A.B.C-Z「F.O.R-変わりゆく時代の中で、輝く君と踊りたい。」インタビュー|戸塚祥太が語る新作とアイドル論 (2/2)

12月22日からの思いをまとめたソロ曲

──「怪奇な美少女」の次の曲が「INTO THE BREEZE」なのも、A.B.C-Zの引き出しの多さを見せつけているというか。

声のキャラクターも変わりますもんね。「INTO THE BREEZE」は夏を感じるさわやかさが好きですね。これまでのA.B.C-Zは季節を限定しない曲が多かったけど、今回は「WAI WAI STAY」も含めて夏のフレーバーがしますよね。「INTO THE BREEZE」からの「Twilight Blue」の流れもいいしな。今作にはEDMやエレクトロサウンドも多く入っているので、そこも新しい自分たちの一面を出せている部分ですね。

──初回限定盤Bには各メンバーのソロ曲が収録されています。戸塚さんが作詞作曲をされた「月に行くね、光の連続」にはびっくりしました。

自分の中のトレンドを表現した1曲ではありますね。

「F.O.R-変わりゆく時代の中で、輝く君と踊りたい。」初回限定盤Bジャケット

「F.O.R-変わりゆく時代の中で、輝く君と踊りたい。」初回限定盤Bジャケット

──作曲のヒントになったアーティストはいますか?

たくさんいますよ。アメリカのバンドBleachersもそうだし、テイラー・スウィフトが主に……というか聴いたらわかると思います(笑)。「あ、やってんな」って。

──ハハハ。個人的にはColdplayもあるかな?と思いました。

あ、そこは意識していなかったですけど、「Viva la Vida」は確かにそうか。最初のストリングスのところですよね? 「Viva la Vida」ではないですけど、賛美歌っぽさはちょっと意識したかもしれないです。だから「ワー……ワー……ワー」みたいなコーラスがずっと続いていたりとか、ボーカルもダブルで録っていたりとか。

──独特のリズム感やラップパートも新鮮でした。

デモとか、リラックスした状態で録った歌はすごくよかったんですけど、レコーディング当日は気合いが入りすぎていて。特に後半は力みすぎて、自分の声が子供っぽいなと思っちゃいました。逆に言うと、まだそんな青臭さを出せるのは自分の個性であり、長所なのかなとポジティブに解釈しましたね。

──少年性を帯びた声で訴える感じが魅力的でしたよ。歌詞はどんなことを考えて書かれたんですか?

去年の12月21日をもって5人体制の時代が終わり、新しいフェーズが始まる中で、自分はわりと切り替えがうまくなかったんですね。過去を引きずりながら、いろんなことに対してずっと向き合っていたというか。そんな気持ちで過ごしていた12月22日からの思いをまとめたのがこの曲で。5人で過ごしていた時代を経て、そこからの出来事や気持ちを言葉にしようと。でも、リアルになりすぎてもアレだし、どこかファンタジーっぽく、ちょっとナンセンスに仕上げられたらいいなと。

──「君に会いたくてまだ走ってるよ ヴィンテージのこのボディで」「ひとつになれないこと知らなかったから ひとつになろうとしちゃってた」など、比喩的な歌詞だけど戸塚さんの思いが伝わってくるフレーズでした。その一方で、ラストの「ビートルズのレコーディングって普通の周波数と違ってたらしいのって知ってた?」は意表を突かれました。

唐突過ぎて意味がわからないですよね?

──だからこそ、戸塚さんの中で非常に思いの詰まった最大限の比喩なんだろうなと思いましたよ。

そう言われるのはめちゃくちゃうれしい。別れの瞬間というか、つないだ手を離さないといけないときの、最後の最後で口にする最終的な言い訳ですよね。駄々をこねるんです。「嘘じゃないよ! 嘘ついていないし、本当にそう思っていたよ」って。

──ずっと5人だと思っていた、と。

でも、結局は散り散りになっていくから、最後の最後につなぎ止める言葉として「ビートルズのレコーディングって普通の周波数と違ってたらしいのって知ってた?」と引き留めようとするという、バカみたいなフレーズを書きました。なので、子供のわがままですね。曲を聴いて「こいつは駄々をこねているだけじゃないか」って自分でも思いましたもん。

これだけいい作品を広げることが自分たちの使命

──ほかのメンバーのソロ曲については、どう感じましたか?

