AA=|自分の“今”を突き詰めた渾身作

次はタカに何をやらせようかな

──上田さんのサウンドはパンクが根っこにあると思うんですけど、メロディのキャッチーさに関してはそれだけでは語り尽くせない部分があると思うんです。

そうですね。ただ自分の音楽を削ぎ落としていったとき、真ん中に残るのはパンクだと思っているけど、逆に言うとそういう形でしかパンクというものは残していなくて。

──なるほど。

10代の頃から音楽を作り始めて自分がカッコいいと思うもの、刺激的なものをどんどん吸収していくのが自分の音楽のスタイルだということにあるとき気付いたんです。そういう意味では、原型がなんだかわからないような音楽が最終的な理想だとは思っています。ただ、そこにパンクな部分を感じられなくなるような形にはしたくない。

上田剛士

──上田さんがパンクと出会う前、サザンオールスターズが好きだったという話を聞いたことがあるんですが、ほかにはどういう音楽を聴いていたんですか?

小学生の頃から普通にテレビやラジオから流れていたような、いわゆる日本の歌謡曲はよく聴いていましたね。サザンも好きだったし、ゴダイゴも好きでした。当時の歌謡曲は日本人的にわかりやすいメロディだったと思うし、そういう感覚は自分の音楽にも根付いていると思います。わかりやすいメロディを入れるのは好きなんで。

──では、メロディメーカーとして影響を受けた作曲家を誰か挙げるとすると?

あまり考えたことがないですね。だからこれといった名前は思い浮かばないけど、80年代の日本の歌謡曲や「ベストヒットUSA」的な欧米チャートに入っていたような音楽からの影響は受けています。

──今作でいうと、「SO BLUE」なんてアメリカのオールディーズみたいなメロディで、その意外さにドキッとさせられました。

ああ、そうですね。ああいうメロディがタカ(白川貴善)の声にハマるんじゃないかな、面白そうだなと思って歌ってもらいました。

──AA=はもともと上田さんが自分自身をプロデュースする感覚が強かったと思いますが、タカさんをどう生かすかというのも徐々に重要なポイントになっていますよね。

それはありますね。タカをどう“料理”していくかっていうのは自分の中で楽しんでいるところではあります。今回は特にそういうことをいろいろやってる気がする。活動開始から10年が経って、「じゃあ、次はタカに何をやらせようかな」っていう。彼はもともとBACK DROP BOMBをやっているし、ヒップホップが好きな人間なんで、その枠からどうやってうまくはみ出させるかっていうことに今は興味がありますね。

自分的に気持ちのいい並び

──タカさんのボーカルもそうですが、今作はメロディやサウンドのあちこちにフックが仕掛けられているように感じました。

自分の特性として、キャッチーでポップな要素がないと作っていてもあまり面白いと思えないところがあるんですけど、今回はそれがすごくわかりやすい形で出ていますね。

──ちなみに今作の収録曲で最初にできたのはどの曲ですか?

「SMILE」と「MONEY GRUBBER」は前に作ったものですね。特に「SMILE」は2ndアルバム「#2」の頃に作ったもので。昔の曲を聴き直しているときに「そういえば、こんな曲もあったな」と思い出して、完成させてみる気になりました。

──ということは、全体像を事前に想定せずに作り始めていたんですね。

はい。今までもそうなんですけど、特に今回はまったくないですね。作りたいものをどんどん作っていって、自分的に気持ちのいい並びがこの形です。

──全体の方向性が見えた曲は?

「これでアルバムがまとまりそうだな」と最初に思ったのは「PICK UP THE PIECES」。あと、それを受けて最後に作った「そして罪は赦された~ACQUITTAL」。この曲ができるまでは何か足りないと感じていたんですけど、この曲ができたことで1つの作品として出してもいいと思えるものになったと思います。

──「DEEP INSIDE」にはBALZACのメンバーが参加されています。昔からの仲間にこのタイミングで参加してもらったのはどういう経緯があったんですか?

BALZACとツーマンをやる予定があったんですけど、「普通にツーマンやるだけじゃつまらないね」という話になって。それがちょうど「#6」の構想に入る時期だったので、「じゃあ、せっかくだから曲でも作ろうか」って。

──ほかのアーティストとの共作は上田さんにとってどういう作業なんですか?

