A.B.C-Z「Graceful Runner」特集|草野華余子が“10周年の同志”とともにつづった、あの日の夢とまだ見ぬ未来 (2/3)

A.B.C-Zはそれぞれの声の持ち味がしっかりしている

──完成した「火花アディクション」を聴いたときはどう感じましたか?

私は楽曲提供をさせていただいたときに、いつも皆さんから「曲が難しい」って言われるんですよ。でも、こんなことを歌のうまい人たちに言うのもあれですが「うまっ!」って純粋に思いました(笑)。修正してうまくできる部分って限られてるんですよね。歌の連続した音符の中のビートは触れない部分もあるし、いくらリズムやピッチは調整できても、表現や声色は直せないから。

──メンバーそれぞれの歌の魅力もお伺いできますか。

橋本(良亮)さんは切ない声を出すのがうまいですよね。塚ちゃん(塚田僚一)はすごく張りのある声をしてる……すみません、急に塚ちゃんなんてファンのような呼び方をしてしまって(笑)。声色の変化をつけるのがうまいのは河合(郁人)さんですね。女性目線の歌詞だったので、ちょっと粘り気のある女々しさもすごく上手に出されているなと思います。五関さんはとにかくリズム感がいい! 振り付けをされているから、16分音符の曲を32分音符で取れているし、細かいところを歌われるときが特に上手でしっくりくる。裏をしっかり取ってる方の歌い方で、気持ちよく聴かせていただいてます。戸塚さんは、歌った瞬間にほかの人と声の成分が全然違うから抜けがいいんですよね。全体で歌ったときもしっかり聞こえる。ユニゾンになるときにみんなが似てる声だと厚みが出ないんですよ。戸塚さんは1人で歌われても素晴らしい、いい声をされているんですけど、みんなで歌ったときの厚みにすごく貢献されているなと思います。それぞれの声の持ち味がしっかりしていて素晴らしいなと思いました。

草野華余子

──ファンの方々の反響はどうでしたか?

直接、DMを何通かいただきましたね。「火花アディクション」でファンになったという方が急に連絡をくださったりして。「いや、私も新参者で申し訳ございません」みたいな。あと、「なんでシングルじゃないんですか!」っていう連絡が私にきました。それは私も望んでいますが、ポニーキャニオンさんに言ってくださいって(笑)。

──(笑)。でも、10周年を記念したベスト盤を飾る新曲でしたから。

そうなんです。ミュージックビデオを撮っていただいてるだけでもうれしかったですし、今回盛り上がれば、またいつか──1年後か2年後に頼んでいただけるかもしれないと思っていました。あと、これは最近気付いたんですけど、女性ファンが多いコンテンツに書かせていただいたときのほうが多くの反響をいただけるんですよね。きっと、おんなじファンの気持ちになって、いろんな雑誌を拝見したり、メンバーが出てらっしゃるドラマやバラエティ番組を観たりして、同じ目線で曲を書いてるからだと思う。もちろん書いてる最中は作家として書かせてもらってるんですけど、情報を収集するときはその人のことを愛するファンになるっていうところが、私の楽曲制作の一番の根幹なので。そのような気持ちで楽曲を書いてるのがいいのかなと、今回は特に思いました。

奥底に灯る炎を表現した「Graceful Runner」

──そして1年後、2年後じゃなく、すぐに次の曲のオファーが来ましたね。

思ったより早かったです(笑)、ありがたいことに。リリースされて1カ月以内の爆速でご連絡をいただいて、うれしい限りではありました。でも、最初は正直、すごく引き受けたいけれど、これだけ素晴らしい作家さんがたくさんいる中で、10周年のベストが出た次のシングルが私か……と。「火花アディクション」のとき、初めてジャニーズさんに楽曲提供させていただくっていうときの8倍くらいの漬物石が両肩に乗ってきて(笑)。

──(笑)。その重しはどうやって下ろしたんですか?

実際のところはずっと書かせていただきたいと思っていたんですよ。私は作家をやり始める前、それこそ6歳や7歳のときからテレビを観ながら「このアニメには、このキャラクターには、このアーティストには私ならこういうメロディを書く」みたいなことをずっと考えていて。だから今回も「私ならこう書く。頼まれたから作るというよりは、この人たちに本当に書きたいと思った瞬間に出てくるメロディや歌詞、ビートをしっかり抽出してうまくミックスしよう」と思いました。

──前作はドラマ主題歌というお題がありましたが、今回はどんなリクエストがありましたか?

それが、「どういう曲が欲しいですか?」と会議のときにお聞きしたんですけど、「草野さんの思う通りで、好きに書いてください」って言われて。もう1回会議をしてもらって、「何かヒントはないですか?」って聞いたんですけど「優雅な感じ?」くらいで、何もない更地に1人でポツンと立たされた感じになって……。

──あはははは。でも、タイトルに優雅=Gracefulは入ってますね。

そうなんですよ。「Beautiful Runner」と迷ったんですけど、“Beautiful”は当たり前に知ってる言葉なので、“Graceful”のほうがパッと聞いたときに「なんだろう?」って思うし、単語自体に奥行きや広がり、荘厳というか、リッチな感じがあるなと思って。私の楽曲にはちょっと和メロな部分もあるので、“優美”という意味も込めて、この言葉にしました。

草野華余子

──楽曲のほうは、“真っ白な画用紙”を渡されてどう作っていきましたか。

これがホントに大変でした。ホントに私を信用して、信頼して言ってくださってるので「コケても知らんぞ」と思いながら作り始めて。「8ビートがいいですか? ゆっくりがいいですか?」って聞いても、「いや、草野さんが思うA.B.C-Zをお願いします」みたいな。

──あははは。丸投げですね。

本来は丸投げされるのが得意だったんですよ。シンガーソングライターなので、本来は書きたいという衝動があったときに曲を書くじゃないですか。でも作家を10年間近くやってきて、テーマをもらわないと書きづらくなってきたんですよね。今回もそれを感じました。ご提案がないときに、こちらがフルスペックで用意するのは、いろんな情報がないと難しいんですね。しかも私はA.B.C-Zさんのことを詳しく知って1年目だったので、もっとちゃんと知らないといけないと思って、ネット上にある雑誌を全部取り寄せて読んで。そんな中、ベスト盤の特典として観た「今、思うこと」っていうインタビュー動画の内容が素晴らしくよかったんです。メンバーの皆さんが時に涙ぐみつつも、この10年を淡々と思い返しながら、それこそ“Graceful”に、上品に語られていて。燃え上がるような熱意で話してるわけではないけど、奥底に沸々と灯る炎を感じたので、これを歌にしたいと思いました。インタビュー記事をいろいろ読んで、皆さんのキャラクターがある程度自分の体に入ったうえで「今、思うこと」のインタビューを全部文字起こししたんです。ファンの人と同じことをやってるんですけど(笑)、そこで河合さんが「やっとスタート地点に立てた」とおっしゃっていた言葉がピンときて。そこから紐付けて、皆さんそれぞれがおっしゃったキーワードに印をつけて、自分なりにまとめたものをAメロにしたという感じでした。

──歌詞を読むと、インタビューでの5人の言葉がほとんど入ってますよね。

そうですね。テレビ番組では、センターで橋本さんが歌われることが多いんですけど、今回はラストのサビでセンターが1人ずつクルクル変わって、1人ずつソロで歌ってくださっていて。A.B.C-Zのカッコいいところって、誰が主人公になってもすごくバランスがいいグループというところだと思うんですね。それが見えるように、あまり誰か1人の言葉に偏らないように、それぞれが発言されてた内容が全体にちりばめられているような歌詞の作りにしました。