ナタリー PowerPush - aiko
3つのインタビューで紐解く「時のシルエット」
有野晋哉(よゐこ)インタビュー
今回、ナタリーではaikoのニューアルバム発売を記念し、お笑い芸人の有野晋哉(よゐこ)にインタビューを実施。メジャーデビュー前からaikoを見守り続けてきたという彼に、知られざるエピソードを訊いた。
「歌うまいなー」って声をかけた
──まずは有野さんとaikoさんの出会いから教えていただけますか?
なんやったかな。多分大阪のラジオやと思うんですよ。「ヤンタン(MBSヤングタウン)」やってた頃に、ほかの曜日のレギュラーでaikoっていうのがおるって聞いて。aikoがまだインディーズの頃ですよね。それで、番組で何年かにいっぺんイベントやるんですけど。
──「ヤンタン」のパーソナリティが出演するイベント?
そうですね。そのイベントのときに彼女が歌ってるのをステージの袖でボーッと観てて、出番終わって帰るとこで「自分、歌うまいなー」って声かけたら、「ほんまですかー! ありがとうございます!」ってお礼言われたの覚えてますね(笑)。
──あはは(笑)。
2回目はaiko担当のディレクターから誘われて、何人かでメシ食ったときですかね。その人が「クラブ行こう!」って言い出して、クラブとかうるさくてはよ帰りたいって思うんですけど、飲んでるうちに僕もべろんべろんになって、そんときは何しゃべったか覚えてないんですけど、aikoが吐いてる僕の背中をさすってくれてたの覚えてます。
──aikoさんらしい面倒見の良さを感じますね(笑)。
そのあとaikoが「東京に住むんです」ってことになったときに、じゃあ「東京タワー連れてったろか!」って言って、東京タワーをバックに写真撮ってたこともありましたね。でもそんな感じで食事したり会ったりしてたのは、その頃の何年間かだけですけど。
──当時のaikoさんは、有野さんから見てどんな人でした?
普通見せへん女の人の仕草みたいのを見せてくれるんですよ。自分が虫歯かもって話をしてたら「早く病院行ったほうがいいですよ」って言いながら、「あたしも奥歯治してきれいになったんです」って言って、指でほっぺた開いて自分の奥歯見せてくれるんです。
──あはは(笑)。そういうところは今も変わらない?
変わらないんじゃないですかね。歌を聴いてても変わらないって思います。このメロディをとにかく聴かせたいから歌詞はもう英語でいいやとかハミングでいいやとか、そういうことやらないですよね。
若手の頃のファンレター
──aikoさんは、自分がよゐこの大ファンだったと公言していますね。本人とそういった話をしたことは?
「松竹のライブ行ってたんです。ファンレターも書いてたことあるんですよ」って言われたことはありましたね。これ本人には言うてないですけど、その何年後かに実家に帰ったときに、若手の頃もらったファンレターを探してみたら、1通だけあったんです。
──aikoさんからのファンレターが?
そうですね。苗字聞いたときに、なんだか心当たりがあったんで。
──そのファンレターはどんな内容だったんですか?
ファンレターを何度も送ってくれるような人って、日記を書いてくる人が多くて。僕に対する思いとかじゃなく、今日何があったとか何に腹立ったとか書いてくるんです。aikoのもそっちでしたね。なんでもない日常を書いてて。まだ実家にそのファンレターあるから、機会があれば公開しよかって思ってるんですけど(笑)。
モテてると錯覚できる歌詞が多い
──aikoさんの歌手としての活動については把握してますか?
CD買ったりしてますよ。シングルもアルバムも。
──今も常に気にかけてるんですね。
僕、音楽そんな詳しくないんです。だから少ないですよ、自分でCD買って聴いてる人って。
──aikoさんの曲には女性視点のラブソングが多いですけど、有野さんはどんな気持ちで聴いてるんでしょうか?
勝手な解釈になるんですけどね、モテへん男がモテてると錯覚できる歌詞が多いんですよ。わかります? 「あなたがあたしの事をどう思っているのか」とか、例えば僕がかわいいなって思ってるコンビニの女の子の気持ちを歌ってるって考えて、「あいつおれに惚れてんやろな」って思えるんです。で、自分に自信が付くんですよ。あの子がそう思ってんのをaikoがおれに伝えてくれてるって思えるんですね(笑)。
関西弁のニュアンスが標準語で伝わってくる
──有野さんは「まとめ」リリース時のナタリーの特集で、"推し曲"として「二時頃」と「蝶々結び」と「カブトムシ」を選んでいましたよね。そのほかに特に好きな曲はありますか?
