ナタリー PowerPush - Aimer
それでも誰かのために祈る 13編の普遍的な物語
選択肢が増えたがゆえに巻き起こる悩み
──先ほど言っていた変化したいと願って変化できることってAimerさんの面白いところであり、特質ですよね。我々を含め、たいていの人は変わろうと思ってもおいそれと変われはしないのに、きちんと変われる。それこそ一聴しただけで、素人にも「あっ、この人変わった」ってわかったわけですから。
でも私自身、“真夜中の太陽”を見つけるまでがスムーズだったかと言われると、そうでもないんです。「Sleepless Nights」の頃はまだ出せる声色のバリエーションが少なかったから、逆に自分を素直に表現できた。そのとき自分が持っている技術を全部使うしかなかったので。でもこの2年間、いろんな楽曲を歌わせていただいたり、ライブを重ねてきたりしたことで、自分の声色の幅も広がっていて。それも「いろいろなタイプの曲を歌ってみたい」と思った理由の1つではあるんですけど、選択肢が増えたぶん、制作期間中は、どういう歌い方をしていいのか、ずっと悩んでいた気はします。
──どうやって解決しました?
とにかく取捨選択を繰り返すしかなかったですね。ただ、そうやって悩んで葛藤したからこそ、今自分の持っているすべてを出し切れた、ベストを尽くせたのかなとは思ってます。
「叶わないかもしれないけど祈る」という気持ち
──今作がAimerさんのディスコグラフィの中でも特に明るく聞こえた理由にはその声色で歌う、Aimerさんの歌詞もあると思うんです。例えば「小さな星のメロディー」では本当にかわいらしいメロディに乗せて「小さな星の大きな愛が あなたへ届け」と直接的な言葉を歌っていたりしますし。
前回お話したように相反する感情を大切にしようっていうのは今も変わってはいない。だからアルバムタイトルを「Midnight Sun」、“真夜中の太陽”にしているわけですし、詞を書くとき「変わらなきゃ」「よし、変えよう」と思っていたわけでもないんですけど、確かに今回は祈りの言葉をつづった曲が多い気はしています。根っこの気持ちは変わっていないんですけど、見せ方が変わったというか。「祈るけど叶わないかもしれない」じゃなくて「叶わないかもしれないけど祈る」という気持ちが強く出た気はしています。
──ちょっと変な聞き方になっちゃうんですけど、なんで祈ろうと思ったんですかね?
なんでだろう(笑)。例えば「Cold Sun」なんかは祈りも何もない。自分の中にある強さと弱さに葛藤しながら書いた、けっして明るいとは言えない曲な一方で、確かに「7月の翼」の詞には祈りを込めたつもりなんですけど……。
──これまでならきっと愛する人に会いに行くかどうか逡巡していた気がするAimerさんが「もし願いが叶うなら、夜空も越えて会いに行くよ」と歌っていますよね。
ただこの「会いに行くよ」も単純に前向きな明るい祈りの歌かといったらそうではないんです。7月7日になると、はくちょう座の翼が、織姫と彦星のあいだを隔てている天の川に橋を架けてくれるっていう中国の神話を知って、「そういう翼がみんなにあればいいのにな」って思った。そういう祈りを込めて書いた歌ですから。むしろ会えない人に会いたいと祈る歌。もう2度と会えないって絶望したり、会いに行くことに迷ってドロドロと情念を渦巻かせたりはしない。穏やかではあるんだけど、やっぱり苦しい(笑)。そういう曲なんです。
──諦めよりも祈りが前に立ってはいるんだけど、やっぱり穏やかさと苦しさという相反する気持ちや状況を歌った歌ではある、と。
そうですね。それは「Iris」も同じで。「夜を越えて朝が来たら、愛する人とつながろう」っていう祈りの詞ではあるんですけど、「もう眠ろう」と眠った主人公に朝が来るかはわからないわけですし。
──「朝が来る“なら”」と歌ってますもんね。
昔から、苦しさのまっただ中にある人を描いた物語よりも、その苦しさから少し解放されたあとの物語。今も苦しみは残っているんだけど、希望は感じられるっていう物語が好きだから、どちらの曲にもそういう気持ちが出たのかなっていう気はしています。
私小説よりも普遍的な物語を書きたい
──詞を書くとき、七夕の神話のような物語にインスパイアされることって多いですか?
