ナタリー PowerPush - 阿部真央
大傑作アルバム「ポっぷ」完成 若き天才シンガーの不安と自信
シングル「いつの日も」、そして2ndアルバム「ポっぷ」の連続リリースで、華々しく幕を開ける阿部真央の2010年。デビューからの1年で経験したさまざまなことを胸に刻み、これまで以上の“リアル”を自らの感性を信じて叩きつけた傑作は、この先も続いていく彼女の歩みを明確に示唆する重要なマイルストーンとなるはず。ほとばしりまくる才能。阿部真央はやっぱすげぇ。
取材・文/もりひでゆき
受身の自分を脱出し、もっとアグレッシブに
──デビューからまるっと1年が経ったわけですけど、振り返るとどうですか?
ダメって言い方はしたくないですけど、まだまだだなぁっていう想いはありますね。もっと最初っからアグレッシブに行けば良かったなぁって思うんですよ。デビューしてから1年間、苦しいことも多かったんですけど、その中でやっぱこう、今思うとどっか受身だったっていうか。曲を発信したり歌ってるのは私なんだけど、今一歩、自分を出し切れている感じがなくて。そういうことを2009年の10月終わりとか11月頭ぐらいに思い始めて、急に焦りだしたんです。
──そこで改めて自分と向き合った感じ?
そうですね。今までにないくらいいろんなことを考えましたね。以前は「どうでもいいや」っていう世界で生きてきたんですよ。学校にも行かないし、曲をただ1人で書いて録音してっていう。それは確かに混沌とはしてたけど、やっぱりどっかラクだった。人とも向き合わないわけだから。でもデビューして人とかかわる機会が増えてくると、より大事なものが見えてくるんですよね。結局、自分が人として、人と仕事をしてるっていう意識を持ってどうするかっていうことが一番大事なんだってことがわかった。だからこそ、人間関係が一番悩むわって思ったりもしたし。そういうことを改めて感じさせられた1年でしたね。
──それがわかったことで、曲作りに変化が表れたりもしました?
作り方はね、あんまり変わってないというか。2009年は曲を作れなかったんで、ちょっと忘れちゃったんですけど、作り方とかを(笑)。
──え、曲作ってなかったの?
あんまり。去年は今までで一番作ってないです。出てこないんですよ、曲が。もう辛かったですね。今はやっと肩の荷が下りたというか、がんばんなきゃって思ってるから、やろうとはしてるんですけど。途中とかはもうボロボロみたいな(笑)。
──曲が作れなくなった一番の理由ってなんなんでしょうね?
今までは曲のことだけで悩んでればよかったのが、人と向き合わざるを得ない状況になって、そっちを先に考えないと前に進めないっていうことがこの1年はすごく多かったんですよね。だから集中できなかったんですよ、曲のほうに(笑)。
──でも、そういう状況でもリリースやライブはあったわけですよね。そこはどう消化していたんですか?
「曲を出させてもらってるんだから」とか「ライブをさせてもらえてるんだから」っていう気持ちで納得するようにしていました。
──ああ、そこがさっき言ってた“受身”っていうことだ。
そうですね、うん。
──今はそこから脱け出しつつあるわけですよね。
うん、変化してきましたね。こないだのライブ(昨年12月10日・渋谷duo MUSIC EXCHANGE)からライブ作りの方法を変えたんですよ。基本的に私の熱を入れるというか、自分の意見を全部ぶつけるようにしたんですね。そういうことは実は、この「ポっぷ」っていうアルバムを作り始めた、去年の6月くらいから始めてはいたんですけどね。「もっとこういう音が欲しい」とか、だんだん口に出して言える環境になっていってたから。
──アレンジや音に対してのリクエストは、デビュー当時から積極的に言っていたような印象もあるんですけどね。
そういう部分が、より強くなってきたっていうことでしょうね。
人とはいつか別れる。だから悲しくて、でも幸せで
──2010年一発目のリリースとなるシングル「いつの日も」。これ、すごくいい曲だと思いました。
いろんな人に受け入れられやすいかな、とは思いますね。“愛し抜く覚悟”みたいな感じですかね、テーマをつけるとしたら。
──うんうん。ラブソングではあるけれど、もっと大きくて深い愛を描いてますもんね。
