Aimerが4月10日にニューアルバム「Sun Dance」「Penny Rain」を2枚同時リリースした。
音楽ナタリーでは2枚のアルバムを深く掘り下げるべく、特集を2回にわたって展開中。第2弾となるこの特集では「雨」をテーマに制作された「Penny Rain」のインタビューを掲載する。リリースに先駆けて公開された「Sun Dance」のインタビュー(参照:Aimer「Sun Dance」インタビュー)と共に、アルバムの“副読本”として楽しんでほしい。
取材・文 / 須藤輝
根がわりと理屈っぽいので
──「Sun Dance」の原点は「ONE」(2017年10月発売の13thシングル「ONE / 花の唄 / 六等星の夜 Magic Blue ver.」収録曲)とのことでしたが(参照:Aimer「Sun Dance」インタビュー)、一方の「Penny Rain」の原点は……。
「Ref:rain」(2018年2月発売の14thシングル「Ref:rain / 眩いばかり」収録)ですね。「ONE」以降、アップテンポなダンスナンバーをもっと歌いたいとは思っていたんですけど、その時点ではまだ「太陽」というイメージは浮かんでいなくて。そのあと「雨」のバラードを歌う機会をいただいて、だったら踊れるほうは「太陽」にしたらバランスがいいんじゃないかと、「太陽と雨」に決めました。
──Aimerさんはデビュー当時から「相反するもの」「対極にあるもの」を表現することを大事にされてきました。ベスト盤の「blanc」と「noir」(2017年5月発売の「BEST SELECTION "blanc"」「BEST SELECTION "noir"」)、すなわち「白と黒」もその表れだったわけですが(参照:Aimer「BEST SELECTION "blanc"」「BEST SELECTION "noir"」インタビュー)、一貫してコンセプチュアルな作品作りをなさっていますよね。
根がわりと理屈っぽいので(笑)。音楽に対して、シンガーとしていろんなチャレンジをすることには抵抗がないんですけど、アーティストとしてどういう道筋をたどっていくかという部分に関しては詰めて考えたいというか。
──シングルでも毎度コンセプチュアルですよね。それこそ「Ref:rain/眩いばかり」は全曲「雨」で貫かれていましたし(参照:Aimer「Ref:rain / 眩いばかり」インタビュー)。
そうですね。シングルであっても何かしらのストーリーを求めがちで。
──アルバムにしても1stアルバム「Sleepless Nights」(2012年10月発売)、2ndアルバム「Midnight Sun」(2014年6月発売)で夜の歌を歌い、3rdアルバム「DAWN」(2015年7月発売)で夜明けを迎えて4thアルバム「daydream」(2016年9月発売)に至るというストーリーがある。
ある意味、それは自然な流れでもあったんですけど、そのうえで、ちゃんとストーリーを立てて、コンセプチュアルに作れているという自負はありますね。だから今回も、「太陽と雨」というコンセプトで、かつ2枚のアルバムを作るという構想が生まれたときはすごくワクワクしたし、どちらもストーリーを大事に作っていきました。
物語の始まりから「Sun Dance」との対比が過剰
──「Sun Dance」と「Penny Rain」を続けて聴くと、両者のコントラストの激しさにびっくりしますね。
ですよね(笑)。「Penny Rain」も冬に回ったツアー「soleil et pluie」から名前をとった「pluie」というインスト曲がオーバーチュアとして1曲目に入っていて、こちらは梶浦由記さんに作っていただいたんです。
──この「pluie」も、「Sun Dance」の1曲目「soleil」と同様に何かが始まる予感がしますが、その方向性が……。
正反対で、「pluie」はなんだかわからないけど不穏な何かが始まるような。そうしてるうちに「I beg you」(2019年1月発売の16thシングル「I beg you / 花びらたちのマーチ / Sailing」収録曲)が始まるっていう。もう、物語の始まりから「Sun Dance」との対比が過剰だと自分でも思うし、そういう始まり方が素敵だなって。
──「I beg you」も梶浦さんプロデュースの曲ですから、やはり「Sun Dance」収録の百田留衣さん作曲の「soleil」「ONE」と同様に、アルバムの1、2曲目がシームレスですよね。それにしても、実質的な1曲目が「I beg you」というのは強烈です。
私は、「I beg you」はアルバムに入れるならここしかないと思ってました。梶浦さんがおっしゃるには、「I beg you」の歌詞はある意味ありふれた、誰もが持ち得る感情をただ書いただけだと。だとしたら冒頭の「あわれみを下さい」という歌詞もそれ単体では衝撃的だけど、もしかしたら普遍性のあるフレーズかもしれないって、梶浦さんのお話をお聞きして思ったんです。これは梶浦さんが挙げられた例なんですけど、例えば好きな人がいて、その人との恋が叶わないとしても「私のことを好きじゃなくてもいいから、あなたのそばにいさせてください」みたいに願う気持ちとか。
──ちょっとわかる気がします。
