9mm Parabellum Bullet|困難跳ね返す最高傑作を菅原卓郎が全曲解説

「BABEL」全曲解説

──では、ここからは卓郎くんの観点から1曲ずつ解説してもらおうと思います。よろしくお願いします。

1. ロング・グッドバイ

イントロから「これはキタッ!」って感じですよね。「滝、めっちゃギター弾けるじゃん!」っていう(笑)。アルバムの幕開けの曲なのに結果的に「ロング・グッドバイ」というタイトルになったのも9mmらしいなと思います。デモを聴いたときに「なんちゅう曲を作ってくれたんだ!」と思いましたね。バンドの音が細かいときに歌を伸びやかにするという対比は滝の得意技で、それがかなり顕著に出ている曲だなと。「ロング・グッドバイ」というタイトルは、村上春樹が新訳したレイモンド・チャンドラーの小説から取ったんですけど、内容を引用しているわけではなくて、そこから広がるイメージを利用させてもらったという感じです。アルバムタイトルの「BABEL」もそうですけど、著名な映画や小説、マンガとして知られているタイトルをそのまま使っているのも今作の特徴ですね。

2. Story of Glory

この曲も滝の得意技と言うか……パンクやメタルを想起させるものすごく速いビートの合わせ技ですね。俺らと同世代の人たちがかなりグッとくるサウンドだと思います。でも、実は3拍子っていう。パッと聴きは3拍子ってわからないんだけど、よくよく聴くと「あれ!?」っていうのも9mmらしいなと。滝のメモには「近未来」って書いてあって。そこから曲を聴いてパッと浮かんだ情景から逃げないで、そのまま書こうと思いました。その結果、この曲はまさにバンドのことを歌っている歌詞になりました。ラストの「続きを今も待ち焦がれているよ 終わりそこねたままの物語の」というフレーズは、よく「学生時代はよかった」という話しかしない人っているじゃないですか。その言い方だと物語が終わってるけど「そうじゃない、物語は続いているんだよ」っていうことを言いたくて。自分の栄光の時期が終わってしまったように語る人たちに噛み付きたかったんです。

3. I.C.R.A

「I.C.R.A」という言葉は、響きから「愛し合え」という意味で使ってます。サビで叫ぶ部分はメンバー全員のコーラスになるということだったので、お客さんも誰もが一発で歌えるワードにしようと思って。何千人も入るライブハウスでその場にいるみんなが「愛し合え」って叫んでる画があったらすげえ面白いぞと思って。歌詞の情景的には、「世界が荒れて何かに見張られているような不安感や焦燥感」というのが滝からのメモにあって。それで「監視カメラ」とか緊迫感のあるワードを使ってます。あと「ガムテープ」というワードも登場しますけど、滝がこの曲のギターをダビングしているときにギターのネックにガムテープを貼ってものすごいノイズを出していたらしいんですよ。「らしい」というのは、その場に俺はいなくてあとから聞いて知ったんです。それを知らないはずの俺が歌詞に「ガムテープ」って言葉を入れたから、滝が歌詞を読んでビビるっていう(笑)。滝とイメージがピッタリ一致したのが「火の鳥」と「ガムテープ」というのも面白いですよね。

4. ガラスの街のアリス

この曲は一番9mmのスタンダード感があるんじゃないかと思っていて。どこかインディーズのときっぽい空気感がアンサンブルにある。9mmのパブリックイメージとしては、硬質でメタリックなリフの印象が強いと思うんですけど、それは9mmがメジャーでリリースするようになってからどんどん強くなっていった要素なんです。だから実はこういう曲が一番スタンダードな9mmだと思うんですよね。歌詞は図書館に行ったら「ガラスの街」(ポール・オースター)という小説があって。本のカバーが夜景の写真なんですけど、それがすごく素敵で。それを見たときに「これは歌詞になる!」と思ったんです。ただ「ガラスの街」というタイトルだと自分たちのことを投影できないなと思って。滝のメモには「時代が進んで、バブル期を迎えて、人々が快楽主義的な方向に逃げていく」ということが書いてあったので、「ガラスの街」を文明社会が発達してできた、美しいけど脆さを伴った象徴に見立てて、「そんな街の中で結局、愛しているのは君だけだ」という曲の構造に発展させていったんです。あと、「アリス」を付けたのはお察しの通り「不思議の国のアリス」という誰もが知っている童話のイメージをフックとして使うという発想ですね。「ガラスの街のアリス」という続編があってもおかしくないなと思って(笑)。

