ナタリー PowerPush - Acid Black Cherry
今しかできないアルバム「『2012』」
Janne Da Arcのボーカル・yasuのソロプロジェクト、Acid Black Cherryから約2年半ぶりとなるニューアルバムが届けられた。そのタイトルは「『2012』」。今を一生懸命生きることをテーマに、まるで壮大なファンタジーのような手触りも同時に感じさせてくれる本作には、ABCの奥深い魅力がこれまで以上に息づいている。豊かな広がりをたたえたメロディや、ロック、ポップス、ジャズなどを自由に行き来するサウンドメイクを含め、広く音楽ファンに伝えられるべき充実作だ。
ナタリーでは今回、yasuに初インタビューを敢行。アルバムのブックレットに掲載されるオリジナルストーリーの構想や、リスナーに届けたい思いを語ってもらった。
取材・文 / 森朋之
相当なネタバレ感もある
──2年半ぶりのニューアルバム「『2012』」、ついに完成しましたね。
はい、おかげさまで。2011年は、レコーディングしたり家で曲を作ったりと、ずっとこのアルバムを制作してた気がします。結構時間がかかりましたね。
──シングルもコンスタントに発表してましたからね。
そうですね。ホントはもっと早い時期にリリースする予定だったんですけど、いろいろとズレ込んでしまって変則的なシングルの出し方になったから、ファンの人でも僕のことを忘れてるんじゃないか?っていう(笑)。
──そんなことはないと思いますよ(笑)。
今回のアルバムは、シングル曲が7曲もあるんですよ。だから全部シングルを買ってくれた人からしたら、半分くらいは知ってるっていう相当なネタバレ感もあると思うんですよね。それはいかがなものか?っていう気持ちもあったし、半減してしまった楽しみを底上げするにはどうしたらいいか?っていうことはすごく考えましたね。
ストーリーはとにかくわかりやすく
──考えた結果、具体的にはどうしたんですか?
ABCはアルバムごとにコンセプトを設定してるんですよ。アルバム全体のストーリーを作って、それをブックレットに載せていて。もちろん今回もパッケージには精一杯こだわりました。
──Acid Black Cherryのアルバム制作には、欠かせない要素ですよね。
2ndアルバム「Q.E.D.」のストーリーは文字数もかなり多かったし、テーマも重かったんです。ジャンルで言うとミステリー、サスペンスっていうことになると思うんだけど、好きな人じゃないととっつきにくい感じもあったんじゃないかなって。だから今回はとにかくわかりやすくしようと思っていて。絵本っぽく、おとぎ話っぽくして、入り口を大きくしよう。それは最初から目標にしてましたね。
──オリジナルの物語があることによって、アルバムの世界観をさらに強く感じることができます。実際、物語を作る作業はどんなふうに進んでいくんですか?
最初はプロット作りです。曲がある程度揃ってきた段階で、仮の歌詞を見ながら、それらをつないでいくんです。映画を作ってるみたいで、そういう作業も結構楽しいんですよね。僕が一番好きなタイプの映画は、最初にバーッと点が示されて、それがエンディングで全部つながる感じのものなんですよ。「うわ、こうなってたんだ!」ってあとからわかるような。
──ABCのアルバムでも、そういう展開を意図している?
まあ、そこまではなかなか難しいですけどね。曲をつなぎながらストーリーを組み立てて、「このエピソードはいらない」とか「こういう要素が必要」とか話し合って進めていきます。しかも最初にオチを決めているわけでもないんですよ。作ってる段階で二転三転することも多いし。だから、そもそもが特殊な作り方ではあると思います。
ABCのエンタテインメントを感じてほしい
──じゃあ、2010年8月にシングル「Re:birth」をリリースした時点では、アルバムの全体像は……。
全然見えてなかったですね(笑)。アルバムのストーリーを考えたのは去年の11月くらいですから。
──でも、シングル7曲を含めて、全てに意味がある構成になってますよね。
そうなっていれば良いんですけど。シングルって、やっぱり単発じゃないですか。もちろんそれぞれの歌詞の世界によって曲の輪郭は見えると思うんですけど、アルバムの中の1ピースになったときにリスナーがまた新しい見方をしてくれたらいいなって。(目の前のペットボトルを手にとって)例えばこれもそう。上から見たら丸だけど、横から見たら四角じゃないですか。シングルもそういうふうになれば面白さが増すかな、と。まあ、こればっかりは聴き手に届いてみないとわからないんですけどね。聴き手がどう感じるか、っていうのが全てだから。そのために最大限の努力をするのが僕の仕事だと思ってます。
──そもそもなぜ、アルバムのブックレットにオリジナルストーリーを載せているんですか?
まず、僕自身がCDというパッケージを大事にしているからですね。今はダウンロードが主流になろうとしてるじゃないですか。実際、すごく便利だし、俺もよく利用するんですよ。でも僕が育ってきた環境は、レコードやカセットをひっくり返しながら、じっくりジャケットを観て聴くっていう感じで、まさに音楽鑑賞だったんです。最近は音楽をいつでもどこでも手に入れることができて、すごく手軽になってると思うんですよ。それを否定してるわけじゃないし、今の人たちに自分と同じような聴き方をしてほしいと思ってるわけじゃないけど、もう少しパッケージ自体にも興味を湧き立たせられたら、歌詞を観ようとしたり、ジャケットを手に取ってみたりするでしょ? そのとき、CDにもうひとつ深みが出るのかなって思うんですよね。このアルバムみたいに物語が載ってると「この歌詞、こことリンクしてるのか」とか「だからこういう曲順なんだ」っていうのもわかってくる。もう一歩、作品の世界に入り込めると思うんです。
──確かにそうですね。
僕自身もそうですからね。例えば好きな映画を観ると、メイキングとか監督のインタビューも観たくなる。そこでいろんなことがわかって、もう一度映画を観直すと違った面白さが生まれる。そういうことをゴリ押ししてるんじゃないけど、もし誰かが興味を持ってくれたときに「あ、こういう広がりがあったんだ」って思ってほしいというか、そこにABCのエンタテインメントを感じてほしいんですよね。
CD収録曲
- ~ until ~
- Fallin' Angel
- in the Mirror
- ピストル
- 少女の祈りIII ~『2012』ver. ~
- Re:birth
- 指輪物語
- CRISIS
- ~ the day ~
- その日が来るまで
- so…Good night.
- doomsday clock
- 蝶
- イエス
- シャングリラ
- ~ comes ~
Acid Black Cherry
(あしっどぶらっくちぇりー)
Janne Da Arcのボーカルyasuによるソロプロジェクト。2007年7月にシングル「SPELL MAGIC」でメジャーデビュー。その直後に東名阪フリーライブを行い、「SUMMER SONIC 07」に出演したほか、秋にBREAKERZらが参加した主催イベントを開催。その後は精力的なリリースとライブ活動を続け、2011年にはデビュー4周年を記念し、「ABC Dream Cup」と題して着うた無料配信、4万人フリーライブなど4つのプレゼントを発表。さらに9月から5カ月連続シングルリリースを行い、話題を振りまく。2012年3月、約2年半ぶりとなる3rdアルバム「『2012』」を発売。5月からは全国ツアーを敢行する。