曲を構成するために必要な“時間”に目を向けると
──歌詞に関してもさらにお聞きしたいんですが、今作には「Hourglass」や「One More Time」といったタイトルのみならず、全体的に“時間”に関連するワードが歌詞にちりばめられています。そこに関しては意識的だったんでしょうか?
そんなに意識していなかったので、「言われてみれば確かにそうだな」って今思いました。でも「All We Need Is Summer Day」のように、過ぎ去った季節が呼んでいるんだけど戻るわけじゃないとか、もう通り過ぎちゃったけど確かにあるものや起きたこととか、そういう距離感は感情の動きとして常に曲の中に必要とされていて。アルバムを通してというよりも、独立した1曲の中にその部分が表現されていて、気付いたらそういう曲が集まっていたということかもしれません。
──特にコロナ禍以降は「時間は有限だ」ということを再認識する機会も多かったので、このアルバムを聴くとその思いがより強いものとして響きました。
そういう感覚に対しては自分も正直に書きたいなと思ったし、それが聴いて同じように感じてもらえたなら、成功しているんじゃないかなと思います。
──「白夜の日々」のように直接的に日常から影響を受けたものもありますが、全体を通してこの“withコロナ”の環境や生活は今回の作詞にどこまで影響していると思いますか?
そこはまちまちですね。例えば、「All We Need Is Summer Day」は「この時期ならではの“夏フェス讃歌”にしたらいいんじゃない?」とスタッフから言われたことがヒントになっていて。夏フェスで演奏したとしても、みんなが声を出したりできない中でどのぐらいのリアクションが得られるか、制作している当時はわからなかったし、今でもわからないことではあるんだけど、でもフェスで聴いたときに一番アガる状態にはしたいなと思ったんです。もちろん、合唱するパートをフェスで実現させるのは難しいかもしれないけど、それを今作っておくことが大事だし。そうかと思えば「タイトロープ」とか「淡雪」はコロナとは全然関係ない。だから、全体的に見て少なからず影響されているものはあると思うんですけど、かといって達観しすぎたりとか、その状況に対して入れ込みすぎたりはしたくなくて。レコードとして出すってだけで、今こうして過ごしている中での記録になるはずですし、「コロナのことだけ歌いました」というのもそれはそれで悔しいじゃないですか。
──2022年に聴いているからよりコロナと紐付いているように感じるのかもしれないけど、これが3年後、5年後に振り返って聴いたときには、その感じ方も変わるでしょうね。それこそ「All We Need Is Summer Day」は1、2年先に歌える情勢になったときに、きっと「2022年はああだったよね」と振り返ることでよりグッとくるものを感じながら、お客さんと一緒に歌えるアンセムになりそうですね。
そういう意味ではこのアルバムを中心に、ちゃんと過去と未来に時間が伸びている感じがしますね。
“9mm以外得しない曲”をラストに据える
──個人的には「タイトロープ」からラストナンバー「煙の街」までの流れが本当に気持ちよくて、グッと心を鷲づかみにされました。
ありがとうございます。「煙の街」は自分たちにとってすごく新しいタイプの曲で、絶対アルバムに入れたいんだけど置き場所に悩んだ1曲で。最初は中盤に置くのがいいのかなとか考えたけど、最終的にこの曲で終わろうと決めてからは、特にアルバム後半は「煙の街」につながっていくように曲を並べていったんです。この終わり方をする時点で、やっぱりコロナ禍に対しての前向きな気持ちだけを表現しているアルバムではないようにも聞こえるから、そうなってよかったなと思うところもありますね。
──結果論とはいえ、「煙の街」は本当にアルバムラストにふさわしい1曲だと思います。
ある種独特で、聴く人によっては「演歌?」と思うかもしれないし、9mm以外のバンドやアーティストがやっても誰も得しないぞというところがすごく好きなんです(笑)。
──(笑)。全10曲、約35分と非常にコンパクトな内容にもかかわらず、全体を通して起承転結がしっかり表現されていて、かつダイナミックなうねりや波が凝縮されている。本当に最初から最後までインパクト満載の1枚になりましたね。
しかも、短い1曲1曲の中にもしっかり起承転結が用意されていて、その小さな起承転結を組み合わせていくことでより大きなうねりを生み出していますからね。
──その波やうねりを経て、最後に「煙の街」へと到達する。それも、ただズシンと重く終わるのではなく、前向きさも少し抱えながら前進できるような、そんなエンディングにもなっているんじゃないかなと。
暗い映画を観たから暗い気持ちで映画館を出るわけじゃないというのに近いというか、こういう種類の感情を味わうことでポジティブになれることもありますし。そこはうまくいきましたし、何より自分たちがその音像を作っていく過程を楽しむことができたのが一番よかったなと思います。
滝は得意技を見せるのがうまい
──また、本作には「Spirit Explosion」というインストナンバーが収録されていますが、この曲はアルバムに先駆けてデジタルシングルとしてリリースされました。2020年に発表した「Blazing Souls」に続いてインスト曲をシングルリリースする施策が、非常に興味深かったです。
