aespa特集|唯一無二のスタイルで突き進む4人組、デビューからの飛躍と葛藤の軌跡を辿る

aespaのドキュメンタリー映画「aespa: MY First page」が8月30日より3週間限定で劇場公開される。

aespaは2020年11月にデビューしたSMエンターテインメント所属の4人組グローバルグループ。年々競争が激しくなるK-POP界において、その唯一無二のスタイルで世界中のK-POPファンから支持される人気グループだ。そんな彼女たちのドキュメンタリー映画「aespa: MY First page」には、デビュー初期の映像はもちろん、アメリカでの初の有観客単独公演や国連本部でのスピーチなど、aespaの貴重な“初めて”の瞬間が網羅されている。本稿ではデビューからの830日間が記録され、aespaの魅力を幅広く堪能できる作品に仕上がっている映画の注目シーンを取り上げながら、彼女たちのこれまでの軌跡をたどっていく。

文 / 岸野恵加

「aespa: MY First page」予告映像

デビュー初期から華々しい経歴

彼女たちはこれまで、どれだけ多くの“初めて”を経験してきたのだろうか。

2020年11月17日にデビューしてから、aespaの活動は常に、“初”の冠が付いた数々の輝かしい数字とともに紹介されてきた。デビュー曲「Black Mamba」は、歴代K-POPグループのデビュー曲史上最短でYouTubeでのミュージックビデオの再生数が1億回超え。3rdミニアルバム「MY WORLD」は発売初週の売上が169万枚を記録し、K-POPガールズグループ界の新記録を樹立。また2023年8月には海外アーティスト史上最速(当時)で、東京ドームでの単独公演を実施した。このほかにも例を挙げればキリがないほど、彼女たちは超大型新人としてK-POPの最前線に立ち、デビューからの4年弱を駆け抜けてきた。

しかしドキュメンタリー映画「aespa: MY First page」に映し出されているのは、そんな華々しいパブリックイメージとは異なる、メンバー4人の葛藤や戸惑いと、1人の人間としての等身大の魅力だ。本稿ではaespaのデビューからの830日間を記録したこの映画の見どころに触れつつ、彼女たちのこれまでの歩みを振り返っていきたい。

「aespa: MY First page」より。©2024 SM ENTERTAINMENT CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

「aespa: MY First page」より。©2024 SM ENTERTAINMENT CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

「aespa: MY First page」より。©2024 SM ENTERTAINMENT CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

「aespa: MY First page」より。©2024 SM ENTERTAINMENT CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

その音楽性は“鉄の味”

その前に、aespaのことを知らない人に向けて、軽くグループとメンバーの紹介をしておこう。aespaは東方神起やSHINee、少女時代、NCTなどで知られるSMエンターテインメントから、Red Velvet以来約6年ぶりに誕生したガールズグループ。「自分のもう一人の自我であるアバターに出会い、新しい世界を経験する」という世界観を持ち、メンバーそれぞれにアバター「ae」が存在する“メタバースグループ”というコンセプトで注目を浴びた。

メンバーはカリナ、ウィンター、ジゼル、ニンニンという多国籍な構成だ。リーダーは「AIのよう」と称されるほど完璧なビジュアルを持ち、面倒見のいい性格でメンバーを引っ張る最年長のカリナ。釜山出身のウィンターは類まれな歌唱力を持ち、ステージ上での表現力にも定評がある。またメインラッパーのジゼルはトリリンガルでSMエンターテインメント入社後わずか11カ月でデビューし、最年少のニンニンはトップクラスの美しい歌声でaespaの音楽に彩りを与えている。

華麗なビジュアルが目を引く4人だが、ステージに立つと鋭い眼光を放ち、それぞれがカリスマ性にあふれた佇まいを見せる。aespaは重低音が響くビートに強烈なサウンドを乗せた楽曲が多く、その音楽性は“鉄の味”と言い表されることも。新曲を発表するたびに、K-POP界に新たな風を吹かせてきた。

「2024 aespa LIVE TOUR - SYNK : PARALLEL LINE - in TOKYO DOME -SPECIAL EDITION-」より。(撮影:田中聖太郎)

「2024 aespa LIVE TOUR - SYNK : PARALLEL LINE - in TOKYO DOME -SPECIAL EDITION-」より。(撮影:田中聖太郎)

「ファンの愛を実感できなかった」

先述したように、デビュー曲「Black Mamba」は絶好調と言える滑り出しを見せ、3rdシングル「Next Level」は腕をコの字に曲げる特徴的な「ㄷ(ティグッ)ダンス」が話題になりヒット。しかしメンバー4人は、自分たちが多くの人々に支持されているという実感を、長らく持てなかったようだ。彼女たちがデビューした2020年11月と言えば、世はコロナ禍真っ只中。音楽業界ではオフラインのコンサートが実施できず、無観客での配信ライブが中心となっていた時期だ。「aespa: MY First page」の中でニンニンは「ファンの愛を実感できませんでした」、ジゼルは「(音楽番組での)1位もうれしかったけど、肌で感じて『ウワー』じゃなくて、ただ『オー』という感じが強かったです」と振り返っている。SMエンターテインメントの所属アーティストが集い、毎回盛況を呈する合同コンサート「SMTOWN LIVE」も、2021年は無観客で事前収録したものを放送する形式となり、4人は残念そうな表情を浮かべていた。

