音楽ナタリー Power Push - 佐々木亮介(a flood of circle)×住野よる
バンドマン×小説家のシンクロする思い
「NEW TRIBE」まだ聴いてないんです
住野 あの……佐々木さんに謝らなきゃいけないことがあって。新しいアルバム「NEW TRIBE」を今回の対談にあたって送っていただいたんですけど、まだ聴いてないんです。
佐々木 あ、そうなんだ!
住野 せっかく送っていただいたし、聴こうとしたんですけど、これはパッケージまで全部できての作品だろうなと思ったら、音源だけ先に聴くのは失礼なんじゃないかと。パッケージとして出るまで置いておこうと思って、棚にそっとしまっちゃったんです。
佐々木 はははは(笑)。それはそれですごいうれしい。じゃあ、ネタバレにならない程度に住野さんの前でアルバムの解説をしちゃおうかな(笑)。
住野 すいません……。
佐々木 小説家の人もどこかに泊まり込んで、缶詰になって執筆に集中することがあると思うんだけど、それに近い感覚で今年の初めにロンドンに行って「BLUE」っていう曲をレコーディングしてきたんですね。そのときに、東京とは違う環境で制作したことですごく刺激を受けたんです。a flood of circleって2016年に結成10周年を迎えて、今作でアルバムも7枚目なんだけど、ここで新しい景色を見たかったし、新しいことやりたかったっていうのがあって。で、ロンドンに行ったときに出会ったエンジニアのザビエル・ステーブンソンが、アルバムのレコーディングのために来日してくれたんだけど、そこでさらに新しい秘孔を突かれちゃったんですよね。10年間やってきた中で、無意識に自分たちでa flood of circleの音やイメージを決めちゃってたみたいで、ザブ(ザビエル・ステーブンソンの愛称)とレコーディングする中でそれに気付かされたし、もっといろんなことをやっていいって思えたんです。どんな作家でも1つのスタイルやイメージができたあと悩むと思うんですけど。
住野 わかります。
佐々木 それがザブと出会ったことで打破された。そういう意味を込めて「NEW TRIBE」っていうタイトルを付けたんです。ここまでの10年間の到達点がこのアルバムなんじゃなくて、新しいスタートっていう。そういうサウンドが詰まってると思うので、住野さんにはぜひ聴いてもらいたい。きっとその進化した部分に気付いてくれると思うので。
住野 楽しみにしています。本当にすみません。せっかく送っていただいたのに……。
佐々木 いやいや! 逆にそこまでファンでいてくれることがうれしいです。
今一番リアルに感じてることをちゃんと書く
住野 新しい作品を出すたびにプレッシャーって大きくなると思うんですが、佐々木さんはどうやって解消してるんですか?
佐々木 実はそういうプレッシャーってあんまりなくて。例えばアルバムを1枚作り上げると、俺はけっこう空っぽになるんですよね。そのときのやり方とかも忘れちゃうし、そもそも過去の作品の続きみたいなものができないんです。もちろん演奏技術とかパフォーマンスは積み重ねてきたものがあるんだけど、メロディとか歌詞は過去を思い出せない。いつもまっさらな状態で新曲を書くことができる。その分、ゼロからいい曲を書くこと、その時点で今一番リアルに感じてることをちゃんと書くことは意識してる。逆にライブのほうがプレッシャーを感じるなあ。
住野 どんなものですか?
佐々木 とにかく1コ前よりも絶対いいライブにしなきゃって。更新していかなきゃっていう。
住野 そうなんですね。実は僕、2冊目の「また、同じ夢を見ていた」はデビュー前に書き上げていた作品なんです。だから出すときにあまりプレッシャーはなくて。むしろ今回の「よるのばけもの」が、これまでの中で一番プレッシャーを感じたし、出す上でもすごく緊張したんです。
佐々木 バンドでいう2ndアルバムみたいな感じなんだ。
住野 そうなんです。試される作品というか。でも「よるのばけもの」に関しては読者の人たちに「思ってたのと違う」って思われたかったというのもあって。
佐々木 なんでですか?