5. 眠り姫

バンド史上初めて先に歌詞を書いた曲。2、3年前くらいにワンコーラス分だけ書いた歌詞があって、それを滝に投げてこのオケが返ってきたという流れです。ワンコーラス分は前作「Waltz on Life Line」にも収録できるタイミングでできていたんですけど、「今出すのはちょっともったいないね」という話になって。この「眠り姫」って原発のことなんです。福島第一原発の事故があってから感じている、やるせない気持ちにフォーカスした作品ってあまりないなと思っていて。この問題はいつ解決するのかということや、実際に事態を収束させるために最前線で働いている人たちのことを思うと本当にやるせなくなる。この歌詞に込めたかったのはそういう気持ちでした。言葉として先に書いて、形にしておきたい内容の1つだったんです。

6. 火の鳥

最初にデモを聴いて、キメのすごみを感じましたね。この曲は5拍子なんですよ。デモの完成度があまりに高かったので、これをレコーディングで再現できるかなってちょっと焦ったんですけど、なんとかうまくいきました。このあたりから滝のメモには「モチーフはけっこう適当です」って書いてあるゾーンに突入していくんですけど(笑)、「太陽が輝いている感じ」とか「『眠り姫』の次に来る曲だから世界が原初の状態になる」ということも書いてあって。じゃあ登場人物が出てくる感じでもないかなと思ったし、曲もなかなかストレンジだし、物語を語る歌詞にはしたくないなと思ったんですね。「火の鳥」という言葉を、何回でも生まれ変わる、エネルギーの象徴として使いました。曲と歌詞が一緒になったときに人々を鼓舞するような感触が生まれたらいいなと思いました。

7. Everyone is fighting on this stage of lonely

「インフェルノ」「サクリファイス」という2曲で、去年からテレビアニメ「ベルセルク」のオープニングテーマを担当させてもらっていて。それ用に何曲か候補があったんですけど、そもそもはこの曲もその1つ。一貫しているのは「戦いの曲」というイメージです。デモを聴いたときはかなりハイパーで暴力的、無慈悲な感じを思い浮かべたんですけど、それを戦いに立ち向かわなきゃいけない主人公に照らし合わせたら勇気が湧いてくるような曲になるかなと思って。結果的にかつてないほどストレートに人を励まして奮い立たせるような歌詞になりましたね。

8. バベルのこどもたち

歌詞を書いている時点では「BABEL」というアルバムタイトルは決まってなかったのでフラットな気持ちだったんですけど、オケを聴いた時点で歌詞にウェイトがかかる曲になりそうだなって思いましたね。歌詞はアタマから順々に書いていきました、それこそ石を積み上げて塔を建てていくように。最初は「バベルのおとなたち」というタイトルだったんですけど、「バベルのこどもたち」にしたほうが誰しもに当てはまるなと思って。この曲はリズム隊がどっしりしていていいですよね。これくらいリズムが頼もしくないと頑丈な塔は建てられないということで(笑)。

9. ホワイトアウト

滝のメモには「舞台は中世で、女性的で優雅」ということが書いてありました。情景や心象としては「雪が降っている中で、人が何かをあきらめているような気持ちや悲観している気持ち」ってメモに書いてありました。それらを踏まえて、主人公が女性のように聴こえる歌詞にしたいと思って。バンドに当てはめて言うんだったら、「そう簡単にいい時代には戻れないけど、それでも進む」という意志を込めています。この曲のCメロ部分がすごく好き。

10. それから

こんなにアッパーかつストレンジな曲が最後にくるんだと思いましたけど(笑)、やっぱりラスト以外に置き場所がなくて。デモを聴いたときに「“和製System Of A Down”だな」と思いました。System Of A Downはポリティカルなことを歌ってるけど、俺たちは自分たちのことを歌おうと思って歌詞を書きました。さっき「滝へのエールにも聴こえる」って言ってもらいましたけど、一番近くにいる人に届かないとその向こう側にいる人たちに届く歌にはならないなと思っていて。それは「生命のワルツ」という曲を書いた頃から思っていることです。そのあたりからパーソナルな歌詞と思われることを恐れなくなったし、それがつまらないことだと思わなくなったんです。曲は目まぐるしく展開していくんだけど、歌っている内容はシンプルで情景は動いてないんですよね。それくらい歌詞で描きたいことがハッキリしていました。

このバンドを失うわけにはいかない

──9mmと同世代のバンドはthe telephonesのように活動休止を経て各メンバーが新しいバンドを組んだり、Base Ball Bearやチャットモンチーのようにメンバーの脱退を経てもなおタフに活動を続けていたり、キャリアや年齢的にもターニングポイントを迎えている人たちが多いなと思うんですね。9mmも滝くんがライブ活動を休止することは想定外の出来事だったと思うけど、それでもバンドのアイデンティティが凝縮したすごく本質的なこのアルバムを完成させた。そういったことも踏まえて、卓郎くんは今どんなことを思ってますか?