これはすごく最近、去年の秋頃に書いたんですよ。そのちょっと前に、すごく大好きだった人とさよならする機会があって。私にとって辛い別れだったんですけど、その人は初めて1対1でちゃんと向き合って、一緒にいろいろ変えていこうよ、乗り越えていこうよって思えた人だったんです。だからこそ一生懸命好きだったし、好かれてたと思う。結果、そういう気持ちは別れた後もちゃんと心の中に残ってるなって思ったんですよ。すごく心があったかいっていうか。ほんとに人を好きでいるとか、愛することっていうのは、そういう気持ちを残してくれるものなんだなって実感したんですよね。
──なるほど。
でね、私は今までどれだけの人をそういうふうに愛してこれたかなって考えたときに、もしかしたらそんなに愛せてないんじゃないかと思って悲しくもなって。じゃあ、いつか人は死んじゃうから、死ぬまでに、せめて今そばにいる大事にしたい人のことは余すことなく大事にして、愛していけたら幸せなんじゃないかなと思って。で、この曲を書いたんです。
──この曲のように、人は絶対にいつか死んでしまうっていう人生の儚さを投影した曲は、阿部さんのレパートリーにはけっこう多いような気がしますね。前回のアルバムの「コトバ」もそうだし、ニューアルバムに収録されてる「15の言葉」もそうだし。
ああ、そうですね。うん。いつも思ってるし、日々それは強くなりますね。かかわる人が増えれば増えるほど。「いつかこの人たちは私のもとを去るんだろうなぁ」とか思うし、「去らずとも死別はするよなぁ」とか思うんですよ。人間関係で悩みはするけど、昔と比べれば格段に素晴らしい人たちと出会える機会が増えているから、そういう人たちとお別れしなきゃいけないっていうところがより見えてきちゃう。だから悲しくて、切なくて、でも幸せでっていう、そういう面がこの曲には出たかなって思いますね。
──だからこそなんでしょうけど、歌に込められた感情がものすごくリアル。切々と歌ってる感じがグッときます。
全然、意識はしなかったんですよね。自然に歌いました。ただ、曲ができた時期と今の私に距離がないんで、ちょっと戸惑った部分はあったんですよ。そういうことが初めてだったから。なんか表現の上で作り込めないというか、キャラがはっきりしないっていうか。でも逆にこれはキャラ立ちさせる必要がない曲なのかもと思ったんです。ここで歌われているのは素の私だし。だからそのまま歌いましたね。
──バンドサウンドにストリングスが絡んで、ドラマチックな展開をみせるアレンジも歌をより引きたてていますね。
アレンジに関しては「なるべく曲の世界を壊さないで」とは言いましたね。そこは今までの曲と一緒で。声が立てば、それでいいからって言いました。リズムとかは別に奇抜なわけではないんだけど、ストリングスとかが入ったことで、けっこう豪華なアレンジになりましたね。アレンジャーマジック(笑)。
──昨年のライブではいち早く披露されていましたが、生で聴くとメッセージの伝わり方がさらにダイレクトになっていて。ちょっとウルッときました。
ライブで歌うのはちょっと不安だったんですよね。感情的になりすぎて、伝わらなかったらどうしようって。力を込めすぎちゃうと伝わらないっていうことが今までに結構あったんですよ。グググッてお客さんが引いちゃうっていうか。だからちょっと怖かったんですけど「良かったです」っていう声をたくさんもらえたんで、じゃあ歌詞がちゃんと聴こえたんだなと思って。それは良かったなって思いましたね。
CD収録曲
- 未だ
- I wanna see you
- モンロー
- 貴方の恋人になりたいのです
- 伝えたいこと
- 都合の良い女の唄
- 15の言葉
- もうひとつのMY BABY
- loving DARLING
- わかるの
- ポーカーフェイス
- いつの日も
- サラリーマンの唄
初回盤DVD収録内容
- 内容未定
阿部真央(あべまお)
1990年1月24日生まれ。大分県出身。愛称は「あべま」。高校1年のときにギターを始め、地元・大分市を中心に弾き語りで路上ライブを開始。高校2年のときに「YAMAHA TEENS' MUSIC FESTIVAL 2006」に出場。大分県大会で優勝し、全国大会では奨励賞を獲得する。高校卒業後、2008年春に上京。2009年1月にアルバム「ふりぃ」でポニーキャニオンからメジャーデビュー。