実は「Spirit Explosion」と「Blazing Souls」は兄弟関係にあるんです。新日本プロレスから大会のテーマソングを書いてほしいと9mmにオファーがあって、そのときに滝が5、6曲書いていて、最終的に「Blazing Souls」が選ばれた。で、今回のアルバムにも新しいインストを入れたいという話になったときに、その候補曲として書いたものの中から選ばれたのが「Spirit Explosion」なんですよ。今までもちょこちょこインスト曲をアルバムに入れてきたんですけど、こういうわかりやすくメタルでハードロックテイストの、聴いているだけで両腕を上げてしまうような曲というのは、たぶん9mmに対してみんなが持っているイメージの中でもわかりやすいものの1つだと思うので、「Spirit Explosion」はこのアルバムの中でも特にいい仕事しているなと思いますね。
──腕を上げたくなると同時に、ギターが奏でるメロディを一緒に歌いたくなる曲でもありますよね。9mmの場合、インスト曲でも楽器がしっかりと“歌って”いるので、ボーカルがなくても歌が自然と聞こえてくるところもありますし。
滝の作ってくる曲でボーカル入りになるか否かって、ほんのちょっとの差で。だから、ボーカルがなくても歌が聞こえてくるというのは、実はすごく自然なことなんです。
──そういった点を踏まえても、滝さんのソングライター / メロディメイカーとしての多才ぶりには毎回驚かされますが、特に本作における充実度は非常に高いように思います。どの方向に向かっても「これぞ9mm」という雰囲気がどの曲にもありつつ、新鮮さもあって。
実は今回のアルバム収録曲を決めるとき、最後の何曲かで足りない要素を追加するために、「明るい・暗い」とか「メタル・メタルじゃない」とか大雑把に分類したんですよ(笑)。それを経て、最後に決まったのが「タイトロープ」だったんですけど、「タイトロープ」はいろいろな要素を兼ね備えていて。明るいけどヘビーでいなたくないし、クリーンパートもある。滝はわりと自分の得意技を見せるのがうまいし、同じネタを違う形で表現するのが上手なので、そういったところが持ち味ですよね。
──このアルバムは従来のファンはもちろんのこと、9mmに初めて触れるビギナーにもうってつけの内容だと思いました。
アルバム全体の長さや1曲1曲もコンパクトで聴きやすいですしね。ただ、世の中の曲は30秒もしないうちに歌に入りますけど、9mmはなかなか歌が出てこないし、代わりにギターが歌っていたりする(笑)。そのへんのフォーマットが微妙に違うというのも、新鮮でいいんじゃないかなと。
──9月9日の「9mmの日」からは全国ツアーもスタートします。この2年でいろんな経験を重ね、満を持してのニューアルバムを携えたツアーになります。
ひさしぶりにツアー初日に配信とかせずに、かつ9月9日のライブの前にみんながCDを聴いて新曲が体に入った状態でライブを観てもらえるというスケジュールが組めたので、文字通りの「レコ発ライブ」ができそうです。とはいえ、「TIGHTROPE」というアルバムは尺が短いので、普通のロックバンドが90分ぐらいのライブをやるうえでは3分の1くらいにしかならない。もちろん新作からは全曲やるつもりですけど、そこに新旧、メジャー、レアを問わず「このツアーではこれをやるんだな」という楽しみがちゃんと盛り込めて、「新曲はライブでどんなふうに聞こえるんだろう?」というワクワクが味わえる、当たり前のツアーができたらいいなと思います。
ライブ情報
9mm Parabellum Bullet presents「Walk a Tightrope Tour 2022」
- 2022年9月9日(金)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2022年9月11日(日)愛知県 Zepp Nagoya
- 2022年9月19日(月・祝)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2022年9月23日(金・祝)宮城県 SENDAI GIGS
- 2022年10月2日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
- 2022年10月9日(日)北海道 Zepp Sapporo
プロフィール
9mm Parabellum Bullet(キューミリパラベラムバレット)
2004年3月横浜にて結成。2枚のミニアルバムをインディーズで発表したのち、2007年10月に「Discommunication e.p.」でメジャーデビュー。パンク、メタル、エモ、ハードコア、J-POPなどさまざまなジャンルを飲み込んだ音楽性と、激しいライブパフォーマンスで人気を博している。2016年には自主レーベル・Sazanga Recordsでのリリースプロジェクトを始動し、4月に6thアルバム「Waltz on Life Line」、7月にテレビアニメ「ベルセルク」のオープニングテーマを収録した8thシングル「インフェルノ」をリリースした。同年11月、左腕の不調により滝善充(G)が期限を決めず、ライブ活動のみ休止することに。2017年にバンドはサポートメンバーを迎えた編成でライブ活動を継続。2018年1月より滝が徐々にライブに復帰した。2019年4月に結成15周年を記念した日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)、大阪城野外音楽堂で「東西フリーライブ」を行った。6月に対バン企画「6番勝負」をスタートさせ、“9mmの日”として知られる9月9日には8thアルバム「DEEP BLUE」をリリースし、同日に凛として時雨とのツーマンライブを実施した。2020年9月に初のトリビュートアルバム「CHAOSMOLOGY」を発表。2022年3月に結成18周年を迎え、8月に通算9枚目のオリジナルアルバム「TIGHTROPE」をリリースした。9月に全国ツアー「Walk a Tightrope Tour 2022」をスタートさせる。
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