ab initio|あなたの日常に寄り添う歌

「BANDWARS」がダメだったら解散するって決めてた

──高校生のときから9年間同じバンドを続けるというのは、簡単なことではないですよね。

ナガハタ いろいろありましたね。でも、9年間すごくいろんな人に支えられてきました。バンドの仲間だったり、面倒を見てくれる先輩とか、ライブハウスのスタッフさん、そしてお客さん。僕ら4人だけだったら絶対に続けられなかったですね。自分たちは周りの人に恵まれているなって思います。

宮崎 個人的に思うのは、僕らはけっこう紆余曲折もあったからこそ続けられたのかなって。ab initioはバンドをやっていく中で、音楽性をけっこう変えているんです。僕はもともとJ-POPが好きで、コブクロみたいな音楽性のバンドをやりたいと思っていたんですよ。でもライブハウスで活動しているうちに、ロックバンドもカッコいいなって思うようになって、ロック寄りになっていったり。一貫してこの音楽だけをやっていこうというわけではなく、いろんなことにチャレンジしてみたのも、紆余曲折だったけど9年間続いた理由なんじゃないかなと思います。

乃村 僕はもうバンドをやることが自分の日常になっていて、それが9年間続いたという感じですね。

ナガハタショウタ(B, Cho)

ナガハタ でも、ちょっと前まではバンドを続けているのが苦しいみたいな時期がずっと続いてたこともあって……実は、「BANDWARS」がダメだったら解散するって決めてたんです。

──そうだったんですか。

ナガハタ バンドとしてうまくいかないな、みたいな時期でしたね。自信を持って、いいと思った音楽をやっているけど、結果があまり目に見えて出てこなくて。9年間のすべてを出し切ろうという気持ちで「BANDWARS」に挑みました。このオーディションに懸けて、ダメだったら解散しようって。

──3人共通して苦しい時期だという実感はあったんですか?

乃村 そうですね……。

宮崎 去年の6月に、高校から8年間一緒にやってきたドラマーが「バンドを辞めて就職する」って抜けたんです。そのへんからそう感じ始めたのかな……ドラマー自身もバンドをやってるのがしんどいなと思ったから抜ける決意をしたんだと思うし、ちょっと前からそういう空気はあったと思うんですけど。それで、ドラマーが辞めたときに3人で話し合って、ちょっと考え方を改めたと言うか、ab initioの音楽性を切り替えたんですよ。「今までロック寄りでやってきたけど、もう少しポップ寄りにしていこうよ」って僕が言い出して、「じゃあやってみよう」ってみんなが付いてきてくれて。そこからライブの組み立て方とか楽曲制作のやり方を変えていったんですけど、すぐには結果が付いてこなかったんです。今まで僕らのことを好きでいてくれた人が、ちょっと離れちゃったりとか。音楽性を変えるとそういう問題が生まれてくることはわかっていたんですけど、それで新しいお客さんが増えたわけでもなかったので、けっこうしんどい時期でしたね。それで、もうダメなのかなって思ったときに「BANDWARS」を知ったんです。

ナガハタ 知り合いに勧められたのもあるんですけど、応募してみようと思って。

宮崎 僕らはそれまでそんなにはオーディションに応募してこなかったんです。現場主義で、ライブで人の心を動かせるかどうかだと思っていたので。でも、そのときは縋るような思いと言うか、本当にこれがダメだったら……という気持ちで申し込みましたね。

──自信はありましたか?

ナガハタ あんまりなかったですね……もちろん気持ち的には優勝したいとは思いつつ、あんなに参加バンドがいる中で、「俺ら優勝するでしょ」とは思えなかった。

宮崎 1stステージ、2ndステージとそれぞれいろんなお題があったので、無我夢中でそれに取り組んでいきました。

乃村 確かに最初は自信がなかったんですけど、2ndステージの作詞審査で僕らが選ばれたんですよ。それで、歌詞が新聞に載ったんです。

──新聞に?

宮崎 各バンドがTwitterに歌詞を上げて、審査員の方がそれを見て1位を決める審査がオーディションの中にあったんですよ。1位になったアーティストの歌詞が新聞に載るという。僕らは「ガラクタカラー」っていう曲の歌詞を出して、選んでもらいました。

乃村 そのとき「あ、ちゃんと歌詞を評価してもらえてる」って、ちょっと希望を見出せた。

宮崎 そうだね。そこから風向きが変わった感じはあります。

勇介さんが入ってくれたのはすごく心強い

──これがダメだったら解散するという覚悟を持ってオーディションに懸けて、見事に優勝という結果を出しました。今日まで半年、どういう気持ちで過ごしてきましたか?

宮崎 家族やバンド仲間とかいろんな人に「おめでとう」って言ってもらえたことで、「やったんだ!」って実感してうれしかったと同時に、個人的には作詞作曲を担当しているし、これからのことを考えると責任重大だなと思いました。オーディションが終わってすぐに、8月頃から楽曲制作に入りましたし。

中村勇介(Dr)

──中村さんの正式加入も決まって。

中村 「BANDWARS」で優勝したその日の夜にメンバーから「正式に加入してほしい」という話を受けて、自分の中にも一緒にやっていきたいなという気持ちがあったので、すぐに決めましたね。

宮崎 僕とナガハタと乃村の3人ってふわふわした空気感になりがちなんですけど、勇介さんは中立した意見をくれたり、バンドをまとめてくれるんです。この1年間、基本的に3人で活動方針を立てていたんですけど、そこに勇介さんが入ってくれたのはすごく心強いですね。

──まとめ役のポジションなんですね。

中村 自分ではそう思ってないんですけど(笑)。

ナガハタ いやいや、みんなの意見をまとめてくれてるよ。

「帰りにプリンでも買って行こうかな」という感覚で聴いてもらいたい

──そんな中で「歓喜」という曲ができあがりました。

宮崎 「やっとできたー!」って感じですね(笑)。

一同 ははは(笑)。

──曲作りはけっこう苦労されたんですか?

宮崎 そうですね。歌詞もメロディも100回以上作り直しました。

ab initio

──出だしの「雨の日も風の日も 涙は見せなかった きっと好きだから僕らは来れた 今いる場所」から、まさに今のab initioに重なる歌詞になっていますね。

宮崎 この曲は……何十回も歌詞を書いて、どうしたらいいんだろうってネガティブになり始めていたんですけど、やっぱりポジティブな曲にしたいと思ったんです。それと同時に、これまでがんばってきたことも乗せられたらいいなって。シンプルでストレートな曲になっています。

──作り手の体温が伝わってくるような、温かい曲ですよね。サウンド的には新鮮さがありながら、リスナーに寄り添えるようなバンドでありたいという意思が感じられるような、ab initioらしい内容の楽曲がデビュー曲になりました。

乃村 うん。すごく素直な歌詞だと思いました。言葉がスッと入ってくると言うか。

中村 宮崎らしい歌詞と言うか、ふんわりあったかい印象を受けました。

ナガハタ この曲は、日常生活のふとしたときに聴いてほしいなと思っていて。“気分を上げたいとき”“落ち込んだとき”というように聴くシチュエーションを決めるんじゃなくて、なんとなく「あ、これ聴きたい」って思ってもらえたらうれしいですね。そういうバンドになりたいという気持ちがあります。

宮崎 「今日がんばったな。帰りにプリンでも買って行こうかな」という感覚でab initioを聴いてもらいたいんですよね。「ab initioと言えば、背中を押してくれるバンドだよね」じゃなくて、ちょっと心がさみしいときとか人肌恋しいときに「なんか聴きたいな」って思ってもらえるようになれたらいいです。