そういう1語1語に強度のある歌詞を、どこか中東の匂いのする、しかもダンサブルな音楽に乗せているからこそ、第一印象ですごく効果的に「恐ろしい世界だな」というのが伝わるんじゃないかと思っていて。自分としても、前回のインタビューでもお話しした通り、思いもよらないメロディラインの中で、今の自分にできる表現を出し切れたという意味でもとても満足している曲ですし(参照:Aimer「I beg you / 花びらたちのマーチ / Sailing」インタビュー)。だから「I beg you」を最初に聴いてもらいたかったんです。
雨だけど冷たい雨ではない
──そこから「Black Bird」(2018年9月発売の15thシングル「Black Bird / Tiny Dancers / 思い出は奇麗で」収録曲)、「Sailing」、さらにCoccoさんからの提供曲「眩いばかり」と続きますが、この並びも強烈ですね。改めてこのアルバムに至るまでのシングルの充実ぶりがわかります。
ありがとうございます。「Sailing」までは、いわば激しい雨のように畳みかけて、「眩いばかり」で少し展開して……。
──6曲目の新曲「Stand By You」へ。TK(凛として時雨)さん作詞、作曲、編曲の、ストリングスをフィーチャーしたアップテンポなロックナンバーですね。
はい。TKさんとはアルバム「daydream」の制作時に初めて直接お会いしたんですけど、私の数少ない交友関係は、このアルバムでいろんなアーティストの方とご一緒したことから生まれていて。
──数少ないんですか? とても多そうに見えますが。
いやいやいや。中でもTKさんとは特に仲良くさせていただいて、TKさんのスタジオに遊びに行ったりもしていたんです。そこでずいぶん前に「この曲を歌ってみて」と言われた曲が「Stand By You」で、そのときにプリプロ的なこともしていて。で、「いい曲だから、大事にしたいね」という話をしつつ、世に出すタイミングを逃し続けていたんですけど、今回、「雨」のアルバムにぴったりじゃないかと思って入れさせてもらいました。
──「Sun Dance」にもロックナンバーは収録されていましたが、それとは音の感触がまったく違いますね。
やっぱりTKさんの曲の音像って、ちょっとダークで、それでいて刹那的で、それが「雨」に合ってるなって。あと歌詞も、「それでも光は時々雨に触れて虹を映して僕を照らした」という1行は、私からTKさんに頼んで……。
──「『雨』というワードを入れてください」と?
そうです(笑)。そしたらTKさんは優しいから、レコーディング当日にスタジオで書き換えてくださったんです。
──その書き換えられたパートも含めて、TKさんの歌詞をどのように解釈されました?
過去にTKさんが書いてくださった「us」(2016年7月発売の10thシングル「insane dream / us」収録曲)とも「声色」(アルバム「daydream」収録曲)ともまた違って、個人的には、ちょっと愛が見えるというか。「Stand By You」というタイトル自体も、誰かがいて、その誰かに向けて自分の気持ちを表明しているように感じましたし。雨だけど、決して冷たい雨ではない。
──サウンドにしても、ヒリヒリしていて緊張感があるのに、サビは非常にキャッチーですよね。
そうですね。だから歌うときも、もうちょっと激しく歌おうかなとも思ったんですけど、TKさんと話して「少し抑えてマイルドに歌ってもいいかも」って。その温度感を一緒に探りながら作っていきました。
──確かに「us」のように限界を突破するような歌い方ではないですね。
「us」はホントに突き抜けているので。それよりはもう少し優しさをにじませているというか。「Stand By You」は「雨」のアルバムに入れたけれど、最後にはだんだん雨が上がっていってるような気がします。
──そのイメージは次の「Ref:rain」にも引き継がれていますよね。Amierさんご自身も「雨上がりの晴れ間が見えるようなサウンド」と形容してらっしゃいましたし。
そう。「Ref:rain」は最初にお話しした通り「雨」のアルバムの原点なので、ある種、運命的な曲だったと言えるかもしれません。
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「太陽と雨」の次のステージを“image”できる
- Aimer「Sun Dance & Penny Rain」
- 2019年4月10日発売 / SME Records
-
完全生産限定盤
[CD2枚組+Blu-ray2枚組]
9720円 / SECL-2409~13 -
初回限定盤A
[CD2枚組+Blu-ray]
5184円 / SECL-2414~6 -
初回限定盤B
[CD2枚組+DVD]
4752円 / SECL-2417~9 -
配信
- 「Sun Dance」収録曲
-
- soleil
- ONE
- We Two
- 3min
- コイワズライ
- 花びらたちのマーチ
- 思い出は奇麗で
- Monochrome Syndrome
- SUN DANCE
- One -epilogue-
- 「Penny Rain」収録曲
-
- pluie
- I beg you
- Black Bird
- Sailing
- 眩いばかり
- Stand By You
- Ref:rain
- i-mage <in/AR>
- 花の唄
- April Showers
- 完全生産限定盤 Blu-ray 収録内容
-
DISC 1
- I beg you
- Black Bird(Movie ver.)
