Aimer×菅野祐悟|映画「累-かさね-」から生まれ落ちた音楽

美しいからといってすべてがうまくいくわけではない

菅野 Aimerさんは累とニナ、どちらにより共感しました?

映画「累-かさね-」のワンシーン。©2018映画「累」製作委員会 ©松浦だるま/講談社

Aimer 完全に累ですね。でも、ニナに共感できないかといったらそうではなくて。原作を読んで思ったんですけど、美しいからといってすべてがうまくいくわけではない。先ほど菅野さんがおっしゃったようにイケメンはがんばらなくてもモテるとしても、たぶんイケメンはイケメンなりに、悩みを抱えてるのでは?

菅野 でもね、あるイケメン俳優がテレビで「いつもいろんな人から『イケメン』って言われるのがコンプレックスなんです」みたいなことを言ってて、贅沢にもほどがあるだろと(笑)。

──ほどがありますね(笑)。

Aimer それは、うーん(笑)。

菅野 すみません、話の腰を折りました。続けてください。

Aimer 私がすごく印象に残ってるのは、ニナが真っ暗な部屋で体育座りをしながら、ニナの顔で舞台に立っている累をテレビで観ているシーンなんです。つまり、ニナは自分の中身=才能を評価されていないばかりか、彼女の美しさは累の才能をもってすれば一層輝く。そういう現実を突き付けられた、絶望的な瞬間ですよね。逆に累は、本来の自分の姿ではその才能を発揮する機会は失われたままだったわけですし。やっぱりこの作品は累とニナそれぞれのコンプレックスをえぐってくるし、ひいては「自分を自分たらしめているものはなんなのか」みたいな領域にまで及んでくると言うか。

菅野 自分たらしめているものが容姿の美しさだとしたら、それが失われたときにどうなってしまうのか、とかね。

Aimer あと、これも原作を読んで感じたことなんですけど、外見が美しい人は周りから「可愛いね」「きれいだね」って、愛を受けて育つことになるじゃないですか。だから自然と内面も美しいものになっていくのかもしれない。逆に醜い人は、外見的なコンプレックスから内面的にも卑屈になってしまったり。

菅野 うんうん。

Aimer それはすごく残酷なことなんですけど、でも「醜い」と言われてきたからこそ、虐げられる側の気持ちを理解できるという美しさもあるし。逆に「美しい」と言われすぎると、そういう気持ちに鈍感になってしまうかもしれないし……ホントに、外見と内面の美しさの関連について考えさせられちゃいますね。

菅野祐悟流の劇伴の作り方

Aimer 私は試写を観てから菅野さんのサウンドトラックを聴かせていただいたんですけど、ホントに音だけで各シーンが浮かび上がってくるんですよね。私の場合は主題歌の歌詞で、つまり言葉でそれをやろうとしているところがあるので、ホントに面白い対比だなって。

菅野 それは面白い視点ですね。

Aimer

Aimer あと「累-かさね-」自体がある種、不穏な作品なので、音楽も全体的にそういう空気をまといながらも、一方で累が救いのようなものを見出したり、恋心を抱いたりするシーンでは、解き放たれるような楽曲もあり、多彩ですよね。

菅野 ありがとうございます。劇伴って、お客さんに対して先に答えを言ってしまうところがあるんですよ。わかりやすく言うと、例えばある人物の登場シーンでいかにも悪そうな音楽を付けたら、「この人は悪者ですよ」っていうネタバレになっちゃう。

Aimer ああ、そうか。

菅野 ただ、それを逆手にとって、フェイクでそれっぽい音楽を付けたりもするんです。特に「累-かさね-」は土屋太鳳さんと芳根京子さんのダブル主演で、1人2役ないしは2人1役みたいな感じでそれぞれ累とニナを演じているわけじゃないですか。だから、例えば今スクリーンにはニナが映ってるけど、その中身はニナ本人なのか、それとも累なのか、お客さんがすぐにわかるようにしなきゃいけないシーンもあれば、わかりづらいほうがいいシーンもある。そういうことも考えながら作っています。

