Aimer|梶浦由記プロデュース3部作完結 丁寧に歌い上げた最終曲への思い

ビブラートがビリビリビリビリ!

──もう1つのA面曲「marie」は、東京・国立西洋美術館で開催された「ハプスブルク展」のテーマソングで、ハプスブルク家出身のマリー・アントワネットを題材に書かれた曲ですね(参照:Aimerがマリー・アントワネット題材の新曲を「ハプスブルク展」に書き下ろし)。

はい。歴史上の人物をモチーフに曲を作るという、また新鮮な挑戦をさせてもらいました。

──歌詞の随所にマリー・アントワネットにまつわるワードが散りばめられています。例えば「10月」は彼女が斬首刑に処された月ですが、それを「10月の雨に打たれて 目を閉じた その時に 何を手に入れるだろう?」と表現されるとは、さすがだなと。

ありがとうございます。やっぱり実在する方である以上、妄想で書いてもいけないし、自分なりに文献を読んだりして。ただ一方で、史実に忠実であることに対して、そこまで神経質にはならなかったんです。マリー・アントワネットという人をモチーフにしてはいるけれど、現代を生きる私たちにも、彼女の物語にシンクロする部分はきっとあるだろうなという気持ちを膨らませて書きました。

──「marie」はストリングスを大胆にフィーチャーした荘厳なバラードですが、同じバラードでも先の「春はゆく」とは歌の響き方が異なりますね。

「春はゆく」と「marie」で共通点があるとしたら、どちらも主人公が自分のエゴを抱えている点だと思うんですけど、「春はゆく」が中庸な歌を目指したとしたら、この「marie」では逆に心の叫びを歌にしたという感じです。ただ、それはあくまで心の叫びであって、現実に喚き立てているわけではなくて。なのでビブラートのかけ方とかも、ストリングスと調和するような優雅さを意識しました。このストリングスアレンジも、曲自体が持つメロディラインも、年齢的には大人な感じなんですよ。

──言われてみればそうですね。

例えばライブでみんなで盛り上がるためのロックな曲だったらより若いサウンドになるけど、「marie」は美術展のテーマソングというのも意識して作った、崇高な響きを持った曲なので、金切り声みたいな叫びは合わないなと。まあ、もともと私の声は、自分でも変だなって思うんですけど、ちょっとオブラートに包まれているというか。それは地声じゃなくてミックスボイスで歌っているからなんですけど……こんな話をしても意味がわからないですよね?

──いや、面白そうなので続けてください。

私は、基本的に全部ミックスで歌っているけれど、そのミックスの中でも、曲によって地声と裏声の成分の割合を変えているんですよ。だから地声の割合が多くなると、よりダイレクトに声が響くようになったり。それをこの「marie」では、ミックスの中で激しく、だけど優雅さを失わないようなポイントを狙いました。ただ、ライブで歌うともっと叫んでいる感じになるかも。

──僕は「marie」を先日のライブで初めて聴いたのですが、バラードなのにすごくパンチのある曲だなと感じました。

うれしいです。最後のサビの「美しい日々」の「び」のビブラートが「ビリビリビリビリ!って響いてたよ」とよく言われました(笑)。

嫌いな声も許せるようになってきた

──今のミックスボイスのお話もそうですが、Aimerさんはご自分の声を本当に丁寧に扱っていますね。

私はこの壊れやすい声帯で、いわば爆弾を抱えながら歌っているようなものなので、ミックスで歌うのも難しい部分もあるんです。でも、そういう声の響きが好きでもあるし、その中で表現するのが自分の個性でもあると思っているので、自己満足でしかないのかもしれないけれど、いろいろ模索しながら選んでいるという感じです。

──例えば「Ref:rain」(2018年2月リリースの14thシングル「Ref:rain / 眩いばかり」収録曲)では、あえて嫌いな声の成分を入れて歌ったというお話もされていて、それもすごく面白かったんです(参照:Aimer「Ref:rain / 眩いばかり」インタビュー)。

