足立佳奈がニューアルバム「Seeker」をリリースした。
昨年8月30日にデビュー5周年を迎えた足立。その節目を盛り上げるべく、4月から9カ月間にわたって新曲を連続配信したうえでたどり着いたのが本作となる。連続配信された9曲に、表題曲となる力強いロックナンバー「Seeker」、作詞・作曲・アレンジのすべてを足立が自ら手がけた温かなバラード「今が一番ここちいい」、地元の友人たちとの楽しい時間を歌った「カンパイ」という新曲を加えた全11曲。そこには5年の歩みの中で育んだシンガーソングライターとしての大きな成長が注ぎ込まれている。また、アルバムの完全生産限定盤には昨年開催された2本のライブ映像やヒストリームービー、10本のミュージックビデオを収録したBlu-rayとともに、これまでの代表曲をまとめた「5周年スペシャルアルバム」などが付属。アニバーサリーにふさわしい作品となっている。
自らが“Seeker=探究者”であることを自覚したという足立は、どんな思いを持ってアルバムを作り上げたのか。インタビューでじっくりと紐解いていく。
取材・文 / もりひでゆき撮影 / 笹原清明
「え、これ自分から出てきたの?」驚きもたくさんの連続配信
──足立さんは昨年の8月30日でデビュー5周年を迎えました。その節目に向けて、4月から12月までの9カ月間にわたって毎月連続で新曲を配信リリースされてきたわけですが、なかなか大変なプロジェクトだったんじゃないですか?
そうですね。曲を書き溜めることはせず、毎月しっかり書き下ろしするようにしていたので、「わー、追いつかない!」みたいな瞬間は確かにありました(笑)。でも、書き溜めていなかったからこそ、その時々の自分の気持ちを曲にして届けることができたんですよ。それによってすごくスッキリする感覚はあったし、何よりも毎月ワクワクしていましたね。1カ月を使ってギリギリまで歌詞を書き直すこともすごく多かったです。
──曲のモチーフが見つからなくて困ったりはしませんでした?
全然! 自分の気持ちって毎日変わるものじゃないですか。だから「もう出すものがない!」みたいな状態になることは一切なく。自分で聴いても、「わ、1カ月前の自分、懐かしいな」と思うこともありましたから(笑)。9カ月もの間、そうやって曲を作り続けられたことに対しては、すごく自信につながったところもありましたね。
──音楽ナタリーでは、Tani Yuukiさんとコラボした第3弾楽曲「ゆらりふたり」のインタビューをさせていただきましたが(参照:足立佳奈×Tani Yuuki対談)、それ以外も多彩で面白い仕上がりの曲ばかりですよね。随所に新たなトライを感じることができますし。
はい。楽曲ごとに、私がご一緒したいと思うアレンジャーの方にオファーさせていただきました。デビュー当時からお世話になっている中村泰輔さんには「オーマイガール」と「いまだけ」の2曲を作っていただいて。中村さんはいろんな音楽性を表現できる方なので、1曲は明るいバンドサウンドの曲に、もう1曲は秋の雰囲気を感じられる柔らかくて温かい仕上がりにしていただきました。Taniくんと一緒にやった「ゆらりふたり」やしっとりしたバラード「リミット」のアレンジャーは、おなじみのCarlos K.さん。いろんな話をしながら一緒にメロディやトラックを作っていきました。
──過去に「This is a Love Story」などを手がけていたShu Inuiさんは「DATE」「4321」の2曲に参加されています。
ともにプロデューサーEIGOさん率いるチームにお願いした楽曲になります。私が作詞作曲したデモをもとに、みんなで1つの部屋に集まってアイデアを出し合いながら「DATE」を作ったのが思い出深いです。そこでの経験がすごく楽しいものだったので、私のデビュー月である8月にリリースした「4321」でもう一度ご一緒させてもらったんですよね。
──「Me」「WALK」「Life Goes On」は足立さんが作詞・作曲を、今回のプロジェクトが初顔合わせとなるShin Sakiuraさんがアレンジを手がけています。
