AI×PUSHIM×DABO|同世代の3人が語る「今」と「これから」 (2/2)

歳を重ねて親になっても表現し続けること

──3人とも、長い活動を続けながら、私生活では家族が増え、親になるというフェーズも経験していらっしゃいます。そのうえでずっと表現し続ける秘訣はあるんでしょうか?

PUSHIM 秘訣……何なんでしょうね。ずっと同じ熱量をキープしているわけではなく、例えば曲作りに対してもすごくやる気があるときと、「なんか何もできへんし、浮かばへんな」というときがある。歌詞の書き方も、「すごく緻密にクレバーなこと言いたい」みたいなときと、「いや、リズムを取って踊らせられれば歌詞ってあんまり意味なくてもいいんじゃない?」と思うときもあるんです。私も今年、活動25周年を迎えるんですけど、その間にそういう変化を何回も繰り返してるんです。今の自分からは何も生まれないなってときが続いたら、自然と「なんかいっぱい浮かんでくるな」という時期がやってくる。だからこれからも、「何作っていいかわからん」ってときはまた来るんでしょう。でも、「50代になったときにまたこんな歌を作りたいと思うんでしょう」って思うところもあって。

──制作に対するプレッシャーを感じることはありませんか?

PUSHIM そこはもう、ちょっと抜けたかもですね。若い頃は「どうしよう、書かれへん」「これでええんやろか」って試行錯誤してましたけど、今はコツをいくつかつかんだので、作るのは楽しいです。自分がつかんでいる方程式の中に、ちょっとずつ新しいものをインプットしていく、という。そんなスタンスですかね。

PUSHIM

PUSHIM

──AIさんも、長年の活動を経て今はどんな気持ちで制作に取り組んでいますか?

AI 私もけっこう単純で、そのときの感情だけで曲を作ることが多いですね。ただやっぱり、自分が感動するもの、という部分はずっと欲しい。何をやってもいいけど、やっぱり自分が動かされるものだけ。それだけ気にしています。

──歳を重ねてラップする、ということにおいてはどのように感じていらっしゃいますか?

DABO 例えば、子供がいても子供いない、みたいな雰囲気のラッパーもいるし、子供のままでいようとするという美学もある。一方で大人になろうとするラッパーもいて、いろいろいる。自分は子供でい続けるピーターパンにはなろうと思わなかったというか、大人になったら大人になったからこそ言えることもあるし、「まだまだラッパーとして言えることはいっぱいある」と思っていて。むしろ、トピックは多くなるよね。俺はジェイ・Zの「THE BLUEPRINT」世代で、あのアルバムを聴いたときに「お手本を見せられた」と思ったんだよ。「やべえ、大人が大人っぽいラップをするのってカッコいい」って。実際に、今の自分は子供ができて、歌詞に対して意識が変わってきたところもあるし、「これは子供に聴かれたら気まずいな」と思うこともある。逆に、子供に聴かれたら気まずい曲も作らなきゃと思うんだけど。嫁が舌打ちするような(笑)。でも、今のシーンには自分も子供でいようとする人が多い気がする。

DABO

DABO

「今から」って思う気持ちを大事にしたい

──デビュー25周年を目前に控える皆さんですが、今後の展望についてはどうでしょうか。

PUSHIM このままコンスタントに歌を作って歌っていけたら、それでもういいですけどね。別に上がりもせず下りもせず。そういうふうに私はやってきたかなと思います。……しょうもない答えですか?

AI 最高です。その声はPUSHIMさんだけの声だから、そのまま歌っていてください。今、「みんな歳とったね」って話すこともあるけど、自分たちも若い世代だったときがあったじゃないですか。ライブとかでいろんな若い人を見ていると、「こういう気持ちを思い出さないと」と感じるんです。いつまで経っても「今からだ」と思う気持ちを大事にしたい。終わったこともたくさんあるけど、今からまた最初の気持ちを持っていたいなと思います。親になっていろんなこともあるけど、そうした経験もプラスされた新人、みたいな気持ちも忘れたくない。

DABO 野望っていうか、死ぬまでに「今夜はブギー・バック」くらい売れる曲を作りてえというのは俺の最後の夢かもしれない。国民的大ヒットみたいな曲を、今後うっかり作っちゃったいね。

AI 楽しみ! じゃあ、その曲のリミックスにはぜひPUSHIMと一緒に参加させてください!

左からPUSHIM、AI、DABO。

左からPUSHIM、AI、DABO。

プロフィール

AI(アイ)

1981年アメリカ・ロサンゼルス生まれ、鹿児島県育ちのシンガー。10代でロサンゼルスに渡りゴスペルクワイアで歌、名門のアートスクールでダンスを学ぶ。帰国後、2000年に1stシングル「Cry, just Cry」でメジャーデビュー。ソウルフルな歌唱力やリアルな言葉でつづられた歌詞で多くのリスナーを獲得し、数々のヒット曲を発表する。国内アーティストに加え、クリス・ブラウンやスヌープ・ドッグ、The Jacksons、チャカ・カーンといった海外アーティストとのコラボレーションも行っている。2023年から2024年にかけては、最新アルバム「RESPECT ALL」を掲げ、全国ツアーを実施。2024年4月にはゴジラ生誕70周年を記念したハリウッド版映画「ゴジラ x コング 新たなる帝国」の主題歌「RISE TOGETHER feat. OZworld」をプロデューサーのYaffleとともに発表した。

PUSHIM(プシン)

大阪府出身の女性シンガー。1995年から活動を始め、1999年6月にシングル「Brand New Day」でメジャーデビューした。当初は時代背景ゆえR&B主体の作風だったが、2001年7月リリースの2ndフルアルバム「COLORS」でレゲエの資質を全面的にアピール。以降“クイーン・オブ・レゲエ”としてダンスホール / レゲエシーンで不動の地位を確立している。2015年には自身のレーベル・Groovillageを設立。2023年8月に最新アルバム「Dialogue」をリリースした。

DABO(ダボ)

1975年、千葉県生まれのラッパー。16歳でヒップホップにのめり込み、リリックを書き始める。所属するNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDで1999年にインディーズデビューし、2001年にはDef Jam Japanよりソロでメジャーデビュー。その後もリリース元を変えながらグループにソロにと現在まで活動を続けている。