ナタリー PowerPush - absorb
初音ミク名曲を生んだ新鋭ユニットが初アルバムをついに リリース
ツインボーカル+ギターという特異な編成で2005年に結成し、地道なライブ活動とインターネットを最大限に利用した戦略でジワジワとその音楽性を世に広めてきたabsorb。そんな彼らの知名度を一気に高めたのは、2008年2月にニコニコ動画上にアップされた、ボーカロイド・初音ミクをフィーチャーしたオリジナル楽曲「桜ノ雨」だった。同曲はその後、楽曲本来の魅力により実に119校もの学校で卒業ソングとして合唱され、結果、バンドをメジャーデビューへと導くこととなる。
いわばバーチャルとリアルを自在に行き来する稀有な活動形態。その根幹には果たして彼らのどんな狙いが込められているのだろうか。そして、まもなくリリースされる1stアルバム「we walk abreast」に込めた思いとは。メンバー3人に訊いた。
取材・文/もりひでゆき
ケータイ世代とCD世代をつなげる存在になりたい
──absorbはインターネットという媒体をうまく活用してメジャーフィールドへとたどり着いた印象がすごく強くて。そもそも、森さんと笹原さんが出会ったのもネットを介してなんですよね。
笹原翔太(Vo,G) 僕は高校3年、2004年からソロでライブをやりつつ、自分のオリジナルの曲をホームページにアップしてた んですよ。そしたら、うちのリーダー(森)が、勝手にそれを見つけて、勝手にその曲にハモリを入れて、勝手に自分の曲のように公開してたんです(笑)。
──それはまたかなり勝手な(笑)。
笹原 で、すぐにメールを送ったんです。「あなたですか、勝手にハモったのは」って。
森晴義(Vo,Key) バレなきゃいいかなと思ってたんですけどね(笑)。そこで観念して、メル友になったと。
笹原 そこからずっとメールのやり取りをしていく中で、当時すでにプロとしてやってた晴義に影響を受けて、音楽の世界ってすごいなってだんだん思うようになったりもしてて。で、翌年の1月に、僕が東京でライブをすることになったんで、そこに晴義をお客さんとして呼んで初めて会ったんです。「あの~、森晴義さんですか?」みたいな(笑)。
──紛れもない出会い系ですよね。
中村博(G) 当時はそんなにまだ出会い系もなかったから最先端だったよね(笑)。
森 バンドのメンバー募集もまだチラシとか、紙だったもんね。
笹原 で、初めて会ったときに晴義の家に行って、ネット上でコラボした曲を改めて一緒に録ってみたんですよ。で、それをWEBの音楽投稿サイト(プレイヤーズ王国。現在のMySound)にアップしたら累計視聴回数が1カ月間ナンバー1だったんですね。あ、これはイイ感じだなっていうことで、その後もWEB上でお互 いの音源のやり取りを続けていった感じで。
──その後、スタジオミュージシャンとして活動していた中村さんを加えて、2005年8月にabsorbが結成されるわけですが、そこからもMySpaceで楽曲を積極的に公開してきましたよね。
笹原 一時期は路上ライブとライブハウスだけで地道にお客さんを募ろうとしていたこともあったんですけど、やっぱりWEBの 良さっていうのもあるんですよね。僕らはWEBがなかった時代から、ダイヤルアップ、ISDN、ADSLと、全部を通ってきてるんで。それこそエロサイトを見て国際電話につながっちゃって、親にぶん殴られたこともあったし(笑)。
森 そういうのを経験してるからこそ、どっちの良さもわかるんですよね。だからこそアナログとデジタル、バーチャルとリアルのバランスが取れてるのかなって。
──WEBでの活動と並行して、インディーズ時代からちゃんとCDもリリースしてきたのはそういう理由からですか。
笹原 WEBで音源を公開するのは、ある意味、自分たちの自己紹介も兼ねてるんですよ。で、CDに関しては音もジャケットのデ ザインも含めて、全部で1個の作品なんで、ホントに絵を描くような気持ちで作ってるところはありますね。
中村 MP3だと音の臨場感がちょっと減ってしまうところがあるんで、CDとしてそこをちゃんと聴いてほしいっていう気持ち もあるし。
──いまやケータイでしか音楽を聴かない人もいますからね。
笹原 もちろん、音質が悪くてもちゃんと響く音楽をやっていくべきだとは思いますけど、やっぱりCDの良さがあるんだよっていうこともわかってもらいたいというか。そういうことはずっとやっていきたいことですね。
森 パソコンやケータイだけで音楽を聴く世代と、CDだけでしか聴かない世代、その両方をつなげる存在になりたいんですよね。
CD収録曲
- Fire ◎ Flower
- 未知導 - abreast ver. -
- 愛ノ詩
- トドイテマスカ?
- 腕時計
- 手人手
- カザスズ
- Window
- となりで - abreast ver. -
- 吟遊民
- ごめんね。が言えない
- 桜ノ雨 - abreast ver. -
absorb(あぶそーぶ)
森晴義(Vo,Key)、笹原翔太(Vo,G)、中村博(G)からなるツインボーカルユニット。2005年8月に結成し、東京を中心にライブを展開。MySpaceなど のWEBサービスを積極的に活用し、リアルとバーチャルを横断したオリジナリティあふれる活動を展開している。2008年にはボーカロイド・初音ミクをフィーチャーしたオリジナル曲「桜の雨」をニコニコ動画上で発表。2008年秋にメジャーデビューを果たし、「桜の雨」は2009年春に全国119校の卒業式で合唱曲として唱われた。続く2ndシングル「愛ノ詩」は長門裕之・南田洋 子夫妻のジャケット写真とともに話題に。2009年5月に1stアルバム「we walk abreast」をリリース。