Aimer 言われてみれば、そうですね。シーンごとに音楽によってもこちらの感情が揺さぶられますし、もう最初から「累-かさね-」を象徴するような音楽だったので、ずっとドキドキしながら引き込まれちゃいました。

菅野 映画のド頭でかかる音楽は、監督がこの映画をどういう気持ちで観てほしいかを示す役割もあるんですよね。まさにエンドロールでかかるAimerさんの主題歌とは逆で。だからオープニングでAimerさんがドキドキしてくださったのなら、成功です(笑)。

──「累-かさね-」のサントラにはミニマルやアンビエント、あるいはレフトフィールドテクノを思わせる実験的な楽曲も多いですよね。

菅野 「累-かさね-」は、何が正解で何が不正解かわからないと言うか、先ほどAimerさんがおっしゃったように考えさせられるタイプの映画だと思うんですよ。要はハリウッドの娯楽映画のような作品ではないので、大仰に盛り上げるよりは、音響的な音楽で心をざわつかせるとか、そういう心理的効果も狙っていますね。例えば長調なのか短調なのかわからないような曲だったり。

Aimer はいはい。

映画「累-かさね-」のワンシーン。©2018映画「累」製作委員会 ©松浦だるま/講談社

菅野 映画のラストシーンでかかるピアノのテーマ曲もそういうふうに作ってるんですけど、同時にこの曲はニュートラルな曲でもあって、いろんなシーンで断片的に使われているんです。つまり布石を打つみたいな感じで、お客さんの中に累とニナの物語が音と共に積み重なっていって、最終的にあの曲に集約されて心がざわざわするみたいな。

Aimer なるほど、面白いですね。あと物語の後半で、ニナの顔をした累が舞台「サロメ」で主役を演じるじゃないですか。あそこは言わば劇中劇の劇伴になっていて、本編とは音楽性がまったく違うのに、それでいて「累-かさね-」の世界にちゃんとなじんでいるので驚きました。

菅野 あのシーンの音楽は、監督から「先に欲しい」と言われたんですよ。撮影のときに必要になるということで。

Aimer ああ、音楽に合わせて踊るシーンがあるから。

菅野 そう。だから最初にあの曲を作ったんです。僕は当初、あの曲を印象付けようと思って、ニナが踊るシーンよりも前のシーンに入れて監督にプレゼンしたんです。そしたら監督は「この曲は踊るシーンでしか使いたくない」「あそこでかかるインパクトを大事にしたい」と。だからさっき言った布石を打つパターンとは正反対ですよね。やっぱり音楽による演出次第で映画の見え方も変わるし、監督によって演出の方針も違うので、いろんな作品に関わらせてもらうことで僕としてはものすごく勉強になります。ちなみに佐藤監督とは何度かお仕事をさせていただいていて、大好きな監督なので楽しく作曲できました。

Aimer ここまでの菅野さんのお話を踏まえたうえで、もう一度「累-かさね-」を観たくなりました。

菅野 めちゃくちゃ光栄です。

Aimer「Black Bird / Tiny Dancers / 思い出は奇麗で」
2018年9月5日発売 / SME Records
Aimer「Black Bird / Tiny Dancers / 思い出は奇麗で」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
1620円 / SECL-2330~1

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Aimer「Black Bird / Tiny Dancers / 思い出は奇麗で」通常盤

通常盤 [CD]
1350円 / SECL-2332

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初回限定盤CD収録曲
  1. Black Bird
  2. Tiny Dancers
  3. 思い出は奇麗で
  4. 今日から思い出 Evergreen ver.
  5. Black Bird(Movie ver.)
通常盤CD収録曲
  1. Black Bird
  2. Tiny Dancers
  3. 思い出は奇麗で
  4. 今日から思い出 Evergreen ver.
初回限定盤DVD収録内容
  • 「Black Bird」MUSIC VIDEO(Movie ver.)
  • 「Ref:rain」MUSIC VIDEO
菅野祐悟「映画『累-かさね-』オリジナル・サウンドトラック」
2018年9月5日発売 / SME Records
菅野祐悟「映画『累-かさね-』オリジナル・サウンドトラック」