住野 “住野よる像”を固められたくなかったんです。例えば「高校生の青春感動ものを書く人だ」って思われたくなかったですし、過去2作共「温かい雰囲気がする」って言ってもらってるんですよね。そういうスタイルの作家だって思われたくないと考えて、青春感動ものでも、温かい雰囲気も少ない内容にしたかったんです。
佐々木 へえー。タイトルから気合い入ってますもんね。「よる」って自分の名前が入ってるし。
住野 ええ。佐々木さんの前でほかのバンドさんの話をするのは恐縮なんですが、僕、毛皮のマリーズがめちゃくちゃ好きで。「毛皮のマリーズ」ってアルバムを出されたときに、何かの記事で「バンドでやっていくうえで、一度だけバンド名を冠したアルバムを作れる」っていうようなことが書かれてるのを見たんですね。僕、デビューするときに双葉社の編集担当さんに「3作目までは双葉社で出してほしい」と言われていて、この「よるのばけもの」がその3作目にあたるので自分の中でひと区切りなんです。じゃあ、このタイミングで自分の名前を付けた本を出そうって思って、このタイトルにしたんです。
佐々木 バンドマンと同じ発想ですね(笑)。住野先生としてはけじめ的な気持ちがあるんですか?
住野 はい。ここからもう一度始めるような気持ちもありますね。
佐々木 そういう意味では俺らの「NEW TRIBE」に対する思いと近いなあ。
「これ歌おう」って思うものが毎回絶対ある
住野 佐々木さんは音楽を作るときにどんなものから影響を受けるんですか?
佐々木 けっこう本に刺激を受けることはあります。音楽を作るうえで余計なことを考えすぎてるときに、関係のない本を読むことで頭がすっきりしたり。自分が知らないことに出会うと、考えが開けることがあるし。
住野 けっこう本を読まれるんですか?
佐々木 はい。暇人なので(笑)。
住野 いやいや! でも佐々木さんが書いた小説とか読んでみたいなあ。
佐々木 うーん、自分で書こうと思ったことはないかな。住野先生は、小説を書くときはネタを探すことから始まるんですか? それとも「こういう小説を書こう」ってふっと思い付くんですか?
住野 後者ですね。「よるのばけもの」の場合は、先ほどもお話した通り「夜になると、僕は化け物になる。」っていう1文が最初に来る話を作りたいっていう思いがきっかけだったんです。「また、同じ夢を見ていた」は、すごい小生意気な女の子を書きたいって思って。
佐々木 俺もそのタイプかな。「これ歌おう」って思うものが毎回絶対あるので。
次のページ » 一緒にゴールデン街に行きたい
- a flood of circle ニューアルバム「NEW TRIBE」2017年1月18日発売 / IMPERIAL RECORDS
- 「NEW TRIBE」
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3780円 / TECI-1534 / ※初回盤のみ「ホログラムジャケットステッカー」仕様
- 通常盤 [CD] / 3240円 / TECI-1535
CD収録曲
- New Tribe
- Dirty Pretty Carnival Night
- Flyer’s Waltz
- BLUE
- ジュテームアデューベルジャンブルース
- Rock’N’Roll New School
- El Dorado
- Rex Girl
- Rude Boy’s Last Call
- The Greatest Day
- Wolf Gang La La La
- Honey Moon Song
初回限定盤DVD収録内容
2016.12.1 Billboard Live Tokyo「a flood of circle 10th Anniversary Climax “X’mas Party!!!”」ライブ映像
※バイノーラルレコーディング選択可
- Christmas Time
- コインランドリー・ブルース
- 月面のプール
- BLUE
- Party!!!
- I LOVE YOU
a flood of circle(アフラッドオブサークル)
佐々木亮介(Vo, G)、HISAYO(B)、渡邊一丘(Dr)による3人組。2006年に結成。2009年4月に1stフルアルバム「BUFFALO SOUL」でメジャーデビューする。ブルース、ロックンロールをベースにしつつ最新の音楽要素を吸収したサウンドと、佐々木の強烈な歌声や観る者を圧倒するライブパフォーマンスで話題を集める。結成10周年を迎えた2016年には初のイギリス・ロンドン公演や海外レコーディングを行ったほか、自主企画ライブイベント「A FLOOD OF CIRCUS 2016」や東阪のBillboardLiveでワンマンライブを開催。2017年1月に7枚目のオリジナルアルバム「NEW TRIBE」を発表し、3月から全国ワンマンツアーを行う。
住野よる(スミノヨル)
小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿していた「君の膵臓をたべたい」が注目を集め、同作で2015年にデビュー。2016年2月に2作目の小説となる「また、同じ夢を見ていた」、12月に「よるのばけもの」を発表する。なお「君の膵臓をたべたい」は実写映画化が決定しており、浜辺美波と北村匠海(DISH//)のダブル主演で2017年8月に全国公開予定。