映画や本の影響は大きいですね。「Iris」もギリシャ神話をイメージして作った歌ですし。ギリシャ神話を読んでいると、よくイリスっていう虹の女神が、神様同士の伝言役として出てくるんです。彼女が神様と神様のあいだに虹をかけてお互いの言葉を伝えていく。その誰かと誰かをつなぐイメージから「Iris」っていうタイトルにして、「朝が来るなら」誰かとつながれるかもしれないっていう祈りの詞を書いたんです。
──その詞自体もどこか物語的ですよね。「溶けだした色が ひとつになって 夜にかかる虹を描き出した」とファンタジックな情景を描写している。
そうですね。基本的には誰かの物語、その曲の主人公の物語を作っているつもりですから。
──歌詞を形容する言葉に「実体験をもとに」なんて言葉もあるけど……。
そういう私小説的な物語よりも、もっと普遍的な物語、私もみんなもそう感じるだろうなっていう物語を歌っていきたいなっていう気持ちのほうが強いんです。
- Aimer 2ndアルバム「Midnight Sun」/ 2014年6月25日発売 / DefSTAR Recordst
- 「Midnight Sun」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3600円 / DFCL-2068~9
- 通常盤 [CD] 3200円 / DFCL-2070
CD収録曲
- WHEN YOU WISH UPON A STAR -prologue-
- 眠りの森
- 7月の翼
- words
- Cold Sun
- AM03:00
- 小さな星のメロディー
- VOICE
- RE:I AM
- StarRingChild
- 星の消えた夜に(Re-echoed by Genki Rockets × give me wallets)
- Iris
- WHEN YOU WISH UPON A STAR
初回限定盤DVD収録内容
- 「眠りの森」MUSIC VIDEO
- 「今日から思い出」MUSIC VIDEO
- 「ポラリス」MUSIC VIDEO
- 「RE:I AM(Live ver.)」
- SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer アルバム「UnChild」/ 2014年6月25日発売 / DefSTAR Recordst
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3600円 / DFCL-2068~9
- 通常盤 [CD] 3200円 / DFCL-2070
収録曲
- UnChild
- StarRingChild -English ver.-
- A LETTER
- Destiny
- But still...
- Just say good bye
- Next 2 U
- bL∞dy f8
- REMIND YOU
- EGO
- Because we are tiny in this world
- RE:I AM -English ver.-
Aimer(エメ)
女性シンガーソングライター。幼少期より両親の影響で音楽に親しみ、ピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始める。15歳のときに声が一切出なくなるアクシデントに見舞われるが、回復とともに独特の歌声を獲得。2011年から本格的に音楽活動を開始し、2011年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たす。以来、2012年8月発売のシングル「あなたに出会わなければ ~夏雪冬花~」がテレビアニメ「夏雪ランデブー」のエンディングテーマに、2013年のシングル「RE:I AM」がアニメ「機動戦士ガンダムUC episode 6 ~宇宙と地球と~」の主題歌に採用されるなど、各方面から大きな注目を集める存在に。そして2013年11月にはスタジオ収録の新曲とライブ音源をパッケージしたアルバム「After Dark」を、2014年5月、表題曲が「機動戦士ガンダムUC」シリーズ最終章となる「episode 7 ~虹の彼方に~」の主題歌に採用されたシングル「StarRingChild」を発表。さらに6月には2ndソロアルバム「Midnight Sun」と、「ガンダムUC」シリーズの劇伴を手がけ、「RE:I AM」「StarRingChild」のプロデューサーでもある澤野弘之らとのコラボレーションアルバム「UnChild」を同時リリースした。