「Me」はツアーのバンドメンバーと一緒に作った曲だったんですけど、リリースをするにあたってアレンジをガラッと変えたいと思っていたんですよ。それでアレンジャーさんを探しているときに、Shinさんが手がけたSIRUPさんの楽曲を聴いたのをきっかけにお願いすることにしたんです。今っぽさのあるトラックにしていただけたことにすごくワクワクできたので、その後に「WALK」と「Life Goes On」のアレンジも手がけていただくことにしました。Shinさんとご一緒できたこともそうだし、それぞれの楽曲の仕上がりに関しても、自分にとっての新しい挑戦になった気がしています。
──コラボするクリエイターの方によって、足立さんの表情もかなり変わっている印象ですよね。
そうですね。自分で作った曲であっても、アレンジによって出てくる歌の表情はかなり変わりますからね。制作の進め方自体、ご一緒する方によってけっこう違っていたりもして。それもすごく楽しかったです。「4321」は先にトラックを決めて、そこに私がメロと歌詞を乗せるやり方をしてみたんですよ。そういうスタイルによって、「え、これ自分から出てきたの?」と思うようなフレーズが生まれたのも新鮮でした。
自分の心に正直に
──「4321」にはちょっとラップっぽいパートがありますよね。
そうなんですよ! トラックをいただいた時点で、「佳奈ちゃん、ちょっとラップぽく韻を踏んだりしてみたら?」と提案していただいて。その場で恥ずかしながらやらせてもらったら、「それいいじゃん」と採用されたんですよね。ちょっとブチ上がっちゃってる感じです(笑)。
──この9曲を聴かせていただくと、その表現の幅が各段に広がったことを強く感じます。そのあたりご自身としてはどうですか?
自分としてちょっとできるようになったかなって思うのは、力を抜いた表現だと思います。言い換えると、あまり気張らず心のままに歌うということだと思うんですけど、その表現を覚えることができたかなって。そこはこれからもっともっとレベルを上げていきたい部分ではありますね。
──前のアルバム「あなたがいて」のインタビューでは、意識的に歌い方を変えるのではなく、曲に寄り添いながら素の自分で歌うことを心がけたとおっしゃっていましたよね。
そうそう。そこを今回も突き詰めた感じでした。私はあんまり器用じゃないので、頭で考えすぎると空回りしちゃうんですよ。なので思いのままに、自分の心に正直に歌うようにして。そこで自然と変化していく感情と声を今回もしっかり詰め込めたかなと思います。
──そうやってご自身から出た歌を客観的に聴いて驚くこともあります?
あります、あります! 「すごく自然に歌えてるな」と感じることもあるし、「あ、すごいカッコつけてるじゃん!」って思ったりすることもあります(笑)。でも、そこも意識的にカッコつけたわけではなく、トラックの雰囲気から導き出された表情なので、それはいい形だなって思えますね。
──連続配信の9曲の中でご自身的に一番新しさを感じたのは?
「DATE」かなー。自分の憧れるデートのシチュエーションを並べた歌詞も含めて、あざとすぎないかわいさをしっかり出せたような気がしていて。この曲ができたことで、ようやくかわいらしいシンガーソングライターの括りに入れてもらえるんじゃないかなって気がします(笑)。ちょっと恥ずかしさもあるけど、こういう曲を歌うことへのワクワクした気持ちも強かったですね。
──連続配信の最後にリリースされたのは「Life Goes On」でしたが、昨年8月30日に開催された5周年記念ライブも同タイトルでしたよね。今の足立さんにとって“人生”を歌うことには大きな意味があるのかなと思ったんですけど。
そうですね。応援ソングを作りたいという思いから作り始めた曲なんですけど、結果的には自分自身の中にある「まだまだここからだな」という思いが強く出た内容になりました。「5周年まで来れた、ラッキー!」ではなく、また気持ちを引き締めて踏ん張ってやんなきゃなっていう。自分が迷ったときにいつも救ってくれていたアンジェラ・アキさんの言葉を、リスペクトの思いを込めて歌詞に入れることにしたのも、そういう理由からです。「Life Goes On」は、自分にとっても力をもらえる1曲になりましたね。
次のページ »
気持ちが変化する=“探究者”