ヒットチャートに名前はあるが、自分たちは本当にデビューしたのか。果たしてMY(aespaファンの呼称)は実在するのか。自分事として感じられない不安を抱えたまま、4人はひたすらに練習を重ね、パフォーマンスを研ぎ澄ませていった。

観客がいてこそのステージだ

彼女たちの中で転機となったのは、2022年。グローバルにその名を広め、同年4月にアメリカ最大級の音楽フェス「Coachella Valley Music and Arts Festival」に出演したaespaは、6月にK-POPグループとして初めて米ワーナー・レコードと契約した。さらに世の中が“with コロナ”に徐々に移行し、音楽コンサートも通常通りの光景が戻っていく中で、aespa単独では初となる有観客ライブイベントの実施が決定する。6月にロサンゼルスにあるYouTube Theaterでショーケースライブ「aespa Showcase SYNK in LA」が開催され、当初1公演のみの予定だったが、チケットが即完売したことを受けて急遽追加公演も行われた。

映画の中ではこの「aespa Showcase SYNK in LA」が、大きなハイライトとして描かれている。集まった現地のMYは熱狂的な歓声でaespaを迎え入れ、4人はこの瞬間に、自分たちはアーティストであるという実感を初めて持てたようだ。カリナはデビューしてからそれまでの日々を「以前はデビューじゃなかった。まるでMVの撮影だった。音楽番組もMVの撮影みたいだった」と述懐し、「先輩たちが言った『観客がいてこそステージだ』という言葉の意味がわかりました」と、感動したように語っている。

その後aespaは7月に2ndミニアルバム「Girls」をリリースし、発売日当日にニューヨークで行われたライブイベント「Good Morning America(GMA) 2022 Summer Concert Series」に出演。野外ステージに立つことが夢だったというカリナは「グループのバケットリストが次々に叶っていく気がします」と顔をほころばせた。また8月には、SMエンターテインメントの敬愛する先輩アーティストたちと「SMTOWN LIVE 2022 : SMCU EXPRESS @HUMAN CITY_SUWON」で念願の共演。ウィンターは「尊敬する先輩と一緒にステージにいるのが不思議で、幸せでした」と話し、ニンニンは「やっと実感が湧きました。私たちはSMのアーティストだったんだ」と笑顔を浮かべた。実感の湧かないデビューから2年弱、この頃からaespaは通常のアーティストらしい道をやっと歩み始める。

親友のようであり、姉妹のようでもある

堂々とした雰囲気をまとうaespaのメンバーに、一見近寄りがたい印象を持つ人も多いかもしれない。しかし実際の4人は、とても明るく飾らない性格。本人たちが「私たちは笑いのハードルが低い」と話すように、些細なことで笑いが起こり、常に和気あいあいとしたムードに包まれている。さらに最年長から最年少までの歳の差がわずか2歳と全員の年齢が近いこともあって、4人は親友同士のようでもあり、歳の近い姉妹のようでもある。「aespa: MY First page」でも、そうした関係性や絆の強さに感動させられる瞬間が多い。全員が温かい心の持ち主であり、相手を尊重しているからこそ、いいチームワークが生まれ、舞台上でのパフォーマンスもさらに素晴らしいものになっていくのだろう。

またコロナ禍でのデビューという逆境を乗り越え、糧としてこられたのは、4人が実直かつ強い意志の持ち主であるからだ。「aespa: MY First page」の後半は、2023年にaespaが行った、世界21都市を回る初のワールドツアー「aespa LIVE TOUR 2023 'SYNK:HYPER LINE'」の初日に密着。メンバーが初の単独コンサートへの不安を感じながらも、朝から晩までひたすら練習に打ち込む姿が映し出されている。

実はステージ恐怖症を持ち、1人でステージに上がることを恐れているが、果敢にソロ曲の練習に打ち込むカリナ。バラードが一番苦手と話すも、ソロのステージでバラード曲に挑むウィンター。ジゼルはスランプに苦しみ、ニンニンは振付を間違える自分に腹を立て……。どんなに苦しんでも彼女たちは決してあきらめないし、「まだ満足できない。私たちの最大値はまだ見せていない」「挑戦しないとつまらない」と、貪欲な姿勢を絶やさない。4人の余裕に満ちたパフォーマンスは、泥臭い努力によって培われてきたものなのだと実感する。

