今年2月に2ndアルバム「I」を発表し、3月から5月にかけてはこのアルバムを携え全国ツアー「Live Tour 2020 "You & I"」を行う予定だった足立佳奈。しかし新型コロナウイルスの感染拡大により活動自粛を余儀なくされ、ツアーも全日程中止となってしまった。そこからおよそ半年後の8月31日、足立は「恋愛のネガティブな気持ち」にフォーカスしたという新曲「朝になったら削除します」を発表した。音楽ナタリーではこの新曲に込められた思いや自粛期間中の心境、そしてこのタイミングであえてラブソングを作ろうとした理由を聞いた。
取材・文 / 真貝聡 撮影 / 笹原清明
20歳初のツアー目前で緊急事態宣言
──足立さんにインタビューさせていただくのは、今年2月にリリースされた2ndアルバム「I」以来になりますね(参照:足立佳奈「I」インタビュー)。まずはアルバムの反響から聞かせてください。
1stアルバム「Yeah!Yeah!」はかわいらしさや元気な印象を受け取ってくださった方が多かったんですけど、「I」は「大人っぽくなったね」と言われることが多かったです。特に20歳前後で書いた曲「20」は「言いたいことがあるなら 隠さないで言いなよ」とか「黒く染まらないでよね」とか、今まで避けていた強い言葉を使ったことで、自分をさらけ出せたんです。それによって「佳奈ちゃんにこんな一面があったんだね」と驚かれました。
──「I」は自身の内面を包み隠さずに表現した作品だったからこそ、足立佳奈というアーティストが次のステージへ上がった感じがしました。3月には20歳になって初めてのワンマンツアー「Live Tour 2020 "You & I"」も決まっていて、上半期から精力的に活動していく予定でしたよね。
そうなんです。本来であれば「I」を引っさげた全国ツアーが始まるはずでした。それがコロナの影響で全公演を中止することになってしまって。
──いつからツアーの準備をしていたんですか?
2月頭からライブの打ち合わせやリハを行っていました。だけど緊急事態宣言でツアーの開催が難しいかもしれない、と危うい感じになって。私もスタッフさんも延期の発表はギリギリまで粘っていたんですけど、その願いも虚しく状況は日に日に悪くなった。まずは3月6日の東京公演を延期して「2本目の大阪からは行けるかもしれないから、そこに向けてリハをしよう」とみんなで話し合っていた矢先に大阪公演も延期をせざるを得なくなり、その次の公演も、という感じで……。EX THEATER ROPPONGIでファイナル公演が行われる予定だった5月にはライブをすること自体困難になって、私たちもリハどころではなくなりました。
“独りぼっち”を余儀なくされるコロナ禍での生活
──予期せぬ事態にスケジュールがぽっかり空いてしまったわけですけど、その期間はどう過ごしていたんでしょうか。
3月頭はどう過ごしていいのかわからなくて、朝起きても「ああ、何もないんだ。外にも出ないほうがいいんだよな」と無気力な状態でした。最初は何をするべきか考えるのに精一杯でしたね。4月に入ってから「小学生の頃の夏休みもこんな感じだったよな」と思うようにして。
──確かに、無理やりポジティブに転換しないとやってられないですよね。
ただ、カレンダーを見て「本当だったら今日はライブがあったんだな」と思ったら、やっぱり悲しくなりましたね。そうは言っても、ずっと打ちひしがれていても何も始まらないと思い、生活を見直すところから始めて。早起きをしてスムージーを作って、ヨガをして、ちょっと散歩をして、毎食自炊をする日々を送ってました。あとはいろんな作品に触れて、自分なりに吸収する期間でもありましたね。中でも「僕のヒーローアカデミア」のアニメを観て、私も主人公の緑谷出久を見習ってがんばらないといけないなと刺激をもらいました。
──仕事に合わせて体を動かしていた生活から、自分にとって健全な1日を過ごすためのルーティンを作っていかれたんですね。
コロナ以前の自分だったら「仕事がなければ休日ぐらいはゆっくりしたい」と思ってごろごろしていたんですよ。だけど何もせずに1日が終わってしまった日は後悔してしまうこともあって。「これではダメだ」と思い、生活との向き合い方を変えました。今まで部屋にいるときは楽な格好だったけど、心が晴れやかになるように色味のあるお洋服を着たり、室内でアクセサリーを付けてみたり。それだけじゃなくてお部屋の環境も見直しました。模様替えをしたり、食器を買い替えたり、おうちの雰囲気もガラッと変えましたね。