[CD]
2700円 / SECL-2333

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収録曲
  1. 累の記憶
  2. 自信と優越感
  3. 光の下へ
  4. 私は女優
  5. オーディション
  6. トレーニング
  7. 私の居場所
  8. まるでシンデレラ
  9. 嫉妬
  10. 顔を返して
  11. 支配
  12. 本当の君
  13. 恋敵
  14. 偽物
  15. 見えるものが、すべて
  16. ターリア病
  17. この顔がお前からすべて奪った
  18. 5ヶ月
  19. 奈落の底
  20. ユダヤの預言者ヨカナーン
  21. 伝説の女優
  22. 初めての快感
  23. サロメになる
  24. 幕開け
  25. サロメのダンス
  26. ヨカナーンの首をちょうだい
  27. 狂気の笑み
  28. 終わらせない
  29. お前の唇に、あたし、キスをした
映画「累-かさね-」
2018年9月7日 全国ロードショー
映画「累-かさね-」
Aimer(エメ)
女性シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。以降、「夏雪ランデブー」「機動戦士ガンダムUC」といったアニメ作品のテーマソングを担当。2014年6月に2ndアルバム「Midnight Sun」と、澤野弘之とのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時発売し、同年9月には菅野よう子、青葉市子らが参加する新作「誰か、海を。」を発表した。2016年7月にONE OK ROCKのTaka(Vo)と凛として時雨のTK(Vo, G)が提供およびプロデュースした楽曲を収めた両A面シングル「insane dream / us」、8月にRADWIMPSの野田洋次郎(Vo, G)制作の「蝶々結び」を収めたシングルをリリース。9月にTaka、野田のほか、andropの内澤崇仁(Vo, G)、スキマスイッチが楽曲提供およびプロデュースをした新曲を含むアルバム「daydream」を発表し話題を集める。2017年5月にベストアルバム「BEST SELECTION "blanc"」と「BEST SELECTION "noir"」を同時リリース。8月に初の東京・日本武道館単独公演を行い、1万3000人を動員した。2018年2月にCocco提供の「眩いばかり」を含むニューシングル「Ref:rain / 眩いばかり」を、9月に映画「累-かさね-」の主題歌「Black Bird」を収録したシングルをリリース。
菅野祐悟(カンノユウゴ)
1977年生まれの作曲家。東京音楽大学作曲科卒。2004年フジテレビドラマ「ラストクリスマス」でドラマ劇伴デビューする。手がけた主な作品に、映画「祈りの幕が下りる時」「ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~」「亜人」「昼顔」「3月のライオン」「真夏の方程式」「SP 野望篇/革命篇」「容疑者Xの献身」、テレビドラマ「刑事ゆがみ」「東京タラレバ娘」「MOZU」「ガリレオ」「ホタルノヒカリ」「新参者」、アニメ「ニンジャバットマン」「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風/ダイヤモンドは砕けない/スターダストクルセイダース」「PSYCHO-PASS サイコパス」などがある。2009年公開の映画「アマルフィ 女神の報酬」で「第19回 日本映画批評家大賞」の「映画音楽アーティスト賞」と、「日本シアタースタッフ映画祭」で「音楽賞」を受賞。その後、NHK大河ドラマ第53作目の「軍師官兵衛」、連続テレビ小説第98作目の「半分、青い。」の音楽を担当する。現在は映画、テレビドラマ、アニメーションを中心にドキュメンタリー、ゲーム音楽などあらゆるメディアで幅広く活躍中。2018年9月に自身が音楽を手がけた映画「累-かさね-」のサウンドトラックアルバムをリリースした。