「ボブ」ですかね。当時電話でしゃべってたとき「『ボブ』ええなー」って言ったら「あれ30分で作ったんです」って言われて。「すごいな、aiko向いてるな!」って伝えました。
──「ボブ」のどこが好きですか?
「髪を切りました」って歌詞でしょ。言ってみれば「知らんがな」って話なんですけど、あの声とメロディがあると、しんみりええ歌に聞こえるんですよね。元カノに電話したくなった。
──なるほど(笑)。
ただあの曲は短すぎるから、続編とか作ればええのにって思いますけどね。もうちょい長くしたりとか音厚めにしたりとか。でもそういうのしないんが、aikoのええとこなんかな。
──今回のアルバム「時のシルエット」で気になる曲はありましたか?
「向かいあわせ」は関西弁ぽい感じがしますね。
──どのあたりが?
「あぁ やだ…涙が出る」ってとこ、「あかん、涙出るわー」みたいな、関西弁のニュアンスが関西弁使わんで伝わってくる。そういうとこ「あいつ考えてるなあ」って思うんですよ。関西弁で考えてるのに、歌詞だから標準語に直してるわけでしょ。関西弁の「なめとんか、ほんまなめとんか」みたいな歌詞は書かないですもんね(笑)。
老けないところがすごい
──有野さんがアーティストとしてのaikoさんを見て、特にすごいと感じるのはどこですか?
老けへんとこですかねえ。デビューしたときと印象がそんなに変わらないですよね。ドレス的な服をよく着るようになったりとか、そういうのもないし、aikoはいつも普通の服を着てますよね。
──確かにドレスを着ているイメージはないですね。
大御所の歌手の人とか、そういう時期あるじゃないですか。プロモーションビデオとかでもビルの高い屋上でドレス着て風に吹かれて、みたいな。でもaikoのPV観てるとローラーブレードで後ろ向きに走ってたりして(2002年「あなたと握手」)、あれはそんなんもできるんやと思いました。ヨーヨーとかけん玉とかやってても似合うでしょうね(笑)。aikoの場合は純粋にうまくなりたくてやってるんやなって思えますよね。
──では曲を聴いてて「aikoも大人になったな」と感じることは?
ないですね。まだいっぺんもないです。ドレスとか着るようになったら、文句言いに行こうと思ってますけど(笑)。aikoそれは違うって。
──お話を伺っていると、有野さんにとってaikoさんは妹みたいな存在なのかもしれないですね。
勝手にそう思ってるとこはあるんでしょうね。東京のお兄ちゃん的な感じで(笑)。でももう10年くらい会ってへんから、会ったら会ったで緊張するかもしれないですけど。
──こんなに売れっ子のアーティストになっても、やはり見守っている感覚がある?
だから自分にとっての“推しメン”なんかもしれないです。いまだに「おれが応援しとかんと」って思ってるのかも(笑)。どんどんデカなってるし、もう十分だとは思うんですけど。なんでやろな、そういうとこ昔からずっと変わらないですね。
有野晋哉(よゐこ)
1990年に濱口優とコンビ結成。レギュラー番組に「めちゃ×2イケてるッ!」(フジテレビ系)、「ゴチャ・まぜ!」(MBSラジオ)など。ピンでは「ゲームセンターCX」(CSフジテレビ)などに出演しており、DVD「ゲームセンターCX in U.S.A」が8月31日発売予定。
収録曲
- Aka
- くちびる
- 白い道
- ずっと
- 向かいあわせ
- 冷たい嘘
- 運命
- 恋のスーパーボール
- クラスメイト
- 雨は止む
- ドレミ
- ホーム
- 自転車
初回限定仕様盤
カラートレイ&初回限定ブックレット
aiko(あいこ)
1975年大阪出身の女性シンガーソングライター。1998年にシングル「あした」でメジャーデビューを果たす。その後「花火」「桜の時」「ボーイフレンド」などのシングルがヒットを記録し、2000年に「NHK紅白歌合戦」初出場を果たすなど、トップアーティストとして人気を不動のものとする。女性の恋心を綴った歌詞と絶妙なコード進行によるポップなメロディで幅広いファンを獲得している。2011年には、デビュー13年目にして初のベストアルバム「まとめI」「まとめII」を2枚同時リリース。2012年6月に10thオリジナルアルバム「時のシルエット」を発表した。
2012年6月22日更新