──何をするにも家で過ごさなければいけないから、少しでも居心地のいい環境にしたいと思いますよね。
あと、今まで家の照明が暗かったんですよ。夜、お仕事から帰ってくつろぐだけならよかったんですけど、ずっと家にいたら「ここ暗すぎるんじゃないかな」って。それで思い切って照明を変えたら、気持ちも前向きになれたんです。そしたら音楽の面でも面白い変化がありました。部屋が暗いときに書いていた曲はローテンポなラブソングが多かったんですけど、部屋を明るくしてからは友達と過ごした過去を思い出しながら曲を作るようになったんです。
──生活環境を変えたことで楽曲作りに変化が起きたと。
友達に会えない時間が増えて、意志の疎通が難しくなったんです。それで「あの子、今こんなことを思っているんだろうな」と想像しながら歌詞を書いて、友達へ向けて曲を作ったりもしました。
──「会えない時間が増えて、意志の疎通が難しくなった」というのは、コロナ禍で破局するカップルが増加していることにもつながりますね。これまでは普通に会えていたけど、今はスマホでの通話やSNSでしか話をする手段がなくなった。それによってLINEの既読が付いているのに返信が来ないとか、相手がどう過ごしているのかわからないという不安が積もり積もって別れてしまうケースが多いらしいです。
私の友達もコロナ禍で彼氏とお別れしちゃって。それで「寂しいから佳奈ちゃんに会いたい」と言われたけど、もちろん会えないわけですよね。「じゃあ、電話で話を聞いてほしい」と言われたんですけど、そのときは私もやることがあって返事ができなくて。だから今の話はすごく身近に感じるというか。
──誰にも会えない状況だからこそ、誰かと連絡をとっていないとこの世界で自分だけが取り残された感覚に陥りやすいのかもしれない。
そうだと思います。私の周りでは1人暮らしをしている同級生がたくさんいて、みんな実家にも帰れなければ、友達にも会えない。学校の授業はリモートで受けているんですけど、土日になったらやることがないから寂しさを感じるらしいんですよね。「土日いらなくない?」と友達は今みんな言ってます。
現実の恋愛ってわかりやすいことだけじゃない
──今回リリースされた「朝になったら削除します」は、そういう時勢を鑑みて作られたのかなと思いました。
今までは聴いてくれる方や、私自身も前向きになれるような曲を作っていたんです。だけど今回は、誰もが持っているネガティブな気持ちを表現したラブソングにしました。歌詞では会えなくなってしまった恋人に対してうまく思いを伝えられず、だけど伝えたいと願う女の子の気持ちを書いてます。ただ、コロナの期間だからと意識して作ったわけではないんです。
──だけど「途切れそうもない 悲しいニュース」「あのさ、少し離れよう」「隣にいてよ」という言葉選びは、まさに今の状況を表していませんか?
「途切れそうもない 悲しいニュース」というフレーズは、確かに今の状況にハマると思います。ただ、曲を作ろうとしたときはそんなに意識していなかったです。「こういうこと、あるよね」と共感できるような言葉をちりばめて、恋愛のネガティブな気持ちを歌うことが一番の狙いでしたね。
──なるほど。この楽曲が面白いのは、彼氏に自分の寂しい思いを気付いてほしい主人公の女の子がいて、最終的に女の子の努力は報われたのかというと、そうじゃない。何もドラマチックな出来事が起こらないまま、淡々と終わるところだと思うんですよ。
ドラマや映画、マンガもハッピーエンドかバッドエンドが待っていて、必ず結末がある作りになっているんですけど、リアルな恋愛はそんなことないんですよね。彼氏や彼女から「少し離れよう」と言われても、また自然とくっ付いては離れる。それを繰り返すカップルって多いじゃないですか。
──確かに、恋愛って白黒で片付けられないグレーな部分が多いですよね。
私の周りもそういう子が多いです。「すごいケンカしてたけど、まだ付き合っていたんですね! 一時はどうなることかと思いました」みたいな(笑)。
──何年も一緒にいると付き合いたてのようなドキドキ感は薄れるけど、だからといって別れたいわけでもない。リアルってそういうことかもしれないですね。
そうですよね。現実の恋愛って表面的にわかりやすいことだけじゃないんです。
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「ラブソングは登場人物のクセも考えるんだよ」