橋本くんの「浮遊」は、彼がずっとやってきたソロ曲のニュアンスも感じるけど、さらにそのひとつ先へ行ってるなと。曲の構成も面白いと思うし、ボーカルも素晴らしい。ステージで歌って踊る姿が目に浮かびますね。

──五関さんの「リマレンス」は、それこそ王道のJ-POPですね。

自分が作った曲も不思議というか、変な曲ではあるよなと思ったんですけど、「リマレンス」はまた違った不思議な世界観。それと五関くんの広い音域を堪能できるところも好きですね。ライブではしっとりと歌うのか、どういう世界を届けてくれるのか楽しみで興味深い曲です。

──塚田(僚一)さんの「Stay Back」は、1曲でさまざまな表情を見せてくれるダンスナンバーですね。

前々から「カッコいい曲をやりたい」と言っていましたから、それもあって素敵だなと思いました。初めから終わりまでずっとカッコいいので、これも塚田くんがライブでどう披露するのか楽しみですね。「F.O.R」の本編は一見統一感がなさそうで、キャラクターが異なる曲ばかりだけど、アルバムとしてはしっかりまとまっていると思うんですよ。逆に、ソロ曲は本当にバラバラな雰囲気なので、4通りの色を楽しんでほしいですね。

──このアルバムを携えたツアー「A.B.C-Z Concert Tour 2024 F.O.R」も始まりますが、どんな気持ちで臨まれますか?

とにかく楽しい時間にしたいのが第一。お客さんはもちろん、自分たち自身にとっても楽しい空間にしたいです。そして作品をたくさんの人に聴いてもらって、お客さんの輪が広がってほしいので、そのために何ができるかを考えたいですね。これだけいい作品にしていただけたし、これを広げることが自分たちの使命だと思っています。

──A.B.C-Zの今後について、戸塚さんの中で考えていることはありますか?

無計画ではあるんですけど、自分のパフォーマンスのクオリティを上げなきゃなということは常に考えているので、そこはできる限りやっていきたい。8月22日には「めざましテレビ」さんのフェス(「お台場冒険王2024 ~人気者にアイ♡LAND~」)に出させてもらいますし、もっとフェスにも対応できるグループになっていきたいですね。

──戸塚さんご自身の活動については?

個人的には「怪奇な美少女」のプロデューサーをしたいです(笑)。人形とか抱き枕を作るのも面白そうですよね? 思いつくのはそれぐらいかな。

──今年6月に「永野CHANNEL」に出演された際、「偉人と自分の年齢を比較してしまう」と言っていましたが、今37歳の戸塚さんはどなたを意識されています?

それで言うと、ついにゴッホ(37歳没)の年齢を超えちゃったんですよ。次は太宰治(38歳没)が待っているので、ひょっとしたら僕も何か書かなきゃいけないのかな?とかは考えますね(笑)。で、39歳になるとチェ・ゲバラ、40歳にはジョン・レノンがいて……という。昔は自分よりも年上だった偉人たちの年齢に、気が付いたら近付いてしまって「あの人たちは偉業を成し遂げているのに、自分はなんなんだろう?」とは思います。

──比べてしまうのはどうしてなんですかね?

昔から「自分って何なんだろう……?」みたいなことは考えていて。ずっと自問自答ですよ。つい最近まで舞台「SLEUTH」で役者として芝居をやっていましたけど、今日は音楽のインタビューじゃないですか。「だから、自分は役者ではないのか?」「でも、芝居はするよな」「じゃあ役者やん」「でも舞台が終わった次の日は、コンサートのリハーサルをする」「それ役者ちゃうやん」。でも、コンサートが終わったらまた芝居をやるんですよ。そうなると「いや、役者やな」って。

──ミルクボーイのネタみたいな。

ハハハ。本当にその繰り返しで。このまま僕のモラトリアムは続いていくんですかね? 偉人との競争で言うとボブ・ディランもキース・リチャーズも存命だから、そことの戦いはまだまだなんですよ。一発でもこれっていうヒットを出せれば、そっちに行けるのかな?とは考えますね。

人間は全員アイドルですよ

──今回「F.O.R」をお聴きしてもそうですし、パフォーマンスを拝見していても、戸塚祥太は正真正銘のアイドルだと思うんです。「結局何にもなれないな」と言いましたけど、間違いなく華やかな世界の住人ではありますよ。

ふふ、ありがとうございます。華やかか……でもそれは自分じゃなくて、そう言ってくださる方のおかげなので、それを全うするのが自分の仕事なのかなって。「何者か?」と言ったら「それを全うする人」です。

──先ほどの話でも言及されていましたけど、改めて戸塚さんにとってアイドルとはなんですか?

