音楽ナタリー PowerPush - 安倍なつみ
ソロデビュー10周年で迎えた新たなチャレンジ
今年ソロデビュー10周年を迎えた安倍なつみがニューアルバム「光へ -classical & crossover-」をリリースする。今作では新たな挑戦として、ミュージカル「レ・ミゼラブル」「エリザベート」の楽曲やイギリスの民謡「グリーンスリーヴス」、椎名林檎「カーネーション」のカバーなどをクラシカルなアレンジで表現。これまでの“なっち”のパブリックイメージを覆すような、非常に聴き応えのある1枚に仕上がっている。なぜ安倍はこういった作品を制作するに至ったのか。これまでの活動を振り返りつつ新作の魅力や自身の音楽観について語ってもらった。
取材・文 / 西廣智一 撮影 / 福本和洋
「トゥーランドット」との出会い
──安倍さんは今年8月にソロ10周年を記念したセルフカバーアルバム「Smile...♥」をリリースしましたが、どの曲も原曲のイメージが強いせいか、すごく大人びていて深みが増した今の安倍さんの歌い方にすごく驚かされました。
そう言っていただけるとうれしいですね。2004年にモーニング娘。を卒業してからたくさんの舞台やミュージカルを経験した中で、自分自身も歌に対する意識が変わっていって。ミュージカルって作品や役によって求められることが変わってくるので、ポップスを歌っているときとは全然違うんですよね。体や喉の使い方が違うのもあるけど、何よりも役に気持ちを重ねて歌うことが大きな違いで。そういう経験を経てポップスの活動に戻っていったときに、今まで歌ってきた曲でも少しずつ表現の仕方が変わっていったし、それによってライブで見える景色もどんどん広がっていったんです。
──モーニング娘。時代にもミュージカルに出演していましたが、ソロになってから出演した「トゥーランドット」(2008年3~5月上演)を機に舞台出演が本格化していったイメージがあります。この作品がきっかけになって、ミュージカルに対する考え方に大きな変化があったんでしょうか?
ありました。それまでも舞台経験はあったんですけど、やっぱり「トゥーランドット」という作品に出会ってそれまで自分の中にあった概念がガラリと変わったというか。毎日毎日、役を通して求められることが自分の中ですごい刺激になったし、その期待に応えたいっていう気持ちが日々強くなっていって、稽古場に行くのが楽しみで仕方なくて。間違いなく「トゥーランドット」が大きなきっかけになって、もっといろんな作品に出たい、いろんな役を演じたいと思うようになりました。毎日がライブというところが映画やドラマとはまた違う魅力でしたし、本当に楽しいと思えたんです。
──なるほど。
モーニング娘。を卒業して最初の数年は、ずっと「モー娘。のなっち」とか「モーニング娘。のセンターだった人」とか、そういったイメージが抜けないのが正直どこか苦しくて。ソロで歩き出したのにどうしていつまでもそう言われてしまうんだろうっていう悔しさもあって、ずっとそこから抜け出したいなと思っていたんですね。そんな時期に「トゥーランドット」に出会って「自分じゃなくていい何かになれる。ああ、もっと自由でいいんだ!」っていうことを教えてもらったときに、自分がどんどん変わっていったんです。そいう意味でも自分にとって大きな作品だと思います。
──ポップスの活動に戻ったときのフィードバックの大きさはもちろんあると思いますが、例えばどれか1つに専念して活動することは考えなかった?
そうですね。やっぱり自分の中には音楽をやるんだっていう強い思いがあって、基本そこからはズレなかったと思います。ミュージカルも大きな括りでは音楽活動の1つだと思いますし。ファンの方から見たらどう見えているかわからないですけど、自分としてはミュージカルを経てポップスに戻ったときに感じる成長に、点と点がつながっていく感覚があるので。今回のアルバムにもその点がつながった感じがあるし、それはとても幸せなことだと思いますね。
アンサンブルで作り上げることの素晴らしさ
──それにしてもソロ活動に移行してから10年経って、今回の「光へ -classical & crossover-」のような作品にたどり着くなんて、10年前を知ってる人からしたら驚きですよね。
私もビックリしています(笑)。こんな大きなチャンスをいただけるなんて、10年前は考えてもみなかったですから。この10年の間に、どこかで音楽をあきらめなくてはならないのかなって思った時期も正直あって。ちょっとネガティブになったこともありましたけど、でもやっぱり音楽が好きであきらめきれなくて、その気持ちを信じて続けてきたことが形になったのかなと思うんです。夢のようなことが現実となって歩き出してるような、そんな感じですね。
──どういうきっかけで、今回のような作品を作りたいと思ったんですか?
ミュージカルを経験する中で、アンサンブルで作り上げることの素晴らしさに気付いて。初めて出会った人たちが何もないところから短い時間で本番に臨む、お互いの魂同士をぶつけ合う経験を経て、いつか自分の音楽活動でもそういう作品を作りたいと思うようになったんです。ミュージカルでやるみたいにオーケストラをバックに歌ってみたいなって。それと今年はモーニング娘。を卒業して10年という節目の年で、何か新しい挑戦をしたいと思っていたタイミングでもあったんですね。なので、このアルバムを作れると決まってこんな贅沢な環境で歌わせていただけるとわかったときは、「はあ、嘘……」と胸がいっぱいになりました。
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- ニューアルバム「光へ -classical & crossover-」 / 2014年10月22日発売 / 日本コロムビア
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3780円 / COZQ-974~5
- 通常盤 [CD] / 3024円 / COCQ-85097
CD収録曲
- Stand Alone ~NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」より
- ローズ
- 夢やぶれて ~ミュージカル「レ・ミゼラブル」より
- カーネーション ~NHK連続テレビ小説「カーネーション」より
- サリー・ガーデン~風と少女~
- グリーンスリーヴス~永遠~
- 私だけに ~ミュージカル「エリザベート」より
- オン・マイ・オウン ~ミュージカル「レ・ミゼラブル」より
- この祈り~ザ・プレイヤー~with 望月哲也
- 夢はひそかに ~映画「シンデレラ」より
- 光へ
- 白のワルツ(BONUS TRACK for CHRISTMAS)
初回限定盤DVD収録内容
- 「光へ」ミュージックビデオ
- 「夢やぶれて」ミュージックビデオ
- アルバム「光へ -classical&crossover-」制作ドキュメント映像
安倍なつみ(アベナツミ)
1981年生まれ、北海道出身の女性歌手、女優。1997年にモーニング娘。のメンバーに選ばれ、翌1998年にシングル「モーニングコーヒー」でメジャーデビュー。「なっち」の愛称で人気を博す。同グループ在籍中からCMやテレビドラマ出演など、ソロ活動を開始。2004年1月にモーニング娘。卒業を機に、本格的にソロデビューを果たした。ソロシンガーとして活動する傍ら、「祝祭音楽劇トゥーランドット」「三文オペラ」など数々のミュージカルや舞台でも活躍。ソロデビュー10周年を迎えた2014年10月、国内外の名曲カバーを中心としたアルバム「光へ -classical & crossover-」をリリースする。