阿部真央インタビュー|“進むため”の独立を経て、新たなフェーズで紡ぐ音楽 (2/2)

すべての選択が自分を大事にした結果であってほしい

──そして5月にリリースされた新曲が「進むために」。別冊マーガレットで連載中の人気マンガ「君を忘れる恋がしたい」のイメージソングとして書き下ろされたそうですね。

少女マンガ的な世界観は阿部真央にすごく似合うとか、阿部真央らしいとかよく言っていただけるんですよ。自分では全然わかんないけど、みんなが言うならそうなのかなと思って(笑)。ちょっと変わったタイアップですけど、すごく楽しく関わらせていただきました。

──作品から受け取ったものを楽曲に落とし込む作業はやりやすかったですか?

めっちゃ書きやすかったです。こういうタイアップの場合、原作を好きになることがとても重要なんですけど、そこはもう文句ナシに大好きで(笑)。メッセージがすごくいいんですよ。主人公の女の子が、好きな男の子への気持ちに区切りをつけるために、その恋に向き合っていくお話なんですけど、その選択ってすごく強いなと私は思うんですよね。だってね、そのままズルズルと好きでいることだってできるわけじゃないですか。でもこの主人公は自分の気持ちを大事に、自分が幸せになるためにちゃんとこの恋と向き合うっていう。そのしなやかなたくましさに鼓舞されて「進むために」を書きました。すべての人の中にあるしなやかな強さに訴えかけるような曲になればいいなと思います。

──原作の結木悠先生は「たくさんの方の背中を押してくれる曲だと思います」という感想をXにポストされていましたね。

結木先生とは直接お会いさせていただいたんですけど、めっちゃ優しくて。阿部真央の曲を以前から聴いてくださっていたようで、本当に愛にあふれたコラボレーションになりました。「進むために」のデモ音源の段階で聴いていただいたとき、「2番のサビとDメロの歌詞を聴いて泣いちゃいました」とおっしゃっていただけて。「自分が作品を通して言いたかったことをわかってくださる方がいるんだ」と思ってくださったようなんですよね。私としても、楽曲として汲み取りたかった作品のメッセージが間違っていなかったんだって思わせていただけて、すごくうれしかったです。

──「今なら自分を大事にしながら 君と向かい合える」という歌詞が本当にいいですよね。

私もそこが大好きで、この曲のキモです。みんなにこうあってほしい。すべての選択が自分を大事にした結果であってほしいんですよ。進むために。曲も聴いてほしいですけど、マンガも絶対読んでほしい!

阿部真央

愛される隙のなさを突き詰める

──akkinさんが手がけたアレンジは、疾走感のあるバンドサウンドになっています。

はい。「君忘」の読者層は中高生、大学生といった若い方が多いので、邦ロックっぽい感じにはしたいけど、その中に若い人の焦燥みたいなものが感じられるサウンドにしてもらった感じですね。いぶし銀のロックではなく、どちらかと言うと勢いやキラキラした部分を感じられるような。あと右側でずっと鳴ってるギターは最初、もうちょっと歪んだハードな音だったんですよ。でもしなやかな女性らしいところも表現したかったので、もうちょっとフェミニンさを感じるクリーンなギターにしてもらったりしました。音楽ファンではない方の耳にも触れる可能性が高いタイアップだったので、いろんな方に入りやすいサウンドを目指しました。そういう注文の仕方は、独立前にはしなかったかもしれない。

──アコギとボーカルで始まる冒頭から徐々に熱量を高めていくサウンドは、進むための決意を固めていく主人公の気持ちの動きが表現されている印象もありますよね。

ありがとうございます。うれしいね。akkinさんにも伝えなきゃ。ラストサビ頭のドラムの激しい感じとか、Dメロの後半でコードがちょっとずつ上がっていくところなんかは、akkinさんのアイデアで。すごくよかったので採用させてもらいました。逆に1サビ後の間奏、バンプと呼ばれているところはもともと、バンドサウンドのままで行く予定だったんですよ。でも私はそこでもう一度アコギにスッと戻りたいと思って変えてもらって。細かい部分までいろいろやりとりしつつ、お互いのアイデアをうまく組み合わせて、本当にいい形に仕上がったと思います。

阿部真央

──ボーカルのレコーディングはいかがでしたか?