いやあ、それで言うと「春はゆく」では嫌いな声が一切出ないよう気を付けたんですけど「しんしんと降り積もる時の中」の部分でちょっと出ちゃったんですよ。

──あれ? 僕はそこの歌声がとても好きなのですが……。

ありがとうございます。最近はですね、私の嫌いな声を「いい」と言ってくださる方もけっこういらして(笑)。

──自己評価と他者の評価が食い違っているんじゃないですか?(笑)

それに気が付いてから、寛容になったところもありますね。逆に言えば、例えば初期の頃、それこそ1stアルバムのあたりは未熟だったこともあって、ああいう表現しかできなかったんです。でも今は選択肢も増えたし、その選択肢の中にある自分の嫌いな声の出し方も許せるようになってきたというか。まあ、それを選ぶには勇気がいるんですけど。

──その曲に必要ならば、嫌いな声も出すと。

そうです。正直、あとで聴いて「うわあ、やっぱりやめといたほうがよかったかな?」と思うこともあるんですけど、以前よりも「もっと冒険してみよう」という気持ちが大きくなっていますね。

Aimer

自分のリミッターを外したい

──カップリング曲の「Run Riot」はアグレッシブなロックナンバーで、先ほどの楽曲の年齢感のお話につなげると、若いサウンドということになる?

確かに、「Run Riot」にもストリングスが入っているけれど、そういう意味では「marie」とは対極にありますね。「marie」も「Run Riot」もツアー中に作った曲で……というか私はだいたいツアー中に曲を作っているんですけど(笑)。

──そうですね(笑)。

「Run Riot」はライブでみんな一緒に盛り上がれて、なおかつ自分のリミッターを外せる曲が欲しいと思って作った曲です。あと、梶浦さんが「春はゆく」という曲をくださって、このシングル自体も春にリリースされることが決まっていたので、「Run Riot」はすごく強くて速い、春の風をイメージして。でも私は嫌いです、春の風は。

──僕も嫌いです。花粉症なので。

ただ、桜の花を散らして、何もかもさらってしまうような春の風に吹きつけられて目をつむりたくなるけど、それでも前を向いて進みたい。そういう気持ちをこの曲を通してみんなに持ってほしいという思いも込めました。

──Aimerさんにしては、歌詞も比較的アグレッシブですよね。

そうなんです。今回はですね、自分でも「いいのかな?」と思いつつ、大胆に言葉を選んでみました。やっぱり今、ステージに立つパフォーマーとしての自分の表現の幅を広げたいと思っているし、音楽家としても、このシングルでは特にストリングスによりこだわっていて。そのうえで作詞面でも、今までだったら選ばなかったような言葉を選んだりして、自分のリミッターを外すことを試みました。

──Aimerさんは、気が付けばこのようなロックナンバーも当たり前のように歌いこなすボーカリストになっていましたね。

このシングルの中では「Run Riot」が一番歌いやすかったです。確かに、気が付けば「歌いやすかった」なんて言いのけている自分がいるというのはなんだか不思議な気もしますけど、やっぱりBPMが速くて勢いで歌える曲でもあるので、本当にすんなり歌えました。

──先日のライブでも1曲目がスリリングなロックナンバー「STAND-ALONE」(2019年5月リリースの配信限定シングル)で、いきなりロックボーカリスト然としたパフォーマンスを披露していましたし。

やっぱり「daydream」(2016年9月リリースの4thアルバム)でTK(凛として時雨)さんやTaka(ONE OK ROCK)くんがプロデュースしてくれた曲が1つの転機になっているのは間違いないですね。そこからまたライブを重ねて、特に最近のライブではよりみんなとの一体感が得られていて。だからこそリミッターを外すことが今の自分に必要だと思ったし、この曲がまたそういうシーンを作ってくれるはずです。