そんな初のワールドツアーの最中でaespaは、2023年5月に3rdミニアルバム「MY WORLD」を発表。従来のメタバース軸の世界観から離れ、メンバーが現実世界に帰ってきたような等身大の魅力を放つ楽曲で驚きを呼んだ。以降も多彩な世界観を表現し、2024年4月には初のフルアルバム「Armageddon」をリリース。4作連続となるミリオンセラーを記録した。また7月には、シングル「Hot Mess」で日本デビューも果たしている。そして2024年も、世界を巡るツアー「aespa LIVE TOUR 2024 -PARALLEL LINE-」を開催。日本でも7月に4都市でアリーナ公演を行い、8月17、18日には2度目の東京ドーム公演を成し遂げた。そのライブ「2024 aespa LIVE TOUR – SYNK : PARALLEL LINE – in TOKYO DOME -SPECIAL EDITION-」の様子を、下記に軽く記録しておこう。

どんな楽曲でも魅せられる底力

コンサートは「Drama」で壮大に幕を開け、続く「Black Mamba」で会場のボルテージは序盤から最高潮に。「Mine」ではジャングルジムのような鉄骨のオブジェを使い、4人が大人っぽくしなやかなダンスを展開していく。筆者は2022年の日本初ショーケース、また2023年のツアーも現地で鑑賞しているが、本公演では4人の余裕に満ちたオーラと神々しさが段違いに増していることが印象に残った。パフォーマンスの爆発力がアップしているのに、同時に仕草や表情の1つひとつに宿る繊細さも増しているのだ。メンバーがアップでスクリーンに映し出されるたびに、観客からは割れんばかりの悲鳴が起こった。

「2024 aespa LIVE TOUR - SYNK : PARALLEL LINE - in TOKYO DOME -SPECIAL EDITION-」より。(撮影:田中聖太郎)

「2024 aespa LIVE TOUR - SYNK : PARALLEL LINE - in TOKYO DOME -SPECIAL EDITION-」より。(撮影:田中聖太郎)

今年のツアーでもソロステージは見応え抜群で、4人それぞれが自身の新しい姿をファンに見せた。カリナは激しいダンスナンバー「Up」を披露し、ジゼルは「Dopamine」でソファを活用してセクシーなパフォーマンスを展開。ニンニンは自身も振付創作に参加した「Bored!」で透き通るようなボーカルを響かせ、ウィンターは四つ打ちビートの「Spark」で幻想的な世界観を表現した。昨年のツアーで発表されたソロ曲も音源化はまだされていないが、いずれも素晴らしい楽曲ぞろいなので、いつかリリースされることを心の奥で期待したい。

代表曲「Next Level」や最新曲「Armageddon」などaespaらしい強烈なナンバーはもちろん、温かみのあるバラード「Prologue」や、メンバーのポップな表情がかわいらしい「Licorice」など、幅広い楽曲を堪能できる構成のセットリストにも大満足。さらにアリーナツアーでは披露されなかった人気曲「Girls」と「Savage」はリミックスされて盛り込まれ、セトリの豪華さが増していた。しかし「YEPPI YEPPI」や「Dreams Come True」など、今回ライブに組み込まれなかった楽曲も名曲ぞろいだ。aespaの音楽はより幅を広げ、豊かさを増していくが、どんな楽曲でも彼女たちは高いパフォーマンススキルで魅せてくれるという確信を抱いたステージだった。

「2024 aespa LIVE TOUR - SYNK : PARALLEL LINE - in TOKYO DOME -SPECIAL EDITION-」より。(撮影:田中聖太郎)

「2024 aespa LIVE TOUR - SYNK : PARALLEL LINE - in TOKYO DOME -SPECIAL EDITION-」より。(撮影:田中聖太郎)

「aespa: MY First page」にもaespaの素晴らしいパフォーマンスが数多く収められているので、その迫力をぜひ劇場の大スクリーンと良質な音響で堪能してほしい。特に「aespa LIVE TOUR 2023 'SYNK:HYPER LINE'」のオープニングを飾った「Girls」の映像は、壮大なアレンジと飽きさせない演出、またウィンターが披露したエレキギターのソロパートなど、見どころ満載だ。

「これから100回、1000回コンサートをして、成長する姿をお見せします」と語っていたウィンター。「『aespaは成功した』と言えますが、私たち4人はまだまだ見せたいものや、したいことが多くて。私もこの先の未来が楽しみです」と笑みを浮かべていたジゼル。もうすぐデビュー5年目を迎えるが、貪欲なaespaに言わせればきっと、「もう5年目」ではなく「まだ5年目」なのだろう。今後どんなに名声を轟かせようとも、本人たちはしっかりと地に足をつけて未来だけを見つめ、さらに素晴らしいパフォーマンスで私たちを魅了してくれるはずだ。

プロフィール

aespa(エスパ)

2020年11月に1stシングル「Black Mamba」でデビューしたSMエンターテインメント所属のガールズグループ。カリナ、ジゼル、ウィンター、ニンニンという4人のメンバーで構成される。2023年5月に韓国でリリースされた3rdアルバム「MY WORLD」は発売初週の売上枚数が169万枚を記録し、K-POPガールズグループ界の新記録を樹立。2024年5月リリースの1stアルバム「Armageddon」で、4作連続ミリオンセラーを達成した。2024年7月、日本1stシングル「Hot Mess」で日本デビューを果たした。