今まではヘッドフォンを使ってレコーディングしていたんですけど、今回はイヤモニに変えてみたんですよ。そうしたらね、ヘッドフォンを使って歌うのとは全然違ったんです。今後、慣れていかないといけない部分もあるんですけど、オケの音がより鮮明に聞こえてくるし、それによってハイの部分がすごく出しやすくて。思い切り歌える感じがあったので、すごく高音が抜けた仕上がりになったと思います。今回の経験は勉強になった部分も多かったので、これからアルバムの制作期間に入るんですけど、どの曲も一度、イヤモニで歌ってみようかなと思ってますね。もちろんヘッドフォンのほうが歌いやすい曲のタイプもあると思うので、そこはいろいろ探りつつ。

──サウンド同様、ボーカルも1曲の中で表情が変化していますよね。平メロとサビで表情が変化するっていう。

そうですね。その表情の違いは付けたかったかな。プリプロの段階から、ボーカルの緩急とハモに関しては決めていましたね。ほかの部分は現場でいろいろ決めていった感じですけど。私の場合、ベースとなる歌い方を探すために5テイクくらいがんばって歌ってみるんですよ。で、ここのワードの歌い方がいいなと思ったら、それをベースにほかの歌も入れていく流れで。ボーカルディレクションはずっと自分でやっているので、そこは自分の思うように、徹底的に細かくやっていく感じですね。その中でわけがわからなくなってきたら、周りの人に「どのテイクがよかった?」って意見を求めますけど(笑)。

──ご自身でディレクションされる際、一番大事にしているのはどんな部分なんでしょうか?

細かく録っていくことも多いけど、1曲としての世界観を止めないようにするっていうのがまず1つ。あともう1つは、普段の生活の中での耳馴染みのよさは大事にするかな。よく女性に対して、ちょっと隙があるほうが愛されやすいみたいなことを言うじゃないですか。でも私は、歌に対しては隙のないものを作りたいんですよね。隙がない、丁寧でいい歌なんだけど、ちゃんと愛されるものを。それが私の完成形かな。愛される隙のなさって難しいんだけど、そこを突き詰めるのが非常に楽しい(笑)。それが私のモノ作りのこだわりですね。

──「進むために」のジャケットは結木先生の描き下ろしイラストになっていて。そういった部分でもいいコラボレーションが生まれていますね。

阿部真央「進むために」ジャケット

阿部真央「進むために」ジャケット

そう! 最高ですよね。かわいいジャケットなんですよ。「君忘」の中にはたくさんギターが出てくるんですけど、アコギは出てきていなくて。だったら結木先生にアコギを描いてもらおうと思い、私のギターを撮影して、それをもとに描いていただきました。コラボPVもすごく愛を感じる仕上がりにしていただけたし、本当にありがたい、幸せなコラボになりました。

──阿部さんの15周年イヤーはまだまだ始まったばかり。先ほどチラッとお話に出ましたが、8月7日にはニューアルバム「NOW」がリリースされ、同月25日からはソロツアー、10月4日からはバンド編成でのZeppツアーがスタートします。

アルバムはね、いろんなことを経た今の自分、周年でこれまでのことを振り返ったうえでの今の自分を詰め込んだ内容になると思います。ツアーに関してはもともと、Zeppツアーだけ決まってたんですけど、その前にどうしても弾き語りでのツアーもやりたいと思って無理やりねじ込んだんですよね。弾き語りとバンドスタイル、このタイミングでどっちの私も見てほしかったから。34歳なりに暴れようかなと思ってますよ(笑)。

アルバム「NOW」インタビュー
後日公開

公演情報

15th Anniversary Abe Mao Solo Live Tour 2024

  • 2024年8月25日(日)京都府 先斗町歌舞練場
  • 2024年8月30日(金)東京都 I'M A SHOW
  • 2024年9月13日(金)愛知県 千種文化小劇場
  • 2024年9月15日(日)福岡県 大濠公園能楽堂

15th Anniversary Abe Mao Zepp Live Tour 2024

  • 2024年10月4日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
  • 2024年10月10日(木)北海道 Zepp Sapporo
  • 2024年10月17日(木)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2024年10月24日(木)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2024年10月25日(金)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)

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プロフィール

阿部真央(アベマオ)

1990年1月24日生まれ、大分県出身のシンガーソングライター。2009年1月にポニーキャニオンよりアルバム「ふりぃ」でメジャーデビュー。等身大の歌詞とポップなメロディ、表現力豊かな歌が同世代を中心に支持を集めている。2019年にデビュー10周年を迎え、初のベストアルバム「阿部真央ベスト」をリリースした。2023年3月、所属事務所から独立。7月にポニーキャニオンIRORI Recordsと提携したプライベートレーベル・KAGAYAKI RECORDSを設立した。2024年5月、マンガ「君を忘れる恋がしたい」のイメージソングとして書き下ろした新曲「進むために」を発表。8月に11枚目となるオリジナルアルバム「NOW」をリリースする。また2024年4月からはFM FUJI「阿部真央のBrighten Your Sunday」にてパーソナリティを担当している。