それはそれで楽しいですよ。ただ、AA=というバンドにいる自分よりも、もうちょっとプロデューサー的な感覚が強くなりますね。「この人たちをどう生かせるか」という。そうやって考えることが楽しいし、その結果、自分らだけではやらないような曲を作ります。

──確かに「DEEP INSIDE」はストレートなパンクチューンですよね。

そうですね。BALZACらしいものを入れたかったのでそうしました。

──今回のアルバムは全体的にサウンドがとても“肉厚”です。「(re:Rec)」での経験を今作に反映できたと話していましたが、バンド感が出ているのはドラムによるところも大きいのかなと。

今回、3人のドラマーに参加してもらっているんですけど、それぞれの違いが大きいし、面白いですね。自分はいつも普通のレコーディングとは全然違う形で録っているんですけど、今回は彼らが叩いたドラムをデータ化して、その上に自分が持っている音源を改めて鳴らし直すという作業を加えているので、鳴ってる音としては同じなんだけど、プレイによってそれぞれのドラマーの顔が見えてくるのが面白いです。それでもAA=として1つのまとまりができあがっている。こういう挑戦をした作品は初だし、自分でも気に入っています。

──ライブの光景がより浮かびやすくなっていると思います。

今、AA=的にもバンド感が増している感じがするので、自分でもライブをイメージしやすい曲を作りたかったんだと思います。

言い訳を用意したくない

──今回お話を聞いて、上田さんがかなり強いこだわりをもって制作に取り組んでいることがわかりましたが、それでも過去の作品を振り返ったときに満足のいかない点はあるものなんですか?

あとで聴き直して「ここはもう少しやれたな」と感じることは常にあります。それはハタチぐらいの頃に作った作品からすべて。むしろ、そういうふうに思うことを前提に作っています。なので、10年後の自分が聴いても納得できるものを作ろうとは思っていないし、そのときの自分がOKだと思えればいいんです。それに自分は曲を作る作業が好きなので、どんどん次へと進むほうが自分らしいと思っています。

──なるほど。曲は実際に楽器を弾くことでアイデアが広がっていく部分があると思うんですけど、歌詞の場合はいかがですか? どういうところからイマジネーションを広げるんでしょうか。

その曲によってテーマを設けることもあるし、自分が思う未来の方向性や希望みたいなものをテーマにするときもあるし、そのときに鳴ってる音によって自分の中にある言葉から何をチョイスするのか自然と決まってくる感じです。スタジオにこもっているときというよりは、普段の生活の中でなんとなく浮かんだものが使われることが多いですね。

──音に導かれるところもありつつ、普段の生活から浮かぶものもあると。

今は閉塞感があって、ギスギスする時代で。

──そういう意味では、歌詞の根本には怒りがあるのかなと。

でも、そういう時代だからこそ、未来への視点で完結させたいとは思っていますね。20代だったら別ですけど、怒りで中指を立てて、Fワードで終わるっていうのは今の自分にとってはリアルじゃない気がしていて。「じゃあ、お前はどうするんだよ」と常に自分に問いかける年齢になっているし、今の時代や今の世界を作っている1人という気持ちもあるので。

──10年前からテーマはブレていないと。

ええ。流されたくないと思っています。流されたくないというか、言い訳を用意したくないというか。そうすることで音楽を作り続けることが許されているような気がするんです。逆に、そうでないと自分の中で音楽が浮かばなくなってくるような気がして。自分で生み出しているものではあるんだけど、与えられているような感覚があるというか。自分は無宗教なんですけどね。

──ええ。

だからさっき話したように、自分がいいと思うものをよしとして出す。10年後の自分がなんと言おうが、今の自分がいいと思うならそれでいいんだって。

上田剛士

ツアー情報

AA=「AA= TOUR #6」
  • 2019年10月12日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2019年10月13日(日)大阪府 BananaHall
  • 2019年10月26日(土)福岡県 LIVE HOUSE CB
  • 2019年11月2日(土)宮城県 HooK SENDAI
  • 2019年11月17日(日)東京都 TSUTAYA O-EAST