もちろん、それぞれのバンドの当事者には外には言えない葛藤があると思うんだけど「解散や脱退をしたらどれだけ大きなものを失うことになるんだろう?」ってずっと考えていて。いざ自分たちがこういった危機に直面したら「もうバンドを続けるのは難しいかもしれない」って思うこともあったけど、それでもやっぱりまだバンドという大切なものは手放せないなと思いました。だから今もこうしてしぶとく活動してるんですよね。一昨年、去年はライブをやっていてキツいな思う瞬間がいっぱいあったけど、ライブが終わってステージからお客さんの顔を見たらみんなすげえいい顔をしていて。「俺たちのライブの出来も重要だけど、それは一番大事なことじゃないかもしれない、それよりもこのバンドを失うわけにはいかないな」って思った。それが活動を続ける一番の理由ですね。

──その言葉を聞けてファンはうれしいと思うし、そしてこのアルバムを聴けばみんな納得すると思います。

滝の腕の具合が今後どうなるかわからないですけど、バンドの歴史の分母を大きく取ろうと思ったんです。30年のうちの何年、50年のうちの何年って。もちろんオリジナルメンバーでライブをすることが最高だという考えもわかるし、ファンも愛着があるのは当然だと思います。自分がお客さん側に立っても海外のバンドが来日してもオリジナルメンバーのライブを観られたほうが高まるに決まってる。それでもバンドは残っているヤツらが続けてきたんだよなって思うんです。滝は脱退したわけじゃないけど、「残っているヤツ」のメンタルを持っていたいんです。いつでも滝がステージに帰って来られる状態にしたいと思うと同時に、俺たちが俺たち自身に期待しすぎないことも大切だと思っています。だから焦ってないです。「9mmの音楽の面白さってこういうことだよね」ということは「BABEL」を聴いてもらえばわかると思うしね。

菅原卓郎(Vo, G)
9mm Parabellum Bullet「BABEL」
2017年5月10日発売 / TRIAD / Sazanga Records
9mm Parabellum Bullet「BABEL」初回限定盤Special Edition

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収録曲(共通仕様)
  1. ロング・グッドバイ
  2. Story of Glory
  3. I.C.R.A
  4. ガラスの街のアリス
  5. 眠り姫
  6. 火の鳥
  7. Everyone is fighting on this stage of lonely
  8. バベルのこどもたち
  9. ホワイトアウト
  10. それから
初回限定盤DVD収録内容
  • 「TOUR 2016 “太陽が欲しいだけ”」16.11.05 At 豊洲PIT
  • ボーナストラック「BABEL」レコーディング風景
9mm Parabellum Bullet「サクリファイス」
2017年6月7日発売 / TRIAD / Sazanga Records
9mm Parabellum Bullet「サクリファイス」

[CD]
1620円 / GNCA-0498

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収録曲
  1. サクリファイス
  2. 午後の鳥籠
  3. インフェルノ Live Track From TOUR 2016 "太陽が欲しいだけ" 16.10.30 at Zepp Namba
9mm Parabellum Bullet "TOUR OF BABEL"
  • 2017年6月11日(日)神奈川県 神奈川県民ホール
  • 2017年6月18日(日)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2017年6月25日(日)愛知県 日本特殊陶業市民会館
9mm Parabellum Bullet "TOUR OF BABEL II"
  • 2017年7月2日(日)東京都 昭和女子大学人見記念講堂
    ※オフィシャルモバイルサイト「9mm MOBILE」会員限定ライブ
菅原卓郎SORO SORO SOLO TOUR
  • 2017年7月14日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
  • 2017年7月16日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2017年7月22日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
9mm Parabellum Bullet
(キューミリパラベラムバレット)
9mm Parabellum Bullet
2004年3月横浜にて結成。2枚のミニアルバムをインディーズで発表したのち、2007年10月に「Discommunication e.p.」でメジャーデビュー。パンク、メタル、エモ、ハードコア、J-POPなどさまざまなジャンルを飲み込んだ音楽性と、激しいライブパフォーマンスで人気を博している。2016年には自主レーベル・Sazanga Recordsでのリリースプロジェクトを始動し、4月に6thアルバム「Waltz on Life Line」、7月にテレビアニメ「ベルセルク」のオープニングテーマを収録した8thシングル「インフェルノ」をリリースした。同年11月に、左腕の不調により滝善充(G)は期限を決めずにライブ活動を休止することを発表、以降バンドはサポートメンバーを迎えてライブ活動を継続している。2017年5月にニューアルバム「BABEL」をリリース。6月7日に「ベルセルク」第2期のオープニングテーマ「サクリファイス」をシングルで発表する。