- zero
- ONE
- 眩いばかり
- 思い出は奇麗で(Father's day edit)
- Ref:rain
- 花びらたちのマーチ
- 歌鳥風月
- 花の唄
DISC 2
- soleil(soleil et pluie)
- ONE(soleil et pluie)
- Monochrome Syndrome(soleil et pluie)
- Believe Be:leave(soleil et pluie)
- 3min(soleil et pluie)
- あなたに出会わなければ~夏雪冬花~(soleil et pluie)
- 今日から思い出 Evergreen ver.(soleil et pluie)
- カタオモイ(soleil et pluie)
- 思い出は奇麗で(soleil et pluie)
- Ref:rain(soleil et pluie)
- 眩いばかり(soleil et pluie)
- 花の唄(soleil et pluie)
- Black Bird(soleil et pluie)
- After Rain -Scarlet ver.-(soleil et pluie)
- Hz(soleil et pluie)
- 蝶々結び(soleil et pluie)
- 初回限定盤A Blu-ray / 初回限定盤B DVD 収録内容
-
- I beg you
- Black Bird(Movie ver.)
- zero
- ONE
- 眩いばかり
- 思い出は奇麗で(Father's day edit)
- Ref:rain
- 花びらたちのマーチ
- 歌鳥風月
- 花の唄
- Aimer「Sun Dance」
- 2019年4月10日発売 / SME Records
-
通常盤 [CD]
2160円 / SECL-2420
- 収録曲
-
- soleil
- ONE
- We Two
- 3min
- コイワズライ
- 花びらたちのマーチ
- 思い出は奇麗で
- Monochrome Syndrome
- SUN DANCE
- One -epilogue-
- Aimer「Penny Rain」
- 2019年4月10日発売 / SME Records
-
通常盤 [CD]
2160円 / SECL-2421
- 収録曲
-
- pluie
- I beg you
- Black Bird
- Sailing
- 眩いばかり
- Stand By You
- Ref:rain
- i-mage <in/AR>
- 花の唄
- April Showers
- Aimer(エメ)
- 女性シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。2014年6月に2ndアルバム「Midnight Sun」と、澤野弘之とのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時発売し、同年9月には菅野よう子、青葉市子らが参加する新作「誰か、海を。」を発表した。2016年7月にONE OK ROCKのTaka(Vo)と凛として時雨のTK(Vo, G)が提供およびプロデュースした楽曲を収めた両A面シングル「insane dream / us」、8月にRADWIMPSの野田洋次郎(Vo, G)制作の「蝶々結び」を収めたシングルをリリース。9月にTaka、野田のほか、andropの内澤崇仁(Vo, G)、スキマスイッチが楽曲提供およびプロデュースをした新曲を含むアルバム「daydream」を発表し話題を集める。2017年5月にベストアルバム「BEST SELECTION "blanc"」と「BEST SELECTION "noir"」を同時リリース。8月に初の東京・日本武道館単独公演を行い、13000人を動員した。2018年2月にCocco提供の「眩いばかり」を含むニューシングル「Ref:rain / 眩いばかり」を、9月に映画「累-かさね-」の主題歌「Black Bird」を収録したシングルをリリース。2019年1月に劇場版「『Fate/stay night[Heaven's Feel]』II.lost butterfly」の主題歌「I beg you」を収めたトリプルA面シングルを発表した。4月に2年半ぶりとなるオリジナルアルバム「Sun Dance」「Penny Rain」を2枚同時リリース。