奇をてらったようなことは何もしていない」と言いましたけど、一聴して耳にスッと入ってくるような、なんだかわからないけど沁みる曲って、サウンドとしては意外と地味というか。この曲も、音楽的なクオリティは担保しつつ、その中で今の自分だからできることをやってやろうと。

「あてもなく」初回限定盤ジャケット

「あてもなく」初回限定盤ジャケット

──「あてもなく」の音源を初めて聴いたとき、僕は歌い出しの「ひとりきりだった夜も」からけっこう食らったんですよ。紛れもなくAimerさんの歌なのに「これAimerさんなの?」みたいな驚きも込みで。

うれしいです。振り返ってみると、ここ数年というか、去年も「残響散歌 / 朝が来る」(2022年1月発売の20thシングル)と「Deep down」(2022年12月発売のミニアルバム)という、わりと特徴的な音作りをした作品をリリースしていて。逆に言うと、最初におっしゃってくださったオーセンティックな曲、トリッキーなことをせずにあえてストレートなサウンドを狙ったような曲を歌うのがすごくひさしぶりなんです。そういう、自分にとって原点に近い部分のある曲をレコーディングするにあたって、気持ちの入り方が濃密だったというのもあるし、ちょうどこのとき声の出し方を試行錯誤していて……まあ、いつでも試行錯誤はしているんですけど。

──うまいこと表現できないのですが、声が太い?

そうですね。意識的に、そういうアプローチを選択しました。それが、これからの10年を見据えたときに……もちろん10年後の自分が「あてもなく」のアプローチをどう感じるかはわからないけれど、音楽性やサウンドだけでなく、歌い方や声の出し方も実験的に、いろいろトライしてみることが今後さらに大事になっていくんじゃないかなって。音楽的な実験という意味ではカップリングの2曲につながっていくんですが、表題曲では声の部分で実験したと言えるかもしれません。

──「あてもなく」にふさわしいアプローチに、すぐにたどり着けました?

まず「どんな声を出すか」と「どんなふうに歌うか」は違うベクトルで考える必要があって。後者に関しては、この曲はサウンド的には派手さや奇抜さはなくて、もちろん各楽器のプレイヤーの皆さんは緻密な演奏をしてくださっているけれども、一様に「笑っていて」という方向に向かっているんです。であれば歌の形もそこに同調できるように、細かい技術は使いつつも、それを表に出しすぎないアプローチをするべきで。そこにはすぐたどり着けたというか、歌う前からある程度正解が見えていたんです。ただ、声の出し方は本当に試行錯誤を繰り返して、レコーディング中も半ば思いつきのように、そのとき自分がやりたくなったアプローチも試しながら、ようやくこの声にたどり着けた感じです。

──また歌詞の話に戻ってしまいますが、2番の「新しい道探して 見つけたい色とりどりのかけら」というフレーズは、Aimerさんにも重なっているように思いました。以前のインタビューで「ベスト盤の『blanc』と『noir』を経て『ONE』を作ったときに、この曲は白と黒のどちらにもハマらないというか、もっとカラフルな感じがした」「今の自分は『白と黒』という軸から先に進んでいる」とおっしゃっていたので(参照:Aimer「Sun Dance」インタビュー)。

確かに。今までいろんな曲を作ってきた中で、その時々の気分や自分の中で設定していた目標に照らし合わせながらそれぞれの曲を構築していて。今回は曲のテーマが普遍的だからこそ、今の自分が感じていることを……もしかしたら10年後、20年後には感じ方が変わっているかもしれないけれど、素直に紛れ込ませることができたんじゃないかな。