んー、本当にわからないんですよ。これって定義できない唯一のものかもしれない。だって「この人は僕にとってのアイドルだな」と思うのは、カート・コバーンとか、ジョン・レノン、ジネディーヌ・ジダンだし。甲本ヒロトさん、又吉直樹さんも僕のアイドルです。その方々と自分の共通点とか、僕が今やらせてもらっていることの共通点はどこかと言ったら、仕事の内容ではない気がするんです。

──ジャンルが全然違いますもんね。

そう考えると、縛られなくていいのかなとも思います。100人に「アイドルってなんですか?」と聞いたら、100通りの答えが返ってくると思うんですね。黒澤明監督が晩年に「映画ってなんですか?」と聞かれて「わからない」と言ったそうなんですよ。……って次元が全然違うのに、今そのエピソードを引き合いに出して、いいことを言ったみたいにしました(笑)。

戸塚祥太

戸塚祥太

──ハハハ。概念という意味では、映画と同じくアイドルもひと言で説明がつかないと。

うん、ちょっと答えが見つからないな。もしかしたら答えがないから、僕はアイドルを続けられているんですかね。応援してくれている方も、だからこそ追い求めてくれるのかもしれない。まあ、どの職業の方も“誰かに喜んでもらえる”っていう……そこですよね。きっと“誰かの喜び”であり“自分たちの喜び”でもある。カート・コバーンは普段いろんなことをディスりがちでしたけど、ライブをしていて楽しい瞬間とか、喜びを見出していた瞬間も絶対にあったはずだし、音楽を通して誰かのことを喜ばせていたから、彼もアイドルだったと言える。それだけアイドルって範囲が広いんですよね。

──10代の頃は「アイドルとはこういうものだ」と明確な答えを持っていたと思うんですよね。年齢やキャリアを重ねたからこそ、アイドルに実態がないと気が付いたのかもしれない。

うん、そうかもしれないですね。「自分がアイドルをしているから」とは関係がないかもしれないけど、大人になるにつれて、人が笑ったときのパワーってすごいなと思うんです。前に「月刊少年ジャンプ」で、漫☆画太郎先生の作品が数ページにわたって掲載されていたんですね。そこには、しかめっ面をしたおじさんの顔がページ一面にドンと描かれていて、横に「そんなかおにあいませんよ おとうさん さぁ わらってごらん」と書いてあったんですよ。ページをめくると、おじさんのめちゃくちゃ笑顔のカットが載っていて、「そう そのほうがいい」と書いてあった。なんか、それに尽きるなって。マイケル・ジャクソンの「バッド・ワールド・ツアー」とか、マイケル・ジャクソンがソロデビューをしてからのライブって、あんまり笑ってる印象がないですよね。MVでもわりとクールなイメージが強いですけど、ライブの中でThe Jackson 5の曲を歌うメドレーコーナーがあるんですよ。グループ時代の曲を歌うときだけ、マイケルが笑っている。それを観ると、すごく心を打たれるんです。笑顔の力は半端じゃない。そういう意味では、僕は人類全員がアイドルだと思います。笑顔の力を持っているので。だから、人間は全員アイドルですよ。

──ついに答えが出ましたね。

やっと出ました!

──人類皆アイドルだと。

そう! 今、自分の中で一番いい答えを出せました! じゃあ、次のアルバムのコンセプトは「人類皆アイドル」でいきましょう(笑)。

ライブ情報

A.B.C-Z Concert Tour 2024 F.O.R

  • 2024年9月11日(水)神奈川県 神奈川県民ホール
  • 2024年9月12日(木)神奈川県 神奈川県民ホール
  • 2024年9月14日(土)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2024年9月15日(日)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2024年9月23日(月・振休)熊本県 熊本城ホール
  • 2024年9月28日(土)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • 2024年9月29日(日)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • 2024年11月3日(日・祝)大阪府 オリックス劇場(※8月31日分振替公演)
  • 2024年11月4日(月・振休)大阪府 オリックス劇場(※9月1日分振替公演)

プロフィール

A.B.C-Z(エービーシーズィー)

2008年8月に橋本良亮、戸塚祥太、河合郁人、五関晃一、塚田僚一により結成されたアイドルグループ。2012年2月にDVD「Za ABC~5stars~」でメジャーデビューを果たす。2013年3月から初の全国ツアーを開催。2014年3月には初のオリジナルアルバム「from ABC to Z」を、2015年9月には初のCDシングル「Moonlight walker」をリリースした。舞台やドラマ、バラエティ番組でも活躍しており、2012年から座長公演「ABC座」を開催している。2023年12月に東京・帝国劇場で上演された「ABC座星(スター)劇場 2023 ~5 Stars Live Hours~」の千秋楽をもって河合が脱退。2024年6月に4人体制初の作品となるシングル「君じゃなきゃだめなんだ」を、8月に約4年ぶりのオリジナルアルバム「F.O.R-変わりゆく時代の中で、輝く君と踊りたい。」をリリースした。

衣装協力
ジャケット¥49,500、パンツ¥31,900(以上全て KHONOROGICA)
カットソー¥17,600(KICS DOCUMENT.)
シューズ¥13,200(opposite of vulgarity)
問い合わせ先全て HEMT PR / TEL:03-6721-0882
その他全てスタイリスト私物

※記事初出時、本文の一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

2024年8月30日更新